第十六章 小さな村の異変
村へ近づくにつれ、
静けさはさらに強くなった。
畑はある。
家もある。
煙突から煙も上がっている。
なのに。
誰も外へ出ていなかった。
「変だな……」
ユウトが呟く。
村の入口へ足を踏み入れた瞬間。
ギィ――。
一軒の家の扉が少しだけ開いた。
中から老人が顔を出す。
五人を見るなり目を見開いた。
「冒険者か!?」
「え?」
「頼む!」
老人は慌てて駆け寄ってくる。
「助けてくれ!」
⸻
村人たちはすぐに集まった。
皆、不安そうな顔をしている。
コハクが尋ねた。
「何があったの?」
村長らしき老人が答える。
「子供がいなくなったんじゃ」
空気が変わった。
「子供?」
ユウトが聞き返す。
老人は頷く。
「三日前から一人」
「昨日また一人」
「今朝も一人じゃ」
ニャオミーの表情が険しくなる。
「連続で……?」
「誰も帰ってこん」
村人の一人が震える声で言った。
⸻
ルゥが腕を組む。
「妖魔かの」
「分からん」
村長は首を振る。
「だが山へ探しに行った者が言うには……」
そこで言葉を切る。
「妙な影を見たそうじゃ」
風が吹いた。
嫌な沈黙だった。
⸻
その時。
人混みの後ろから女の子が飛び出してくる。
年は七歳くらい。
目が真っ赤だった。
「お兄ちゃんを探して!」
泣きそうな声だった。
「お願い!」
ユウトの服を掴む。
「お兄ちゃんが帰ってこないの!」
ユウトは言葉を失った。
⸻
村人が慌てて止めようとする。
「こら!」
「すみません!」
だが。
ユウトはしゃがみ込んだ。
少女と目線を合わせる。
「お兄ちゃんは何歳?」
「十歳……」
「最後に見たのは?」
「昨日」
少女の声は震えていた。
「山へ薬草を取りに行くって……」
ぽろぽろ涙が落ちる。
⸻
ユウトは立ち上がった。
振り返る。
ルゥ。
コハク。
ニャオミー。
たぬぷぅ。
皆の顔を見る。
「探そう」
即答だった。
村長が目を見開く。
「本当か!?」
「子供がいなくなってるんだろ」
ユウトは当然みたいに言う。
「放っておけないじゃん」
村長は何か言おうとして、
言葉を失う。
やがて深々と頭を下げた。
「……頼む」
震える声だった。
「どうか、あの子たちを見つけてくれ」
⸻
数秒。
誰も喋らなかった。
そして。
ルゥが小さく笑う。
「相変わらずじゃの」
コハクも肩をすくめる。
「そういう人だもの」
ニャオミーは苦笑した。
「反対しても行くんでしょ?」
「うん」
即答だった。
⸻
たぬぷぅが手を挙げる。
「さがす」
「おう」
「おやつ食べていい?」
「それはあと」
⸻
少しだけ。
村人たちの顔から不安が消えた。
希望を見るような目だった。
ユウトは気づいていない。
ただ当たり前のことを言っただけだから。
けれど。
そんな当たり前を言える人間は、
案外少ない。
⸻
その日の夕方。
五人は子供たちの足取りを追って、
村の裏山へ向かうことになった。
そして。
誰も知らなかった。
その山の奥で。
異変は、彼らが思っていたより遥かに深く広がっていたことを。




