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第十二章 白い少女の手がかり

「おかわり」


「早いよ!?」


朝。


コハクの占い屋。


食卓には湯気の立つ朝食が並んでいた。


妖蜜をたっぷり絡めた焼き餅。


月見鳥の卵焼き。


香草味噌の汁物。


そして炊きたての白米。


たぬぷぅはすでに二杯目へ突入していた。


「まだ食うのか」


「育ち盛り」


「便利な言葉だなそれ」


ユウトが呆れる。


隣ではニャオミーが目を輝かせていた。


「お、美味しい……!」


「普通でしょ」


コハクが言う。


「普通じゃありません!」


ニャオミーは感動していた。


旅暮らしでは、こんな温かい手料理を食べる機会は少ない。


「コハクは料理上手なのじゃ」


ルゥが言う。


「まぁね」


少しだけ得意そうだった。


「……もう一杯」


「たぬぷぅは食べ過ぎ」


「まだ半分」


「何が半分なんだよ」


今日も平和だった。


     ◇


朝食後。


ユウトたちは組合へ向かっていた。


依頼のためではない。


情報収集だ。


掲示板には今も貼られている。


【白い髪の小さな女の子を探しています】


ユウトはその紙を見上げた。


「あの子……探してるんだ」


ぽつりと呟く。


「探す理由は?」


コハクが聞く。


「分からない」


ユウトは苦笑した。


「でも放っておけないんだ」


ルゥが小さく笑う。


「おぬしらしいのう」


     ◇


その時だった。


「あんたたちかい?」


受付係の妖が声をかけてきた。


「え?」


「その貼り紙を出したの」


ユウトたちは顔を上げる。


「見たって人が来てたよ」


全員が固まった。


「本当ですか!?」


ユウトが前のめりになる。


受付係は頷いた。


「数日前の話だけどね」


「どこで見たんですか!?」


「黒霞街道だよ」


聞いたことのない地名だった。


「ここから二日ほどかかる場所さ」


受付係は壁の地図を指差す。


「昔からある街道だが、最近は通る奴も減ってるね」


ユウトは地図を見る。


二日。


決して近くはない。


それでも――。


初めての手掛かりだった。


「……行こう」


思わず口から漏れる。


「黒霞街道」


     ◇


帰り道。


「でも二日も移動するなら、お金がいるわよ」


コハクが言う。


「食料も必要じゃな」


ルゥが頷く。


「うっ……」


現実だった。


旅には金がかかる。


「また依頼だな」


ユウトが肩を落とす。


「頑張る」


たぬぷぅだけは前向きだった。


理由はたぶん食費である。


     ◇


その時。


前を歩いていたニャオミーが不意に立ち止まった。


「……?」


ユウトが振り返る。


ニャオミーは路地裏を見つめていた。


じっと。


何かを見るように。


「どうした?」


「っ」


肩が小さく震える。


だがすぐに首を振った。


「な、なんでもありません!」


笑顔を作る。


けれど少しだけ不自然だった。


「そうか?」


「はい!」


妙に慌てている。


コハクは少しだけ目を細めたが、何も言わなかった。


     ◇


その夜。


全員が寝静まったあと。


ニャオミーは一人、占い屋の屋根へ上っていた。


夜風が猫耳を揺らす。


月が、綺麗だった。


「どうしよう……」


ぽつりと呟く。


昼間。


路地裏で見つけたもの。


一枚の張り紙。


その端に押されていた紋章。


見間違えるはずがなかった。


「あの紋章……」


猫耳がぺたりと伏せる。


ずっと昔から知っている印だった。


「なんで……こんなところに……」


膝を抱える。


胸が苦しい。


もし見つかったら。


もし気付かれたら。


せっかく見つけた居場所が終わってしまう。


ユウトたちとも。


もう一緒にいられなくなる。


「……やだ」


小さな声が漏れる。


「まだ……帰りたくないよ」


月明かりの下で。


ニャオミーは一人、小さく身を縮めた。


     ◇


同じ頃。


黒霞街道近くの森。


そこには無数の妖魔の死体が転がっていた。


血。


爪痕。


折れた木々。


その中心で、一人の男が立っている。


赤い瞳。


黒い外套。


不気味な笑み。


「……近いな」


男は呟く。


手には古びた札。


そこには奇妙な文字が刻まれていた。


「ようやく見つけた」


赤い瞳が細くなる。


風が吹く。


森がざわめく。


男は暗闇の奥を見つめながら笑った。


「今度こそ逃がさない」

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