表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
15/106

第十一章 フードの下の猫

翌朝。


青く澄み切った空の下、組合の前には朝早くから依頼へ向かう冒険者たちが集まっていた。


武器を背負った者、仲間と地図を広げる者、受付へ駆け込む者。それぞれが慌ただしく行き交う中、ユウトたちも組合の入口へ並んで立つ。


「というわけで」


ユウトはぐるりと仲間を見回した。


「今日からよろしく」


「……よろしくお願いします」


大きなフードを被った少女が、小さく頭を下げる。


ニャオミー。


昨日パーティへ加わったばかりの、新しい仲間だった。


相変わらず顔はほとんど隠れていて、見えているのは小さな口元と顎くらい。歩くたびに髪だけが裾から揺れている。


その姿を眺めたルゥが、腕を組んだまま真顔で言った。


「怪しいのう」


「怪しいわね」


コハクまでさらりと頷く。


「二人とも、初対面から失礼すぎない?」


「いや、怪しいじゃろ」


「怪しいでしょ」


見事なくらい意見が一致していた。


ニャオミーは肩をぴくりと震わせる。


「わ、私は怪しくないです……」


「その格好で言われても説得力ないのじゃ」


「うぅ……」


しゅんと肩を落としながら、さらにフードを深く被る。


結果。


怪しさだけが増した。


「逆効果だぞ」


ユウトが苦笑すると、近くを歩いていた冒険者まで思わず吹き出していた。


今回受けた依頼は薬草採取。


初心者向けで報酬は六百文。


森の浅い場所に自生する薬草を集めるだけの、組合でも人気の依頼だった。


「戦闘も少ないし、今の俺たちにはちょうどいいな」


依頼書をしまいながらユウトが言うと、ルゥも小さく頷く。


「まずは顔合わせじゃな」


王都を出てしばらく歩くと、街道はやがて緑の濃い森へ続いていた。木漏れ日が揺れ、小鳥のさえずりが枝葉の間から聞こえてくる。風はひんやりとして心地よく、湿った土と草木の匂いが鼻をくすぐった。


ユウトは歩幅を合わせながら、隣を歩くニャオミーへ声を掛ける。


「そういえばさ」


「は、はい」


「白い女の子の話」


その一言で、ニャオミーの肩がぴくりと動いた。


「見たことあるって言ってたよな」


「……あります」


「どこで?」


少し考えるように視線を落とし、ニャオミーは静かに答える。


「三ヶ月くらい前です」


「山の中で見ました」


「山?」


「はい」


木漏れ日の向こうを思い出すように目を細める。


「あの子、一人で歩いてました」


「話したのか?」


「いえ」


首を横へ振る。


「気付いた時には……もう、いなくなってました」


その言葉にユウトは少しだけ残念そうに息を吐いた。


情報は少ない。


それでも、白い少女を見た人物にようやく出会えた。


今まで何も手掛かりがなかったことを思えば、それだけでも大きな前進だった。


 


ガサッ。


 


茂みが大きく揺れる。


コハクが立ち止まり、小さく呟いた。


「来るわ」


次の瞬間。


低い唸り声とともに、狼型の妖魔が飛び出してきた。


一体。


二体。


三体。


黄色い瞳が獲物を捉え、一斉に牙を剥く。


「我に任せるのじゃ!」


ルゥが前へ出ようとした、その時だった。


ヒュンッ!!


銀色の軌跡が視界を横切る。


「え?」


ユウトが目を見開く。


気付いた時には、ニャオミーが妖魔の真正面へ立っていた。


いつ抜いたのか、大きな槍が朝日を受けて白く光る。


フードの隙間から、白い猫耳がちらりと揺れた。


「っ!」


地面を強く蹴る。


猫のようにしなやかな踏み込みから繰り出された一撃が、真っ直ぐ妖魔の胸を捉えた。


ドガァッ!!


鈍い衝撃音とともに、一体目が宙を舞う。


木へ激突し、そのまま動かなくなった。


「は?」


ユウトは思わず声を漏らす。


速い。


それだけじゃない。


一撃が重い。


残った二体も間を与えない。


槍が弧を描き、風を裂く。


払い。


突き。


返し。


流れるような連撃に妖魔は反応する暇すらなく、数秒後には二体とも地面へ転がっていた。


森は再び静けさを取り戻す。


木々のざわめきだけが、何事もなかったように葉を揺らしていた。


ニャオミーが槍を下ろし、ゆっくり振り返る。


「お、終わりました」


「終わりましたじゃない!!」


ユウトが思わず叫ぶ。


「強っ!!」


「え?」


「めちゃくちゃ強いじゃん!?」


ニャオミーはきょとんと首を傾げる。


「そ、そうですか……?」


本気で分かっていないらしい。


 


ルゥは槍へ視線を向けたまま、小さく呟いた。


「妙じゃな」


「何が?」


「その槍じゃ」


コハクも静かに頷く。


「ただの旅人が持つ武器じゃないわ」


「えっ」


「かなりの業物よ」


「えっ」


「それに、その槍術」


コハクはニャオミーの構えを思い返す。


「長年鍛えた人の動きだった」


「えっ」


三度目の「えっ」が飛び出した。


見るからに動揺している。


ユウトはルゥと顔を見合わせた。


怪しい。


さっきより、ずっと怪しい。


 


その時だった。


たぬぷぅが、とことことニャオミーの前まで歩いていく。


「……すごい」


「へ?」


「かっこいい」


その一言だけだった。


ニャオミーは目を丸くし、数秒固まる。


やがて。


「え、えへへ……」


照れくさそうに笑った。


フードの後ろでは、隠しきれない尻尾がぶんぶんと左右へ揺れている。


「分かりやすっ!」


ユウトのツッコミに、一同から笑いがこぼれた。


 


薬草採取は予定より早く終わった。


帰り道。


茜色に染まり始めた空を見上げながら、ユウトはふと笑みを浮かべる。


戦力不足だったパーティに、頼もしい仲間が加わった。


白い少女へ繋がる手掛かりも見つかった。


順調だ。


少なくとも、この時はそう思っていた。



その頃。


人の気配が消えた森の奥で、一人の男が静かに立ち止まっていた。


黒い外套が風に揺れ、足元には倒れた妖魔が数体転がっている。男はゆっくり膝をつき、その一体へ手を伸ばした。


触れた瞬間。


妖魔の身体から淡い光が静かに浮かび上がる。


赤い瞳が細められる。


男は何も言わず、その光をじっと見つめていた。


やがて光は粒となって空へ溶け、跡形もなく消えていく。男はゆっくり立ち上がると、森の奥へ視線を向ける。


「急がねばな」


低く漏れたその声だけを残し、黒い影は夕闇の中へ静かに消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ