第八章 パーティは戦力不足です
朝。
香ばしい匂いで目が覚めた。
「……ん?」
ユウトが目を開く。
見慣れない天井。
そうだった。
昨日からコハクの占い屋に泊まっているんだ。
布団から起き上がると、台所の方からじゅうじゅうと音が聞こえてくる。
「いい匂い……」
腹が鳴った。
昨日は水晶石の依頼で一日中山を歩き回ったのだ。
腹が減るのも当然だった。
居間へ向かうと、すでに朝食の準備が終わっていた。
卓の上には見たこともない料理が並んでいる。
黄金色の蜜がたっぷり絡んだ焼き団子。
白い湯気を立てる茸の炊き込み飯。
透き通った琥珀色の汁物。
そして小皿には、星の形をした木の実の甘露煮。
「うわぁ……!」
思わず声が漏れる。
「妖蜜団子と月茸ご飯と木霊汁」
コハクが淡々と言った。
「妖の国の朝ごはんよ」
「めちゃくちゃ美味そうなんだけど!?」
「美味しい」
すでにたぬぷぅが食べていた。
早い。
めちゃくちゃ早い。
「いつの間に!?」
「……起きたらあった」
「寝起き三秒で飯食えるタイプか」
「食べられる」
「羨ましいな!」
数分後。
「うまぁぁぁ……」
ユウトは感動していた。
月茸ご飯はほんのり甘く、噛むたびに出汁が広がる。
木霊汁は優しい味で身体が温まる。
そして妖蜜団子。
これが危険だった。
外は香ばしく焼かれているのに、中はもっちもち。
とろりとかかった蜜は蜂蜜とも黒蜜とも違う。
何本でも食べられる。
「幸せだ……」
「そう」
コハクは平然としている。
その時だった。
ちゃりん。
ルゥが袋を振った。
中から聞こえる寂しい音。
「のう」
「ん?」
「この飯、何で作ったのじゃ?」
「え?」
「昨日の報酬じゃよな?」
「……」
「……」
「……」
全員が固まる。
コハクが当然のように答えた。
「パーティのお金だけど」
「え?」
「昨日の報酬」
「え?」
「共有財産」
「え?」
「だから朝ごはん作った」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ユウトが立ち上がる。
「待って待って待って!」
「何」
「昨日やっと稼いだお金だよな!?」
「そうだけど」
「武器とか買う予定だったよな!?」
「そうだけど」
「なんで先にご飯になってるの!?」
コハクは首を傾げた。
「お腹空いてたでしょ」
正論だった。
「……美味しい」
たぬぷぅがもぐもぐしている。
「そういう問題じゃない!」
「幸せ」
「幸せそうだな!?」
ルゥも頷く。
「まぁ美味いから良いではないか」
「良くない!」
「我は満足じゃ」
「お前ら!」
コハクは小さくため息を吐いた。
「そんなに慌てなくても大丈夫よ」
「何が?」
「また稼げばいいだけ」
「簡単に言うな!」
するとコハクの表情が少し真面目になった。
「ただ問題があるのよ」
「問題?」
コハクは卓を指で叩いた。
「戦力」
「戦力?」
「まずユウト」
「はい」
「回復しかできない」
「うっ」
「たぬぷぅ」
「……」
「戦えない」
「うん」
「ルゥ」
「我は強いぞ!」
「強いけど一人」
「むっ」
コハクは続けた。
「前回の依頼も、妖魔が出るたびにルゥと私で倒してた」
「まぁ……そうだな」
言われてみればその通りだ。
ユウトは何もできなかった。
たぬぷぅは守られる側だった。
「つまり」
コハクが言う。
「前衛が足りない」
「前衛?」
「敵の前に立つ人」
ユウトは少し考える。
「確かに」
「もしルゥが足止めされたら終わり」
「怖っ!?」
「私が倒れても終わり」
「もっと怖い!」
ルゥが腕を組んだ。
「つまり仲間が必要ということじゃな」
「そういうこと」
コハクは頷く。
「戦える人を募集する」
◇
その日の午後。
一同は組合へやって来ていた。
「仲間募集かぁ」
「今のうちにやっておいた方がいい」
コハクは慣れた手つきで募集用紙を書き始めた。
【仲間募集】
戦える方募集
初心者歓迎
「普通だな」
「普通でいいのよ」
その横でユウトも紙を一枚書いていた。
ルゥが覗き込む。
「なんじゃそれ」
ユウトは少し迷ってから答えた。
【白い髪の小さな女の子を探しています】
見かけた方は情報をください
ルゥが目を細める。
「まだ探しておるのか」
「うん」
ユウトは静かに頷いた。
「あの子がいなかったら、俺ここに来てないし」
雨の日。
白い髪。
金色の瞳。
最後に見せた、あの小さな笑顔。
「あの子……探したいんだ」
コハクは何も言わなかった。
ただ少しだけ、その紙を見つめていた。
◇
夕方。
組合の人通りも少なくなった頃。
掲示板の前に、一人の小柄な人物が立っていた。
大きなローブ。
深く被ったフード。
顔は見えない。
その視線は、
仲間募集の紙ではなく――
【白い髪の小さな女の子を探しています】
その貼り紙へ向いていた。
しばらく見つめたあと。
小さく呟く。
「……あの子、探してるんだ」
そして。
フードの奥で、
猫耳がぴくりと揺れた。




