第七章 クールな九尾だって癒されたい
白霧山から戻った頃には、
空はすっかり夕暮れ色になっていた。
組合の扉を開けた瞬間。
「依頼達成しましたー!」
ユウトが報告書を差し出す。
受付嬢は確認しながら頷いたが――。
「……えっ?」
ぴたりと動きが止まった。
「どうしました?」
「白霧山で……岩喰らいが出たんですか!?」
周囲の組合員たちもざわつく。
「は!?」
「初心者区域だろ!?」
「最近マジで増えてんな……」
ユウトはげっそりした顔で言った。
「初心者向けって聞いてたんだけど!?」
「通常なら出ません!!」
「だよなぁ!?」
思わず全力で突っ込む。
受付嬢は慌てた様子で報酬袋を差し出した。
「と、とにかく依頼達成です! こちら報酬になります!」
ずしっ。
「おぉ……」
ユウトが目を丸くする。
ちゃんと働いて得た金。
異世界に来てから初めてだった。
「これでしばらくは生きられる……!」
すると隣で、
たぬぷぅがぽつりと呟いた。
「……いっぱいご飯食べれる」
「食べ物のためだけに働いてるわけじゃないからな!?」
「……違うの?」
「ちょっとは否定して!」
ルゥがくくっと笑う。
「まぁよいではないか。食とは生きる喜びじゃ」
「お前は完全に甘やかす側なんだよ」
そんな騒がしいまま、
一同は占い屋へ戻ることになった。
◇
夜。
占い屋へ戻ると、
風鈴の音が静かに鳴った。
「はぁぁ……」
ユウトが畳へ倒れ込む。
「疲れた……」
「当然じゃ」
ルゥも珍しくぐったりしていた。
その横で、
たぬぷぅだけは元気だった。
「……おなかすいた」
「お前だけHP減ってないの?」
コハクはそんな三人を見ながら、
小さくため息を吐く。
「ご飯なら作るから騒がないで」
「マジで!?」
「狐、意外と良いやつじゃな」
「意外は余計」
ぶっきらぼうに言いながら、
コハクは台所へ向かった。
その背中を見送りながら、
ユウトはふと呟く。
「……でもこれで、今日こそ宿取れるかな」
その瞬間。
ルゥが当然みたいに言った。
「家なら狐の家に住めばよいじゃろ」
空気が止まった。
コハクがぎぎっと振り返る。
「……は?」
「部屋余っておるし」
「いや、あれはお金がないから貸しただけで……!」
珍しくコハクが動揺していた。
耳がぴくぴく揺れている。
「ずっと居座っていいなんて言ってないでしょ!」
「ケチじゃなぁ狐は」
チクリとルゥが呟く。
ユウトが困った顔になる。
コハクは言葉に詰まった。
「け、ケチっとか…」
その時。
たぬぷぅがぽつりと言った。
「……コハク、好き」
「っ!?」
コハクの顔が一気に赤くなる。
「ちょ、ちょっと待って……!!」
耳まで真っ赤だった。
ルゥがじーっと眺める。
「ふむ」
「な、なによ」
「昨日から思っておったが……」
嫌な予感がしたのか、
コハクがじりっと後退る。
しかしルゥは容赦なかった。
「おぬし、さてはたぬぷぅを好いておるな?」
「……え?」
ユウトが固まる。
「あっ」
昨日の出来事が脳裏をよぎる。
転びそうになる前に支える。
疲れているのを真っ先に見抜く。
危険から庇う。
ずっとたぬぷぅを見ていた。
「え?!あ、そういうこと!?」
「ち、違うわよ!!」
コハクが即否定する。
「勝手なこと言わないで!」
「では何故そこまで必死なのじゃ?」
「それは……!」
言葉に詰まる。
耳が忙しく揺れていた。
その時だった。
店の奥から、
しわがれた声が響く。
「コハクー」
全員が振り返る。
奥から、小柄なおばあさんが現れた。
白髪の狐耳。
どうやら店主らしい。
おばあさんは箱を抱えながら言った。
「あんたが頼んでた“たぬぷぅ限定福袋”届いたよ」
沈黙。
「…………は?」
ユウトが固まる。
ルゥがゆっくりコハクを見る。
たぬぷぅも首を傾げた。
「……限定?」
コハクの顔が、
みるみる真っ赤になる。
「ち、違っ……!!」
「抱き枕も入っとるらしいねぇ」
「おばあちゃん!!!!」
一同。
「抱き枕!?」
たぬぷぅがぽつりと呟く。
「……わたし……推されてた……?」
コハクは顔を覆った。
耳まで真っ赤だった。
「……最ッ悪……!!/////」
でも。
その声はどこか、
少しだけ楽しそうだった。
◇
こうして。
住む場所も決まり。
仲間も増えて。
俺の異世界生活は、
少しずつ賑やかになっていく。
――だが。
その頃。
白霧山のさらに奥深く。
黒い霧の中で。
何者かが、
静かに目を開いていた。
「……境渡り」
低い声が響く。
「なるほど、ね…?」
暗闇の中で、
不気味な笑みが浮かんだ。
この回で第一幕終了となります、引き続き第二幕に入る前に構成を考え、更新再開となります。再開したらXでご報告いたします。




