表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
109/110

第百三章 救いたい命

邪獣は苦しそうな咆哮を上げると、大きな足で地面を蹴った。


黒い巨体が土を巻き上げながら、一直線にユウトへ迫る。


「ユウト!」


コハクの声が飛ぶ。


ユウトは剣を構え、邪獣を正面から迎え撃った。


鋭い牙が目の前まで迫る。


その瞬間。


「今じゃ!」


空からルゥの声が響いた。


白銀の龍が大きく旋回し、その口から紅蓮の炎を吐き出す。


ゴォォォッ!!


炎は邪獣の進む先へ広がり、逃げ道を塞ぐように燃え上がった。


邪獣は咄嗟に足を止め、大きく吠える。


「たぬぷぅ!」


「は、はいなの!」


たぬぷぅは弓へ素早く矢をつがえた。


「えいっ!」


ヒュンッ!


放たれた矢は邪獣の前足へ突き刺さる。


邪獣の体勢がわずかに崩れた。


「今だよ!」


ニャオミーが地面を蹴る。


猫のように軽やかに木の根を飛び越え、その勢いのまま槍を突き出した。


「はあぁっ!」


鋭い一撃が邪獣の脇腹を貫く。


黒い穢れが霧のように舞い上がった。


邪獣は苦しそうに身をよじる。


その隙を逃さず、コハクが駆け抜ける。


「そこっ!」


銀色の刀が一閃する。


ガキンッ!!


硬い音が響き、黒い穢れがさらに削れ落ちた。


しかし。


邪獣は倒れない。


苦しそうに何度も首を振り、低く唸り続けている。


「おかしい……。」


ユウトは剣を構えたまま動きを止めた。


「どうした!」


コハクが叫ぶ。


ユウトは邪獣の瞳を見つめる。


赤黒く染まったその奥で、小さく光るものが見えた。


「怒ってるんじゃない。」


小さく呟く。


「あの子……苦しんでる。」


その言葉に、ルゥも邪獣へ目を向けた。


邪獣は何度も体を震わせ、まとわり付く穢れを振り払おうともがいている。


まるで助けを求めているようだった。


「ルゥ!」


ユウトは振り返る。


「まだ助けられる!」


しばらく邪獣を見つめていたルゥは、静かに頷いた。


「……うむ。」


「おぬしなら、救える。」


その一言で、ユウトは大きく頷く。


「みんな!」


「少しだけ時間をくれ!」


「任せて!」


コハクが前へ出る。


ニャオミーも槍を構え直した。


「絶対近付けさせない!」


「たぬぷぅも頑張るの!」


次々と矢が放たれ、邪獣の動きを止める。


ルゥは空から炎を放ち、邪獣が森の外へ飛び出さないよう行く手を塞いだ。


仲間が繋いでくれた時間。


ユウトはゆっくりと邪獣へ歩み寄る。


剣を両手で握り締めると、淡い光が柄から刃へ流れ始めた。


「大丈夫。」


「もう終わるから。」


剣先を穢れへそっと触れさせる。


その瞬間。


柔らかな光が邪獣を包み込んだ。


ジジジッ……


黒い穢れが音を立てて崩れていく。


邪獣は苦しそうに叫びながらも、ユウトへ牙を向けることはなかった。


やがて黒い靄は風へ溶けるように消え、その下から一頭の大きな狼が姿を現す。


荒かった息も少しずつ落ち着き、赤く染まっていた瞳は澄んだ琥珀色へ戻っていた。


狼はゆっくり立ち上がる。


そしてルゥの前まで歩くと、小さく頭を下げた。


ルゥは優しく額へ手を添える。


「もう安心じゃ。」


狼は嬉しそうに一声鳴くと、木々の間を駆け抜け、森の奥へ消えていった。


その姿を見送りながら、ユウトはほっと息を吐く。


「助けられて……よかった。」


「うむ。」


ルゥも小さく頷く。


しかし、その表情はすぐに曇った。


金色の瞳は、森のさらに奥を見つめている。


「……これで終わりではない。」


静かな声だった。


「穢れの気配は、もっと奥から流れてきておる。」


風が吹き抜ける。


黒く染まった木々がざわりと揺れ、その奥で何かが動いたような気がした。


ユウトは剣を握り直す。


「行こう。」


「この森を、元に戻そう。」


ルゥは静かに頷き、一行はさらに森の奥へ歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ