表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
108/110

第百二章 穢れの獣と龍神

森の奥から聞こえた咆哮が、木々を大きく揺らした。


「来るぞ!」


ユウトが剣を抜く。


黒い靄が地面を這い、その奥から巨大な影がゆっくり姿を現した。


四本足。


全身は黒い泥のような穢れに覆われ、赤黒い目だけがぎらりと光る。


狼によく似た姿だった。


しかし、その身体は大きく、地面へ爪を立てるたび土が抉れる。


「邪獣……!」


コハクが低く呟く。


「うむ。」


ルゥは呟く。


黄金の瞳は真っすぐ獣を見据えている。


「森の獣が穢れに飲まれた。」


「助けてやらねばならぬ。」


その言葉と同時に、邪獣が大きく口を開いた。


「ガアアアアアッ!!」


轟音とともに飛びかかってくる。


「散れ!」


ユウトの声で四人は左右へ飛び退いた。


邪獣の爪が地面を引き裂き、黒い土が大きく舞い上がる。


「コハク!」


コハクが一気に距離を詰めた。


銀色の刃が横薙ぎに走る。


しかし。


ガキンッ!!


硬い音が森へ響いた。


「硬い……!」


刃は穢れへ弾かれ、ほとんど傷が入らない。


邪獣はそのまま尾を振り抜く。


「っ!」


コハクは咄嗟に飛び退いたが、風圧だけで身体が吹き飛ばされる。


ニャオミーが駆け寄る。


その間にも邪獣は向きを変え、今度はユウトへ牙を向けた。


「ユウト!」


ルゥが叫ぶ。


邪獣が飛ぶ。


ユウトは腰を落とし、その瞬間を待った。


「今だ!」


牙が届く寸前。


身体をひねり、その懐へ潜り込む。


「はあぁっ!」


刀が黒い脚を斬り裂いた。


穢れが霧のように舞う。


邪獣が苦しそうな声を上げた。


「効いてる!」


「傷は浅い!」


ルゥは空を見上げる。


木々の上では黒い靄が枝へ絡みつき、森全体を覆おうとしていた。


「このままでは終わらぬ。」


ルゥは静かに目を閉じる。


「少しだけ力を借りるぞ。」


髪がふわりと揺れた。


次の瞬間。


眩い光がルゥの身体を包み込む。


ゴォォォッ!!


森へ突風が吹き荒れる。


巨大な龍の姿が空へ舞い上がった。


白銀の鱗。


長く美しい身体。


折れた角を持つ龍神が、大きく翼も持たない身体で空を泳ぐように舞う。


ニャオミーが目を丸くした。


「初めて見た……。」


「ルゥの本当の姿……。」


龍神ルゥは森を見下ろす。


その金色の瞳には、いつもの幼さはない。


何百年も森を守り続けてきた神としての威厳が宿っていた。


邪獣が咆哮を上げる。


龍神ルゥも静かに息を吸い込む。


白い光が一直線に放たれた。


轟音。


眩い光が邪獣を飲み込み、黒い穢れを一気に吹き飛ばす。


しかし。


光が消えた先で、邪獣はなお立っていた。


全身から黒い靄を噴き上げながら、ゆっくりと立ち上がる。


ルゥの表情が険しくなる。


「……まだ立つか。」


邪獣の身体から流れ落ちた穢れは地面へ染み込み、その黒い染みが木の根へ広がっていく。


ユウトは息を呑んだ。


「穢れが……森そのものを食ってる。」


ルゥは静かに頷く。


「だから急がねばならぬ。」


その時だった。


森のさらに奥から。


ズン……。


ズン……。


重い足音が響く。


一つではない。


二つ。


三つ。


何体もの気配が、ゆっくりとこちらへ近付いてきていた。


ユウトたちは息を呑む。


森の異変は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ