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第九話 晴れのち曇り、一時雨。


2018年 6月6日

晴明の家。


 太一《たいち》と晴明《せいめい》が、遠征任務に行ってから3日が経っていた。

その間も買い溜めしていたため、食料など必要なものは足りていた。

だから、物に困ることはなかったのだが、何もせずじっと家に引きこもったまま、気を張り続けるのはあまりにも精神力を削る。

二人は何か気晴らしをできることを考えていた。


「ねぇ、春馬《はるま》ぁ。暇ぁ〜。」


 茉琴《まこと》は、リビングにあるテーブルに突っ伏したまま、ぶつくさ文句を言っていた。


「仕方ないですよ。太一さんたちがいないんじゃ、何かあった時に対処しきれませんから。」


「でも、何かあった時の話はしたんでしょ?私も二人が行く前に聞いたし。」


「そうですね。それでも、自分から何かアクションを起こして、リスクを負うのは良く無いですよ。」


「まあ、そうなんだけど〜。」


 理屈を聞いてもなお、茉琴は「暇だー!」と言って、テーブルに突っ伏していた。

茉琴はアウトドア派なので、家でじっとして過ごすのがかなりストレスみたいだ。

そんな姿を見かねた春馬は、昨日聞いた巡回ルートを地図アプリで再確認する。


「茉琴さん。

巡回ルート確認してみたんですけど、お台場近くなら僕のワープでも、何回かに分けたら神奈川方面に行きやすいですし、その付近なら外には出れますよ?」


 暇を持て余していた茉琴な表情が、ばあっと明るくなる。


「ほんとにっ!?じゃあ買い物行こ!!ちょうど欲しいものあったんだよねっ!」


「ははは。なら、警戒しつつ買い物に行きますか。

人が多い分、敵も紛れやすいので少し変装していきましょう。」


「うん、わかった!着替えてくる!!」


 春馬は二人がいない分、少し不安はあったが、1ヶ月も襲撃がないのを見るに、標的を変えたのかもしれない。

あるいは、生き残ってる数人の鹿野世代を優先的に狙っているのかも。

それでも、警戒に越したことはないため、春馬は隠せるほどの大きさの武器を携え、茉琴と一緒に買い物に出かけた。


_____________


都内のショッピングセンター。


少し不便な動線の道を通り、入り口前に着いた。

そこにある像を、茉琴は見上げる。

でも眩しかったのか、手で日差しを遮りながらしかめ面で眺めていた。。


「いつ見ても凛々しい佇まいだね〜。」


「そうですね。もう変形したあとみたいですね。」


「今何時?」


茉琴は左腕に付けている、腕時計を確認する。

そこには13時12分を示していた。


「あー、今13時過ぎだ。ちょっと遅かったね。」


「帰りの時間を合わせたら、見れるかもしれないですよ?」


「そうだね!せっかく久々に来たから、見て帰りたいね!!」


 二人は名残惜しそうに像を見たあと、ショッピングセンターに入って行った。

 具材は晴明の家にあったが、作る気力が湧かないという理由から、昼食を食べていなかった。

だからまず、二人は6階へ向かった。


「ねぇ、何食べる?」


「う〜ん、そうですね。軽く食べれるものがいいです。

この後も動きますし、何かあってもお腹に溜まってない方がいいです。」


「そうだね。

今日、和食はやめよう!食べ飽きた…。」


「晴明さん和食大好きだから、いつも和食でしたもんね。」


「そうだよ。だから洋食にしよ!洋食にっ!!」


「はははっ、食べやすい洋食か〜。ジャンクにします?」


「いいね!ハンバーガー食べに行こ!!」


 二人は昼食が決まり、一直線にお店に向かった。

13時過ぎとはいえ、お昼時なのは変わらない。

なので、人がかなり多くて、長蛇の列ができていた。


「結構混んでますね。」


「そういえばこの辺り、ゲーセンが近いから混むって太一が言ってたわ。」


「ああ、確かに。真横にありますもんね。

動線が近いから行きやすいのか。」


「そうみたいね。」


「列に並ぶの嫌じゃなかったですか?」


「別に。並んでる時にお喋りできるじゃん。

手持ち無沙汰な時にしか出ない話題とかもあったりするし。」


「はは、ポジティブですね。

じゃあ、例えばどんなやつですか?」


「う〜ん、そうだなぁ。……この前、道端でカマキリがアリに囲まれてたとか、コラボバッグが発売されるのを見たとか。

ショッピングセンター関連だと、動画見てたら広告に、映画のティザー映像が流れて面白そうだったとか?」


「ああ、なるほど。確かに、一つ目はあんまりしないですね。」


「でしょ?」


「ははっ。でも、カマキリがアリに囲まれてるの想像すると、ちょっと面白いですね。」


「私も、高校の友達から聞いただけだから、どっちが勝ったとかは知らないんだけどね!

春馬はどっちが勝ったと思う?」


「僕はですね〜。うーん……カマキリが羽ばたいて逃げた!ですね!!」


「あっはっは!何それ?戦わずして??」


「流石に囲まれてたら一旦逃げて、体勢を立て直した方がいいです!」


「異能者脳すぎるだろ!!」


 春馬の「こんなところにも職業病が!」という言葉のあと、二人は思わず笑った。

 他愛の無い話をしていると、あっという間に注文する番が来て、「どれにする?」と茉琴が尋ねてきた。

春馬は大きめのバーガーセットを頼み、茉琴も春馬の意見に乗っかって、「このバーガーセット二つで!お願いします。」と注文する。

その後、横にある空いたスペースの待機列に並んだ。


「久しぶりのジャンクは満足度高そうだね。」


「そうですね。僕もハンバーガー自体、久しぶりに食べます。」


「そうなの?私は割と食べるよ。」


「茉琴さんの家、近くにハンバーガー屋さんありますもんね!」


「うん。ライバル店が50m先にもある。」


「はははっ、それはかなりバチバチしてそうですね。」


「案外仲良かったりして?」


 そんな話をしている間に、自分たちの番号が呼ばれた。

二人は受け取り口まで行き、番号を見せたあと、トレーに乗ったハンバーガーセットを受け取る。

その後、激混みの店内にあるテーブル席を探す。

しかし、テーブル席は埋まっており、なかなか空席が見つからなかった。

そのため、立ちながら少し待っていると、通路から見える小テーブルの二人席が空いたので、すかさず席に座った。


「ふぅ、かなりの混み具合だね。お持ち帰りにすればよかったかな?」


 茉琴は、一息ついたのちそう言った。

春馬は、「おそらく、フードコートも混んでそうなので、あまり変わらないと思いますよ。」と言い、「ここよりは、多少空いてるかもしれないですけど。」と苦笑いをしながら付け加えた。

 食べ進めていると、黙食していた茉琴が質問してくる。


「春馬ってさ、昔から今みたいな戦法だったの?」


「あ〜、異能戦でのやり方ですか?」


「そうそう。」


「新人の頃は、僕も前に出て戦うやり方をしてた時期はありますよ。」


「へぇ〜、そうなんだ。でも、今は違うじゃん。」


「そうですね。一回、死にかけたことがあるんですよ。

その時に鹿野さんに助けてもらって、お礼を言いに会いに行ったんです。

そしたら鹿野さんが、『君の能力はサポート寄りだ。自身が前線に出るより、他者を補助した方が光る。だから、今みたいな運用の仕方だと早死にするぞ。』って言われたんです。」


話を聞いていた茉琴の口元に笑みが浮かぶ。


「ふふ、鹿野なら言いそう。」


「そこから、じゃあどうすればいいかとか相談するうちに仲良くなって、いつの間にか先輩たちのサポートメンバーで、帯同することも増えました。」


「なるほどねぇ。だから私たち世代と仲良かったんだ!」


「はい。結構可愛がってもらってたと思います。」


 春馬は懐かしむように微笑んだ。

茉琴もそんな春馬の表情を見て、昔のことを思い返す。

すると、ふと誰かが言ってたことを思い出した。


「そういえば、後輩なのに図々しい時があるって言われてたよ?」


「はははっ!絶対太一さんでしょ?それ言ってたの。」


「わかりやすかった?まあ、いつメンの中で言うのは太一ぐらいか。」


少しの間のあと、春馬は話題を戻した。


「……話は戻りますけど、それこそ死にかけた時に治療をしてくれたの、茉琴さんですよ?」


「えっ!そうなの!?」


春馬は微笑みながら「はい。」とだけ言った。


「全然覚えてない…。ごめん。」


 茉琴にとって、負傷者の一人だったのかもしれない。

 けれど春馬にとっては、死にかけた自分を助けてくれた記憶として、今でも鮮明に覚えていた。


「大丈夫ですよ!その時は全く接点もなかったですし、僕も新人ホヤホヤの時ですから。

それに、当時は前線に出てましたけど、茉琴さんは初めから、サポート班の医療チーム配属でしたし、後方にいましたからね!」


「そうだね。大規模な被害が出ない限りは、後方支援だったからね。」


 そうこう話しているうちに、春馬は一足先に食べ終えた。

茉琴はまだ食べていたが、春馬は先に次の行き先を決めようと思い尋ねる。

すると茉琴は、職場用や休みの日に出かける用の服が買いたいそうで、二人とも食べ終えたあと、洋服を見に4階へ向かった。


 洋服店に入り少し見回っていると、春馬は服を選んでいる茉琴に声を掛けた。


「いいのありました?」


「……これなんかどう?」


 茉琴は半袖を身体に当てて、サイズ感や色味、それらが似合っているかを春馬に見せてくる。

確認したのち、似合っていると思ったので、素直に思ったことを口にする。


「うん、いいんじゃないですか?動きやすそうですし。」


「よし!じゃあこれにしよう!」


 春馬の判断に迷うことなく、茉琴は買うものを決めてレジに向かった。

お会計を済ませ、目的地を決めずに歩き始めた時、春馬が思い出したように口を開く。


「そういえば、太一さんたちと同じように『CDショップ、1ヶ月休みます!』って言いましたけど、運営大丈夫なんですかね?」


「なんか、短期バイトや派遣雇うって言ってたよ?他の子もいるし、大丈夫なんじゃない?

それに、もう1ヶ月の休暇も終わるし。」


「そうだったんですね!なら、大丈夫そうですね。

確かに、僕たちも明後日からまた出勤しますもんね。」


「うん。あとさ、コニさんには旅行行くって言ってるから、なんか手土産買ってた方がいいかな?」


「どっちでも良さそうですけどね。

だって、小西《こにし》さんお店に来ないし…。」


「……確かに。なら、どっかでご当地土産でも買って偽装しよう!」


「はっはっは!そうですね、そうしましょう。」


 二人はショッピングセンターの帰りに、百貨店か東京駅に寄ることを決めて、次は5階へ向かった。


 歩いていると、通路の真ん中にガチャガチャが立ち並んでいるのが見えた。

二人は思わず、覗き込みに行く。


「ねぇ、見て!プロレスラー消しゴム!!」


 茉琴はガチャガチャを指差した後、ラインナップに載っている、ボストンクラブの真似をする。

春馬はそれを見て微笑んでいたが、茉琴はまだ「こうかな?いや、こうか?」と、姿勢を微調整していた。

少し変装はしているものの、流石に目立っていたので止めに入った。


 その後二人は、何か欲しいものが無いか一つ一つ物色する。

すると、茉琴は欲しいものが見つかったのか、小銭を入れてガチャガチャを回し始めた。

二人は、中から出てきたカプセルを開けて確認する。

そこには、眉間に皺を寄せ、細めのキャットアイサングラスを掛けた、腕組みしてる逆三角形のマッチョなカンガルーがいた。


「えぇ、センスゥ……。」


「何で!?かっちょいいじゃん!!」


「……好みは人それぞれですね。」


 春馬は苦笑いをしながら、自分のお目当てのガチャガチャを回した。

中を開けると、清水寺が出てきた。


「……あんたのセンスも渋いじゃん。」


「いや〜、茉琴さんよりかはマシですよ。

それに、この城やお寺系の建物は、晴明さんも好きですから!」


口を尖らせ不服そうな表情のまま、同意はしてくれる。


「まあ、確かにそうだけどぉー。」


「それに、鹿野さんも好きでしたよ?これ系。」


「……そうだね。」


 茉琴は少し考え込んだ様子を見せた後、思い出を振り返るように話し始めた。


「懐かしいな〜。

遊んだ帰りに、千秋《ちあき》サンや太一たちと、運試しにガチャガチャしたっけ。」


「そうですね。

昔は『このガチャガチャのこれが出たやつが勝利!』みたいな感じで、ラインナップの中から一つ選んで、それが出たら次のご飯は奢ってもらえるとかでしたよね!」


「そうそう!ああいう時だけ、異様に太一が強いの!!」


「はっはっは!太一さん、連勝記録凄かったですよね。確か7連勝とかだった気がする。」


「6かな?たぶん。7回目で、千秋サンが連勝記録を止めたんだよ!

そんで、いつもなら奢ってもらえる人の支払いは、ジャン負けで決めるんだけど、千秋サンの時は太一が払わされてたんだよ。」


「はっはっは、そうでしたね!懐かしいなぁ。」


 二人は昔話で楽しく物思いに耽《ふけ》っていると、お昼を終えた家族連れがどんどん増えてきた。

おそらく、ガチャガチャや子供のおもちゃを買いに来たんだろう。


「平日なのに人多いですね。」


「そうだね。」


 家族連れの子供の笑い声や、迷子のお知らせなど、店内放送の音が通路に響いていた。

 茉琴は腕時計を確認する。

すると、時刻は14時45分を指していた。


「そろそろ帰ろうか。像の変形も見に行けるし、偽装土産も買わないといけないから。」


「そうですね。巡回ルートの近くとはいえ、長居するより早めに帰った方が良いと思います。」


 意見が合致した二人は、エスカレーターのある方へと歩き出した。

歩きながら、「偽装土産、何にする?」と話していたその時——


通路の壁が勢いよく崩れた。


 春馬は咄嗟に、茉琴の前に腕を伸ばし、後ろへ下がるように押しながらガードする。

すると、崩れた壁から大きな影が現れた。

春馬は思わず目を奪われる。


「はぁ〜い、春馬くぅん。久しぶりぃ。」


 春馬の視線の先には、この前襲撃してきた大柄なスキンヘッドの男が居た。

あまりにも突然の出来事により、春馬は一瞬呆気に取られ目を離せなくなる。

しかし、すぐさま後ろにいた茉琴の確認に入る。

 振り向きざまに視界の左端、そこに黒い何かが見えた。

視線だけ少し左に移すと、抜刀して攻撃モーションに入っている黒い着物の女が映った。


「——危ない!!」


 春馬は咄嗟に、右手で茉琴を押した。

加減なんて出来なかったため、茉琴の体勢が崩れ尻餅をつく。

直後、春馬から見て右手にある柱と共に、押した右腕が切断された。


猛烈な痛みが春馬を襲う。


「——くぅっ!!」


 痛みに悶《もだ》えている時間は無く、すぐさま床にワープゲートを作る。

そして、二人は自由落下でゲートを潜った。


_____________


ショッピングセンターに残された二人。


「あぁ、また逃げられた。」


「おい、閉じる前になんとかしろ。」


「はいはい、分かってますよ。」


 大柄な男は自身の能力で、閉じようとするワープゲートを食い止める。


「それじゃ、後を追うか。」


「先に行け。」


「レディーファーストじゃねぇの?」


 大柄な男はワープゲートの前でしゃがみながら答える。

その直後、着物女は背中を蹴って無理矢理ゲートに押し込んだ。

第九話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。


次回、第十話は8月14日(金)20時に投稿いたします。

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