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第八話 日日是好日


2018年 5月14日

晴明の家。


 晴明《せいめい》は台所で何やら作業を始めた。


「何やってんの〜?」


 作業をしていると、茉琴《まこと》が台所を覗きにくる。

晴明は手を止めずに、茉琴の質問に答える。


「夕飯の準備だ。そろそろ作っておかないと、19時に食べられないからな。」


「え?もうそんな時間?」


 茉琴は携帯で時間を確認する。

すると、時刻は18時を少し超えていた。


「もうそんな時間か!ドラマ見てたら時間経つの早いな〜。」


「ははっ、夢中で見てたもんな。」


「うん、あのドラマ面白かったよ!

ネズミ追いかけてったら宇宙人見つけちゃって、そのあと匿って政府と戦うお話!!」


「……凄いネタバレだな。」


「あっ!ごめん。」


 茉琴は軽く平謝りをし、逃げるように台所をあとにした。

晴明が、その後も夕飯の作業を進めていると、次は春馬《はるま》が来た。


「晴明さん、何か手伝いましょうか?」


「ああ、ありがとう。なら、この鯖を焼いてくれ。」


「了解です。」


 冷蔵庫から鯖を取り出し、春馬に手渡した。

春馬は、コンロの下の棚からフライパンを手に取り、クッキングシートを敷いて焼き始めた。

そうして、晴明と春馬が料理を作っていると、警戒に当たっていた太一《たいち》が飲み水を飲みにやってくる。


「なあ、まだ?腹減ったぁ〜。」


「まだだ。あと少しでできるから、静かに待ってろ。」


「えー?静かでいいの?寂しんぼにならない?」


「それはお前だろ。

警戒しにいけ、まだ来るかもしれないからな。」


「はいよ〜。

まぁ水張ってっから、来たらすぐ分かるけどさぁ、ぼっちはつらいぜ。」


「便利ですよね〜。つらいよシリーズ。」


「え、春馬まで!?俺、先輩だよ?一人だけ働いてるんだよ?もっと敬意を持ってくれてもいいんじゃない??」


太一は物凄い早口で春馬に捲《まく》し立てる。

その圧を跳ね除けるように春馬は笑い、太一に言葉を返した。


「はははっ、冗談ですよ!尊敬してますよ!もちろん。」


「だよな〜!流石春馬!晴明とは違うわ。」


「流石春馬、太一とは違って手伝ってくれる。」


「はあ!?俺、今、警戒中!

太一くんは分身できたりしないんだぞぉ?知らなかったぁ?」


「……春馬、味噌取ってくれ。」


「えぇ…ここで無視ぃ……。」


 太一の対応が面倒になったのか、晴明は太一をいなして作業を続けた。

太一も、「もういいですよ。行きますよ。やればいいんでしょ。」と言い放ちながら、警戒しに再び外へ向かった。


 数十分後、夕飯が出来たので先に太一と茉琴がご飯を食べ、春馬と晴明は警戒にあたった。

そして交代したあと、戻った二人もご飯を食べた。

_____________


2018年 5月21日

晴明の家。


 一週間が経ったが、依然として敵は現れなかった。

それでも警戒を止めるわけにはいかず、何日も順番に交代し、夜には三交代制で眠る日々を送る。

そんな不規則な生活と、二人は対策課の仕事もこなしつつ過ごしていたため、かなり疲労が溜まっていた。


 朝方が近づいて来た頃、見張りをしている太一と交代するため晴明がやってきた。


「太一、交代だ。ご苦労さん。」


「……ふぅ。

流石に、久しぶりにこんな生活したから堪えるな。」


「そうだな。でも、今は耐えるしかない。

他の奴にも協力してもらえないか連絡はしてみたが、頼れる人たちはみんな、任務に出ていて断られた。」


「……。

ここのところ、かなりきな臭いからな。」


「そうだな。本部の雰囲気が、昔に戻ってる感じがする。」


「上がゴミだからな。

自分たちは動かねぇくせに、俺たち下には無理難題押し付けてくる。」


「……上層部の人たちも、最初からああだったんだろうか?」


「さあな。どっちにしろ、今が大事なんじゃねぇの?」


「確かに。」


「「……。」」


 数分ほど沈黙が続く。

やがて、晴明が口を開いた。


「なあ、少し休まないか?」


「ん?どゆこと?」


「休暇申請しよう。二週間ほど。」


「ありだな。任務しながらは流石にきついしな。」


 そうして二人は、春馬たちが起きて来たあと、本部近くのカフェまで一緒に向かった。

その後、太一と晴明は休暇申請をしに本部に向かっていった。


 二人が戻ると、休暇申請が通った旨を春馬と茉琴に伝えた。

申請で二週間近い休みをもらったため、その後の日々も、少し落ち着ける時間が増えた。

しかし、数日間は大人しく過ごしていたが、ずっと家に籠もっていては気が滅入る。


 そのため四人は、警戒を続けながらも、気晴らしにテーマパークへ遊びに行くことにした。


_____________


2018年 5月29日

関東にある大型テーマパーク。


 ジェットコースターで騒ぐ太一と茉琴。

少し怖がる春馬と、完全に目を瞑っている晴明。


「あっはっは!晴明あんた、目瞑ってんじゃん!!」


「はっはっは!何、晴明くぅん?怖かったんでちゅか〜?」


「……怖くはない。高かっただけだ。」


「ビビリマーン。」


 茉琴が指を刺していじってくる。

晴明は不服そうな表情をするが、茉琴と太一は気にせずに少しの間おちょくり続けた。

そんな絡みをしていると、テンションが上がってきた茉琴は、次の提案をする。


「ねぇ!!次あれ行こう!フリーフォール。」


「……ゴーカートでもいいんじゃないか?」


「え〜、何?怖いの??」


茉琴の煽りに、晴明はまんまと乗ってしまう。


「ふっ、まさか。誰だと思ってるんだ。」


「え?晴明。」


「……茉琴さん。」


 茉琴は「ん?」と言って、わかってなさそうな表情をしていたが、それを見て太一だけ腹を抱えて笑っていた。


 フリーフォールに乗った四人は、徐々に高くなっていくことに、各々が違う意味で興奮していた。


「きゃー!高いっ!!見て見て!!…人間がゴミのようだ。」


「はっはっは!それ違うやつだろ!」


「思わず言いたくなっちゃった。」


「はははっ。呪われちゃいますよ?」


「それで呪われたら晴明のせいにしよう!!」


「はぁ?何で俺のせ——」


 晴明が言いかけたところで、頂上に達したからか急降下した。




「「「「うわーーーーーー!!!!」」」」


落ちる時だけ、謎に悲鳴がシンクロした。


 降りたあと、お腹が空いたので遅めの昼食を食べることにした。

レストランに入ると、各々サンドウィッチセットなどを注文する。

 しかし、茉琴はそれだけでは満足できなかったのか、フードワゴンでチキンレッグを頬張りながら、次のアトラクションの列に並んだ。


「そんなに食べて大丈夫か?気持ち悪くなるぞ?」


「大丈夫、大丈夫!私の胃は強いから!」


「太るぞ。」


 太一の余計な一言で、茉琴の拳骨が飛ぶ。

太一は避けることもなく、それを受けた。


「痛ってぇ〜。だって、さっきアイスもポップコーンも食ってたろ!」


「それは別腹なの!」


「めざせ、魅惑のマシュマロボディ!」


「……春馬、あんたも殴られたいの?」


「嫌だな〜晴明さん。さっきのやり返しだからって、そんなこと言えっていうのはだめですよ!」


 晴明に拳骨が飛ぶ。

避けられずに脳天にもらった。


「——っ!?俺は何も言ってないぞ!!」


「はっはっは!晴明〜。女の子にそんなこと言っちゃダメだぞ。」


「「お前がな!」」


 茉琴と晴明がハモり、春馬も思わず吹き出してしまった。

 その後、列が進み、四人は水上アトラクションに乗り込む。

終盤には滑り台のように落ちていき、最後には大量の水が降り掛かった。

そして茉琴以外、びしょ濡れになったまま出口で集合した。


「……茉琴、何でお前だけ濡れてないんだ?」


「ん?太一が海水出して守ってくれた。」


 晴明は太一を睨むが、太一は知らん顔をしている。


「おい、勤務時間外の異能使用は規則違反だぞ。」


「んー?なんのこと??」


「お前……。」


「晴明さんも受け流せばよかったのでは?」


「春馬まで……太一の悪影響が。」


「俺のせい!?どっちかというと茉琴だろ!」


「はあ!?私のせいじゃないでしょ!絶対太一のせい!!」


「僕をために争わないで…。」


すると、三人は息を合わせたように争いをやめた。


「さっ、次行こう〜。」


「ああ、そうしよう。」


「次、次ぃ!」


「えぇ…急にハシゴ外すじゃないですか……。」


 今度は春馬が不憫を味わう番だった。

不服そうな顔をしながらも、置いていかれないようについていった。

 そして、あっという間に時間は過ぎていき、惜しみながら帰路に立った。


 久しぶりに、少しだけ気を張り過ぎない時間を過ごせた四人。

そんな日々を過ごして、いつの間にか1ヶ月が経っていった。

しかし、襲撃は来なかった。


_____________


2018年6月2日

晴明の家。


 深夜に差し掛かろうとする頃、晴明と太一は本部から帰ってきた。


「「ただいま。」」


「お帰りなさい。」


「茉琴は?」


「もう眠いって言って、寝ちゃいました。」


「そうか。」


 二人の雰囲気がやけに暗かった。

その後、二人はバツが悪そうな表情で春馬を見る。

春馬も、「何かあったのかな?」と思いながら、少しソワソワしていた。

すると、晴明から悪いニュースが飛び込んでくる。


「春馬、すまない。神奈川まで、遠征任務に行かなくちゃいけなくなった。」


 春馬は驚きはしたが、いつかそういう日が来ることは予想していた。

なので、心配させまいと励ますことにした。


「そうなんですか…。

今のところ、襲撃してきそうな感じはしませんし、神奈川なら近くですから!

何かあったとしても、すぐに駆けつけられると思いますし大丈夫ですよ。」


「俺も代わりの奴を改めて探してみたんだが、知り合いは異動や長期任務、遠征任務の最中だったりと頼める奴がいなかった。

…春馬は、他にあてはないのか?」


「…はい。友達とかはいるんですけど、異能者じゃないので。」


「太一は?」


晴明は太一に振ってみるが、太一も同じ回答だった。


「俺の方も全滅だ。誰一人、手が空いてねえってよ。」


少し考えたのち、晴明は別の提案をする。


「……なら、外出時も本部の巡回ルートの近くに居るしかないな。

それなら、他の対策課の隊員もすぐに駆けつけられる。」


「…いっそ、本部に逃げるとかは?」


「それも考えたが、俺たちが信用できる奴らがいない。

それに、不測の事態に陥った時に、本部の連中が対応しきれるかわからない。

だったら、神奈川寄りの巡回ルートに逃げてきてくれた方が、俺たちからも近くなるし合流もしやすくなる。」


「確かに、その方が確実だな。

不確定要素はないに越したことはないし。」


「わかりました。何かあれば神奈川支部の方に向かって逃げます。」


「ああ、そうしてくれ。

一応、神奈川方面の巡回ルートも教えておく。」


 晴明は「非常時だ。」と言って、普通なら口外してはいけない、現在の東京と神奈川の巡回ルートを春馬に教えた。


「何かあったらすぐに連絡してくれ。」


「わかりました。

でも、この前の戦闘で茉琴さんに連絡しようとした時、真っ先に携帯を狙われたので、長く触ることはできないと思います。

だから、何かわかりやすくて早い連絡方法とかないですか?」


「連絡方法か…。」


 晴明は考えてみたものの、なかなかいい案は浮かばない。

そんな中、太一はいい案を思いついたのかドヤ顔で答えた。


「こんなのはどうだ?

適当に、文字の羅列を送る!!」


「………そうしよう。」


「…え?いいの??」


 太一からしてみたら、いい案だと思ったがふざけてみた部分もあったため、すんなり通ったことに驚きを隠せなかった。

なぜ案が通ったのかを、晴明がすぐに説明してくれる。


「戦闘時に、『助けて』なんて文字を打つ余裕はない。

逆に、適当に文字を打つだけなら戦闘時でも可能だ。

今回みたいに、前もって約束していれば意図も伝わるしな。」


「そうですね。その案でいきましょう。」


「まあ、何もないことに越したことはないが。」


 春馬も晴明も、不安がないとは言い切れないが、異能対策課に所属している以上、二人は他の仕事だってある。

そのため、こう言った事態になることも想定はしていた。

しかし、いざそうなると心配事が消えたりしないのも事実。

 三人はその後、どこに向かうか、どの場所で合流するかを話し合った。


 次の日、任務に向かう時間が来たため、太一と晴明は神奈川支部へと向かっていった。

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