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第六話 隠忍自重、されど人なれば。


 秋葉原から帰ろうとしていた時、空から大きな影が一つ降ってきた。


 見上げると、そこにか巨大な肉塊があった。

春馬《はるま》は思わず、瞬間移動を使い回避する。


 ——な、なんだ!?

何が降ってきた?


戸惑う中、降ってきた肉塊に視線を向けると、そこには大柄なスキンヘッドの男がいた。


 人だったのか。

それにしても、着地したところがめちゃくちゃになってる…。

高いところからどれだけの速度で落ちたらこうなるんだ?


そんな考えを巡らせていると、大柄な男が声を掛けてくる。


「はーい、春馬くぅ〜ん。おじさん、とっても会いたかったぜー?」


 僕のことを知ってる!?

それに、かなりの高さから落ちたはずなのに、傷一つない。

おいおい、勘弁してくれよ。昨日の今日だぞ?

しかも、人通りの多い真っ昼間からかよ…。

こんなところで戦ったら、何人死ぬかわからないぞ。

ひとまず逃げないと。


 逃げようとした時、大柄な男の後ろに遅れて落ちてきた影があった。


「手ぇ出すなよ?せっかく暴れられるんだ。

こいつは、俺の獲物だ。」


「……好きにしろ。」


 落ちてきた影も人だった。

それも黒い着物を着ており、手には日本刀らしき物を持っている。


 もう一人いたのか!?

あの刀…能力に関係あるのか?それとも、僕と同じ見た目通りの武器か?

ああ、もう!思考がまとまらない!!

なんだってこんな——


 相手を観察しているうちに、大柄の男が仕掛けてくる。

飛び込んでくるのを見て、慌てて回避行動を取ろうとする。

しかし、目測とは裏腹に、大柄な男のスピードが速かった。

攻撃が当たる寸前、かろうじてガードは間に合ったものの、勢いを殺せずかなりの距離吹き飛ばされた。


 その光景を見た周りの人たちは、悲鳴を上げて一斉に逃げていく。

場は一気に、混乱に陥った。


 なんだ?あの筋肉ダルマ。

あの巨体で出していいスピードじゃないぞ!

いや、それは偏見か。

それに、一発がめちゃくちゃ重い。

右腕と肋骨、ヒビ入ってないよな?


 ガードした右手を押さえながら、立ちあがろうとする。

 大柄な男は、吹き飛ばされた春馬が立ち上がるのを、悠々と歩きながら待っている。

着物の女はその後ろで、刀を持って腕を組んだまま、何もせず立っている。


「何なんだ?いきなり。会いたかったとか言ってきて。

僕は全然、会いたくないけど?」


「はっはっは、君を探していたんだ。」


「なに?僕のファン?」


「そうだよぉ〜。春馬くんのファンなんだあ。」


 大柄な男の後ろで、着物の女が「きもい。」と、小さく呟いていた。


「全国ネットデビューしちゃったからなー。

もうそんな、熱烈なファンができちゃったの?

困るよ、プライベートなんだ。」


「見かけたもんでつい。

でも、もう会えないかもしれないし、いつこんな機会が来るかわかんないからな。見逃せなかったんだ!

わかってもらえるよね?」


「はっ、わかりたくはないね!それに、変なファンはお断りだよ!」


「残念だ…なら仕方ねぇ。

誰かに取られる前に、俺が力づくで、奪うしかないなっ!」


 今までふざけていたのが一変、纏う雰囲気が荒々しくなる。

そして大柄な男は地面を蹴り飛ばし、再び駆け出してくる。

その速度が、先ほどの倍も跳ね上がっていた。


……!!速度が上がった!?間に合わな——


 再び瞬間移動を発動できず、今度はガードすら間に合わなかった。

速度も乗った攻撃によって、衝撃後の吹き飛ぶ速さも上がる。

壁に激突する前に、瞬間移動で衝突は回避するが、右手が痺れて力も入らず感覚が薄い。

その後、ぶらりと垂れ下がる右腕。


 くそ、これは折れたな…。

同じところを狙ってきたし、わざとだな。

2回とも異能を使ってるところを確認できなかった。

それに、瞬間移動を発動し損ねたのもよくない。

この前のやつとはレベルが段違いだな。


 少し時間を確保するため、春馬は舌戦に持ち込もうとする。


「ちょっとは手加減してくれよ!

こっちはサポートタイプなんだ!!」


「はっはっは。慢心した奴から死ぬのが、この世界の常識だぜ?」


「長く遊べる方がいいだろ?」


「あいにく、おもちゃを好む歳でもないんだ。」


「いくつからでも始められるぞ。玩具屋で買ってあげるよ!」


「がっはっは!なら、変身ベルトにしようかな?」


 豪快に笑う大柄な男に恨み節を言いつつ、痛みに慣れる時間を稼ごうとするが、大柄な男はそんな時間をくれない。

今度は動いたと同時に回避を試みた。

結果、瞬間移動で避けることに成功した。


「おっ!避けたか!やったじゃないか!!

まずは一回、成功だな!」


「そんな余裕たっぷりでいいのか?

さっき慢心した奴から死ぬって言ってなかったっけ?」


「はっはっは、そうだな。そう言ってたな!

忘れてたよ。」


 大柄な男が、地面に向かって拳を振り下ろす。

春馬は少し困惑したが、すぐに理解した。

拳で砕けた道路から、土煙が舞い視界を塞いだからだ。

どこから来るのか、不確定要素が高くなる。


 これは、僕の能力が知れ渡りすぎてやしないか?

瞬間移動は視界に入った場所にしか行けない。

小さな鏡でもあれば、色々やり方はあるんだけど、そんなもの持ってきてないよ…。


 すると、右の煙の中から大きな影が現れる。

すかさず春馬は、左へと瞬間移動した。

だが、煙から出てきたのは大きな道路のかけらだった。


 ……っ!

なら、本体は!?


 春馬の視線が、出てきたかけらに吸い寄せられていて警戒が薄れていた。

その時に、春馬の回避位置の左から、大柄な男が土煙から出てくる。

そして、左の拳が春馬に迫る。


——寸前で、吸い寄せられた道路のかけらの方へと瞬間移動した。


「はぁ、はぁ。流石に焦った…。

自分の体格も戦術に入れてくるか。

ちょっと、認識を改めないと。」


「おお!これも避けれたか!

ならこれからは、右手も使っちゃうぞぉ〜!」


 大柄な男は、今まで左手しか使ってなかったのだ。


 ふざけんなよ、どこまで手を抜いてるんだ!

強がりじゃないのが、余計に腹立つな。

でもそのせいで、底が見えなくなった…。


 春馬は、敵からもたらされた情報に、少し絶望感が湧くが、「まだ始まったばかり。選択肢は多い。」と思い、気持ちを立て直す。

 

 こっちの筋肉ダルマも厄介だけど、あっちの着物女はなぜぴくりとも動かない?

本当に手を出さないつもりか?

それとも、なにかタイミングを狙ってるのか?

女に注意を向けれるほど、筋肉ダルマは優しくないぞ。


 大柄な男は軽く右肩回し、春馬に向き直る。


「さあ、第二ラウンドと行こうか。」


「それって、KOしちゃってもいいんだよね?」


「できるならな。でも、降参はなしだぞ?」


「なあ、なんで僕を狙ってくるんだ?この前のやつが言ってた情報が欲しいのか?」


 確認を取るために言ったつもりだったんだが、相手の反応が思った反応と違い、少しの沈黙があった。


「……そうだ。鹿野《かの》って奴から何か聞いてるだろ?」


「あいにく、何も知らないんだ。」


「なら、少しヒントをやろう。」


 その後のヒントで、春馬の中の霧がかっていた記憶が浮き上がってくる。


「12月16日、あの事件の日。本(﹅)部(﹅)の(﹅)地(﹅)下(﹅)で鹿野と会ったろ。

その時、何か聞いたんじゃないか?」


 思い浮かんだ記憶で、春馬の表情が変わる。


 鹿野さんと会ったあの日。

攻撃の跡を残す薄暗い通路。

無機質な白に散らばる、無数の血痕。

防護壁の重い扉の先。

少し開けた広間、そこに鹿野さんが居た。

鹿野さんは無表情で僕を見たあと、視線を奥へと移動した。


本部 地下4階。


そこで終わりのはずだった。

なのに、あの時——


「ちと、ぼーっとし過ぎやしないか?」


 前方から聞こえた声にハッとする。

その時にはもう、攻撃が春馬の腹にめり込んでいた。

思考をプツリと切る強烈な攻撃に、一瞬意識が飛んだ。

しかし、壁との激突ですぐに意識が戻る。

背中から思い切りぶつかったため、呼吸がしづらくなる。


 息がっ……!!


 春馬はたまらず膝をついた。

呼吸をして必死に空気を入れようとするのを、待ってくれるわけもなく、大柄な男はゆっくりと歩み寄ってくる。


「さっき、かなり耽ってたが、なんか思い出したか?」


 首を左右に動かして骨を鳴らす。

足音だけが徐々に大きくなっていく。


 まずいまずい!

早く呼吸を整えないと!

追撃を避け切れない。

こんな時に限って、体力の消耗が重い…!

でも、視界のぼやけは治ってきてる。

……情報をちらつらせれば、時間を確保できるか?


「はあ…かはっ……はあ、はあ。

なんでそんなに、知りたいのか、わかんないけど。はあ…はあ。

鹿野さんからは、何も聞いてないよ。」


「ふーん、そうか。

まあ、まだ隠してるかもしれんしな。

とりあえず、無力化して持っていくか。」


 くそ!全くうまくいかないな。

それに、無力化なんて——


……ん?無力化??

ならなんで、最初からしなかったんだ?

悔しいけど、それだけの力量差があるのに。

もしそうだったら、やけに手加減してるのも変だ。

まるで、この前の僕と同じ、時(﹅)間(﹅)稼(﹅)ぎ(﹅)してるみたいじゃないか?


あの日、あの場にいたのは…。

僕と鹿野さん、それに——


……茉琴《まこと》さん。


 春馬は血の気が引いていく。

あの時あの場には、茉琴も居たからだ。


 敵は組織的に動いていて、僕だけが狙いじゃない!?

なら——


茉琴さんが危ない!!


 ゆっくりと大きくなる足音を捉えながら、次の行動へと移るタイミングを測る。

大柄な男が、春馬の前まで来た瞬間、途端に立ち上がりアッパーを繰り出す。

しかし、春馬のアッパーの速度なんてたかが知れてるため、当然のように避けられる。

だが、春馬の狙いはまさにそこだった。

アッパーの拍子に上を向いた春馬は、ビルの屋上に視線を移し、瞬間移動する。

 その後、屋上で携帯を取り出し、慌てて連絡を入れようとした時——


携帯が真っ二つにされた。


「くっ!なんだ!?携帯が…!」


「おい!手ぇ出すなって言ったろ!!」


「……連絡を取られると厄介だ。取り巻きが来る。」


「ちっ、あいつ。降参はなしって言ったのによぉ。」


 携帯を破壊された春馬は少し動揺するが、すぐさま次の案に移る。

ワープゲートを開き、約6km先の池袋のCDショップまで繋げたのだ。

その拍子に無理をしたのか、代償のせいでごっそりと体力を持っていかれる。

疲労で意識が朦朧《もうろう》としてくるが、力を振り絞りワープゲートを潜った。


_____________


池袋のCDショップ。


 慌ててワープゲートを潜り、お店の裏路地に到着する。

息を整える余裕もなく、裏路地を抜けてお店に向かう。

足が鉛みたいに重い。

それでも、止まる選択肢なんてなかった。


 早く、早く行かないと!茉琴さんが!!


 やっと思いで入り口に着き、ドアを開く。

するとそこには——


レジでサボってる茉琴がいた。


「ま、茉琴さん!」


「ん?春馬??今日休みじゃないの?」


慌ててる春馬とは対照的に、素っ頓狂な声で答える茉琴。

茉琴は春馬を見たあと、ボロボロになってあることに遅れて気づいた。


「……!?あんた!どうしたのそれ!?」


「よかった……本当によかった、無事で…。」


その後、緊張の糸が切れた春馬は力が抜けたのか、地面へ倒れ込んだ。


_____________


同時刻

秋葉原の大通り。


 逃げられたのを見ているだけだった大柄の男が、悔しさを歯がゆげに口にする。


「くそ!逃げられた!!………なんてな。」


 そう言った大柄の男は、徐に懐から携帯を取り出し、誰かに連絡を入れる。

すると、繋がった先の人物が言葉を発する前に、大柄の男が現場の状況を伝える。


「ボス!逃げられた!!」


「うん、知ってる。こっちに来たからね。」


「がっはっは!なら、確定だな。

どうする?今からやるか??」


「いや、今日は帰ろう。次、全力で行く。」


「了解だ。楽しみは取っとかないとな!」


 通話を終了し、着物の女に声を掛ける。


「さっさとずらかるぞ。サツがくるからな。」


「貴様に言われずとも分かっている。」


「はっはっは!流石にか!」


そうして二人は、その場から姿を消した。

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