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第五話 漂う煙、沈む液体。


2018年5月12日

池袋のCDショップ。


 昨日の尾行の件で、春馬《はるま》から連絡を受けた晴明《せいめい》は、詳しい内容を聞きに、太一《たいち》と共にCDショップへ訪れた。

お店のドアが開き、二人が入ってくる。

客かと思い、レジにいる茉琴《まこと》が入り口を覗いた。


「あれ?太一に晴明じゃん!お店に来るなんて珍しいね。

何しに来たの?」


「春馬が襲われたって知らせを受けてな。

詳しい話を聞きに来たんだ。」


「はあ?何それ??私何も聞いてないんだけど?」


 入荷した商品を陳列している春馬を、ギロリと睨む。

春馬は慌てて弁明しようとした。


「いや〜、それはですね…あとで言おうと思ってたんです。」


弁明は茉琴に届かず、視線が痛い。


「まあまあ、とりあえずは話を聞こうぜ!

俺たちも詳しく知らないし、これから聞いても同じみたいなもんだろ?」


すかさず太一が宥《なだ》めようとするが、茉琴の機嫌は直らない。


「太一たちばっかりに教えて、私には教えてくれないんだ?

いいよ!そうやって仲間外れにしたければ。

私も、太一たちと同期なのに…。」


「ごめんなさい!

今度お買い物付き合いますし、好きなもの一つ奢りますから!

それでどうか、お許しを!」


 春馬は、合掌をしつつ頭を下げる。

それまで不機嫌そうだった雰囲気が、一気に晴れる。


「……言ったな?ねえ晴明、言質取ったよね?ねっ!」


「あ、ああ。取ったぞ?」


 晴明の肩に腕を置き、茉琴はニヤリと笑った。

急な変貌ぶりに、晴明は戸惑う。

そんな戸惑う晴明を置いて、茉琴は喜びを隠さなかった。


「いやっったぁぁ!!奢りゲットー!!

こういうもんは、言ってみるもんだね〜。」


「すまん、春馬!いらんこと言った!」


「大丈夫ですよ。大丈夫です…。」


 太一は謝るが、春馬は遠くを見つめている。

あまりにも可哀想な春馬をフォローするために、晴明は話を切り替えようと、何とか話題を捻《ひね》り出す。


「春馬、相変わらず茉琴に甘いぞ。」


「そうだそうだ!茉琴を甘やかすな!!ぶくぶく太るぞ!」


 晴明のフォローは、太一によって跡形もなく砕け散った…。

 そんな太一の脳天に、茉琴の拳骨が飛ぶ。


「痛ぁい…。」


痛みで少し萎《しぼ》んでいる太一は、「お前が悪い。」と晴明に言われる。

 そんな二人を横目に見ていた茉琴は、春馬に向き直り、疑問を口にする。


「で、何があったの?」


春馬は、尾行と襲撃をされたことを三人に説明した。


「……なるほどね。昨日来た青年の仕業だったんだ。

思い返してみれば、挙動おかしかったもんね!

ずっとキョロキョロして。」


「そうなのか?」


「はい。おそらくその時に、僕がいることを確認しに来たんだと思います。」


「でも、なんで尾行されたんだ?」


「それが、鹿野《かの》さんから何か聞いてないかって。

『絶対知ってるはずだ!』って言われました。」


「なるほどな。

それで、心当たりないのか?」


「うーん、それが全くないんですよね。

鹿野さんとは雑談とか、相談とか、考え方の話とかをした記憶しかないんですよ。

だから、晴明さんたちも何か知ってないかな?と思って、連絡したんです。」


 春馬の話を聞いて、晴明は少し考えるがすぐに返答した。


「そうか。

俺は特に、鹿野から何か言われたりはしてないな。太一は?」


晴明は何も浮かばなかったため、太一は何か知ってないかと思い聞いてみる。

しかし、太一の返答も晴明と同じだった。


「俺も、な〜んにも知らない。」


「それなら、鹿野関連の情報……能力とかはどうだ?」


思い当たりそうなものをとりあえず上げてみるが、すかさず茉琴に否定される。


「鹿野の能力なんて知ってどうするの?

それに、異能犯罪者なら大体が知ってるでしょ。」


「そうですね。異次元すぎて、もはや抑止力みたいな感じでしたからね。」


「なら違うな。」


 そんなやり取りをしていると、太一は二つの話から何か閃く。


「あ(﹅)れ(﹅)じゃね?春馬が鹿野から貰ったやつ。」


「ああ!あ(﹅)れ(﹅)か!!」


 太一の言葉に茉琴も賛同する。

すると春馬は、大事そうにしまってあった袋を懐から取り出した。


「……これですか?」


「そう!それ!!」


「これが欲しかったんですか?だってこれ、"金平糖"ですよ?

確かに鹿野さんからいただきましたけど。

でも、『相手は情報をよこせ。』って言ってきましたよ?」


「情報か。情報なら違うな。」


 これだと思った一同だったが、春馬の一言で違うと判明した。

そんな行き止まり感に嫌気が差してきたのか、太一が晴明に文句を言う。


「おい、晴明。さっきから『違うなぁ〜。……あっはぁ。』しか言ってないぞ。」


「『違うな』以外にも言ってたろ。それに『あっはぁ』なんて気の抜けた吐息はしてない。」


「その前はな!もっと考えろよ。可愛い後輩くんが困ってんだぞ?」


「考えてるさ。だが、全くもって何も浮かばないだけだ。」


「使えね〜。」


 茉琴も太一に乗っかって、晴明を責めてくる。

 晴明は、「茉琴まで言うか…。」とぼやいていたが、すぐに切り替えた。


「だが、連中がそこまで断言するなら、何か根拠があるはずなんだが……。」


 晴明は少し考え込み、やがてポツリと春馬に尋ねる。


「春馬。昨日の連絡で軽く聞いてたが、尾行してきたそいつ、素人っぽかったんだろ?」


「はい。異能の使い方だけはうまかったです。」


『使い方だけうまかった』と聞いて、晴明は少し険しい表情をする。

その理由はすぐにわかった。


「そうか。それなら、後ろ盾があったのかもしれないな。

組織的に動く連中は、情報収集に捨て駒を使うこともある。

異能犯罪者は、倫理観が欠如してる奴が多いからな。

それで、こちら側の情報が漏れて、後手に回ることが多いのが現状だしな。」


「そうそう。後出しジャンケンみたいにな。

それでも勝てるのはごく一部だ。

俺たちみたいな!」


こんな時でもふざけるのをやめない太一を、もはや三人とも無視する。


 その後一同は考えるが、まるで答えが見つからない。

すると、晴明は言葉を選ぶように、ゆっくり口を開く。


「この中で1番、最近鹿野と会ったのは春馬たちだろ?

その時、何か言われたりしなかったのか?」


一瞬だけ、その場の空気が止まる。

春馬は記憶を遡ってみるが、しかし、鹿野から何か聞いた覚えはなかった。


 敵が何か知ってると言ってるなら、僕はどこかで、鹿野さんから何かを教えてもらったのかもしれない。

ただやはり、それが何かは思い出せなかった。


「はい、何も…。」


 考え込んでる二人を、太一が交互に見る。

そして、空気を一閃するように、その場を締めようとする。


「じゃあ、もう考えても仕方ないな!

分かんねーもんは、分かんねーんだし!

次会ったときに、直接そいつに詳しく聞けばいい!

はい、シンキングタイムおしまーい。」


「その通りだな。分からないことをずっと考えていても、疲れるだけだしな。」


「それ、俺が今さっき言ったよ?

繰り返し言わなくても、みんなわかるよ?」


「……まあ、気をつけろよ春馬。

もし予想通り、昨日の奴が尖兵なら、次があるかもしれないからな。

俺たちもずっと付いていてやりたいが、任務を初めから放棄わけにはいかない。

他にも、異能犯はいるからな。」


「ここも無視ですか!?」


 太一は不服そうに晴明に近寄るが、「来んな。」と手で押し返す。

その光景を見て、茉琴はケラケラ笑っていた。

やがて春馬も考えるのをやめ、晴明にお礼を言う。


「ありがとうございます。気をつけます。」


 その後、会議はお開きとなり、太一と晴明は帰っていった。


_____________


 CDショップの仕事も終わり、家に着いたあと、春馬は先程の話をもう一度考えてみた。

鹿野と会った日のことを思い返してみる。

しかし、もう3年も前の記憶なので、曖昧になってきている。

それでも何か、『何か見落としはないか?』と考えてみるが、やはり何も手掛かりがない。


 鹿野さんと会うまでは、人外の対処に追われてた。

その後も鹿野さんとは会ったけど、あまりの大変さと異能の使いすぎで、かなりの体力を代償で消耗していた。

だから、疲労のせいで大変だった記憶以外、あまり覚えていない。


 考えてれば考えるほど堂々巡りだった。


 春馬は大きくため息をつき、仰向けにベッドに倒れ込む。


「鹿野さん。

僕が何か知ってるんですか……?」


 目を瞑ると、いつの間にか眠りについていた。


_____________


2018年5月13日

秋葉原のアニメグッズが立ち並ぶ大通り。


 今日はシフトも休みなので、気分転換に秋葉原に来た。

先日の件で起きてからも考えてみたが、やはり何も思いつかなかった。

そのため、一度気分をリセットしようと、外に出てみることにした。

 何となく来てみたはいいが、目的があるわけではないため、ただ通りを彷徨っているだけだった。


「はあ、ただ散歩しに来ただけみたいになってるな。

こんなことなら、代々木公園か新宿御苑にでも行けばよかった。

朝から歩いて疲れたし。」


 宙に独り言を吐いてみるが、一人で来ているため誰も返答してくれない。

それに人が多いためか、人混みにも酔ってしまった。


「帰るか。」


そう思い、春馬は帰ることにした。


_____________


同時刻

秋葉原のビルの屋上に二つの人影。


「見ぃつけた〜。」


「……あれが目標αか。」


その言葉のあと、屋上から人影は消えた…。

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