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第十九話 鼻栓突く暗香、根腐れのイベリス。


 鹿野《かの》は巡回任務の隊員と交代する際、目の前の惨状の原因を把握するため、交代する隊員へ問い掛けた。


「何があった?」


 座り込んでいた隊員は、視線を鹿野に移して話し始めた。


「人外ですよ。

駆けつけた時から、いつもの人外より強くて手こずってたんです。

それでも、四級〜三級の隊員でなんとか戦えていました。

でも……進化を許してから戦況が一変して、進化個体にどんどんやられていって……。」


 鹿野は情報を聞いて考え込んだが、途中で思考を止めて隊員へ再び問い掛けた。


「……それでも、いつもならこれほどの死傷者を出すほどでもないだろう?

進化個体が一体いるだけでこうはならないはずだ。」


「そうです。その進化個体は強かったですけど、ここまでの死傷者を出す原因ではありません。」


「なら何が原因だったんだ?」


「それが……人外が一斉に進化し始めたんです。」


「——何ッ!?」


 鹿野は隊員の発言に驚愕《きょうがく》を禁じ得なかった。

なぜなら、人外が一斉に進化を始めるなど過去のデータにも例がないからだ。

だがそれでも、進化する時は動きが止まる。

そこを叩けないほど、四級〜三級隊員が弱いわけがない。

そういった考えもあり、隊員へ問いを投げようとした時、先に隊員が口を開いた。


「人外は進化すると基本的に動きが止まります。

例外的に、動きは鈍いけど行動できる個体もいますが……。

だから、俺たちも今がチャンスだと思ったんです。

でも、進化を始めた個体の多くが、途中で進化をやめたんです。

わかりやすく言うと、一部分だけ進化して、全身を進化させるわけじゃないって感じです。」


 鹿野は隊員の続く情報をもとに、さらに物思いに耽《ふけ》る。


 なるほど、『部分進化《ぶぶんしんか》』を行ったのか……。

部分進化自体は過去にも例がある。

しかし、一斉にというのはデータにもない。

ただでさえ、進化個体の特性を新たに生まれてくる人外が引き継ぐ疑いがある中で、一斉に部分進化までし始めたとなると、対応がもっと遅れるぞ。

それに、部分進化をしたということは今回の戦闘中、状況を打破するために、本能的に『進化しないといけない』と判断したということだ。

ただ、それを途中で止める『部分進化』に留まったというのが気になる。

部分進化で止まらなければ隊員に処理されるからなのか、それとも部分進化で十分と判断したのか……。

そこに進化を終えた個体も加わったというわけだな。

……これなら、この数の死傷者には説得力が出てくる。


 鹿野が深く考え込んでいると、隊員が更なる情報を伝えてくる。


「そういう状況だったんで、本部に応援要請をしたんです。

そこで応援が来てくれたんですよ。

最近、二級異能戦術班に昇格したばかりの松井《まつい》さんが。

……でも、松井さんも奴らに殺されてしまいました。」


 隊員の発言に、鹿野は整理し終えようとした情報を再構築する。


 二級隊員が殺《や》られただと?

二級なら、螢《けい》や千秋《ちあき》サンと同じレベルだぞ。

太一《たいち》たちも実力だけなら二級相当だが、問題を起こすから評価を落とし、昇格できていないだけで、その二級を殺すほどの成長速度なのか……。

……まずいな。

本部長は調査を『検討する』と言ってくれたあと、実際に情報解析班が調査を進めてくれるようになった。

しかし、その調査も前線の変化がこれほど速いと、結果が出る頃には意味をなさない可能性がある。

他の手を打つべきか?


「分かった。情報提供感謝する。

お前たちの中で、傷が浅い者は処理班に協力してやってくれ。」


「はい。鹿野さんも、気をつけてください。」


「ああ、ありがとう。」


 鹿野はそう言い残し、巡回任務に向かった。


_____________


2013年7月25日

異能対策課 本部。


 鹿野はいつものように本部へ出勤し、ブリーフィングに参加していた。


「本日は警察の麻薬取締部——マトリと協力して捜査任務を行う。

なぜ今回、我々が協力するのかだが、マトリが追ってる麻薬密売人が異能犯を雇ったという情報が確認されたからだ。

よって、我々異能対策課に協力要請が入った。」


 話を聞いていた鹿野は、質問をするために手を挙げる。

幹部は挙手していることに気づき、鹿野に問い掛ける。


「なんだ鹿野?」


「その情報について、人数や異能など……分かっている情報はありますか?」


「今からそれを言おうとしていたところだ。」


 幹部は一同に向き直った。


「密売人が雇った異能犯の特定は、残念ながらまだできていない。

しかしだ。今回マトリの捜査によって、次の取引場所の候補を絞ることができた。

それが、この四ヶ所。」


 幹部の人は大きなホワイトボードに貼り付けられた地図の四ヶ所に、赤丸で印を付け始めた。


「いいか?

この計四ヶ所の周辺に張り込み、マトリから売人が現れたという伝達が来たら、対象を取り押さえる。

そして、肝心の人数と異能だが……人数はおそらく三人、多くて五人と推測されている。

異能については何一つ分かっていない。

よって、我々はいつも通り不利な状況からのスタートとなる。

少しでも任務成功率を上げるため、サポート異能者を付けることになった。

今ここにいないサポート異能者は、各々の配置場所で現地合流する。

ここまでで質問は?」


 ブリーフィングに参加していた別の隊員が手を挙げる。

幹部の人は手を挙げた隊員を指名し、隊員は質問を投げかける。


「はい!人数はどのようにして把握したのですか?

それと、マトリと協力するということですが、現場指揮はどのようになるのでしょうか?」


「人数は複数の金の動きと、その額から推測したものだ。

だから、『おそらく』と言ったんだ。

あまり固定化しないようにしろ。

そして、現場の指揮系統は別々に行われる。

我々は原則、通信指揮室の指示に従い、現場で火急《かきゅう》の事態に陥《おちい》った場合には、現場の階級、クラスともに高い者の指示を優先とする。

なお、階級が同じの場合は、異能戦術班のクラスが高い者の意見が優先されるものとする。」


「了解!」


「他に質問は?」


 再び鹿野が手を挙げる。


「まだあるのか?鹿野。」


「はい。……更生の余地は?」


「ない。」


「了解。異能犯を制圧したのち、処理します。」


「ああ。即刻処理しろ。」


 その後、配置などの細々とした指示を出したのち、ブリーフィングを終えた。

そして、鹿野は作戦会議室から退出した。


_____________


同日

指示のあった配置場所の近辺。


 鹿野は指示された場所に向かう前に、私服を着たマトリ捜査官たち、それからサポート異能者と合流することになっていた。

鹿野が合流地点で待機していると、誰かが近づいてくる。


「……あんたが今回派遣された対策課の隊員か?」


 鹿野は声のする方へ振り返ると、そこには私服の男が複数人いた。


「そうです。あなたたちはマトリの捜査官ですか?」


「ああそうだ。

須崎《すざき》だ。よろしく頼む。」


 マトリの捜査官たちの現場指揮を担当するのは、須崎という男らしい。

鹿野は差し出された手を握り、自己紹介をする。


「鹿野です。よろしくお願いします。」


「よし。早速だが、待機指示のある配置場所へ向かうぞ。」


 マトリの捜査官たちが配置場所へ向かおうとした時、鹿野が制止する。


「いえ、まだこちらのサポート隊員が到着していません。

ですので、私はまだここで待機します。」


「——!?

今回は我々の管轄だ!多少は指示に従ってもらうぞ?」


「異能対策課は、原則として通信指揮室の指示に従い、状況が変化した場合には、現場での判断を階級が高い者に一任するという指示が出されています。

ですので、私たちは私の判断で動きます。」


「——なッ!?……分かった、ここで待つ。

ただし、売人が現れるとされる時刻は迫ってる。

長くても5分だ。」


「ふっ、大丈夫ですよ。もう来ます。」


「なぜ分かる?」


「付き合いが長いので。」


 鹿野は、自身の横へ視線を向ける。

すると、何もない空間にゲートが開いた。

捜査官が呆気《あっけ》に取られている横で、鹿野はゲートから出てくる人物に声を掛ける。


「遅いぞ、春馬《はるま》。2分の遅刻だ。」


「す、すみません鹿野さん!お腹痛くてトイレに籠《こも》ってました!!」


「ふふっ。私ではなく、マトリの方々に謝りなさい。」


「あ〜そうですよね!マトリの皆さん、遅れてすみません!」


 マトリの捜査官たちは唖然《あぜん》としていた。

異能者の戦闘は見たことがあるが、『なぜこの二人はこんなに緩《ゆる》いんだ?』と、至極真っ当な疑問が浮かぶ。

これから戦闘があり、死ぬ可能性もあるというのに。

そんな捜査官たちを置いて、鹿野は歩き出す。

春馬もその後をついていく。

そして、二人に少し遅れて、捜査官たちも配置場所へ向かった。


_____________


 配置についた鹿野たちは、売人とその護衛である異能犯が来るのをじっと待つ。

鹿野たちは建物の屋上から、売人が取引するかもしれない場所を監視していた。

マトリの捜査官たちは、地上と建物の中から目を光らせる。

取引が行われる推定時刻が迫ってくると、鹿野の隣にしゃがんでいる春馬が、鹿野へ声を掛けた。


「へへへっ。久しぶりに鹿野さんと同じ任務ですね〜!嬉しいです。」


「ははっ、任務は久しぶりだな。」


「はい!遠征任務の主力メンバーのサポートばっかりでしたんで。」


「この前は確か……太一たちと行った北海道か?」


「そうです。北海道遠征、大変だったんですからねっ!!」


 春馬は凄く嫌そうな顔をして、鹿野へ愚痴を語る。


「北海道に着いてすぐ、支部の出迎えで隊員が来てくれたんですけど、それが将《まさ》さんだったんですよ。」


「はっはっは!そういえば北海道に居たな?将也《まさや》さん。

あの人はクセが強いからな。」


「強いどころの騒ぎじゃなかったですよ!!

もう自己中の塊!トップオブ自己中です!!

ナルシストだし……太一さんたちも一緒に振り回されまくって、もう二度と行きたくないですぅ。」


「はははっ!まあそう言うな。あの人はあれでめちゃくちゃ優秀だからな。」


「出来る人でもあの人は嫌ですよぉ。常識通じないし。

もう一生北海道に拘束しててください!本部には戻ってこないでくれ!!」


 鹿野は春馬のぼやきを聞きながら、楽しく笑っていた。

そんな時、別の場所を張り込んでいたマトリの捜査官から、作戦に参加している全員へ無線が入る。


「——こちらB地点。売人が現れた。

これより作戦を開始する。」


 鹿野は無線を聞き静かに考え込む。

その横で、春馬は鹿野へ話しかけた。


「ここじゃなかったみたいですね。

どうします?Bの方に行きますか??」


 鹿野はしばらく考えていたが、やがて春馬に指示を出す。


「……いや、通信指揮室からの指示がない。

今はまだ、ここで待機だ。

それに、売人が一人とは限らない。」


「確かにそうですね!なら、このまま待ちますか。」


 二人は待機すると決め、鹿野は須崎に無線を入れた。


「須崎さん、私たちはここで待機します。

マトリはどうしますか?」


「こちら須崎。マトリもここで待機する。」


「了解。」


 鹿野は通信を終了し、次に通信指揮室へ無線を飛ばした。


「こちら鹿野。通信指揮室、応答せよ。」


「——こちら通信指揮室。どうした鹿野?」


「三浦《みうら》さん、B地点での状況はどうなっていますか?」


「今、B地点では売人の取り押さえが始まっているが、異能犯が二人いたみたいだ。

そいつらと交戦してる。」


「ありがとうございます。」


「……なにか引っかかることでもあるのか?」


「はい。おそらく、他の地点にも売人は来ると思います。」


「なぜそう思う?」


「この組織、異能犯を雇えるってことはかなりの金額を支払えるほど大きな組織ってことですよね?」


「まあ、その可能性が高いな。」


「なら、いつでも切り捨てられる下っ端の売人は、一人や二人じゃないと思います。」


「……なるほどな。分かった。

他の地点でも売人が現れたら、通信を入れる。」


「はい。」


 鹿野は通信指揮室との通信を終えると、監視を再開した。


_____________


 鹿野たちが現場に張り込み売人を待っていたが、一向に現れなかった。

しかし、他の三ヶ所には売人が現れていた。

他の地点では、売人を取り押さえることに成功したが、捜査データと照合しても今回マトリが追っている組織に関係する人間ではなかった。

鹿野が通信で別地点の売人情報を確認している時、横にいる春馬から声が掛かる。


「鹿野さん!来たみたいですよ!!」


 鹿野は春馬が指差す方向へ視線を向ける。

そこにはフードを被った挙動のおかしい人物が、携帯を見ながらチラチラと周囲を確認していた。


「通信指揮室、売人が現れた。

これより私たちも作戦を実行する。」


「分かった。でも、そいつはマトリの管轄だ。

我々は近くにいる異能犯の対処をしろ。」


「了解。」


 鹿野は通信を終了すると、春馬へ指示を出す。


「春馬、私たちは異能犯を処理する。

マトリが動いたら、出てくるであろう異能犯を仕留めるぞ。」


「了解!!」


 そして、二人ともいつでも動けるように身構えた。


_____________


 売人を発見した須崎たちマトリ捜査官は、一斉に動き出す。

マトリ捜査員が、周囲を警戒している売人の背後へ近づいていく。

そして、合図とともに取り押さえにかかり、マトリ捜査員の一人が売人の腕を掴み、後ろへ回して制圧した。


「須崎さん!捕らえました!」


「そのまま押さえてろ!!」


 須崎は慌てて駆け寄り、売人が被っているフードを取る。

そこには——追っていた男ではなく、女の姿があった。


「なっ!?女!??」


 須崎が驚いて立ち止まった瞬間、突如横から衝撃が走る。

何事か分からないまま須崎は吹き飛ばされ、その後、マトリ捜査員も全員吹き飛ばされた。

そして、拘束が解けた女の元へ、フードを被った男が二人やってくる。


「——おい大丈夫か!?」


「とっとと立て!逃げんぞ!!」


「わ、わかった!」


 フードを被った男の片方が女の腕を掴み、立ち上がらせたあと走り出す。

もう一人が周囲を警戒していると、目の前に黒紫の球体が現れた。


「重星。」


 声が聞こえたと同時に、男の身体が球体へ引っ張られていく。

そして、身体が捻じ曲がり、骨がミシミシと音を立てた。

フードの男は、痛みで思わず悲鳴を上げる。

そこへ上から何かが落ちてきて、男を下敷きにするように着地した。


「春馬、もう片方を追え。」


「了解!」


 降ってきたのは鹿野と春馬だった。

着地した鹿野は異能犯と思しき男を制圧し、春馬は逃げた二人を追うため走り出す。

そして、鹿野が制圧したフードの男を殺そうと高密度のエネルギー波を放とうとする。


「スーパーノ——」


「殺すなッ!!!」


 鹿野は一度、能力の発動を止め、声のする方へ視線を向ける。

そこには、折れた腕を押さえながら立ち上がり、こちらを向いている須崎の姿があった。

鹿野はすぐさま須崎へ声を掛ける。


「情報か?」


「そうだ!」


 短い会話だったが鹿野は意図を理解し、下敷きにしている異能犯にもう一度強い重力を掛け、気絶させる。

その後、怪我のなかったマトリ捜査員が駆け寄ってきたので、鹿野は気絶させた男を引き渡した。


_____________


 鹿野が異能犯の男を制圧している頃、春馬はもう一人の男を追っていた。


「待て!止まれ!!」


「止まるわけないだろ!」


 止まる気配のない二人に、春馬は瞬間移動で急接近する。

しかし、すかさずフードの男は異能による攻撃を仕掛けた。

男の攻撃を受けた春馬は、衝撃で鹿野のいる付近まで吹き飛ばされる。


「くっっそ。あいつの異能で押し戻された。」


 吹き飛ばされて戻ってきた春馬を、鹿野は一瞥《いちべつ》する。

須崎も同様に、春馬の方へと視線を向けた。

すると、男は春馬を攻撃した際にフードが外れており、顔が露《あら》わになっていた。

須崎は男の顔を確認すると、鹿野と春馬へ叫んだ。


「——!?あいつだ!あいつが俺たちが追っていた売人だ!!」


 須崎の大声で、鹿野と春馬は同時に男へ視線を向けた。


_____________


 須崎の叫びで、自身の正体が割れたと悟った売人の男は、女へ指示を飛ばす。


「おい!お前はあっちへ逃げろ!!」


「な、なんで!?私もたっちゃんと一緒に逃げる!!」


「バカが!お前は異能者じゃねーだろ!

足手まといなんだよ!!

せめて、二手に分かれて逃げやすくしなきゃ捕まんだろ!!」


「わ、わかったよ!でも、あとで迎えに来てね!?」


「わーってるよ!」


 逃げた売人の男女は二手に分かれる。

マトリに追われていた方の男は、自身の異能で手のひらから何かを放出し、その噴射で空を駆《か》ける。


 だ〜れがあんな女、迎えに行くかってんだ。

せめて、俺が逃げるための囮《おとり》にでもなってくれ。

逃げ切れれば、そのあとはどうにでもなる。


 そうして男と女は逃げていく。


_____________


 売人の男女が二手に分かれたのを確認すると、鹿野は頭上に重力球を作り出す。

それと同時に、通信指揮室へ無線を入れた。


「こちら鹿野、マトリが追っていた売人を発見。

私は逃げた女の方を追う。」


「——おい鹿野!そいつは異能犯じゃない、マトリの管轄だ!!

だから、お前は男の方を追え!!」


「いや、そっちは春馬に任せる。私は女を追う。」


「勝手なことをするな!こちらの指示に従え!!」


「想定外の状況下での現場指揮は、階級の高い隊員に一任されている。

よって、私は私の判断で動く。

それに、あの程度なら春馬でも対処可能だ。

私は春馬を信頼している。」


「——なっ!……分かった。だが、責任は取らんぞ。」


「了解。」


 鹿野は通信を終えると春馬へ声を掛けた。


「春馬!私は女を追う。そっちは任せたぞ?」


「へへっ、任せて下さい!!」


 女は地上を走って路地へ向かい、男は異能の噴射で上空へ逃げていく。

鹿野は空へ落ちながら女を追い、春馬は瞬間移動で男の後を追った。


_____________


 鹿野は重力球を使い空中を移動していると、異能者ではない女に難なく追いついた。

そして、無力化したのち再び通信指揮室へ連絡を入れる。


「こちら鹿野。女の方は制圧した。」


「——こちら通信指揮室、了解。」


 鹿野は気絶させた女を抱えながら、再び空へ落ちる。

そして、春馬の様子を確認しに向かった。


_____________


 もう片方の異能犯を追いかけていた春馬は、瞬間移動で追いついていた。


「お〜い!もう諦めとけ〜!!」


「誰が諦めるか!!」


 男は自身の能力で手のひらから何かを放出し、空気を押し出す力で空を飛んでいた。

その様子を見ていた春馬は、相手の異能について推測を立て始める。


 この異能犯、放出した力の反動を利用して空を飛んでるのを見るに、おそらく発散的な異能だな?

さっきの攻撃も押し出されただけで、大した威力じゃなかったし。

なら、殺傷力は低いな。


 春馬は結論を出すと、一度地面へ着地する。

その後駆け出し、目の前にワープゲートを作り出す。

そして、ワープゲートへ向けてドロップキックの体勢で飛び込んだ。

そのままワープゲートを通り抜けると、逃げていた異能犯が目の前に現れる。

異能犯は驚きのあまり、反射的に噴射を止めた。


「——うおぉっ!?」


 動きを止めたことにより、春馬のドロップキックが勢いのまま異能犯の腹部へ直撃する。

すると、異能犯は真っ逆さまに落ちていき、地面へ叩きつけられた。

その後、春馬は再びワープゲートを開き、自由落下しながらゲートを潜る。

そして、地面に倒れている異能犯の上空へ出てきて、そのまま男の上に乗っかるように着地した。


「——よいしょぉぉぉ!!

これで……制圧完了!」


 春馬が制圧すると同時に、上から鹿野が降りてくる。

地面へ着地した鹿野はマトリへ無線を入れ、遅れて駆けつけてきた捜査官たちに、無力化した二人の売人を引き渡した。


_____________


同日


 売人を捕まえたあと、逃げた男女が交際していたことが調査によって判明した。

そして、男女ともに麻薬を使用していた痕跡があったため、取り調べに当たっているマトリに代わり、鹿野と春馬は男女が同棲していた自宅へ向かっていた。


「それにしても、白昼堂々《はくちゅうどうどう》と麻薬取引とは。

肝が据わってますね〜。」


「人が多いからバレないとでも思ったんだろう。」


「はははっ、あんまり賢くなさそうでしたもんね!」


「春馬、決めつけると足をすくわれるぞ?」


「すみません!確かに、異能絡みで決めつけるのは危ないですね。」


 春馬は苦笑いしつつ反省の色を見せる。

そんな会話をしながら歩いていると、目的地に着いた。

そして、二人は事前にマトリから受け取っていた鍵でアパートの扉を開ける。

中へ入ると、鹿野と春馬の視界に衝撃的な光景が飛び込んできた。

そこには——


痩せ細り、虚ろな目をしたまま、地べたで三角座りでじっとしている、小学生ぐらいの男の子がいた。

第十九話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。


次回、第二十話は10月30日(金)20時に投稿いたします。


なお、次回からは鹿野編の今後に関わる転換点へと進んでいきます。


ここから鹿野を取り巻く状況も少しずつ変化していきますので、引き続きお付き合いいただければ幸いです。

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