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第十六話 凱風は雲雨を生み、風気は幽寂に沈む。


2013年6月4日


 鹿野《かの》の自宅まで迎えに来た太一《たいち》たちは、まだ合流できていない螢《けい》を拾いに行くため、晴明《せいめい》の車で螢の自宅まで向かう。

少々疲れてそうな螢を、太一が半ば強引に連れ出した。

 バーベキュー会場へ向かう道中、螢が「自動販売機でラムネを買うからどこかで止まってくれ。」と晴明に頼み、ラムネを購入後再び会場へ向かう。


「螢、そのラムネ好きだなぁ〜。」


「おん、好きだぞ。」


「それすぐ炭酸抜けるじゃん。」


茉琴《まこと》の指摘に、螢はすぐさま反論する。


「その前に飲み干したらいいだろ。350ミリリットルしか入ってないんだし。」


「いやいや、炭酸をそんなに一気飲みしないって。」


「喉にグワって来ますもんね。」


「凡人たちには、この良さは分からんか。」


「変人にしか分からないんじゃない?」


「千秋《ちあき》サンもそっち側かよ。」


「はっはっは、螢。私は味方だぞ?」


「斎《いつき》がいれば勝ったも同然だな。」


「ちっちっち、この大天才太一様は千秋サンたちの味方だぜ。」


「うわぁ〜、大敗だ!」


「これぃ!茉琴!!お前は敵だ!孤軍奮闘《こぐんふんとう》しとけ!!」


「はぁ!?あんたのどこが天才なのよ!

貼付《ちょうふ》も『はりつけ』って読むし、惜敗《せきはい》も『ざんぱい』って読んでたじゃん!」


「それは勉強できるかできないかの話だろ?

俺はセンスと才能で生きてんだわ。」


「か〜!出た!!言うよね〜そうやって逃げるやつ。」


「はははっ!確かに、千秋サンの苗字も陽川《ようかわ》なのに『ひかわ』って呼んでたもんな。」


 晴明の追加情報に、間違われた本人の千秋サンが話に乗りかかってくる。


「あははっ、懐かしいね。私の名前をずっとそう呼んでたから、螢によく揶揄《からか》われてた。」


「そうそう。そこから千秋サ(﹅)ン(﹅)だもんな。」


「ここには揚げ足鳥しかいないな!

今日はバーベキューじゃなくて、唐揚げパーティにすれば良かったぜ。」


 車の中で逃げ場がなく、いじられる太一を一同は楽しそうに笑っている。

車を運転している晴明は、「笑わせるな、ハンドルを握る手がブレるだろ。」と言っていたが、太一に「始めたのはお前だよ!」と反論を受けていた。


 そんなこんなでバーベキュー会場に着くと、屋外だが屋根付きの施設だった。

最近できた施設らしく、千秋サンが屋根を眺《なが》めながら呟いた。


「へぇ〜、屋根付いてるのね。」


「ふふふっ、これなら今日みたいに雨予報でも遊べるだろ?」


「太一にしてはやるじゃん!」


「はっはっは!もっと敬え!!」


「さっ、お肉焼いていこうぜ〜。」


「そうだな。お腹も空いたしな。」


「私は器具を貰ってくる。」


「……もう慣れたよ。このパターン。」


「まぁまぁ、お肉食べましょう?」


「春馬、励まし方違うくない?」


 騒がしい太一を横目に各々が準備を始める。

鹿野が施設のスタッフから器具を貰ってくると、事前に買ってきたお肉を焼いていった。

みんなお肉をつまみにお酒を飲んでいる中、螢はお酒を飲まずお茶と買ってきたラムネを飲んでいた。


「晴明は運転しなきゃいけないから飲めないのは分かるけど、螢はお酒飲まねぇの?」


「ああ、今日遅番なんだ。それに、この後遅番まで夏乃《なつの》と映画に行く約束してるんだ。」


「今日遅番なのか。」


「うん。だから、俺は途中で切り上げて早めに帰るわ。」


「了解。それにしても、また夏乃か。」


「なんだ、悪いか?」


「悪くねぇけど、螢も一途だな〜と思って。」


「ほんとにね!片思い何年だっけ?」


「高校の時からですよね?だから〜、9年?」


「8年だ。」


「なっがーー!!何で告んないの?」


「うるさいな、事情があるんだよ。」


「あっはっは!だから、親友ポジで収まってんのね!」


「それでも楽しかったら別にいいんだよ。」


「形は人それぞれよ。外野がとやかく言うことじゃないでしょ?」


 茉琴の冷やかしを聞いていた千秋サンが、すかさず注意する。

それに晴明が同意し、茉琴へ言葉を掛ける。


「そうだな。それに、彼氏も居ない茉琴に言う資格はないな。」


「なっ!晴明も居ないじゃん!」


「だから、蒼井《あおい》に何も言ってなかっただろ。」


 小さな言い合いをしているが、みんなお肉を焼く手は止めない。

そんな他愛のない話をしながら、バーベキューを楽しんでいると、予報通り雨が降ってきた。


「降り出したな。」


「でも、屋根があるから大丈夫!」


 鹿野と太一が雨について話している横で、螢は腕時計を確認する。

すると、時刻は16時に差し掛かっていた。


「そろそろ時間だから、先帰るわ。じゃあな。」


「傘持ってる?」


「あるぞ、ほら。」


 千秋サンの問いに、螢はポケットから折りたたみ傘を取り出して見せた。

太一はお肉を焼きながら傘の有無は確認せず、螢へ別れの言葉を掛ける。


「気をつけて帰れよ〜。」


「ああ。」


 螢は返答すると、お金を渡して帰っていった。

 その後、17時になるとバーベキューを終え、片付けを始めた。

片付けを終えると、茉琴は「今見てるドラマが19時から始まるから帰んなきゃ。」と言って、帰っていった。

少し話した後、千秋サンも「明日、朝早い勤務だから私も帰る。」と言い、帰路に就いた。


 残された四人は、お開きにしようかと思ったが、太一が「晴明の家で二次会しよう!」と言い出し、晴明の家へと向かった。

晴明は嫌そうな顔をしていたが、一人だけお酒を飲めなかったこともあり、太一の「家なら酒飲めるぞ?酒は奢ってやるからさ〜。」という甘言に惑わされ、提案に乗っていた。


 晴明の家で、昔話やボードゲーム、負けたらお酒を飲むミニゲームなどをして盛り上がっていると、気づけば深夜になっていた。

その後、鹿野が帰ると太一も春馬も一緒に帰ることにした。


_____________


同日

鹿野の自宅。


 晴明の家から帰ってきた鹿野は、自宅の扉を開けようと鍵を探していると、扉の横にある傘掛けにビニール傘が掛かっていた。

少し疑問が浮かんだが、『聞けばいい』と結論付け扉を開ける。

深夜0時ということもあり、『もう寝ているだろう。』と思っていたので静かに室内へ入るが、未優はまだ起きていた。


「おかえり。」


「ただいま。遅くなってごめん。」


「うんうん。私も帰ってきたの、22時とかだったから。」


「そうか。遅くなったから起きてたのかと思った。」


「違うよ。でも、もう眠たいから寝るかも。」


「うん、わかった。それと気になったんだが、外のビニール傘は買ったのか?」


「うん。折りたたみ傘入れてあると思ってたんだけど、家に置いてたみたい。」


「そうだったのか。濡れなかったか?」


「うん。」


「良かった。お風呂に入ってくるよ。」


「私ももう寝ようかな。」


「おやすみ。」


「うん、おやすみ。」


 未優がソファから立ち上がったあと、鹿野も脱衣所へ向かう。

脱衣所に入ると、タバコのような、油のような匂いがした。

鹿野は、『お酒も飲んだし、バーベキューの臭いが付いたのか?』と思い、自身の着ている服を嗅いだ。

すると、炭の匂いや焼肉の香りがして、思わず顔を顰《しか》めた。

 

 結構臭うな。

これは一緒のカゴには入れれないな。


 鹿野は服を脱いだ後、洗濯カゴから分けて自身の服を置いた。

その後は湯船には浸からずシャワーだけで済ませ、すぐに寝室へと向かい眠りについた。


_____________


2013年6月5日


異能対策課 本部 待機室。


 昼頃からの勤務だったが、昨日夜遅くまで遊んでいたため、最後まで残っていた四人は二日酔いで顔色が悪かった。

辛そうな四人の横に、朝から継続して巡回に当たる千秋サンと、遅番の勤務から休憩を挟み昼からまた勤務する螢が合流していた。

螢は、四人の顔色を見て、鼻で笑いながら軽口を言う。


「ふっ、お前ら楽しい巡回が待ってるぞ。」


「螢、俺の顔を見ろ。この顔のどこに楽しそうって書いてる?」


「そうですよ。太一さんを介抱してたら、『宅飲みにするぞ!』って、また飲みに付き合ったんですから。」


「覚えてないわ…。起きたら、トイレがとんでもなく臭いってことしかわかんねぇ。」


「はっはっは!今も匂うぞ。」


「まじ?」


横から顔色の悪い晴明が口出しする。


「あぁ、酒臭い。」


「晴明もな。」


「はぁ〜。酔っ払っても記憶があるって、辛いな。」


「俺はない!」


 軽い言い合いをしている四人を横目に、千秋サンが鹿野をじっと見ていた。


「………。」


「ん?どうした?」


 少し落ち着かない様子の千秋サンを見た鹿野は、『千秋サンらしくないな。』と思い、声を掛けた。

 千秋サンは、問い掛けに一瞬だけ口を開きかけたが、何でもなかったように首を横に振った。


「うんうん。昨日、何時まで居たの?」


「深夜0時くらいだな。晴明の家で二次会してたら、長居してしまった。」


「珍しい。だから、そんなにやつれてるのね。」


「ははっ、そう見えるか?流石に飲みすぎたな。

太一なんてフラフラで、春馬に支えられながら帰ってたよ。」


 鹿野は思い出し笑いつつ答えた。


「そうなんだ。

……それで、ちゃんと帰れた?」


「ああ。太一と春馬はタクシーで帰ったが、今日来た時に春馬が、『あの後大変だった…。』ってぼやいてたよ。」


「ふふふっ、ならいいけど。

あんまり飲みすぎないようにね。」


「あぁ、身に染みた。帰ってシャワーを浴びたが、節々が痛かったからな。

次から気をつける。」


「うん。」


 鹿野は、まだ何か言いたげな千秋サンに気づいていたが、本人が何も言わなかったためそれ以上の追求はしなかった。

 その後、指示受領《しじじゅりょう》等のブリーフィングを行い、各々が担当する巡回エリアへ向かっていった。


_____________


 鹿野とは別のエリアを巡回中だった、太一と晴明と螢は、近くで人外発生の通報を受け現場に向かっていた。

到着すると、民間人が逃げ出すあとを人外が追いかけていた。

螢はすぐさま、ベルトに付けてある小さな鞄から太い針を取り出し、投げると同時に加速させる。

すると、追いかけていた人外に命中し、貫通して奥の人外にも当たる。

風穴が空いた人外は、塵となり霧散していった。

太一もそれに続き、回転する円錐の水流を作り同じように人外の体を抉る。


「はっはっは!見たか!これが俺の槍海《そうかい》の威力だ!!」


「はいはい、そうかいそうかい。二日酔いなのに元気だな。」


「だから、ダジャレじゃねぇーって!」


「はははっ、『槍海当たると爽快!』って言いたいんだよ。」


「だぁーー!!『針の加速は仮足ぅぅ〜。』って言うぞ螢!!」


「アメーバと一緒にするな!」


「ほら!そうなるだろ!?」


「二人とも、手を動かせ。」


「「動いてますけど〜??」」


 二人の返答に晴明は二人がいる方へ視線を移すと、対処していた複数の人外が塵となって消え、もはや一体もいなかった。


「お前らこういう時だけ息ぴったりだな。」


「え〜、ヤキモチ?」


「男のヤキモチはキモいぞ。」


「螢が言うなら説得力あるな!夏乃に寄ってくる男に睨《にら》み効かせてるし。」


 太一が急に梯子《はしご》を外したため、螢は太一の向かって針を投げる。

太一は「あっっぶねぇぇえ!!冗談だろ!冗談!!」と言いつつ防いでいた。

 そんな光景を上空から見ていた鹿野は、「太一たちの方は大丈夫だな。」と思っていた矢先、視界の左端で爆発するのが見えた。


 ——!?あっちは避難誘導していた方角だ!

民間人に被害が出る!!


「螢!ここは太一たちに任せて、私についてこい!!」


 螢は名前を呼ばれ、声がした上空を見上げると鹿野を発見した。

その後、再び視線を地上へ向けると、人外はかなり減っていたため鹿野に返答する。


「了解。——加速。」


 鹿野は爆発の方向へと急速に落下していく。

螢も鹿野を視界の端でチラチラと捉えつつ、屋上の障害物を避けながらついていく。

鹿野が爆発現場に着くと、そのエリアの巡回を担当していた千秋サンたち隊員が、人外に応戦していた。

 鹿野はすぐさま、人外へ攻撃を仕掛ける。


「重星《じゅうせい》。」


 鹿野の生み出した黒紫の球体が人外の体の中心に現れ、その球体へ向かって体が捻じ曲がっていく。

しかし、人外たちは黒紫の球体を各々の方法で破壊して、攻撃を捌いた。


 ——!?捌いた!?

……なら、出力を上げる!


「三重連星《さんじゅうれんせい》 ポラリス!!」


 三つの黒紫の球体が、狙いを定めた人外の中心に向かって公転しながらぶつかる。

その瞬間、人外の体がぐにゃりと中心に向かって捻れ曲がった。

その重力は周囲の人外まで巻き込み、ほとんどの個体が身体が捻れ曲がり塵となって消えていく。

それでも攻撃を捌ききった人外がおり、鹿野は生き残った人外に向かって、上空から物凄いスピードで頭上へ落下する。

人外は、鹿野の着地と同時に掛かった重力に押し潰されて肉塊となった。

同タイミングで、遅れて螢が到着する。

鹿野は着地後、近くにいた千秋サンに状況を聞く。


「相変わらず、敵には容赦ないわね。」


「千秋サン、状況は?」


「民間人は誘導が始まって、逃げ遅れはいない。

四級と三級が何人か死んだけど、死者はそれだけよ。」


「さっきの爆発は?」


「人外によるもの。自爆して、巻き込まれた隊員はその辺に転がってるわ。」


「進化したか?」


「してない。でも、こいつら……。」


「ああ。明らかに、強くなってる。」


「よね。」


 人外は生まれる際、突然植物のような木々を作る。

その後成長し果実が実ると、やがて落ち人外として活動を始める。

その成長速度と数が異常なため、そもそも木々の状態で発見できず、人外になる前に破壊しきれない。

 だが、それ以上に厄介なのは、人外は進化することだ。

進化は個体によって様々で、おそらくその状況を打破するために最適な進化を果たす。

だから我々異能対策課は、人外を進化させる前に処理しなければならない。


 鹿野が人外の情報を再認識していると、千秋サンから声が掛かる。


「こいつら、この前処理した進化個体の特性を、生まれた時から持ってるかも。」


「何?」


「この前進化したやつは、火力に耐えるために硬くなるような進化をしたの。

その影響が、こいつらにも引き継がれてるように見える。

だから、さっきの鹿野の攻撃も捌かれたんだと思う。」


「なるほど……そういうことか。」


「うん。だから、進化させちゃダメかも。」


 遅れて到着していた螢は、二人の会話を聞きつつ、針の投擲で近くの人外を処理していた。

鹿野は戦闘中の螢に声を掛け、指示を飛ばす。


「螢!聞いてたか!?

進化を試みる個体を見つけたら、優先して攻撃してくれ!

その間、他は私が殲滅《せんめつ》する!!」


「バッチリ頭に入れたよ。了解、進化個体は任せろ!」


 螢は返答しつつ、千秋サンと共にその場の人外処理を継続する。

鹿野は頭上に黒紫の重力球を作り出し、人外の処理速度が遅い奥の方へと応援に向かう。

向かう道中で、千秋サンの情報も整理しつつ、人外のメカニズムの情報を頭の中で再構築していく。


 人外が進化する時は動きが止まり、見た目が変化していく。

その変化が止まると、新たな能力を得て進化を終える。

しかし、進化は一度だけではなく、時間が経てば再び状況に適応するため進化する。

千秋サンの話が本当で、私の推測が正しければ、奴らを進化させることすら許してはいけない。

過去には進化し続けたのち、再果実化した個体がそのまま塵となり、その付近で新たに生まれた個体が、再果実化した個体の性質を引き継いだというデータはある。

だが、それは人外が生まれ始めた最初期の頃の情報だ。

今では再果実化はおろか、進化する前に処理することができている。

だが、もし私の推測が正しければ、これは大きな問題になる。

やはり、見つけ次第即時処理するのが最適解だ。


 鹿野がそう結論付ける頃には、まだ人外たちが無数にいる奥へと着いていた。

鹿野は少し高度を落とし、複数の光球を作り出した。

その後、『重星』で人外の足を止めたあと光球を放つ。

そうして人外を処理し、数を減らしていく。

しかし、人外に対処していた別の隊員が殺《や》られ、撃ち漏らした人外が防衛戦を突破しようとしている箇所を見つけた。

鹿野はすぐさま飛んでいき、落下と共に重力で押し潰そうとする。

だが、押し潰そうとした個体が踏ん張って衝撃に耐えた。


 こいつら、相当硬くなってるな。

もはや押し潰すことすら、出来なくなってきている。

出力をさらに上げることもできるが、そうすると私の異能の威力のせいで、周りへの被害が拡大してしまい、ライフラインの復旧にかかる時間を増やす事になる。

……力をセーブしながら戦うのはやはり、かなりの制約があるな。

簡単に処理できる手段で殺せれば楽なのだが、無理ならば方法を変えるしかない。

建物は崩れるかもしれんが、やむを得ん。


 鹿野は押し潰そうとしていた重力を解いた。

すると、それまで重力に抗って踏ん張っていた人外の身体が、その反発で跳ねるように伸びる。

鹿野はその力を利用してジャンプし、人外から少し離れた位置に着地した。

着地後、自身の目の前と重力に耐えた個体の目の前に重力球を作り出し、お互いを引っ張り合って急激に距離を詰める。

引っ張られた人外は、それも踏ん張ろうとするが、鹿野はその対策として少し浮くように引っ張っていたため、踏ん張りが効かない。

やがて手の届く距離まで近づくと、人外は鹿野に攻撃を繰り出す。

鹿野は重力球を作り出し、攻撃を引き寄せることで軌道を逸らし受け流した。

その後、人外の心臓から数センチ離れた位置に手のひらを向ける。


「スーパーノヴァ。」


 言葉を発すると同時に、手のひらの先から高密度のエネルギー波が放射状に放たれる。

攻撃を受けた人外は、当たった箇所が溶け落ちバタリと倒れた。

後ろにいた人外にも攻撃は命中しており、そのさらに奥にあるガラス張りの建物は一部が崩れ、オフィスらしき部屋が丸見えになっていた。


「進化できなければ、ただ少し硬いだけだ。」


 鹿野がスーパーノヴァで倒した個体に対処していると、奥の方から隊員の声が聞こえてくる。


「おい!あっちに進化が始まってる奴がいる!!

誰か対処してくれ!俺は手が回らない!!」


「こっちも無理だ!!」


「防衛戦を保つだけで限界だ!誰か!頼む!!」


 鹿野は声の先へ視線を向けると、頑張ってはいるが、進化しようとしている個体まで手を回せる余力はなさそうだった。


 ここにいるのは三級がほとんどだ。

私のような一級がゴロゴロいるならまだしも、これだけ硬いと殺《や》られはしないが、処理するのは時間が掛かるだろう。


 鹿野は周りの被害は多少の目を瞑るしかないと判断し、殲滅《せんめつ》優先へ舵《かじ》を切る。

再び上空へと上がり、無数の光球を作る。


「落花星《らっかせい》!」


 無数の光球は眼下に映る人外目掛け、雨のように降り注ぐ。

硬い部分があるが、やはり高密度のエネルギーをぶつければ有効のようだった。

目の前の人外を処理し、奥の進化を始めている個体へと急接近していく。

近づくと、鹿野は進化し始めている個体に向け攻撃を仕掛ける。


「三重連星 ポラリス!」


 三つの黒紫の球体は中心へと公転しながら衝突し、進化し始めている個体も中心へ捻じ曲がっていくと思われた。

しかし、周りにいた進化していない個体の複数体が、体が捻じ曲がりつつもポラリスに攻撃を仕掛け、進化最中の個体の処理を防いだ。


 っ!人外といえど多少の知能はあるからな。

本能がそうさせたか!

だが、殺すまで続けるだけだ!!


 鹿野は再びポラリスを発動しようとしたその時——


後ろの方から「進化するぞ!食い止めろ!!」と言う声が聞こえた。


 後ろへ視線を送ると、進化がどんどん進んでいる個体が複数体いた。


 螢は!?何をしている!??


 鹿野は視線を左右に動かし、螢を探す。

すると螢を発見したが、千秋サンと共に別の進化を始めてる個体の対処に当たっていた。


 まずい、対応が間に合っていない。このままでは進化する!

その前に防がなくては!!

だが、光球を使うシューティングスターや落花星、エネルギー波を放つスーパーノヴァでは、周囲の隊員を巻き込む危険性が高すぎる!

ここは重力系の攻撃をするしかないが、ポラリスでは威力が心許《こころもと》なく、五重連星《ごじゅうれんせい》や六重連星《ろくじゅうれんせい》では逆に威力が強すぎて、地面に穴が開くどころでは済まない。

それでは落花星同様、周りの建物と隊員も巻き込んでしまう。

なら——


やはりカペラか。


 四重連星《よんじゅうれんせい》なら、こいつらを潰すには十分な威力だ。

それに、周囲への被害も五重連星以上ほどではない。

何より、重星系統は狙った対象を即座に攻撃できる。


 鹿野は結論を出すとポラリスの発動を途中でやめる。

そして、進化を始めている五体の人外へ、それぞれの周囲に四つずつ重力球を展開した。


「四重連星 カペラ!!」


 ポラリス同様、四つの重力球が公転しながら中心へと向かい、やがて衝突したのち強い重力を生み出した。

四体は中心へと吸い込まれ捻じ曲がったのち絶命したが、一体は先ほどのように周りにいた人外たちが身を挺して庇った。


 くそっ!一体撃ち漏らした!!

このままでは……進化してしまう!!


 鹿野はすぐさま撃ち漏らした個体へ猛スピードで向かう。

螢と千秋サンも進化を始めていた個体を処理し終えており、螢は周りに進化を始めている個体がいないか探す。

すると、鹿野が撃ち漏らした個体に気付き、鹿野の向かう様子を捉えたことで、すぐさま進化している個体に向けて、別の隊員が落としたであろう得物を投擲し、加速させる。

しかし、貫通力が足りず、人外たちが肉壁となり攻撃は届かなかった。


 ちっ!届かねえ!!


 鹿野も近づいてくるが間に合わず、撃ち漏らした個体は進化を終えた。

第十六話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。


次回、第十七話は10月2日(金)20時に投稿いたします。


追伸 

今回も文字数が長くなってしまい、すみません。

おそらく今後も、戦闘描写がある回は長くなるかもしれません。

何卒ご容赦ください。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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