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第十五話 霧を掴むは賢者にあらず、見つめるは真実と限らず。


2013年5月21日

異能対策課 本部 2階休憩室。


 鹿野《かの》は巡回を終え、小休憩に入るために一時本部へ戻った。

2階へ上がり休憩室の扉を開けると、聞き慣れた声がいくつも聞こえてくる。

声の方へ視線を向けると、そこには先に休憩を取っていた螢《けい》や太一《たいち》たちが居た。

鹿野は、みんなが座っている席まで近づき声を掛けた。


「みんなも休憩か?」


「斎《いつき》、戻ったか。俺はさっきだ。

太一たちはその前から居たよ。」


 椅子に背を持たれながら、腕組みした螢が答えた。

鹿野も空いている席に座り、事前に買っていた缶コーヒーを開ける。

螢、太一、晴明《せいめい》、茉琴《まこと》、春馬《はるま》といつものメンバーがいる中、千秋《ちあき》サンだけ居なかったので問いかける。


「千秋サンは?」


「今日は捜査任務だったと思うぞ?この前、担当してた異能犯の手掛かりを見つけたから、『とっちめてやる!』って息巻いてたしな。」


 鹿野の質問に螢が答えた。

しかし、螢の回答に太一が疑問を付け足す。


「そうなのか?でも、休憩前に巡回で見かけたぞ?」


「なら、もう終わって巡回任務に合流したんじゃない?千秋サンは優秀だし。太一と違って。」


「あぁん?俺は天才だぞ??」


「はいはい、甜菜甜菜。」


「いや、甘くねぇーよ!!」


「はははっ、太一さんもやる時はやります?よ?」


「流石春馬、分かってるぅ〜。

でも、疑問形じゃない方がいいぞ。」


「今もサボってるだろ。」


「蒼井《あおい》くん、きゅーけいと言いなさい!」


「あっはっは!太一、人望ないねっ!」


「嬉しいそうに言うな!」


 太一のいじられる様子に一同は笑い、その後もしばらく雑談をした。

世間話をしていると、なにかを思い出した太一が話題を変えた。


「そういえば、技名考えたんだよ。」


「技名?なんだ、唐突に。」


「いや〜、この前の遠征でやり合った異能犯がめちゃくちゃ技名叫ぶやつでさ。

それを見て、俺も考えてみたんだよ。」


「へぇ〜、それで?何にしたんだ?」


螢の問いに、太一は自信満々に答える。


「槍に海で、槍海《そうかい》だ!」


「……そうかい。」


技名を聞いた晴明が、冷たく言い放った。


「ダジャレじゃねぇーよ!」


「ダジャレじゃなかったのか?」


「ダジャレじゃ、ぬえーーよ!!

大事だから2回も言ってやったわ!」


「それにしても、なんで技名なんて考えたんですか?かっこつけとか?」


「おい、春馬。今のは、流すところじゃなく拾うところだったろ。」


「技名を考えておくメリットは、異能が運用しやすくなることだな。」


「どういうことですか?」


太一は、「鹿野まで流しやがった!お前は晴明だ!晴明!!」と言っていたが、鹿野は無視して話を続ける。


「技名を決めておくと、その技名を口にしたり思い浮かべたりすることで、異能の運用をスムーズに行うことができる。

他にも、特定の動きを作っておくと発動までが少し早くなったり、無意識下で発動して窮地を脱したりする効果もある。」


「へぇ〜、なるほど!」


「だが、どちらも本当に少しの差だ。

その差で変わる場面はあまり多くない。

その前に決着がついたり、死ぬことがほとんどだからだ。」


「そうなんですね……。なら、あまり意味はないのか。」


「そんなことねぇよ!」


春馬が、意味がないと納得しかけたところをすかさず太一が否定した。


「でも、今あんまり効果がないって…。」


「何言ってんだ!なんてったって——」


 春馬は固唾を飲み、真剣かつ期待した眼差しで太一の次の言葉を待つ。


「カッコいいだろ!!」


決め台詞のように言った太一の声が、休憩室に少し響いた。


「なんだ、やっぱりカッコつけか。」


 春馬の落胆と冷ややかな視線が、ドヤ顔の太一を刺す。


「なんでそんな目で見てくるんだよ!かっこいいだろ?技名あった方がよ!!

それに鹿野だって、『重曹』だか、『重税』だか言ってるだろ!?

鹿野にも同じこと言えんのか!?ん?」


晴明が、「重星な。」と言うが聞いてない二人。


「いや、鹿野さんのはさっき言ってたように、異能の運用がスムーズになってるんですよ!」


「俺だってスムーズになるかもしれないだろ!」


晴明は再び「重星な。」と言うが、聞こえていない二人。


「いやいや、太一さんはそう言うタイプじゃなくて、割と感覚派じゃないですか。

たぶん、そんなにうまくいきませんよ〜。」


春馬はにやけながら茶化す。

晴明は諦めずに「じゅ、重星な。」と小さく呟くが、もはや存在すら忘れられてそうなぐらい、二人の会話は白熱していた。

そんな不憫な晴明を鹿野が慰めていると、隣で見ていた茉琴は、「あっはっは!全部受け流されてる!!」と、手を叩きながらゲラゲラ笑っていた。


「言ったな?なら、俺の槍海を避けれるんだろうな?」


「ちょっと待ってくださいよ!それとこれとは話がちが——」


 白熱しているのをぶった斬るように、いつの間にか帰ってきていた千秋サンが、机を『ダンッ!』という音を立てて勢いよく叩いた。


「あんたら、暇そうね?なら、私に付き合ってくれない?」


「「えっ……??」」


 二人は呆気にとられたが、千秋サンに掴まれ連れて行かれる。

太一は、「いやだー!お家帰るぅ〜!」と言っていたが、千秋サンは無視して引きずっていく。

春馬も引っ張られながら「助けてください!」と言うが、みんな休憩時間を減らしたくなかったからか、「太一、春馬。達者でな。」という雰囲気を出して誰も助けてはくれない。

最後の砦と言わんばかりに春馬は鹿野を見るが、鹿野も微笑みながら手を振っている。


 そうして二人は、千秋サンに連れていかれた。

その後、千秋サンの激務に巻き込まれた二人は、みんなが帰る頃にやつれた姿で戻ってきた。


_____________


 二人が連れ去られた後、太一の話を聞いて疑問に思っていた茉琴は、休憩室に残っていた三人に疑問を投げかけた。


「ねえ、ずっと前から思ってたんだけどさぁ、なんで異能って曖昧な捉えられ方する名前しかないの?

何で炎操作〜みたいな、具体名が付く異能がないんだろう??」


「う〜ん、確かに。全部がふわっとしてるよな。

俺の異能も『加速』で、晴明は『流動』だろ?」


「ああ。太一も『海流』だし、鹿野なんて『宇宙』だからな。

もはや適当に思えてくる。」


「はっはっは、そう言われてもな。

色々できる範囲が広いからって、覚醒時からそう名付けられた。」


「命名してんのは情報解析班でしょ?

データベースと照合して似たような名前付けてるって。」


「そうだな。

だから同じ異能名の奴もいるし、異能名が同じでも能力が違うってパターンもある。

異能の名付けがそうなる理由にはいくつか仮説があって、一番有力視されている仮説が確か……『欲望が異能という形に昇華される。』だったか?」


「うん、そうだ。」


 鹿野は缶コーヒーを一口飲み、喉を潤したあと晴明の問いに答える。


「異能が曖昧な名前なのは、具体的な名称で絞るには能力の幅が広すぎるからだ。

そのため、仕方なく曖昧な名前にせざるを得なかったというのが、解析班含む政府の見解だ。

仮説の話も、一例で言うと『盗撮魔が透明になる異能に覚醒した。』というような話から、有力な仮説になっていった。」


「へぇ〜、そうだったんだ!一例のやつはキモいけど……。

でも、その欲望が〜ってやつもまだ仮説なんでしょ?」


「ああ、検証する手立てがないからな。

人外も死んだら塵になるし、異能も死後消滅する。

人体実験も、異能が現れ始めた頃に政府が隠れて行っていたが、発覚して世論から猛批判を受けたからな。

だから、異能や人外関連の話は全て仮説、推測の域を出ることはない。」


「な〜んだ。なら結局、何にも分かってないんじゃん!」


「まぁ、人間の脳の大部分が解明されていないのと同じさ。

仮に判明するにしても、ずっと先の話になるだろうな。」


「そんな先じゃ死んじゃってるよ。」


「はははっ、茉琴は長生きしそうだけどな!」


「ふっ、配属も後方だしな。」


「なに!?煽ってる?お前は皺《しわ》くちゃババアだって!??」


「そんなこと言ってないぞ?」


「そうだぞ。」


「……なんか含みを感じたわ、今。」


 晴明の否定に続いて螢が乗っかるが、茉琴は納得できず、晴明と螢を交互にジッと睨みつける。

鋭い視線を受け流せなかった晴明は、反省する姿勢を見せた。


「すまんすまん。ちょっと想像したら面白かっただけだ。」


「晴明ぃ〜?」


「俺は違うぞ?」


「螢も笑ってたじゃん。」


「はっはっは、二人とも謝っとけ。」


「晴明、飲み物買いに行こう。」


「そうだな。蒼井はいつものラムネか?」


「おう、晴明は茶だろ?」


「分かってるな。だが、今日はほうじ茶だ。」


「茶じゃねーか。」


 二人は立ち上がり、休憩室を出て廊下の奥にある自動販売機に向かっていった。


「……あいつら。帰ってきたら絶対、一発お見舞いしてやる!!」


「ふっ、笑った分と馬鹿にした分の二発だろ?」


ニヤリと笑う鹿野に、茉琴もニヤリと笑って答える。


「そうだったわ、ありがとう。」


 その後二人の帰りを待たず、茉琴も飲み物を買いに行った。

先に帰ってきた螢と晴明は、鹿野を睨みつけながら「絶対、斎の悪知恵だろ?」と、螢が愚痴をこぼしていた。


_____________


2013年 6月4日

鹿野の自宅。


 鹿野は前日に、『明日は非番だ。』と本部から伝えられたため、朝早く起きたものの暇を持て余していた。

そこで、夕方からでも予定を入れようと思い、未優《みゆ》を食事に誘った。


「今日の夜、ご飯食べに行かないか?」


「ごめん。昨日疲れてたから早めに帰っちゃって、仕事溜まってるの。

それに、今日は会議もあって溜まってる仕事も後回しになりそうだから、帰りも遅くなるかも。」


「そうなのか。」


「うん、だから今日は行けないや。ごめんね!」


「うんうん、あんまり無理するなよ?」


「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってきます。」


 未優は、靴を履いて扉を開けようとした時、鹿野から止められる。


「未優!」


「ん?」


「今日、雨が降る予報だぞ?傘持ったか?」


「持ってるよ。いつもカバンに折りたたみ傘入れてるから大丈夫。」


「そうか、いってらっしゃい。気をつけてな。」


「うん。」


 今度こそ扉を開けて、未優は仕事に出かけた。

未優を見送った鹿野は、携帯で日付を確認し、少し息を吐く。


 まぁ仕方ない、平日だしな。

でも、そうなると暇だなぁ。何をしよう?


 鹿野は何か動こうと思い掃除を始めたが、結局それも昼頃には終わってしまった。

そんな時、太一から「今日非番だろ?遊ぼうぜ〜。」と連絡が来る。

鹿野も「いいぞ。何時にどこに集合する?」と返した。

すると、3分後インターホンが鳴る。

宅配は頼んでいなかったため、「訪問販売か?」と思い、インターホン画面を覗くと、そこには太一、晴明、茉琴、春馬、千秋サンが居た。

通話ボタンを押すと、太一の声が部屋に響く。


「お〜い!バーベキュー行こうぜ!!」


 鹿野は思わず笑みをこぼしながら、「支度してくる。」と答え、身支度を終えると玄関のドアを開けた。

第十五話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。


次回、第十六話は9月25日(金)20時に投稿いたします。


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