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第十四話 三毒住心、懺法は錘を離つ。


2013年4月5日


 鹿野《かの》は電車を乗り継ぎ、三重支部に到着した。

三重支部のエントランスを通り受付へ向かう。


「異能対策課本部より、応援で参りました。鹿野です。」


「隊員証の提示をお願いします。」


 鹿野は胸ポケットから隊員証を取り出し、受付の職員に渡した。


「……確認しました。異能対策課 本部所属、一級異能戦術班 鹿野《かの》 斎《いつき》 一等異佐《いっとういさ》でお間違いありませんか?」


「はい。」


「こちらが、宿舎のルームキーになります。」


受付で確認を終えると、鹿野は職員宿舎の鍵を受け取る。


「宿舎は支部を出て右手にあります。何かあればご連絡ください。」


「分かりました。ありがとうございます。」


 鹿野は宿舎に荷物を置くと、すぐに三重支部へ戻った。


 戻った鹿野は、挨拶と情報共有のため支部長室へ向かう。

目的地に着き、三度のノックのあと扉を開けた。


「失礼します。本部より応援に参りました、鹿野です。」


「おぉ、待ってたよ。色々と話したいこともあるがそんな時間もなくてな、申し訳ない。

すぐに情報解析班に行って事情を聞いてくれ。」


「承知いたしました。」


 鹿野は支部長室を出て、情報解析班へ向かった。


_____________


 解析班の部屋に入ると、職員と話し合いをしている数人の隊員がいた。

鹿野の入室に気づいた隊員の一人が声を掛けてくる。


「あんたが応援の人か?」


「はい、鹿野です。」


声を掛けた隊員は、驚いた様子で鹿野を見つめる。


「そうか。

一人しか来ないと言われた時には、本部は地方を蔑ろにしていると思ったりしたが、応援に来たのが鹿野一等異佐だったとは。

一人なのが納得だ。」


「恐れ入ります。」


「ははっ、そんなに畏まらんでくれ。階級は同じだろ?

改めて、二級異能戦術班 現場指揮を担当している明石《あかし》だ。」


「明石さん、よろしくお願いします。」


 鹿野は、明石が差し出した手を握る。

二人が簡単な挨拶を終えると、明石は三重支部の現状を鹿野に伝えた。


「本題だ。

今、三重では人外被害が拡大している。

しかし、人外だけなら我々でも十分対処可能だった。」


鹿野はなんとなく察していたが、明石の続く言葉を待った。


「問題は、我々が人外対処に追われている裏で、異能犯罪者が好き勝手やってることだ。

うちの下の連中も、奴らに複数人やられた。」


「奴ら…ということは、おおよその人物は特定できているのですか?」


 鹿野の質問に、明石は大きく息を吐きながら答える。


「そうだ。元々はその辺にいたごろつきだったが、異能が覚醒してから派手にやってる。」


「前科が?」


「窃盗に軽い詐欺など、ずる賢い奴らだ。」


「なるほど。それで、異能の情報はありますか?」


鹿野の質問に、明石はファイルを手渡す。


「断定までは至ってないが、おそらく宮下《みやした》というやつが『衝撃』で、栗林《くりばやし》というやつが『錯覚』だ。」


ファイルに目を通した鹿野は、生まれた疑問点を明石に投げかける。


「ファイルに載っている情報が少ないですね。

なぜです?」


「対応した隊員が一人も生還していない。

まあ、全員が四級以下だったが。」


「新人上がりばかりだったのか。

でも、生還していないのになぜ異能情報が?」


 明石は目線を下に向けるが、すぐさま鹿野に向き直り、息を吐いたあと疑問に答える。


「初めて接触した隊員が、死ぬ前に無線で通信を行なった。

その時の状況から推測し、情報解析班が過去の異能データと照合したところ、似た能力のものを見つけた。

だから、異能の情報がある。」


「……そうですか。

他に、性格や傾向などで分かっている範囲のものはありますか?」


「あるぞ。

奴らはいつも、人外の発生数が多い時に犯行に及ぶ傾向にある。

我々が対応中に、発生地の近辺……避難区域に指定されている半径1キロ圏内だ。」


「一時的に無人になった家に押し入って、強盗を働くという感じですか?」


「ああ。貴金属や金目になる持ち運びしやすいものを取っていく。」


「分かりました。」


「しかし、それがわかっていても対応しきれていないのが現状だ。

人外の現場を任せられる人材が少ないのが、うちの問題だな。

それでも、四級隊員がやられるのは何か種があるのかもしれん。」


「……逃走する時は?ドローンは飛ばしているのでしょう?」


「飛ばしてはいるんだが、発見した地点に行っても居ないんだ。」


「なるほど…。

最後に一つだけ、更生の余地は?」


 明石は肩をすくめ短く息を吐いた後、呆れたように口にする。


「ないな。」


「なら、見つけ次第処理します。」


「あぁ、頼む。何人もやられているからな、油断はするなよ?」


「はい。」


「まぁ、一人で任務をこなす人間には、野暮なことを言ったな。」


「いえ、現場の人間に『気をつけろ。』と言ってもらえる方が、より気を引き締められます。」


「はっはっは、ありがとう。そう言ってもらえると言い甲斐がある。

じゃあ、短い間だろうがよろしくな。」


「はい、よろしくお願いします。」


 初日は挨拶と情報共有のみなので、鹿野はその後、情報解析班のいる場所から職員宿舎に移動した。


_____________


2013年4月8日


 鹿野は今日も欠員が出た箇所の巡回や、担当箇所の対応をしていた。

周囲をパトロールしている最中、別方面からのパトロールを終え、合流した隊員が歩きながら話しかけてくる。


「いや〜、人外もおとなしいですね。

平和が一番ですけど、鹿野さん。なにか魔法でも使いました?」


 隊員の冗談に、愛想笑いをしながら答える。


「ははっ、そんなことできませんよ。

人外の発生数が全国一位の本部付近でも、発見される日とされない日はまばらです。

ですので、おそらく偶然だと思いますよ。」


「はっはっは!そうですよね〜!

でも良くも悪くも、発生してくれないと盗人二人は捕まえられませんからね。

ジレンマですね!」


「そうですね。」


 鹿野は偶然だと答えたが、少し引っかかる部分があった。


 ああは言ったが、最近本部付近でも発生頻度が多くなっているのは気がかりだがな。

少し前までは、地方へ応援に行くことも少なかった。

そう思うと、何らかの変化が起こっているのか、あるいは時代の流れによるものなのか……。


 世間話をしつつパトロールすること十数分、無線に連絡が入る。

鹿野はすぐさま応答ボタンを押し、内容を確認する。


「——こちら通信指揮室、伊賀市で人外多数発生!

数は不明。鹿野一等異佐および、津市北部担当者は至急応援に向かってください!!」


「こちら鹿野、了解。直ちに急行する。」


 鹿野は一緒にパトロールしていた隊員に振り返る。


「すみません。先に向かいます。」


「はい!僕たちは気にせず向かってください!

あとで追いつきます。」


「では。」


 鹿野はすぐさま頭の上に黒紫の球体を一つ作り出す。

すると、途端に空へ向かって急上昇していく。

ビル群を超える高さまで来ると、次は横へと方向転換し、加速していった。


_____________


同日

伊賀市


 伊賀市の人外発生地周辺に到着すると、鹿野は上空から人外の数と位置を正確に把握するために、さらに高度を上げた。


 人外の数は……約2000体ほどか。

確かに、地方にしては多いな。


さらに観察していると、先行して対処している隊員が人外と戦っている様子が眼下に映る。

そこには、苦戦している隊員の様子があった。

その場所から100メートルほど離れた場所に、明石がいるのを確認した。

明石は問題なく人外に対処できていたが、他の隊員はそうではなさそうだった。


 なるほどな。

これでは手に余るわけだ。


 そんなことを考えていると、防衛線の一部が抜けられそうな箇所を発見した。

すぐさま観察をやめ、危うい箇所に猛スピードで向かう。


 人外に対処していた明石は、右手の防衛線が破られそうになっていることに気づいた。

しかし、まだ応援が来ていないこともあり、多数の人外に対処をしている人員が20人しかいなかった。


 くそ!このままじゃ、避難している最中の民間人が襲われる!!

なんとか目の前の奴らの勢いを削がなければ!


 明石は、自身が出来る最大出力の異能を発動する。

すると、触れた人外の後ろでまばらに縦列になっている人外を、貫通する一撃を放つ。

急所を貫通された人外は塵となって霧散していくが、全く勢いが衰えない。

そんな目の前に集中していると、右の防衛線にいる隊員が一人やられ、残り三人になっていた。


「うわぁぁぁぁ!!やめろ!!!」


「ここはもう無理や!一度防衛線を下げへんと!!」


「アホ言うな!今手ェ止めたら、うしろの民間人死ぬやろが!!」


「そんなこと言ってたら、俺たちまで殺られるやろ!」


「言い争う暇あるなら、一体でも多く殺せ!」


 もう無理や、このままやったら……。


 そんな考えが残る三人の脳裏に浮かぶ。

すると、人外の一体が振り払った腕が、防衛線を守っている隊員の一人に、死角から一撃入った。

強い衝撃と共に吹き飛ばされ、意識が朦朧《もうろう》とする。


 っ!!……まずい、意識が……。


今にも破られそうな防衛線が、一人の離脱により一気に崩れた。

その穴から、雪崩のように人外が溢れ出す。


「——!?あかん!一人抜けたらもう……。」


溢れ出た人外に気を取られ、手が止まった一瞬の隙に、人外の群れが襲いかかってくる。


 あかん!!死ぬ!!!


 回避しようと少しでも身を退けぞるが、もう喉元まで迫った攻撃に、思わず目を瞑ってしまう。

『もうダメだ!』と思った時、少し強い光が瞼《まぶた》の裏に映った。

隊員は、一種の走馬灯かとも思ったが、迫ってきていた攻撃が一向に来ない。

不思議に思い恐る恐る目を開けると、目の前にいた無数の人外が塵になって霧散している最中だった。

何が起きたか分からずにいると、真横から声を掛けられる。


「大丈夫ですか?怪我は??」


 突然、真横から声を掛けられ、思わずびっくりしてしまい、「うわぁぁ!!びっくりした!!」と叫んでしまうが、横を確認するとそこには鹿野が立っていた。


「あぁ……鹿野さんか。よかったぁ…。」


 横にいるのが人だったことに思わず安心してしまった。

鹿野は返答が来ないので、再び「大丈夫ですか?」と尋ねた。

そこで隊員は答えていない事に気づき、「はい、大丈夫です。怪我も軽傷です。」と返した。

鹿野はすぐさま「攻撃を受けた隊員の意識確認を行なってください。私は明石さんの方に助力しに行きます。」と言い残し、すぐに駆けていった。


 もう手前の隊員は大丈夫そうだな。

奥の明石さんの方は…。


 目線を明石がいる方へ移すと、明石以外の箇所が苦戦していた。


「やはり、厳しいか。」


 独り言を漏らしたあと、すぐさま駆け出した。

人外の群れに近づいてくると、再び空へと上がり、高い位置に無数の光球を作り出す。


 明石は視界の上に強い光が映るのが分かると、少し目線を上げる。

そこには、鹿野と無数の光球が映った。


「明石さん!!」


その一言で明石は鹿野の意図がわかったのか、近くにいる隊員に大声で声を掛ける。


「全員後ろへ退避!!!」


 隊員たちはその掛け声と共に、一斉に後ろへ下がった。

人外たちはもちろん隊員たちを追ってくるが、その瞬間に鹿野の攻撃が襲いかかる。


「落花星《らっかせい》。」


鹿野の一言のあと、上空で静止している無数の光球が地面へ向かって急加速していく。

すると、人外たちは光球に貫かれ一体、また一体と塵になっていく。


明石たちの尽力と鹿野の攻撃により、一度に数百体の人外が消し飛んだこともあり、約2000体いた人外が1200体ほどまで減っていた。

その後、鹿野たちは協力しながら防衛線を維持しつつ、徐々に数を減らしていく。

そうこうして減らしているうちに、他の地区にいた応援要員が到着してきた。


「鹿野!ここはもう俺たちだけでやれる!!

あんたは例の二人の捜索に向かってくれ!

こんだけの数と派手にやったんだ、避難宅の金品を狙ってくるはずだ!」


「分かりました!あとは、頼みます。」


「ああ!任せろ!」


 鹿野は頭の上に黒紫の球体を作り、伊賀市に向かった方法と同じ要領で空へ落ちる。

上空で静止すると、無線で情報解析班に繋げる。


「こちら鹿野。情報解析班、応答願う。」


「——こちら、情報解析班。鹿野一等異佐、要件をどうぞ。」


「人外の一定数の掃討を完了した。

これより、ドローンカメラと監視カメラで、異能犯ファイルナンバー2855の宮下と栗林の捜索を頼む。」


「了解、捜索を開始します。」


「あぁ、頼んだ。通信終了。」


 鹿野は無線を切ると、上空からめぼしい場所を探し始める。


 人外発生地点から半径1キロ圏内と言っていたが、手当たり次第探しても埒が明かない。

それに、奴らは金品を盗みたいのに、倒壊している建物からだと瓦礫を退けなければならず、それでは時間がかかりすぎる。

なら、倒壊しておらず発生地点から遠い場所。

そして、避難民が仮に戻ってきて鉢合わせたとしても、すぐに逃げやすい距離。

となると——


700〜800メートル付近か……。

博打に近いが、かなり絞れるな。


 それに人外は、発生地点から西に向かって進行しており、倒壊エリアは北西と南西に伸びていた。

犯人は対策課や人外との接触を避けたいはずだと考え、そこで鹿野は、捜索エリアを進行とは反対側の東に絞った。

しかし、上空からでは怪しい点を見つけにくいと判断し、地上に降りて捜索を続けることにした。


 ここ一帯は住宅街になっているから、世帯数が多いな。

距離を絞れたとしても、一軒一軒確認していてはキリがない。

何か、手掛かりになるものがないか……。


 そう思いながら辺りを見渡しつつ歩いていると、門扉にかすかな破壊痕のある平屋を見つけた。


 なんだあれは?破壊痕??


近づいてよく観察すると、門扉の柵が一度曲がったのを修正したような痕があった。

鹿野は門扉の先にある扉の方へ視線を向けると、その扉も建て付けが悪くなって歪んでいた。

直感が働いたのか、不思議に思い扉を開けようとすると、立てかけてあっただけのようで扉が奥へと倒れた。


 扉が壊されている?


扉と扉があった場所を確認すると、鍵をかける部分が破壊されているのを発見する。


 鍵の部分が破壊されている。

見るからに、工具などで壊された形跡ではない。

これは……ドアブリーチングの痕だ。

これが宮下の衝撃の異能か。資料と一致する。

それに、壊された鍵の破壊規模が小さく、扉の反対側まで貫通した形跡が残ってない。

ということは、宮下の衝撃は威力が控えめかつ規模も小さいのか?

……いや、それだと四級隊員を殺害するための威力の説明がつかない。

威力をセーブできるぐらいには、異能を使えるということか。


鹿野は部屋に入り、辺りを見渡す。


 ………。

部屋があまり荒らされていないな。

すぐに盗むものを見つけたのか?

その割にはあまり散らかっていない。

……短時間で見つけたか、あるいは切り上げた?

高級そうな家具は……なさそうだが。


 鹿野はさらに奥へと歩いて観察を続ける。

すると、扉同様に引き戸が少し傾いた棚を見つけた。

怪しく思い、引き戸を開ける。

開けるとすぐ目の前に通帳があった。

鹿野は通帳を手に取り、中を確認する。


「残高、7万円。

なるほど、これでは危険を冒してまで盗みに入るメリットが薄いな。

この残高と周りの品々を見て、早々に切り上げた可能性の方が高そうだな。

棚が傾いているのは謎だが、おそらく金品を探す際に壊したのか、それとも何も見つけられなくて腹を立てたのか。

どちらにせよ、おかげで見つけられた。

だが、普通なら一度のチャンスで沢山盗むのなら、目星をつけるもんだが…。」


情報を得た鹿野は、無線機を使い情報解析班に繋いだ。


「こちら鹿野。情報解析班、人外発生地点から南東に約700メートル付近で、荒らされた形跡のある家屋を発見。

犯人はすでに逃走しているが、金品を盗まれた痕跡は見受けられない。

よって、この周辺で他にも犯行に及んでいる可能性がある。

人外発生地点の北から東側を重点的に捜索してくれ。

南側は私が担当する。」


「——こちら情報解析班、了解。

現時刻より西方面のドローンを北と東へ回します。」


「発見次第、すぐに連絡を入れてくれ。以上。」


「了解。通信終了。」


通信を終えると、鹿野はさらに南に駆け出した。


_____________


 鹿野は南へと向かって捜索を続けていたが、一向に痕跡を見つけられていなかった。


 ……南ではなかったか。

どうする、この前西方面へ行くべきか?


逡巡している時、無線機に通信が入る。


「こちら鹿野。見つけたか?」


「こちら情報解析班。はい、ドローンカメラで見つけました!

人外発生地点より2時の方向、北東に約800メートル地点です!」


「了解。GPSでの先導を頼む。」


「了解!」


 鹿野は頭上に黒紫の重力球を作り、空へと落ちていく。

そのまま進路を横へと変更し、北東方面へ加速していった。


 目的地に着いた後、上空から二人の姿を確認しようとする。

少し見回すと、たった今別の家に盗みに入ろうと扉を開けているところだった。

鹿野はすぐさま高度を下げ、盗みに入られた家が見える位置の、少し離れた場所に降り立つ。

しかし、そこには盗人二人の姿が見えない。


 なに?姿が見えない??

………これが栗林の錯覚の異能か?

だが、上空からは見えた。

指定された範囲があるのか?

それとも横方面には錯覚が発動するが、上下には作用しないのか?

似た様なやつを対処したことがあるからな、やりようはある。


鹿野は無線で情報解析班に通信を入れる。


「解析班。今、二人の姿は確認できるか?」


「はい、確認できます。」


「分かった、通信終了。」


 となると、やはり横方面にしか作用しない可能性が高いな。

そして、ドローンを破壊していない点を見るに、上下に作用していないことを知らないのかもしれないな。

破壊して自分たちの位置がバレるリスクを、取りたくない可能性もあるが。


 鹿野は少しずつ後退していき、家から距離を取る。

すると、目測で約3メートルほど離れると宮下と栗林の姿を確認できた。

その時にはもう扉を破壊し終え、家の中に入っていくところだった。


 確認は取れた。

あとは、処理に入ろう。


 情報収集を終えた鹿野は、二人を視認できる位置から、1センチほどの小さな黒紫の球体を作り出し、金品を漁るのに夢中な二人の背に張り付ける。

準備を終えた鹿野は、ゆっくりと扉に向かって歩き出した。


 金品を漁っていた二人は、足音が近づいてくるのが分かると扉の方へ振り返った。

そこには男が一人、こちらへ向かってくる姿が映っていた。

すると、宮下が栗林に小さく声を掛ける。


「おい!怪しい奴が来よった。殺るぞ!」


「オッケー、こっちはもう発動しとる。相手は見えてへんはずや!近づいてきたら殺っちまってくれ。」


宮下は扉の前に堂々と立ち、自身の間合いに入るまでじっくりと待つ。

足音が近づいてきて、ようやく間合いに入ってくると思った時、男から声が掛かる。


「宮下と栗林、私は異能対策課の人間だ。

初めに確認しておく、投降の意思はあるか?」


男の言葉を聞いた二人は、おもわず吹き出してしまう。


「はっはっは!何言うてんねん、こいつ!

そんなもんあったらもうしとるやろ!アホやろさては。」


「あっはっは!ほんまそれ!!」


しかし、栗林の錯覚が発動している範囲にいるため、二人の声は鹿野には聞こえていない。

鹿野は応答がないため、次の行動に移る。


「投降の意思は……ないんだな。

なら、処理する。」


「何が処理や!やれるもんならやってみろ!

見えへんねんからできるわけないけどな!!」


 宮下が先に動き、間合いを一気に詰める。

そして、すぐさま衝撃の異能をフル出力で発動する。

宮下は攻撃を終えると、一度後ろに下がる。

当たった感触があったため、手応えを感じていたが——


目の前の男に、攻撃が当たった形跡はなかった。


 なんやこいつ!?

確かにモロで当てたぞ?

なのに、なんでピンピンしてんねん!!


攻撃を受けたはずの鹿野は、少し息を吐き言葉を吐く。


「どれほどのものかと警戒はしたが、やはりこんなものか。」


 鹿野は宮下の攻撃が当たる箇所に重力球を作り、軌道を横へ逸らすと同時に、その勢いを重力球へ逃していたのだ。

だから宮下は当たった感触があったが、鹿野には攻撃が届いていなかった。


 くっそ、なら攻撃が効かへんわけやないはずや。

なら、何発もお見舞いしてやったらええだけやろ!


「栗林!あいつに——」


「次は私の番だな。」


 鹿野は両手を前に突き出し、手のひらに重力球を作り出す。

そして宮下と栗林は、鹿野の方に強く引っ張られる。


「な、なんや!?」


二人は鹿野に首を掴まれ、締め上げられていく。

宮下は攻撃を繰り出すが、その都度鹿野が作り出した重力球に阻まれる。

そして呼吸が浅くなり、視界がぼやけ始めた。

その時——


鹿野の視界が回る。


 ——!?なんだ?

栗林の異能か?


 頭の中で答えを探している時に、手の中にあった感触がなくなっている事に気づく。

確認しようとする頃には視界の回転は治っていたが、やはり掴んでいたはずの二人の首が消えていた。

視線を前に向けると、息を荒くした二人が立っていた。


「はぁ…はぁ…はぁ……ちょっと婆ちゃん見えたわ。」


「はぁ…はぁ……ふぅ。俺は父ちゃんやったかも。」


「そんな話はええねん!あいつ、めっちゃ強いぞ?いつもの雑魚とちゃう。」


「そやな。どうする?逃げるか??」


「引っ張られたんもう忘れたんか?あいつの異能やろ、たぶん。

逃げても引き寄せられたら無理や。

やっぱり、ここでどうにかして殺るしかない。」


「どうにかって、どうすんねん。」


「それを今から考えるんや!アホ!!」


 鹿野は、目の前で言い争いをしてる二人を、冷たい視線で見つめる。

その間、情報を少し整理していた。


 さっきのやり方で処理できれば早かったんだが、栗林の錯覚が予想より応用が効いていた。

これが、四級がやられた種だったのか。

視界に頼らざるを得ない多くの人間にとっては、これは致命打になるな。

宮下の異能も、人一人殺すには十分の威力だった。

認識を修正しなければな。

だが、距離を取ればいい話だ。


 鹿野は光球を複数個作り出し、言い争いをしてる二人に飛ばす。

当たったと思った直後、二人の姿が霧散した。

しかし、二人がいないことは鹿野も理解していた。

なぜなら、背中につけた重力球が自身の左右にあったからだ。


「はっ!アホみたいに目の前で言い争いしてるわけないやろ!」


 宮下の攻撃と、栗林がいつの間にか手に持っていた包丁での攻撃が鹿野に迫る。

だが、当たる直前に鹿野が後退したため、二人はお互いの攻撃が当たりかける。


「——うわっ!!あっぶな!!お前、ちゃんとやれや!」


「うぉぉっ!はぁ!?お前こそちゃんと狙えや!!」


再び言い争う二人を見て、鹿野は呆れ返ってしまう。


 はぁ……これ以上は時間の無駄だな。

二人の異能情報を収集するために、すぐに処理せずにいたのだが、データベースにあるものと大して変わらないな。

なら、とっとと終わらそう。


 言い争いをやめ、鹿野に向き直る二人を前に、鹿野はポケットに手を突っ込み、棒立ちで無数の光球を作る。

この光景を見て宮下と栗林は鼻で笑いつつ、鹿野に言葉を投げ掛ける。


「ふっ、ちょっとできるからって舐めとんのか?

何回も同じ攻撃が、通じるわけないやろ!」


「そうか。そんな知能はあるんだな。」


「何言うてんねん、頭悪いんはお前や!」 


「ほんまな!ここらでしまいや、死ね!」


 二人は突っ込んでくる。

しかし、再び錯覚で作り出した偽物だと鹿野は分かっていた。

なので鹿野は鼻で笑い、呆れながら言葉を吐いた。


「ゼロ…グラビティ。」


すると、左右から攻撃しようとしていた二人の勢いが消え、宙に浮かぶ。

その後、錯覚で作られた宮下と栗林に向け光球を飛ばし、霧散したのを確認する。


「——うぉっ!!??」


 鹿野は栗林の背中に付けた重力球を操作し、栗林を空高くへ飛ばした。

一方、宮下はその場に浮かせたままにする。

鹿野はその後、顎《あご》で指示を出し一言告げる。


「行け。」


 掛け声と共に無数の光球が宮下に向けて飛んでいく。

何もできず手足を掻いてくるくると回っている宮下に光球が当たる。

焼ける音と共に絶叫が響く。

しかし、その音もすぐに消え、穴ボコの肉塊がポトっと地面に落ちた。

そして、栗林が空高くからものすごいスピードで急降下してくる。

重力球を栗林の頭上に作り、頭から地面に叩き落としたのだ。


 栗林は「嫌だ!死にたない!!」と言っていたが、そんなものはもはや鹿野には届かない。

とてつもない勢いで地面に叩きつけられる。

ドンという音の後、あたりに血が飛んだ。


「この殺し方は手っ取り早いが、何度やっても、あまり気分の良いものではないな。」


 鹿野が肉塊となってしまった二人を見つめながら、『流石にやりすぎたなぁ。』と反省していると、人外の対処を終え応援に駆けつけた明石が合流してきた。


「鹿野!二人は!?」


「そこに。」


 鹿野は肉塊となった二人を指差す。

明石は指された先を見て、少し顔を顰めた。


 これは……容赦がないな。

人外に向けたあの無数の光球の時も思ったが、こいつが敵じゃなくて良かったよ。

敵だと思うと、ゾッとする。


 明石は確認しようとするも、顔が半壊しているため確認できなかった。


「処理を任せたのにすまないが、これは……確認ができないな。

DNA鑑定するまで居残る事になるぞ?」


「すみません。やりすぎてしまいました。」


「まぁ、こいつらは前科で指紋なり採取しているからな。

すぐに分かるだろう。

一応、現場証拠はあるが確認の義務があるからな。」


「顔だけ残しておけば良かったですね。次からはやめておきます。」


「ははっ、そうしてくれると処理班も助かるだろう。」


 明石は処理班を呼び、その後二人の遺体は回収され確認作業に入った。

2日後には確認が取れたため、今回の盗人事件はこれにて一件落着となる。

その後、関西の他支部から人数を補填する手筈が整い、やって来た人員と交代で、鹿野は本部へ帰還することとなった。


「短い間だったが、ありがとう。」


「いえ、最後にご迷惑をお掛けしました。」


「はっはっは!いいさ、あれぐらい。死んだ隊員たちが報われたんだ。

それ以上何も求めんさ。」


「ありがとうございます。では、また。」


「ああ。でも、また応援に来てもらう事態にはならないようにせんとな!」


「はははっ、そうですね。

次はご飯処で会いましょう。」


「約束だぞ?」


「はい。」


鹿野は応援任務を終え、そして本部へと帰って行った。

第十四話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。


次回、第十五話は9月18日(金)20時に投稿いたします。


追伸 

第十四話の文字数がとんでもなく長くなってしまい、すみません。

丁寧に書こうとしたら、思った以上に長くなってしまいました。

後書きの追伸まで読んでいただき、ありがとうございます。

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