第十三話 風浪は普遍となりて、
鹿野たちが人外対処の任務から帰ってくると、別任務に赴いていた同期たちが帰ってきていた。
太一が同期の一人に声を掛ける。
「おーい!佐野〜。怪我ねえか?」
「……?太一か。」
「どうした?元気ねぇな。」
「……二人死んだ。真中と太田。」
「そうか…。」
太一のあとから鹿野と螢、晴明が歩み寄ってくる。
隣まで来た鹿野は、佐野の肩に手を置いた。
「……鹿野もいたのか。」
「あぁ。大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ。バディの加藤も、傷は浅いが頭を打ったから、一応検査で運ばれてるだけだ。」
「そうか、無事なら良かった。」
「……っ。」
佐野は本部に戻ってきた安心感なのか、それとも鹿野たちの優しい温もりからか、涙が溢れてきた。
「太田のやつ、民間人を守ってた時に、腹抉れてたんだ!
なのに……それでも進化した人外に立ち向かってった。すぐに戻れば、まだ助かったのに……!!」
佐野は自分の不甲斐なさに、ただ涙を流すことしかできなかった。
螢や太一も、その無力感を知らないわけはなく、肩に手を乗せていた鹿野に続いて、頭を雑に撫でたり、背中をポンと叩いたりして、無言で隣に居てくれた。
少しの間だったが、佐野はすぐさま涙を拭い、前を向いて鹿野たちに向き直る。
「すまねぇ、弱気になっちまってた。
俺らがこんなんじゃ、死んだやつも安心できないよな!」
「ふっ、そうだな。」
「俺"ら"じゃなくて、お前だけな!佐野。」
「そこは俺らでもいいだろ!」
「俺はメソメソしねぇから〜!」
螢の同意が霞む太一の軽口で、場の雰囲気は少し和んだ。
その後、退勤時刻となり、全員が自宅へと帰っていった。
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同日
鹿野の自宅。
「ただいま。」
「おかえり〜。もう夕飯できてるよ。」
家に帰ると、同棲している彼女の一宮 未優が夕飯を作ってくれていた。
鹿野は、夕飯を頂こうかと思ったが、先にお風呂に入ってスッキリしたい気分だったため、その思いを彼女に伝える。
「うん、ありがとう。
でも、先にお風呂に入ってくるよ。」
「わかった。上がる頃に温めとくね。」
「ありがとう。」
鹿野は少し黙って彼女を見つめた。
「……どうしたの?」
「いや、……同期が死んだ。」
「また、亡くなったの?」
「あぁ、未優も知ってる奴だ。真中と太田。」
「……えっ、本当に?」
「うん。明日葬式をするから、喪服用意しなきゃな。」
「……そうだね。」
「学生時代の友達だったか?」
「うん。二人とも私の友達からの繋がりだけど。」
「そうか。」
少しの沈黙のあと、鹿野は書斎に向かい、置き型のポールハンガーに荷物を掛ける。
その後、机の上に置いてある今日届いた郵便物に目を通し、必要のないものをシュレッダーにかけた。
静かな部屋に響くシュレッダーの音の中に、彼女の声が掛かる。
「今度のさ、非番っていつなの?」
「わからない。最近、人外の発生も増えてるし、その混乱に乗じて異能犯罪者たちも事件を起こしてる。
だから、どこも人手不足なんだ。
今回みたいに死者が出るのも珍しくない。」
「そうなんだ。」
「うん。」
「……明日も帰り、遅くなる?」
「かもしれない。
関西の方でも死者数が増えているから、応援要請で遠征に行く可能性が高いって、上層部が話していた。
おそらく、数日中には誰かが行くことになる。」
「そ、そうなんだ。
……まあ、仕方ないよね!誰かがやんないと私たち民間人が死んじゃうし。
それに、ヒーローみたいでかっこいいしね!」
「…ごめんな。」
「うんうん、大丈夫。気をつけて行ってきなよ!」
「うん、気をつける。」
荷物を片付けて、着替える洋服を持っていく。
「お風呂に入ってくる。」
「うん。」
脱衣所に入り服を脱ぐ。
その後、浴室の扉を開けてお風呂に入り、頭と体を洗ったあと、浴槽に浸かる。
ふぅ……明日は葬式か。
今日もまた同期が死んだ。もう同世代が何人死んだのか、わからないな。
……私が居たら助けられただろうか?
いや、状況によっては無理だろう。慢心だな。
最近は新人教育が滞ってると聞くし、せっかく育てた新人も、人外の対応が間に合わずすぐに死んでしまう。
ベテランが死ぬのも、新人が育たない理由にあるんだろうな。
……殉職率、90%か…。
鹿野は垂れてきた汗を手で拭い、湯船のお湯を顔に掛けたあと、再び拭い風呂場の天井を見上げた。
上がったら夕飯を食べて、明日の支度をしないとな。
一応、いつも用意してあるパッキングも見直しておこう。
目を瞑り、少し頭を空っぽにしてから数分湯船に浸かった。
お風呂から上がり、髪を乾かしたあと、リビングの椅子に座る。
再び彼女に「ありがとう。」と伝え、夕飯を食べ始める。
正直あまりお腹は空いていなかったが、食べなければエネルギーは回復しないと思い、お米の一粒も残さずしっかり食べた。
その後食器を洗い、明日の葬式に必要な数珠や喪服などを用意した。
最後にスーツケースのチェックを終えてから、寝室へ向かい就寝した。
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2013年4月3日
東京 葬式場。
鹿野と未優は、車で異能対策課本部の近くにある葬式場に向かう。
真中と太田とは面識があったため、未優も焼香を上げることにしたようだ。
道中、たわいのない話をしたが、あまり昔話などはしなかった。
そんな時間を過ごしていると葬式場に着いた。
駐車場に車を停め、葬式場へ向かって歩いていると、途中で数人の対策課の集団と鉢合わせた。
「ん?鹿野か?……おい、鹿野!」
彼女と歩いていた鹿野は、呼ばれた方へ顔を向ける。
そこには江口 武光という名前の鹿野世代の一つ上の先輩が居た。
「江口さん。お疲れ様です。」
「おぉ、お疲れ。そっちの人は?」
江口は目線を、鹿野から横にいる彼女の一宮に移す。
「彼女です。」
「こんにちわ。一宮です。」
「あぁ、はい。こんにちわ。」
「何で部外者がいるんだ?」と、江口の後ろの人間から聞こえてきたので、未優が答える前に鹿野が答える。
「彼女は、真中と太田は知り合いなんです。
なので、焼香をあげるために連れてきました。」
「へぇ、そうだったのか。……俺らはもう行くわ、じゃあな。」
そう言って江口と、後ろにいた隊員たちも帰っていった。
二人はそのまま進み、葬式場に入る。
そこにはすでに太一たちも居た。
鹿野は螢に声を掛ける。
「螢、もう焼香をあげ終えたのか?」
「いや、これからだ。一緒に行くか?」
「ああ、そうするよ。」
「そうか。受付はあっちだ。」
「ありがとう。」
鹿野は、螢の指差す方を確認するとお礼を言って彼女と一緒に受付に向かった。
軽い挨拶と手続きを済ませると、数珠を取り出し焼香の列に並ぶ。
列の左右には椅子が並べられており、真中と太田の親族の方が弔問へのお礼を一人一人にしていた。
鹿野の番になり、親族の方に頭を下げたあと焼香をあげる。
「よく頑張ったな、ご苦労様。
ゆっくり休むんだぞ。…あとは、私に任せろ。」
その言葉を投げかけたあと、葬式場のエントランスへと向かった。
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2013年4月4日
異能対策課 本部
昨日の葬式とは一転、いつも通りの仕事を行わなければならない。
異能対策課の人間に、悲しんでる暇はない。
人外も異能犯も、そんな空気など読んではくれないからだ。
鹿野は本部に出勤すると、すぐに本部長に呼ばれた。
エレベーターに乗り、3度のノックのあと本部長室に入る。
「失礼します。」
扉を開け、太っている本部長の前まで進み、姿勢を正して要件を待つ。
「鹿野、関西の方で大きな欠員が出た。それに伴った応援要請だ。
今度は三重に向かってもらう。」
「承知いたしました。」
「要件は以上だ。今すぐ支度をして向かえ。」
「はい。」
扉の前で止まり頭を下げたあと、再び「失礼しました。」と述べ、本部長室を後にした。
そしてすぐさま帰宅し、いつでも遠征に行けるよう事前に用意してあったスーツケースを持って、三重支部へと向かった。
第十三話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。
次回、第十四話は9月11日(金)20時に投稿いたします。




