第十二話 金波の餡かけ、銀波の風光。
2013年3月21日
東京 某所。
物凄い数の人外を対処するため、鹿野世代の十数人と、実地訓練の新人や教官が任務に当たっていた。
時刻は昼ごろを少し回り、戦っているとお腹が空いてきたのか、太一がみんなに声を掛ける。
「なあ、早く終わらせて飯食いに行こうぜ!腹減ったわ!!」
「オーケー!とっとと終わらせるか。」
「鹿野!飯行くってよ!!」
「まだ人外どもがうじゃうじゃいるぞ。」
「仕っ方ねーなあ。本気出しますか!」
やる気を出すと、各々が人外を撃破していく。
笑いながらふざけて戦ってると、一匹、宙に浮いていた巨体を逃した。
「おい!そっちにでかいの行ったぞ!」
「悪りぃ!抜かせちまった!!」
「お前がふざけてるからだろ!」
「いや、俺じゃねえよ…。」
「ちょっと!ふざけてないで真面目にやってくださいよ!
それに、手が空いたらこっちも手伝って——」
周囲の人たちの喧騒など関係なしとばかりに、鹿野の頭上に巨大な人外が来る。
鹿野は空に向かって右手を掲げる。
すると、手の平の先に二つの黒紫の球体が現れ、巨大な人外に向けて飛んでいった。
「二重星 アルビレオ。」
その言葉と共に開いた手を握りしめる。
直後、球体がぶつかった巨大な人外は、中心に向かって圧縮されていった。
そして、浮力を失い落ちてくる。
「おいおい!鹿野!ちゃんと処理しろよ!!」
「こっちくるぞ!走れぇぇぇぇ!!」
巨大な人外の落下地点にいた太一たちは、慌てて走りだす。
太一は逃げながらも、晴明に一声掛けた。
「晴明!」
晴明は掛け声と共に、もはや肉塊となった巨大な人外を、自身の異能で上から横へ受け流す。
肉塊は遠くへ逸れ、その場で下敷きにされる危険はなくなった。
その後、既に絶命していた巨大な人外は、塵となって霧散する。
「はあ、後処理はいつも俺か…。」
「よし!あとは雑魚だけだ!!」
先程まで走っていた太一たちは立ち止まり、何事もなかった表情で人外に向き直った。
すると、同期の一人が質問してくる。
「何食いにいく?」
聞かれると、太一たちはそれぞれ答え始めた。
「俺は中華だな!」
「寿司ぃ〜。」
「俺も中華!」
「私も〜」
「…中華。」
「肉がいいー!」
太一に続いて同期の面子、千秋サンや螢も回答する。
「中華三票!晴明と鹿野は?」
「う〜ん、和食かな?」
晴明は和食を提案する。
しかし、中華票の数は変わらないため、同期から不満の声が上がる。
「また中華〜?」
「そうだよ、たまには別のもん食いに行こうぜ。」
「私は寿司かな〜。」
「千秋サン諦めろ、寿司は今度だ。」
「夕さんとこでしょ?」
「おそらくな。」
「夕さん、寿司握ってくれないかな?」
「無理だろ。夕さん、器用だけど。」
鹿野は、そんな光景を微笑ましく眺めていると、太一から「鹿野は〜?」と催促される。
なので、鹿野も答えることにした。
「なら、私も中華にするよ。」
「いよぉーし!多数決により、中華に決定!
終わったら中華だぁぁぁ!!」
気合いが入ったのか、勢いづいた太一は人外の処理速度が上がる。
先程まで「また中華か。」と不満を述べていた他の同期も、鹿野が中華というと手の平を返し行く気を見せたが、太一も負けじと反論する。
「行くか、中華!」
「韻踏んでんじゃねーぞ?
さっきまで行く気無かったんだから、来なくていいぞ!」
「馬鹿野郎!鹿野が行くなら、俺も行くんだよ!」
「ストーカーか!気色悪りぃ。」
「もう口が中華だ。」
「テンシン・ハーンとチャー・ハーンが胃の中を征服してる。」
「意味わからん。」
最後の螢のツッコミも気に留めず、太一も同期たちも口論しているが、人外はしっかり処理していく。
全員が中華を食べに行く流れになったが、反対してきた奴らに、太一はずっと文句を言いつつも人外の数を減らす。
そんなやり取りを横目で見ていた新人たちは、思わず教官に尋ねた。
「何なんですか?あの人ら。
なんであんなに余裕なんですか?」
「あいつらは鹿野世代だからな。化けもんの集まりさ。気にするだけ疲れるぞ。」
「鹿野世代……。」
後輩の新人隊員が、場違いの空気感に思わず疑問を口にするが、新人教育の教官が答えてくれた。
少し不満は残ったが、教官が『気にするな』と言ったため、それ以降、あまり気にすることはなかった。
少し時間が経ったが、一向に人外が減る気配を見せない。
早く終わらせたいのに終わらない状況に、同期の一人が苛立ちを見せ始める。
「ちっ、全然数減らねぇじゃねーか!」
「鹿野!手伝ってくれよ!!中華食えないじゃん!」
太一も煩わしかったのか、鹿野に助けを求める。
「仕方ないな。」
鹿野は短く了承し、悠然と歩いていく。
歩調は変えず、手の平を上下の位置で合わせて、一回だけ鳴らした。
「重星。」
その言葉の後、目の前にいた無数の人外の中心に黒紫の球体が現れる。
次の瞬間、周囲の人外は一斉に中心へ引き寄せられ、圧縮された。
「さっ、行こう。」
あまりの呆気なさに、一同は呆然と立ち尽くす。
すると、太一が代表で口を開いた。
「……最初からやってくれよ。」
「はははっ、サボるだろ?特に太一。」
「サボんねぇよ!大真面目だろ!!」
「確かに、太一はサボるな。」
晴明が同意すると、一同も各々に「太一と茉琴はサボり魔だからな。」と答えていった。
「お前ら、好き放題言いやがって!謝罪の意に一品、俺によこせ!」
「炒飯だけ頼んだら、食うものなくなるだろ。」
「いや、くれるんかい。」
意外な同期の反応に、逆に困惑する太一であった。
「ほら、早く処理班に引き継ぎして、ご飯食べに行くぞ。」
鹿野の一声で、一同は処理手続きを行う。
「僕、何もしてない…。」
気づけば人外は全て消えており、そんな光景を、春馬はただ後ろで見ているだけだった。
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太一の兄、夕の中華料理店。
「いらっしゃい。何名様で——」
「おーい!兄貴!飯食いに来てやったぞ〜!」
「お前か。何人だ?」
「1…2…3……13人!」
「……多いな。」
「任務終わりだから仕方ねぇな!」
「すみません。お邪魔します。」
「夕さん、こんにちは!」
「夕さん!俺炒飯セット!!」
自由気ままに各々が言葉を発する。
そんな光景に少し呆れつつ、ほんのり嬉しく思う夕だった。
だが、すぐに我に帰り注意する。
「まだ案内もしてないだろ。」
そんな事は日常茶飯事なので、気にせず太一が席について夕に聞く。
「それより空いてる?」
「ああ、空いてるぞ。奥の席に座ってくれ。」
「ほいよ〜。」
「ありがとうございます。」
奥へと誘導する言葉をかけた後、太一の返答に続いて鹿野がお礼を言ってきた。
なので、夕は鹿野に、みんなの監視をついでに頼む。
「斎。見張っといてくれよ。」
「はい、任せてください。」
「太一と違って頼もしいな。」
「あーん!?おいこら兄助、俺が頼もしくないってか!??」
「こういう所だ。」
夕と太一のいつものやりとりに、みんなはケラケラと笑った。
笑われた太一は、「お前らも、笑うなよ!どっちの味方なんだ!?」と言ったが、少し揶揄われる太一であった。
その後食べ終わり、仕事に戻る者や帰る者など、バラバラに解散した。
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2013年4月2日
異能対策課 本部 2階休憩室。
二級〜一級の、遠征に出ていない数人の人員が巡回任務を終え、小休憩のため本部で休息を取っていた。
そこへ異能犯の捜査任務に加わっていた鹿野が戻ってくる。
「おっ!戻ってきたか。」
「ただいま。みんな小休憩か?」
「そんなとこ〜。平和でいいねぇ。」
太一は自販機の前にある青色のベンチに横たわりながら、適当に返事をしていた。
戻ってきた鹿野に、千秋は捜査について尋ねる。
「鹿野は異能犯見つかったの?」
「あぁ、対処してきたよ。」
「案外早かったな。」
螢が壁にもたれつつ、腕を組みながら言った。
鹿野は自動販売機でコーヒーを購入しながら、螢に返答する。
「証拠を残してたからな、すぐに見つかった。
だが、異能犯が抵抗したから、やむを得ずって流れだ。」
「いつものパターンだな。異能犯も学ばん奴らだ。」
「モラルがねぇんだから、学べるわけねえわな〜。」
晴明の返答に太一が付け加えた。
話を聞いていた螢が、太一に疑問を投げかける。
「関係あるか?それ。」
「あるんじゃね?知らんけど。」
「ははっ。相手のことを考えられないから、もとより学ぶ姿勢……詳細にいうと、間違いを認識できないから、学ぶことが出来ない。そう言いたかったんじゃないか?」
「そうそう!そゆこと〜。」
「……絶対違うだろ。鹿野も太一のフォローなんてしなくていいぞ。」
「はっはっは。晴明はもう慣れっこか?」
鹿野は笑いながら、晴明に返答した。
晴明も、鹿野の言葉にため息を漏らしつつ答える。
「はぁ、お守りは大変だぞ。」
「おいおいぃ〜、俺はベイビーじゃねえぞ〜。」
太一は依然としてやる気のない返事をした。
そんな会話をしてる時、館内放送でベルが鳴る。
「足立区で人外多数発生!待機している人員は直ちに現場に急行せよ。繰り返す——」
「はぁ、またかよ。サボれねぇじゃん。」
「サボるなよ。」
「晴明は真面目だな〜。」
「さぁ、行くぞ。」
鹿野は、飲みかけのコーヒーを一気に流し込みゴミ箱へ入れると、みんなに任務へ向かうよう促した。
先程までベンチに横たわり、独り占めをしていた太一も、「よっこらせ。」と言って立ち上がった。
そして、先に向かうみんなに、後ろから声を掛ける。
「はいはい。とっとと終わらせて、とっとと帰ろうぜ〜。」
一行は任務へ赴き、無事対処を終えると本部へ帰投した。
第十二話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。
次回、第十三話は9月4日(金)20時に投稿いたします。




