第十一話 枯木に如雨露。
複数の光の球が、敵二人を捉える。
——っ!別の能力!?
物凄い速さで飛んでいった光球は、敵から逸れたものもあった。
逸れた光球は、壁や道路に当たり、着弾と同時に瞬時に溶かし穴を開ける。
そんな様子を見ても、二人は一瞬驚いただけで、すぐさま対応に入る。
大柄な男は向かってくる光球を、腕で急所を庇うようにガードしながら、露出した部分を外骨格のようなもので覆う。
着物の女は、視界に集中し全て切り落とす。
春馬はその対応を目にし、「これも捌くのか…。」と、予想以上の対応力に驚愕すると同時に落胆した。
攻撃が一度落ち着くと、一呼吸のあと大柄男が口を開いた。
「……ふぅ。流石に焦ったぞ?急に鋭い攻撃が来たしな。
なあ!なんで能力が二つもある?異能は、一つしか持てないだろ!」
「素直に手の内教えるやつが、どこにいるんだよ。」
「それもそうか。
だがその異能、どっかで聞いたことあるな。なんだったか?」
大柄男は思い出そうとするが、全く出てこなかった。
だから、すぐに考えるのをやめ、「まあ、なんでもいいか。初見で捌ければ問題なし。」と言って、いつでも動けるよう再び態勢を整えた。
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2015年
異能対策課 本部 2階休憩室。
「春馬、これを渡しておく。」
春馬は何かが入った袋を受け取り、中を確認する。
すると、そこには金平糖が入っていた。
「食べるなよ?死ぬぞ。」
「えーっ!?何でそんな危険なもの渡してきたんですか!?」
「はは、保険だ。どうやっても、打開策が浮かばなかった時にだけ使え。」
「——何が発動するんですか?」
「私の異能だ。」
袋の中には、黒い金平糖が混ざっていた。
「黒いやつだけは、本当にどうしようもなくなった時に使うんだ。いいな?」
「——そんな時が来ないことを祈ってます。」
「そうだな。」
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ショッピングセンターから、10km離れた場所。
初見で対応された。
これでもダメなのか!くそ…。
……まだだ、まだ他の技もある。
さっきのシューティングスターで牽制しつつ、別の技で仕留める。
とりあえず、重いのを一発当てることを考えよう。
「どうした?もう弾切れか?拍子抜けだなぁ。」
「まだまだあるぞ。何色がいい?」
「緑だな!俺は弟派だ。」
「小心者か。お似合いだな。」
「はっはっは!君みたいで可愛いだろ?」
「……気持ち悪い。」
着物女が抜刀の構えをする。
「戯れるな。時間の無駄だ。」
今度は数回、刀を振った。
すると、道路ごと周りに三つの切り込みが入る。
春馬は避けるが、僅かに掠った。
掠っただけだったが、太ももがパックリ割れる。
——いっ!!
思わず切れた部分を抑えそうになるが、すかさず金平糖を潰し、次弾を発射する。
その間、後ろの茉琴がすかさず治療してくれたおかげで、瞬時に皮膚がくっついた。
「あの女、厄介だな。
ハゲ、前に出ろ。」
「あ?やだよ。」
「黙れ、貴様の意見など聞いていない。
命令だ、前に出ろ。」
「くそったれ。なら、ちゃんと仕事しろよ!」
大柄男は道路を砕いて投げつけ、そのまま猛突進してくる。
春馬は複数の光球を乱射し、飛来する破片を粉々に砕き、破片を貫いた光球は大柄男にも命中する。
だが、外骨格のような装甲に阻まれ、勢いは止まらない。
溶け落ちた装甲も、一瞬で再生していく。
弾幕を張るも依然、勢いは止まらず、大柄男は光球が止んだタイミングで、ガード姿勢から攻撃態勢に変更する。
大柄男が左腕を引いたため、春馬は右からの攻撃に備えて身体を逸らす。
しかし、大柄男は左肘を突き出すフェイントを入れて、左肘に視線を奪われている春馬の背後へ右拳を叩き込む。
春馬は逸らした際に、後ろに回していた右手で金平糖を握り潰し、向かってきている攻撃に向けて放つ。
すると、大柄男の重心が下へと引っ張られる。
「——うぉっ!!??」
あまりの引き寄せる力に、大柄男は思わず声を漏らした。
体勢を崩した大柄男に目掛けて、光球を放とうとするが、すかさず着物女の攻撃が迫る。
首筋への攻撃を、顔を傾けて避けようとしたが、左の顎肉が削がれ骨が見える。
——くっ!!
……こいつら、連携取れなさそうなのに妙に息が合う。
隙を作っても埋められるし、一人を崩しても意味がないな。
なら、二人まとめて止めるしかない。
「茉琴さん、次弾を撃ち終えたら目を閉じてください。」
「うん、わかった。」
二人は小声で短く話した後、春馬は金平糖を再び握り潰し、今度は多めに光球を放った。
その動きに連動するように、茉琴が春馬の顎を治療する。
着物女は、光球の多さに多少の被弾を覚悟した。
しかし、大柄男がすかさず前へ割って入り、光球を身体で防ぐ。
弾幕で視界を塞ぎながら、春馬は足元に開いたワープゲートを、着物女の頭上へと繋ぐ。
その後、光球をワープゲートに放った。
視界の上に光るものが映る。
見上げると同時に、着物女は勘で刀を振った。
ワープゲートが二つに切れる。
少し光球に当たったが、致命打にはならなかった。
弾幕が収まったタイミングで大柄男はガード体勢を崩す瞬間——
強烈な閃光が走った。
敵二人は反射的に目を瞑り、光から顔を逸らす。
閃光が止むと、ワープで逃げられるかもしれないと思った二人は急いで春馬を視界に捉えようとする。
しかし、目を開けると突然、着物女と大柄男の目の前に黒紫の球体が現れた。
「重星。」
春馬の言葉と共に、敵二人は黒紫の球体へと吸い込まれる。
球体に近づくほど、圧力で小さく捻れていく。
着物女は春馬と距離があったため、切り落とすことに成功したが、大柄男は球体へと吸い寄せられる。
すると、大柄男は無理矢理にでも左腕を動かし、骨と肉を砕いてでも拳を振り抜いた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
拳が球体へ叩き込まれ、球体は粉々に砕け散った。
しかし、大柄男の左腕はぐちゃぐちゃになっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…。
やるな!流石に今のは効いたぞ!」
「ふぅ……そりゃどーも。
後ろの方も仕留めたかったんだけどな。」
「小僧が、図に乗るなよ。」
着物女の眼光がより鋭くなる。
だが、今更気にすることもない。
隙を作って放った重星も対応するのか……化け物どもめ!
これは、鹿野世代の上澄みレベルだな。
不意打ちで放った重星のおかげで敵二人の動きが止まった。
相手は警戒を解かず、横目でお互いをチラッと見てアイコンタクトをする。
先程までの喧騒とは違い、戦闘中に漂う不気味な静寂があった。
その間、敵二人の雰囲気が変わる。
春馬の背中に冷や汗が沸いた。
最初に動いたのは大柄男だった。
自身で生み出した外骨格のような装甲を剥ぎ取り、砕いた破片を春馬に投擲したのだ。
春馬はすかさず金平糖を割り、重星を自身の前に展開する。
しかし、着物女に重星を切り落とされ、破片の勢いは止まらない。
春馬は瞬間移動を二回行う。
一回目は破片を避けるために左へ、二回目はその後、視界にとらえた大柄男の懐へと飛んだ。
大柄男の懐に入った瞬間、左手に握り変えた得物で首を突き刺そうとする。
しかし、大柄男に右腕で防がれた。
着物女は、春馬の側面から切り落とそうと刀を振りかざす構えをする。
春馬は右手に握っていた金平糖を砕く。
そして左脇の下から、着物女へ向けて光球を放った。
着物女は即座に光球へと狙いを切り替え、全て切り落とす。
春馬は、光球への対処に集中している着物女へと狙いを変え、光球の群れに紛れるように飛び込んだ。
その後、距離を詰めた春馬は、着物女の左側へ重星を放つ。
着物女も、すぐさま重星を切り落とそうと刀を左手に持ち変えて、黒紫の球体を真っ二つにする。
その隙を春馬は逃さず、すぐさま別の色の金平糖を割り、高密度のエネルギー波を放つ。
着物女は、そこまでは対応しきれずにもろに受け吹き飛ばされた。
だがその間、大柄男も春馬から茉琴へと攻撃対象を変え、あと数メートルのところまで距離を詰めていた。
春馬もすぐに気がつき、慌てて茉琴の目の前へと瞬間移動する。
大柄男はその動きを確認後、吹き飛ばされた着物女を一瞥する。
着地と同時に体勢を立て直していた着物女は、大柄男と一瞬だけ目配せをした。
すると大柄男は、割って入ってきた春馬に破片を投げる。
その破片を春馬が捌いている隙に、奥にいる茉琴にも破片を投擲した。
慌てて瞬間移動してきた春馬は、先の破片を捌いた時に、握っていた金平糖を使い切っていた。
次の金平糖を割る時間がないと判断し、身を挺して左肩で破片を受け、茉琴を守った。
痛みに耐える暇もなく、大柄男の右拳が迫ってくる。
春馬は上半身だけ捻り、腹部に向かってくる拳を左腕だけでガードした。
左腕が軋むが、歯を食いしばって耐える。
しかし、意識が腹部に行っていたからか、大柄男の折れた左腕の、顔への打撃に対応できず顎に攻撃が当たる。
視界が左側へと向き、折れているとはいえ場所が悪かったからか意識が飛びかける。
だが、「ここで倒れるわけにはいかない。」という強い意志で、意識を保った。
すぐさま体勢を立て直そうとして、左側へと瞬間移動した次の瞬間——
着地したはずなのに、視界がどんどん下へと落ちていく。
——っ!?何が起きた!!??
春馬は自身の身体の感覚に神経を集中させ、事態を把握しようとする。
その理由は、すぐさま痛みが知らせてきた。
体重を支えるはずの軸足である右脚が切り落とされていたのだ。
這いつくばった春馬は、茉琴へと迫る大柄男に向かってすぐさま瞬間移動しようとするが、背中に強い衝撃が走る。
何かが春馬の背中に乗っていた。
「おいおい、まだやってたのか?」
声の主は春馬の背中に乗っていた人物から発せられていた。
着物女が春馬の背中に視線を向けると、そこにはチンピラ風の男が春馬の背中にしゃがみ込んでいた。
大柄男は、茉琴の頭を鷲掴みにし、持ち上げながら返答する。
「遅かったな!今終わったところだ!!」
「あぁ?雑魚どもが使いもんにならねぇから、俺が動かなきゃなんなかったんだよ!
お前らも、こいつら二人に時間かかりすぎだろ!」
「殺すぞ、チンピラ。」
チンピラ男の言葉に、先程春馬の攻撃を受けたはずの着物女が、平然と歩きながら答えた。
「事前情報よりも意外と手強かったぞ?
まあ、それでも負けねえけどな。」
「はっ!あっそ。それよりも、もう聞いたのか?」
「これからだ。」
「ならさっさとしろ。」
三人は言い合いを止めて、大柄男は茉琴に向き直った。
「さぁ、知ってる情報を吐け。」
「何のこと?なんっにも知らないけど。」
「とぼけんのか?この状況で?」
「だから、何のことって聞いてんでしょ!?頭も筋肉になってんの?」
大柄男は少し鼻で笑った後、口を開いた。
「2015年12月16日。あの時、お前も鹿野に会っただろ?
そん時、何か聞かなかったか?もしくは、何か知ったんじゃねえのか?」
茉琴は、俯きながら記憶を振り返る。
しかし、やはり何も思い当たる節はなかった。
茉琴は大柄男に目線を向け、自分の知ってる事実だけ伝える。
「何も知らない。
あの日は大変だったし、鹿野から直接、何かを伝えられた記憶もない。」
「はぁ…本当か?」
茉琴は春馬だけでも逃すべく、こっそりと左腕を春馬の方へ伸ばし、切れた右脚を治療しようとする。
しかし、監視していた着物女がすかさず茉琴の左腕を切り落とした。
「——っ!!」
「おいおい、悪あがきはよせよ。
ほら、とっとと情報吐いた方が楽になるぜ?」
「……耳詰まってるの?知らないって言ってんでしょ!
それに、仮に知ってたとしても、あんたらみたいなクズどもに教えるわけない!!」
茉琴は左腕の痛みで涙目になりながらも、強気に答えた。
大柄男は、少し呆れ気味にため息を吐きつつ、次の行動に移る。
「じゃあ、もう用済みだな。
あっちの転がってるやつに聞けばいい。」
そう言った後、鷲掴みした右手に力を込める。
すると、掴まれた茉琴の頭蓋がミシミシと音を立て始めた。
茉琴はその痛みに耐えられず、掴まれている腕を強く握りながら、脚をジタバタさせ叫ぶ。
絶叫の中、春馬はチンピラ男に乗られているため、顔だけ上げたまま、ただ見ていることしかできない。
瞬間移動を試みるが、体力の限界が来たのか、あるいは先程の背中への衝撃で肺を痛めたからか、呼吸が安定せず発動することができない。
もちろん、ワープゲートも試したが、作ることすらできなかった。
「やめろ!!……やめてくれ!!!」
春馬が叫んでも、相手が止まることはない。
徐々に力が増していき、茉琴の叫びも大きくなる。
春馬はそんな光景に耐えられず、考える間も無く情報を吐くことを決めた。
「わかった!言う!あの日の何を知ったか!!
でも、一つだけ約束してくれ!僕はどうなってもいい!
だけど、茉琴さんだけは見逃してくれ!
頼む!!……お願いだ。」
「やっと喋る気になったか。
でも、自分の立場がわか——」
必死な春馬を、横目で確認した大柄男が喋ろうとした時、背中に乗っているチンピラ男が割り込んできた。
「まあまあまあ、男が一丁前に女を助けてやろうとしてるんだ。その心意気、呑んでやろうじゃねぇか!
ただでさえ、三対一なんだ。フェアじゃねーよな?」
「異能犯にも話が通じる相手がいるのか。」と、普段の状況なら間に受けない言葉に、春馬はわずかに安堵しかける。
だが、じっと立っていた着物女が不満を漏らす。
「勝手に決めるな、チンピラ。情報を聞き出してころ——」
最後まで言いかけたその時、着物女に炎が一直線に走った。
着物女は易々と回避したが、鋭い目つきでチンピラ男を睨む。
それを気にも留めずに、チンピラ男は話を続けた。
「女にはわかんねぇよ。男の矜持ってのは。」
着物女は舌打ちしたあと、苛立ちを隠すことなく軽蔑の眼差しでチンピラ男を睨む。
だが少し経つと呆れ果て、刀を持ったまま壁に寄りかかり、周囲の警戒と監視を行う。
静かになったのを確認した後、チンピラ男は春馬に向かって催促する。
「おい、早く情報を言え。」
春馬は情報を教えると口にしたものの、その選択が正しいのか少し迷う。
しかし、視界に映る痛みで涙を流す茉琴を見ると、やがてポツポツと話し始めた。
「あの日、鹿野さんは対策課本部の地下4階にいたんだ。
そこまでは知ってるだろ?でも、ここからは知らないはずだ。」
「……続けろ。」
「死体の山ではっきりとは見えなかったけど、その場所には、存在しないはずの地下4階より下へと続く入り口があった。」
情報を聞いたチンピラ男は満足したのか、高々と笑った。
だが、まだ疑っている大柄男は、確認を取る言葉を春馬にぶつける。
「そうか。……嘘じゃねえだろうな?」
「本当だ!嘘じゃない!!」
「わかった。」
確認が取れたのと、情報を吐いてしまった二つの理由から、春馬は少し力が抜ける。
しかし、大柄男は再び握る力を込め始める。
春馬は約束とは違う行動に、抜けた力を入れ直そうとする。
だがもはや、疲弊している春馬では立ち上がる力すら入らなかった。
「やめろ!話が違うだろ!!」
「別に違わないさ。」
大柄男は力を込める手を止めず、春馬の方へ視線を向ける。
「約束したのはこいつで、俺じゃねえ。」
大柄男は、顎で背中に乗っているチンピラ男を示した。
それを聞いた春馬は、表情に絶望の色が浮かぶ。
「おい!やめろ……やめろーー!!!」
春馬は叫ぶが握る手は止まらない。
どうにか動こうとする春馬を、チンピラ男が頭を抑えて静止する。
そして、チンピラ男は嘲笑うように高々と笑いながら言葉を吐いた。
「はっはっは!!犯罪者が、ルールを守るわけねぇだろ!
何、馬鹿なことやってんだ?こいつ。」
チンピラ男は、抑えていない左手で自身の膝を軽く叩きながら笑う。
大柄男は春馬を煽るように、チンピラ男に言葉を返した。
「そんなこと言ってやるな。春馬くぅんはピュアなんだよ!」
その言葉を聞いたあと、二人とも再び笑い始めた。
やり取りをしてる二人とは違い、着物女は無表情のまま、周囲を警戒しつつ監視を続けていた。
そして、痛みに悶えていた茉琴はやがて抵抗を止め、視線だけを春馬の方へ向ける。
「春馬。」
頭を抑えられているが、どうにか動こうとしていた春馬は、その言葉に茉琴へと視線を向ける。
すると、春馬は茉琴と目が合った。
第十一話を閲覧して下さり、誠にありがとうございます。
次回、第十二話は8月28日(金)20時に投稿いたします。




