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【4000view感謝】恋愛ゲームの世界なのに私は攻略対象キャラじゃないので情報屋になろうと思います  作者: フユめん


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屋上の闖入者

「佐伯さん、どうしたの? わたしのお弁当、そんなに変かな?」

 ある日昼休み、前に約束していた通り、このみちゃんと私は一緒に食事をしていた。

 場所は屋上。現実の学校では、安全上の理由から入れない事が多いけど、ギャルゲー世界なので、当然のように出入り自由。お弁当を食べるのも自由。

 そんな中、陽光に照らされたこのみちゃんのお弁当は、実に色鮮やかで、思わず見とれてしまった。

 レタスの緑、卵焼きの黄色、ウインナーとトマトの赤。

 茶色い惣菜が詰まった我が弁当と比べると、色彩で溢れている。

「小鳥遊さんのお弁当、とても丁寧で栄養バランスが良さそうだなと、羨ましくなりまして」

「えへへ、ありがとう。毎日自分で作ってるから、いつも同じような感じになっちゃうんだけど、栄養とか彩りには気を使ってるんだ」

「ほう、自分で。料理上手とは、これまた羨ましいです」

 うーむ、流石ヒロイン。手料理の一つくらい、出来て当然という事か。いや、ステータスには人並みって書いてあったな、つまり、私が特に出来ないって事?

 他人のステータスで、己の不器用を突きつけられるなんて。情報屋も辛いよ。

「わたしは、佐伯さんのお弁当がとっても美味しそうで、羨ましいな」

 このみちゃんが、私のお弁当箱を見ながら、目を輝かせて言う。

 企業が万人に向けて、美味いの最大公約数を目指して作った惣菜達だから、確かに美味しそうではあるだろうけど、ほぼほぼ出来合いの惣菜を詰めただけのお弁当に、そこまで目を輝かせる事は無いと思うのだけど。

「出来合いの惣菜ばかりですけど、よろしければ一ついかがですか?」

「本当!? じゃあ、わたしの玉子焼きと交換しよう」

 このみちゃんは、自分のお弁当から、キレイで黄色い玉子焼きを箸で摘んで、私の弁当箱の空いたスペースに乗せてくれる。

 私も、お返しとして黒酢餡の肉団子を、このみちゃんのお弁当に移した。

 うーむ、青春だ。

 というかコレ、朝倉くんにこそ起こるべきイベントだと思うんだけど。まあいいや、役得役得。

 そんな、自分に起こっていいのか分からない青春をしていると、不意に屋上のドアが開いた。

「ん?」

「え?」

 そこに居たのは、この前ド詰めをしてきた、陸上部の橘さやかちゃん。

 また、苦情を言いに来た? いや、手にお弁当を包んだ風呂敷を下げているから、彼女もお昼を食べに来ただけか。

 だけど、さやかちゃんは私に厳しい。今も、最近朝倉くんと仲良くなったこのみちゃんと、私が一緒に居る事に、何か訝しい物を感じたらしい。そういう顔をしてる。

「あなたたち……、仲いいの?」

「はい、この前友達になったんです」

 私が答えるより先に、というか食い気味に、このみちゃんが元気よく答えた。

 このみちゃんは、さやかちゃんが私に迫った事は知らないから、全くの無警戒である。

 しかし、これからどうしたものか。

 この場において、異物は明らかに私だから退散したいのだけど、このみちゃんを置いていく訳にもいかないし、連れていくのもおかしい。

 まあ、それを言い出したら、私はこの世界に居ないはずの、情報屋という異物ではあるのだけど。そういう話は一旦置いといて。

「ふーん……」

 間を取らないでほしい。今から何が起こるのか、早く教えてくれ。いっそ、一思いに叩き斬ってもらう方が楽だ。

「悪いけど、アタシも一緒に良い?」

 えっ? 今、なんと?

「はいっ、もちろんです! ね、佐伯さんもいいよね?」

「は……はい」

 勢いで承諾しちゃったけど、いいよね、ではない。というか、さやかちゃんはなにゆえ、お昼を一緒になどと。

 このみちゃんが、対面で座っていたのをズラして、三角座で座れるようにする。

 さやかちゃんは、空いた空間に、きれいな所作で正座する。

 下コンクリートなんだけど、痛くないのかな? 空手家だから、痛みに強いとかあるのかな。

「改めて、アタシは橘さやか、空手部。佐伯さんとはこの前話したけど、小鳥遊さんとは初めまして、だよね」

「そうです、初めまして。文芸部の小鳥遊このみです。でも、橘さんの事は知ってます、女の子に絡んでる不良が居たら、みんなやっつけちゃうんだって、助けられた子が感謝してました」

「ふふっ、助けた甲斐が有ったね」

 さやかちゃんは優しく笑って、おしとやかと言えるレベルで答えた。

 この前の、ブルドーザーみたいなさやかちゃんとは、ずいぶんな違いである。

 本質的には、いい娘なんだろうな。

 真っすぐで、でも真っすぐすぎて男塾名物直進行軍を始めちゃうだけで。

「不躾で悪いけど、二人はどうやって知り合ったの」

 質問の仕方も、めちゃくちゃ真っすぐだ。

 嘘がつけない、というかつかないタイプ。ステータス見ただけじゃ分からない事もあるなぁ、人の事だし、当たり前なんだけど。

「佐伯さんとは、えっと……、わたしが朝倉くんとお話したいって思ってたのを察してくれて、繋いでくれたんです。おかげで朝倉くんと仲良くなれて、佐伯さんも凄く優しくて、それでお友達になってくれました」

 このみちゃんが説明してくれて、正直助かる。

 私が説明したら、怪しいと疑われたかもしれない。正直、我ながら私は怪しい。

「ふーん……、佐伯さんはなんのために、朝倉君と小鳥遊さんを繋いだの?」

 まあ、そりゃ気になるよね。理由が分からないのは不気味だもの。

 とはいえ、悪い事をしたわけでもないから、いつも通りに言えばいいか。

「思春期の若人たるもの、みんな恋愛に興味があるものです。ただし私の場合は、他人様の恋愛に興味があって、それを成就させて悦に浸るタイプなのでございます」

「ちょっと佐伯さん、恋愛だなんて……」

 私が説明すると、さやかちゃんが反応する前に、このみちゃんが頬を赤らめて恥恥じらう。

 あそっか、まだ恋愛関係ではないのか。数値的には、将来を誓い合ってても不思議じゃないけど。

「おっと、これは失礼。ともかく、小鳥遊さんは朝倉くんとお喋り出来て嬉しい。朝倉くんはモテて嬉しい。私は、幸せそうな姿を見て嬉しいとまあ、三方良しになります。そんな所ですかね」

 さやかちゃんは、私が言い終わると、腕を組みながら顔を俯けて、なにかを考えている様子だ。

 いきなり喋りすぎたかな? まさか、また怒ってる訳じゃないよね? 

 心配になりつつ、さやかちゃんの顔を見ると、とりあえず怒ったり、イライラしてるような顔ではない。むしろ、どちらかと言うと……

「アタシにも、朝倉君を紹介してもらう事って、出来る?」

 思っていたのと違う方向からボールが飛んできたので、思わず目をぱちくりと瞬かせた。

 さやかちゃんは、朝倉くんに恋愛感情を持ってないはず。数値的に、そこまで行ってない事は見れば分かる。なのに、なんで急に?

「出来るか出来ないかで言われたら、出来ますが、どうして私に? 橘さんと朝倉くんは、元々お知り合いでは?」

 部活中、会えば普通に話す仲だし、お互い顔と名前を知っている。

 一方的に想いを募らせてた、このみちゃんとは事情が違う。お喋りがしたいなら、自分で行けば済むような。

「朝倉君とは確かに知り合いだけど、それでも頼みたいの。佐伯さんから、朝倉君に話してほしい」

 さやかちゃんは、真っすぐに私を見る。怒っている時のような目つきの鋭さは鳴りを潛め、期待と緊張の入り混じったような目をしている。

「え……ええ、かしこまりました。話を通しておきましょう、でも、どうしてわざわざ私から?」

「佐伯さんから話を通してもらったら、もっと仲良くなれる気がするの。お願い」

 あ!今好感度上がった!私は見たぞ! 32%が33%になる瞬間を!

 これは、このギャルゲー世界的に考えて、これから恋心が生まれようとしている所なのでは。

 だとしたら、恋敵にもなりえる。それを、このみちゃんの前でそれを言い出すのは、思った以上に豪胆だ。

 けど、このみちゃんは推しの朝倉くんが褒められたと認識したみたいで、嬉しそうに笑顔を浮かべている。ついでに好感度数値もアップした。

 この娘、無敵すぎるし危うすぎる。どうか、このみちゃんが詐欺に引っ掛かりませんように。この世界に、詐欺師が居るのか知らないけど。

 私が脳内に与太を巡らせている間も、さやかちゃんは真っ直ぐな瞳でこちらを見続けている。

 これを断るのは、正直気が引ける。

 私のポジションとしては、主人公朝倉翔太のための情報屋だから、ヒロインちゃんの頼みも聞く必要は無いはずなのだけど、そんな真っ直ぐな目でみつめられたら………ねえ?

「分かりました、朝倉くんには、私から話を通しておきます。集合場所は、ここでよろしいでしょうか?」

「うん、それでいい。ありがとう」

 さやかちゃんは、大げさには表現しないけど、嬉しそうにしている。満面の笑みまではいかないけど、口元はだいぶ緩んでいて、頬が少し赤くなっている。

 こうして見ると、女の子らしくて可愛い。

 さやかちゃんって、こういう一面もあるんだなぁ、体育会系っぽい威圧感で誤解してたけど、こんな表情もできるんだ。

 さて、さやかちゃんが恋する乙女(予備軍)の顔をしてる事を、このみちゃんはどう思ってるのかな。

 私がこのみちゃんだったら、正直面白くない状況だよなぁと横目で見ると、更に好感度が上乗せされた彼女が居た。

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