九、#トップシークレット
死んだと思われていた国民的アイドル、上杉楓。そんな彼女に双子の妹がいたという誰も知らない事実が発覚した。
「僕も正直驚きました。貴方と奏さんはとても仲が良く、一緒にアイドルを目指していたと聞きました」
「……………」
「ではあの死体が楓と奏、どちらなのか…その答えはこの写真でわかりました」
辻村は写真を変えて再び楓に見せた。それは楓と奏の写真を切り取って貼り付けたものだった。
「貴方達は一卵性の双子で見分けるのが難しかったです…ですが、一箇所だけ違いがありました。それが…この部分です」
辻村は写真のある部分を拡大した。
双子である楓と奏の違い。それは…右肘にあるホクロであった。楓にはホクロがあり、奏にはなかった。
「友人の話では、死体の右肘にはホクロはありませんでした。つまり……あの死体は妹の奏さんで、殺されたと思われる本物の上杉楓は生きている。というのが、この事件の真相です」
今、事件の真相が明らかとなった。
殺されたと思われていたアイドル上杉楓は実は生きていた。死んだのは彼女の双子の妹、上杉奏だ。世間は楓が死んだと思い込み悲しみに浸っていた時、楓はネット民達を焚き付けて邪魔な人物を犯人と思わせて炎上に追い込んだ。
自分の邪魔をするメンバーの根尾心音。異常なストーカー行為をする浪川健志。自分達のグッズを無断転売して荒稼ぎするマネージャーの美園梢。みんな楓の思惑どおりに消えていった。しかし辻村には、どうしてもわからない謎がひとつだけあった。
「どうして奏さんを?自分達がお互い入れ替わりで仕事をしていて、ギャラの配分でも揉めたとか?」
「――っ!!私と奏が入れ替わってたことまで気づいていたんだ…」
「えぇ…これは偶然気づいたんですが…」
そう言うと、辻村はタブレットを操作してある画像を楓に見せた。それは、とあるライブ映像の停止画像だった。そして、その画像を大きくしてある部分を指差した。
「これはあるライブの時の映像で、この腕を大きく上げた時のここ、右肘にホクロがないんです。つまり、今ここでライブをしているのが、奏ということですね。そしてさらに…今度はバラエティー番組に初めて出演した時のここ。腕を振っているこのシーン、ここでは右肘にホクロがあります。つまり、貴方と奏さんは仕事ごとに入れ替わって活動をしていたんですね。おそらくライブや歌番組の時は奏さん、バラエティーやトーク番組は楓さん、貴方が担当していた。違いますか?」
辻村の推理に楓は観念したのか、大きくため息をついてパイプ椅子に腰かけた。
「…私の負けだわ。そうよ、ネット民達を焚き付けて、心音や美園を死に追いやったのは私。そして浪川を利用したのもね」
「だからって、血の繋がった妹を殺すなんて」
「違う!!!」
楓がいきなり大声を上げた。その怒号は部屋中に響き渡っていた。辻村は今まで見たことのない楓の姿に驚きを隠せなかった。
「…殺すつもりなんて…なかったの…あれは事故だったのよ…」
楓は顔を両手で覆い、疼くまっている。指の隙間から涙が零れるのを見て、先ほどまで疑っていた辻村もこれは嘘ではないと感づく。
「…話してくれますか。あの日、何が起こったのか…」
「……私と奏は、一緒にアイドルを目指してました…」
上杉楓と上杉奏は双子の姉妹。N県の地方で生まれた二人は幼い頃から仲が良く、可愛い見た目から近所では『美人姉妹』として有名だった。
そんな二人はいつも『アイドルごっこ』をして遊んでいた。玩具のマイクと手作りの衣装を着て、当時流行っていたアイドルの曲を真似して歌ったり踊ったりして遊んでいた。休日には友達を呼んで自宅でライブのように自分達の歌を披露していた。
『楓ちゃんと奏ちゃんなら、絶対アイドルになれるよ』
『双子アイドルってのもいいんじゃない?』
『今のうちにサインもらおうかな』
周りにそう持ち上げられ、二人は本格的にアイドルになろうと決意した。
小学生になると、楓と奏はアイドル事務所に所属し、アイドルになるため日々レッスンに励んでいた。
しかしいくら双子といえど、徐々に能力に差が生じ始めるようになってきたのだ。
楓は持ち前の明るさとやる気に満ちていたが、歌やダンスは一般人レベルで特に目立った印象ではなかった。一方妹の奏は、普段は目立つ存在ではなかったが、いざ歌やダンスになると圧倒的な存在感を見せた。心に響く歌声とパワフルなダンスパフォーマンスで、他を圧倒する存在となっていた。同じアイドル候補生達からは、「奏こそアイドルに相応しい」と豪語する程であった。
そんなことが続き、徐々に二人の関係に亀裂が生じ始めた。奏ばっかりチヤホヤされ、一方の楓はこれと言って目立つ存在ではなかった。そんな周りの反応のせいか、楓の中に醜い感情が生まれ始めていった。奏が芸能事務所に声を掛けられたりダンスコンクールで入賞するなど、奏が成功する姿を喜ぶ一方で心の中では嫉妬心を剥き出しにしていたのだ。
そんなある日。奏が大手芸能事務所のオーディションに応募すると言ってきた。このオーディションに受かると、そのままアイドルとして即デビューすることが出来るという。
その頃の楓はオーディションに落ち続けているせいか、スッカリやる気を無くしてしまっていた。そんな時だった。楓の心に悪魔が囁いたのは…。
『奏、私も応募する』
『ホント!?やった!一緒に頑張ろうね!』
奏は二人でアイドルになるため頑張れると嬉しそうにしていた。楓が心に悪い感情を秘めているとも知らずに…。
「そのオーディションで、貴方は一体何をしたんですか?」
辻村の質問に、楓は少し間を空けて答えた。
「……書類審査と一次、二次審査も私と奏は合格したの。そして最終審査の当日―――」
『えっ!?楓体調崩したの!?』
『ごめん…朝急に具合悪くなって…悪いけど、奏私の代わりに最終審査出て欲しいんだ』
『えっ……でも、私も審査あるし…』
『大丈夫。奏の審査明日でしょう?代わり私が奏の最終審査受けるから、お願い奏!』
『…わかった。ちゃんと薬飲んで休むんだよ』
『ありがとう、奏』
「替え玉…ってやつですね」
「えぇ…。ちょっとした出来心だったの」
「それで、楓さんの名前でオーディションに出た奏だけが合格したんですね?」
「そう。最初は本当のことを話した方がいいか悩んだけど、結局辻村さんが言ったとおり。奏がライブや歌番組に出て、私がバラエティー番組に出る。そうやって二人で『国民的アイドル上杉楓』を演じていたの。でも…あの日奏が…」
『えっ……奏の名前でオーディションに?』
『そうなの。今まで楓の名前で頑張ってきたけど、そろそろ私も独り立ちしようかなって』
『なんでそんな急に…困るよ、奏!』
『大丈夫!楓はもう国民的アイドルとして有名になったんだし、貴方一人でもやっていけるよ!』
『―――っ!!勝手なこと言わないで!!!』
ドンッ!!!
『きゃっ!!』
ガンッ!ゴキッ!!
『………………………奏?』




