最終回、#アイドルKは消えない
「…つまり、奏さんが亡くなったのは不慮の事故ってことなんですね…」
「本当に殺すつもりなんてなくて…ただ奏の名が世に知れ渡るのが怖かったの…」
「どうしてです?奏さんもアイドルを目指してたんですから、応援したって…」
「さっきも言ったでしょ。奏は私なんかより歌もダンスも飛び抜けて上手い。もし奏がアイドルとしてデビューしたら、私なんかあっという間に抜かれるわ。それに、奏が居なくなったら、『アイドル上杉楓』は成り立たなくなっちゃう。歌もダンスも奏に頼りっぱなしだったから、とても一人でなんて無理なのよ」
「…だから、奏を楓と見せかけてマンションの屋上から…」
「えぇ。以前番組で紹介した部屋着に着替えさせて奏を屋上から落としたわ。幸い警察も奏の死体に疑問を持つことはなく、死んだのは『上杉楓』として処理された」
「…どうして、そこまでして」
「……辻村さん。人ってね、二度死ぬ生き物なの」
「二度?」
「一度目は肉体の死。二度目は人々の記憶から消えるという死。世間は常に新しいものが求められるの。特に芸能界はその移り変わりが激しい、昨日まで注目されていたタレントが明日には消えることも珍しくない」
楓は椅子から立ち上がると、かつてアイドル達が立っていたステージのセンターに立つ。その姿は国民的アイドル楓としての貫禄を持ち合わせていた。
「だから私はこの事件を終わらせない。世間がアイドル楓の事件を追い続ける限り、私は消えることはない。国民的アイドル『上杉楓』は永遠に生き続けるのよ!!」
楓はステージのど真ん中で高らかに宣言し笑っていた。その姿は一国の王のような貫禄であった。しかし、辻村はそんな楓に反論した。
「…こんなことしても、奏さんは喜びませんよ。それに、私が言わなくても真実に気づく人は必ず現れます。いつか貴方の思惑は崩れ落ちますよ」
「そんなことさせないわ!邪魔する奴はまたネット民達の力を使って消してやるわ!奏だって、今まで二人で築き上げた『アイドル楓』を終わらせない私の姿を見て草葉の陰から喜んでいるわ!ハハハッ!ハハハハハハハハハハハハッ!!」
楓はもはやアイドルに取り憑かれた亡者のように狂ったように高らかに笑っている。
そんな楓に、辻村はゾッと寒気を感じた。自分が人生を賭けてまで追いかけていたアイドルの本性を知り、何かが自分の中で冷めていくのがわかった。
「…もう、帰ります」
辻村は荷物をまとめると、足早に帰ろうとする。
「待って辻村さん。貴方…これからも私を応援してくれないかしら?そしたら――」
「いえ、結構です。自分はもう、貴方に一ミリも興味がなくなりした。今の貴方には、あの頃のアイドルとしての魅力がこれっぽっちもありません」
辻村はそう冷たく言い放つと、楓に背を向けてビルを後にした。
「……何なの?」
楓は辻村の言動に理解が出来ず呆然と立っていた。
ビルを出てから、辻村は帰り道をトボトボと歩いている途中、楓の言葉が気になっていた。
『奏が居なくなったら、アイドル上杉楓は成り立たなくなる』
『歌もダンスも奏に頼りっぱなしだったから、とても一人でなんて無理なのよ』
…あくまで辻村の想像になるが、楓は既にアイドルとして限界を感じていたのかもしれない。アイドルの本質である歌とダンスを奏が担っていることに罪悪感を感じつつも、今まで築き上げた地位や名声を保つために必死で奏が表舞台に立つことに戸惑い、素直に喜べなかったのかもしれない。
そして何故楓は、奏を楓に見立てたのか。もしかしたら…楓と奏、二人で築き上げた最高のアイドルを守りたかったのかもしれない。一人でも欠けたら、それはもう『国民的アイドル上杉楓』では無くなってしまうと思ったのかもしれない。
とは言ってもこれはあくまでも辻村の想像であるため答えではないのだが…今の辻村にはどうでもいいことなのであった……。
それから二年経った。今だにネット上では『#アイドルKは✕✕に殺された』がトレンド入りし、ネット民達による考察は続いていた。楓と一時期熱愛報道があった舞台俳優、楓を狙っていたカメラスタッフやディレクター等。今だ誰も本当の犯人には辿りついていないようであった。
一方、ただ一人この事件の真実を知る辻村はというと、アイドル楓のTOを引退していた。楓の真実の姿を目の当たりにし、すっかり気持ちが冷めてしまったようでTOの座を他のファンに譲り推し活も辞めてしまったのだ。
そして現在、マッチングアプリで出会った女性と結婚し、もうすぐ子供が生まれるという。
四人の尊い犠牲者を出したこの事件。果たして終わる日が来るのであろうか。それは誰にもわからない。
そして、更新が途絶えていたSNSアカウント『TREE WIND』が、最近新たにコメントを追加したようだ。このコメントの意味は…読者の皆様の想像にお任せします…。
『TREE WIND
・アイドルKは…Kに殺された』
〈完〉




