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五、#美園梢 マネージャー


 「――じゃあ、取材の予定とか分かり次第また連絡するね…じゃあね」


 

 とある高級マンションの一室。『スイートガールズ』のマネージャーである美園梢(みそのこずえ)が、自宅兼仕事場として利用している。

 先ほど『スイートガールズ』のメンバーにこれからのスケジュールについて連絡をし終わったところである。楓に続いて心音まで亡くなったことで、スケジュール調整に追われ美園はてんてこ舞いだった。



 「あ~あ。しばらくはタダ働きになるかな〜!全く楓も心音も死ぬし、ろくなことないわ…だるっ!」


 美園は電話を切ると椅子に座ったまま上半身を伸ばしながら愚痴を零す。さっきまでの優しい口調とは打って変わって品のない喋り方に変わり、秘密にしているというタバコに火をつけて吹かした。


 「はぁ……まぁ、とりあえず楓関連のグッズは今も売れるからいいや♪心音も自殺して、まぁまぁグッズが売れるようになったし♪」


 美園はタバコを咥えながら、スマホをポチポチといじる。画面には某フリマサイトの出品項目が並んでおり、その品物は全て『スイートガールズ』の関連グッズであった。特に、グループのエースであった楓のグッズが多く出品されていて、亡くなった現在でもグッズは完売されている。


 「よし、また楓グッズが売れたー♪やっぱ雑用ばっかで安月給のマネージャー職よりアイドルのグッズ売った方がよっぽどいい稼ぎになるなー♪」


 美園はグッズが売れたことにご機嫌になる。


 美園梢。大学を卒業してすぐに芸能事務所のマネージャー職に就き、あらゆるアイドル達のマネージャーを務めて現在『スイートガールズ』メンバー全員のマネージャーをしている。若いのに真面目で礼儀正しく、他の業界人からも高い評判を得ている。

 しかし、そんな彼女には誰にも言えない秘密がある。それは、自分がマネージャーをしているアイドル達の関連グッズを無断でフリマサイトに出品して生計を立てているのだ。


 華やかイメージのある芸能界とは対照的なマネージャー職は、事務仕事や担当アイドル達のスケジュール管理、レコーディング会社やテレビ局に営業かけたりと仕事は激務に反し安月給である。

 美園がグッズの無断出品に目をつけたのは、マネージャー職二年目の頃だった。仕事に対して不満を感じていた時、美園はライブで売れ残った関連グッズをこっそりフリマサイトで出品した際、なんと給料以上に稼いでしまったのだ。それに味を占めた美園は、バレない程度にグッズを盗んでは少しずつフリマサイトで売り捌き、今では仕事よりもグッズ売買に力を入れるようになっていった。


 「ホント日本に推し活って文化があって良かったよ。アイドルにどハマりのブ男達は際限なく金を落としてくれるし、このままグッズ売買で生計立てるのも悪くないなぁ」


 美園は口笛を吹きながら意気揚々としていた。すると、スマホに一通のメッセージが届く。


 『TREE WIND

 ・『スイートガールズ』のマネージャー 美園梢

 ・根性腐ってる ヤバッwww 動画流出↓  』


 「…なに?このメッセージ…」


 美園は謎のメッセージに不信感を感じつつ、メッセージの下部に貼られた動画リンクをクリックした。

 


 『ハハハッまた楓のグッズ売れたわ!馬鹿なドルヲタ連中あざーす(笑)!!』


 「―――はぁ!?何これ!?」


 美園は再生された動画に自分が映っていることに気づく。それは自分が自室でスマホを見ながらグッズ売買している映像で、グッズが売れたことにゲラゲラと笑っている。しかも最悪なことに、この動画がネット上に配信されていたのだ。


 「まずい…もう五千人以上が…これ見てる」


 美園は青冷める。世に知られてはいけない自分の秘密が世界中に暴かれてしまい、大勢の人間が見ている。動画が流れている間にも、大量のアンチコメントが届く。


 『ミカ

 ・マネージャー最悪!

 ・担当アイドルのグッズ売買とか終わってる』


 『モケケ

 ・ドルヲタ馬鹿にするとか許せない!』


 『マカロン

 ・こいつ人生終了www』


 「まずいまずいまずい…い、今すぐこのメッセージ削除しないと―――って、なんで消せないの!?」


 美園は慌ててメッセージを削除要請しようとパソコンを操作するが、パソコン自体がフリーズ状態になり動かせない。そして美園はもっと最悪な状況に気づいてしまう。

 

 「…えっ?待って…これ、今も配信されて…る?」


 美園は自分のパソコンの左上画面に赤いランプが付いていることに気づく。これは、インカメラ用のライブカメラだ。美園はまさかと思いながら赤いランプをクリックした。すると、画面いっぱいに自分の顔が映った。


 「ひっ!!!」


 美園はびっくりして勢い良く後退りする。さっきまでの自分の行動がネット上に公開されてしまっていた。


 「やばいやばいやばいやばい―――!!」

 

 美園は焦っていた。自分の悪行が世間に知られれば職を失うどころか人生も終わってしまう。


 「と、とにかく…このままトンズラしてほとぼりが冷めるまで何処かに身を隠して―――」




 ピンポーンッ


 

 突然鳴り響く玄関のチャイムに、美園はビクついた。


 「――たくっ!誰だよこんな時に…」


 美園はブツブツ言いながら玄関に向かった。宅配便ではないかと扉を開けようとした時、何故かひとりでに開いたのだ。


 「えっ…?なんで―――」


 ドスッ―――


 美園はひとりでに開いた扉に疑問を抱いたとき、鈍い音と共に腹部に強い痛みが走った。痛みがする方を見ると、左の脇腹に出刃包丁が刺さっていて血が滲んでくる。


 「うっ……な……なんで…」


 美園は刺された痛みで疼くまっていると、刺した人物は容赦なく美園を包丁で刺していく。


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!


 「い、痛っ!だ――誰…か!!」


 鈍い音と美園の断末魔の叫びが部屋中に響く。何度も刺された美園の体は血で染まり、床は水たまりが出来るほどの血が流れていた。


 「…た…助け…て……」


 美園は苦し紛れに助けを呼ぼうと手を伸ばすが、大量出血によって力尽き、絶命してしまった。



 「…ハハハッ!やった!やったよ楓!俺達を邪魔する奴を排除したよ!ハハハハハハッ!!」


 美園を刺したのは浪川だった。浪川の体は美園の返り血で血まみれになっていた。浪川は美園を殺して、狂ったように笑い叫ぶ。


 「待っててね楓…今君のところに行くから…」


 そう言うと浪川は涙を流しながら、血だらけの包丁を自分の喉元に思い切り突き刺した。痛みに苦しみながら浪川は床に倒れ、そのまま息絶えた…。


 そしてこの悲惨な光景は、美園のパソコンのカメラにバッチリ撮られていて、世界中に知れ渡ったのであった…。

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