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アルジキミヒト ―巨大企業に追われた発明家のオレが【主人公】の力を借りてヤンデレ系雪女とバグった物語を巡るカオスな異世界変身冒険譚―  作者: ユッキング加賀
第7章、サイバー太郎編『Dive in the mission――さあ、任務を遂行しよう』

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第35巻、The Human Replacement Project/胎動する人類置換計画

前回のあらすじ3行。

「01000110 01101111 01110010 01100110 01100101 01101001 01110100……喪失」

「01001101 01110101 01110100 01110101 01100001 01101100 00100000 01101100 01101111 01110110 01100101……相愛」

「01010010 01100101 01110011 01110100 01100001 01110010 01110100……再起」

 自身は昨晩、スクラップでとある少年に拾われた。


……青空の下、雨上がりの水溜まりに姿を映してみる。

『………………』

空気から動力源となる水分を取り込むための青いファイバーヘアに黒い液晶の目、『SB1-TR001』との製造番号と青緑色の三角形をしたロゴマークのある灰色のアーマー、オレンジのエネルギーラインが胴体・肩から手の甲に掛けて走った白いボディ。

「…………っ!」

……そして、隣で屈託のない笑顔を水面に反射させている身寄りのない少年……ボイド。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

再起動時リセット後の記憶媒体にはこう記録している。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 黒い雨の降る昨晩のこと。

右腕を失い棄てられていた記憶喪失の自身だったが、スクラップ場で拾ったボイドは付近の住処…と呼ぶにはあまりにも貧相なボロ屋までビニールシートの上に載せて引き摺る形ですぐさま運ばれた。


「しゃいばぁたおぅ〜、しゃいばぁたおぅ〜」

『…………?…………!』

ブルーシートと鉄パイプの骨組みの裏では、小さな電球に照らされている幾つもの工具が並んでいた。

自身には接合用の器具を取り出している少年の言葉が理解出来ないことを知らせるべく液晶の目を【? ?】としていたのだが、振り向きざまに意図が伝わったのか、それ以降は意味不明な言語を話さなくなった。


……しかし、そんな言葉の不自由さとは裏腹に、ボイドの機械を組み上げる手先は大人顔負けの卓越したものであった。

(これだけ厳しい環境に身を置いているのだ、少年が生きるために必要な力だったのかもしれない)

スクラップ場に転がっていた自身の右腕パーツとの溶接、縫合…修繕を僅か30分で不具合もなく完了させてしまったのだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 マシン修理で得た報酬金を使い、汚れた河川の傍にある闇市で部品と培養肉の缶詰を買って帰宅した自身とボイド。

廃墟にある天井の梁へ自身の手の甲から発射したオレンジのワイヤーを引っ掛け、ボイドは木の板を膝の上に乗せると体重を預けてくる。

ブランコと化した自身の膝の上で、ボイドは封を切っていた缶詰にフォークを突き立てては涙目になりながらも腐りかけの肉を何度も口に運んでいる。

「…………、…………っ!」

少年は天井の隙間から窺えた雲一つない四角い青空を指差しては、自身へ純朴な笑顔を再び向けてきた。

(ボイドはきっと行きたいんだな、上の世界へ。…………『空に一番近い場所』へ)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日の最下層も晴れていた……最上層から吹き抜けた一部分のみだが。


自身は少しでも生活の支えになろうと思考を巡らせた結果の行動として、朝から汚染された川の水をブリキのバケツでボロ屋まで運び、周辺の砂や土などのフィルターを通して濾過した水を使ってボイドの泥だらけとなっていた服を洗濯していた。

近所から比較的陽当たりの良い位置を分析して割り出し、物干しにも自身の放ったワイヤーを利用して水分を飛ばしていた。

(無意識のうちに使えていたこのワイヤー。……元は何の用途理由を想定されていたのだろうか)

自宅で依頼品の修理をしていたボイドも見ていないのに、自身はまたしても【? ?】といった目を表示してしまった。


夕食である培養肉の缶詰をボイドに与えていると、突然何やらマジックペンのようなものを食卓テーブルの代わりとしていた作業台の裏にある棚から取り出してきた。

「…………っ!」

自身に、缶詰の横に転がっていたダンボールの切れ端へ何かを書かせようとしているらしい。

少年から期待の眼差しを向けられる中、「Boid」とだけ書いて左の人差し指でゆっくりなぞりながら発音してみる。

『B・o・i ・d』

「ぼ・い・ど!きゃっははっ!」

……お気に召したらしい。

同様に『H・e・l・l・o』と教え込むと「へぇ〜ろぉ〜」と表情筋一杯に発音してきた。

――――バグを起こしてしまったのか、魔が差した自身は次に『There’s no accounting for tastes.(蓼食う虫も好き好き)』と切れ端の裏にサラサラと一筆。

……すると、ボイドはダンボール片とペンを奪って文章の横に「? ?」と書いて丸で囲っていたので思わず笑い掛けてしまった。

(この少年は、知らない自身をどこまでも引き出してくれる。……実に面白い人間だ)

その後もひたすらジグザグに文字ともつかないカクカクとした波線を横に描いていた。

(これでは英語というより”ボイド語”だ)


その晩、ボイドは自身の右腕の中で静かに寝息を立てていた。

『こんな日常も、悪くないものだ』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 それから更に翌日、汚れ切った雨が降る夜のこと。

ボイドと闇市から期限切れ寸前の培養肉の缶詰と基板パーツを持ち帰る道中、近所のホームレスが10体の遺体となって亀裂の入ったアスファルトで血溜まりができていたのを見つけてしまった。


(銃殺……にしても、傷口が広い)

理由は不明。

住居周辺は当然、闇市ですら今までの2日間に兆候のようなものも見られなかった。

言葉による意思疎通が難しいと判断する友(・)達(・)だったが、無理矢理に腕を引っ張ろうにもまだ子どもだ。

(遺体はまだ新しい。犯人はまだすぐ近くにいる可能性は87%。……まずは少年の安全確保だ)

異様な状況から血の気が引いたボイドを急いで例の小屋まで連れ帰ると、単身で事件現場へと急行した。


――――――そこに佇んでいたのは、赤いファイバーヘアと青いエネルギーラインをギラギラとさせる漆黒のアンドロイドだった。


(自身と同じタイプ……?――いや、違う。あの左胸にあるのは『SB1-TR002』。自身の、次世代機…なのか)


……闇夜の雨足の中、チャプ…チャプ…と歩幅の小さな足音がした。


追ってきてしまった少年に通じる筈もない『……何故来たんだ』という言葉を浴びせる。

その時「――――助けてくれ!」との声がゴミと汚水で汚れ切ったアスファルトに響いた。

(頼む、ここで動かないでいてくれ……)

願望をアテにしながら、道端にもたれかかったロッカーへとボイドを押し込んだ。


「……!……!」

(すまない。今だけは許してくれ、ボイド)


……意思疎通の不自由さに辟易させられる。

悲鳴のする方へ駆けつけると、右腕をライフル銃へ瞬間的に換装させたSB1-TR002は目の表示がない液晶画面に標的を反射させていた。

『Target acquired. ――Commencing the operation』

(ターゲット、捕捉。――これより作戦を開始する)

銃口はボロ布を被った痩せこけたようなホームレスの男性へ向けられていた。


『そこを退け、失敗作(SB1-TR001)』

『SB1-TR001?――――認証…否(・)定(・)。自身は…スクラップから生まれたサイバー太郎……人間の友達だ』


冷たい夜のゴミ溜めで全身のエネルギーラインをオレンジの血潮が駆け上がる。

『人間の友達?血迷ったのか、貴様は私と同じダイバートポロジムの傭兵だったのだぞ』

『血も涙もない傭兵アンドロイドである君に言われたらお終いだな、後輩(SB1-TR002)。……何の目的でホームレスを襲うんだ』


信じたくなかった。

……ジャーナルの報道通り、ダイバートポロジムは街の発展と成長のために尽力していたのではなかったのか?


『社長の御意思だ。「世界の平和を維持するには、自己性などあってはならない」、と。

サイバーポリスを、最終的に地球上の全人類を我(・)々(・)と同様アンドロイドへと置換し、その全思想を合一する。

社会の毒となる多様性を排除し、一つの考えを以て規則正しく生きるのだ。

……これはその為に必要な、"清掃活動"の一環であるのだと』


人間の自己性、多様性が、毒……?


『そして、社長のお考えに異を唱えた「多様性に対して肯定的であった」父親である会長の頭蓋へ引き金を引いた。……ベリル社長は実に崇高なお考えをお持ちだが、当時ボディーガードとして雇い、社長の身代わりにしてやったパンサースミスは世間に事実を公開しようとしていた。……故に、討たなければならない』


社長が会長である父親を殺害し、パンサースミスという組織か何かに濡れ衣を着せた…だと……?


自身は既に、両手からオレンジのワイヤーを伸ばして臨戦態勢に入っていた。


『ダイバートポロジムの意思に反逆するか。……いいだろう、SB1-TR001。企業に戻るつもりがないのであれば、即刻、削除(デリート)執行対象だ』

そう話すと、自身と同様に青いエネルギーワイヤーを左腕から現したアンドロイド。


(危険だ。生き残りのホームレスから注意を逸らしつつ、ロッカー内のボイドとともに帰還など簡単ではない)



演算回数76回目―― 【シミュレーション開始】


「―――――――っ!」

『ボイド!何故飛び出した!?(理解不能、理解不能……)早く逃げるんだ!』

音声出力も虚しく、ホームレスを庇おうと黒いアンドロイドの右膝へ体当たりする。

『……何だ、この子どもは』

銃口はボイドを向いた……かと思われたが、再度初老のホームレスへ。


『構うものか。……任務を、続行する』


――――――――銃声音。


黒いアスファルトに拡がる鮮血。


『………………………………………………』

言葉が出ない。

本当に辛いことが起こるとアンドロイドでも真っ白になってしまうのだと学習させられる。


『ボイド……』

短い間だったが、そこにはまぎれもなく「楽しい」と思える瞬間と、唯一無二の『友達』という存在が居たことを逡巡するデータアーカイブの中で思い知らされ、そして現状を前に打ちひしがれる。


『……ボイドは、何のために死んだのだ』


――――汚れ切った雨。


『こい、SB1-TR001――――ッ!?』

全身からオレンジのワイヤーを現出させたサイバー太郎。

「憤怒」というステータスに身を任せるまま、瞬く間に企業のアンドロイド(SB1-TR002)を形成する四肢と頭部パーツにワイヤーを巻き付けると引き絞る。


『今すぐ中止しろ、001。このままでは同型殺しに――、…………』

八つ裂きに――鉄屑へと変えていった。


『もう一度だけ、聞く。……ボイドは何のために死んだのだ」

謝罪も感謝もなく逃げ去るホームレスを横目に、ボイドだったものに布を被せる一匹の感情の獣。

…………すると、メインカメラに表示されたのは「対反逆用消去プログラム」と00:59:57。


――――かつて友達を愛したアンドロイドが血塗られた復讐鬼(アヴェンジャー)へと変貌した瞬間であった。


――演算終了。

【前述した条件が達成不可能である確率……94%】


(どうすれば……)


「―――――――っ!」

その時、悪夢は現実のものとなろうとしていた。


『ボイド!何故飛び出した!?(やはり理解不能、理解不能……)早く逃げるんだ!』

音声出力も虚しく、ホームレスを庇おうと黒いアンドロイドの右膝へ体当たりする。

『……何だ、この子どもは』

『やめろ、君の相手は自身だ――――ッ!?』

刹那、メインカメラ内で青い閃光が振り下ろされたと同時に右腕との接続が遮断された……いや、物理的に切断されたのだ。


『そこで指でも咥えて見ていろ。――左手でな』

改めて銃口はボイドを向いた……かと思われたが、再度初老のホームレスへ。


『子どもなど構うものか。……任務を、続行する』

変わらなかった。……現実は非情なのだと、解っていたのに。


(ボイド、無力な自身を許してくれ……)



――――――――銃声音。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「嵐流忍法……鎌鼬手裏剣ッ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――



――――――――銃声音?




「まったく、竜星に勧められたから闇市まで行こうとしたってのに。とんだ場面に出くわしちまったな」

(誰なんだ、あの変態は……?)

腰には銀のベルトを巻き、赤青黄の布で顔も全身も包んだ珍妙な出で立ちがそこにはあった。


『くっ…私のライフルをよくも破壊してくれたな……!』

「おい、そこの黒いヤツ。――――相手してやるよ。……1分間だけな『アタックチェンジ――嵐忍者ハヤテ』」

すると、嵐忍者ハヤテというシステム音声とともに、再び不可視の刃が雨粒を裂いてきた。

『ボイドと…ホームレス――離れるんだ』

無事だった左腕からオレンジのワイヤーを発射し、SB1-TR002の脚部を拘束した。

『小癪な。――――しまった、標的が!?』

「…………「ひ、ひぃぃ~!」―――っ!?」

ボイドが手を貸そうとしたホームレスはその手を振り払い、一目散に廃墟の先まで駆け出してしまった。

『…………標的、消失』

伸ばしていた青いワイヤーを切断された上に削除対象を見失い、黒いアンドロイドは俯いた。


「今だ、逃げるぞ。子どもと……001かお前?」

『違う。――――自身は、「お…」あ~~~、サイバー太郎だ』

「……ふっ、その落ちた腕持ってろ。『アタックチェンジ――嵐忍者ハヤテ』」

切断された自身の腕を拾ったボイドを左腕で抱き寄せつつ、変なジャパニーズニンジャにこの身を預けることにした。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前――――一陣の風に、なれ。嵐流忍法……山靄(さんあい)煙幕!」

ジャンクの入った買い物袋を腕に掛けながら、目にも留まらぬ早業で九字法の印の結びをトリコロールな胸の前で連続して両手で表すシノビ。


『煙……!――き、消えた……』

まさにVanish in smoke(雲散霧消)。


――――『SB1-TR002。今の一部始終をメインカメラの記録でチェックさせてもらった。――やってくれたな』

『ベリル社長!……申し訳ございません』

突如視界内に表示されたのは、赤ワインを傾けているバスローブ姿の社長だった。

『ところで、あの死体の山はなんだ。命じたのはレアード・マッケンジーの暗殺だったハズだ……仕事の憂さ晴らしでもしていたのか?』

『――違う!アレをやったのは私ではない!5体の銀色のアンドロイドで……』

『――――見たんだな。光子力(フォトン)を導入した最新モデル、SB1-TR003を』


『……………………………………………………』

気付いた時には遅かった。既に私は、その5体の銀色のアンドロイドに包囲されていたのだ。

『ホームレスを撃ったのはコイツらだ!――不具合(エラー)だ、これは何かの間違いだ社長!』

『いいや、002。――実戦配備前の射撃訓練さ』

私を囲う金のエネルギーラインが眩しいアンドロイド軍団は、一斉にこちらへ右腕のエネルギーキャノンを向けてきた。

『待ってくれベリル社長!私は社長の右腕としてこれまで……』

『右腕をガラクタに換装したつもりはない――――撃(・)て(・)』



サイバーポリス、最下層。

――――――――――――最終実験は、終了した。

This isn’t a story about how they lived. It’s about the way they faced their end.

(どう生きたかではない。どういう生き様で死んでいったのか)


……Now, I can say without hesitation that it was never that simple.

(……今なら、決してそれほど単純なことではなかったと断言できる)

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