↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルジキミヒト ―巨大企業に追われた発明家のオレが【主人公】の力を借りてヤンデレ系雪女とバグった物語を巡るカオスな異世界変身冒険譚―  作者: ユッキング加賀
第7章、サイバー太郎編『Dive in the mission――さあ、任務を遂行しよう』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/47

第34巻、The Junkyard HERO/サイバー太郎

前回のあらすじ3行。

「01000011 01101111 01101110 01100110 01101100 01101001 01100011 01110100……抗争」

「01010100 01101000 01110101 01101110 01100100 01100101 01110010 01100010 01101111 01101100 01110100……雷霆」

「01100011 01101111 01101110 01110011 01110000 01101001 01110010 01100001 01100011 01111001……陰謀」

『キミヒト・アルジ、キネシス。…………、短い間だった』


 ダイバートポロジム製、傭兵アンドロイド『SB1-TR001』は最期の一言に友の名を掲げた。


"アンドロイドが心を持つことは、サイバーポリスでは重罪だ"


『アルジ、キネシス』


"…消えていく"


『アル…、キネ……』


忘れるということは、こんなにも恐ろしいことだったのか。


『………、…………』


"自身は"


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【Keep Out! The scrapyard operates 24 hours a day.】

(立ち入り禁止!スクラップ場は24時間稼働中です。)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今夜のサイバーポリスは曇天。

この『Neo satellite』のガラス張りの店内からでも、今にも雨が降り始めてしまいかねない長方形の天気模様がよく見える。


「竜星〜、そこの工房を借りたいんだがぁ〜」

「その六角形の板を加工したいのか?」

「板っつーか、これでもれっきとした精密機器なんだけどな」


店長である駆導竜星に見せたのは『変身キャストドライバー』。

先のパンサースミスとの仁義なき戦いを繰り広げていた際に、あそこのレアード・マッケンジーとかいうおっさんがやられ際に放った一発の弾丸を防ぐのに盾として使ってしまったのだ。


「……使ってくれて構わない。とっくに閉店時間だからな。――ジェイク、売上記録の記入は終わったのか?」

「任せろ。この帳簿界のキングであるこの王(おれ)からすれば、今日のような大したことのない金額など……」

レジカウンターで青筋を立てながら数字と睨めっこしているもう1人の店長ことジェイクが気になったのか、竜星が駆け寄っていった。


「一日中バタバタしてたんだし、もう今日は休んじゃえば?」

猫耳フードの中から銀のおさげを垂らし、心配と微笑みの入り混じった表情でこちらの顔を覗いてくるバッドガールな恰好のキネシス。

「そんなワケにはいかないって。……それに、このベルトに万一のことがあったらエネオプへの復讐も成せなくなる」

「…アルくん。生きている身体は資本だよ?わたしみたいに死んでからじゃ遅いんだから」

本物の幽霊に言われると言葉が重く感じる。

「そう言われると弱いな。――でもやるぅ〜!!」

「あっ、ちょっと、アルく〜ん!……行っちゃった」

そんな雪女の誘惑を振り払ったオレの手には、既にプラスドライバーと晩飯の培養肉ブリトーが握られていた。


――――『本日の昼頃、シティ区の二層ステファンにて建物倒壊事故がございました。近隣の従業員からは……』


ジェイクの手助けが済んだのか、竜星は静かに聴き込んでいた。

「…もうジャーナルで取り上げられているな。お前たちが起こしたという、パンサースミスのアジト倒壊は」

天井に取り付けられた円形の装置から出現している全方位ホログラムの報道番組。

眩い映像で飛び込んできたのは、オレ達が襲撃したカジノキャバレーことジュエリーズだった瓦礫の山であった。


――――『SSPはパンサースミスのリーダーであるレアード・マッケンジー氏を指名手配犯にし、現在捜査中とのことです。以上、キャスターのダーラがお送りいたしました。――続いてはスポーツのニュースです。現場のコートニーさぁ〜ん!』


……あっという間に赤いロボットアイドルがアンドロイドのラグビーチームへインタビューを敢行する場面へと切り替わった。



「見た感じ傷はなさそうだが、内部に故障箇所が出ていたら心配だからな(もぐもぐ)」

だから定期的なメンテは必要なのだ。


「調子はどうだ、アルジ」

「ああ、竜星か。さっきまでジャーナルに目がいっちまってて(もぐもぐ)」

「アルくん、話聞くときぐらいブリトー離しなよ(かわいいから許すけど)」

竜星は気にも留めないばかりか、コーヒーを片手に結局手付かずだったベルトに触れている。

なお、ジェイクはブラックコーヒーの飲み過ぎでトイレに籠っている模様。

「俺の知らない手触りだ。素材は何で出来ているんだ?」

「オレのキャストドライバーは内部の精密部品を徹底的に守る目的で7種類の素材を使っていてな。

カクテル効果を500%に引き上げるグランチタニウムと、バナジウム、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステンを均等に混ぜたハイエントロピー合金に1at%だけ半金属(メタノイド)のケイ素を追加して高強度と耐熱性、耐食性を高めているんだ」

「うーわ、アルくんの言ってること全然分かんないや」

むしろキネシスのオツムで解ったら大したものだが。

「端的に言えば、グランチタニウムの力で太陽の倍以上の熱とか並大抵の衝撃ではびくともしないってことだ」

「どおりで銃弾を弾くのにも使ってたわけだ……」

たまたま盾にしちゃっただけで…とか話そうとしたが、既にキネシスは自分のおさげを弄っていて興味を失くしたらしい。

「それだけの強度なら、俺たちのスペースシップにも利用出来そうだな。……ただ、そのベルトのような一点物ならともかく、レアメタルが含まれていてコストが割高になりそうだ」

割高どころか、グランチタニウムに至ってはエネオプ時代に後輩のゴリガンから貰ったお土産の民族衣装から抽出したものだ。

マシンオーガの世界ではレアメタルはその辺に転がっているらしい。


「んじゃ、メンテのために今から10分ぐらいコイツの電源を切る。全自動翻訳機能が一時的にオフになるから、その間だけ会話は出来ないぞ」

店の一角、竜星から借りた緑のマットが張られた作業用デスクにそれを置くと、オレは紙コップのコーヒーを啜って脳細胞をトップギアにする。

「キャストドライバーのメンテナンス、開始!」

腹を抱えたジェイクが御手洗い界のキングを名乗る中、オレは暗がりでデスクライトの白い灯りに照らされながらドライバーの電源を落とした。


「Think I'll have some milk」

(ミルクでももらおうか)

「……Hmph. Once you've had a drink, just be a good boy and take a shower」

(……ふん。飲んだら大人しくシャワーでも浴びるんだな)


ベルトの電源が落ちた瞬間、世界とオレとの間に言語の壁が現れたことを体感した。


―――――――――――――最下層、スクラップ場にて―――――――――――――


『……、……、……。システム、再起動。――――自己(セルフ)メンテナンス、開始』


「メインカメラ――正常。

 ライトアーム――欠損。レフトアーム――正常。

 ライトアーム――正常。レフトレッグ――正常。

 ファームウェア――最新。

 記憶媒体――破損。安全のため、内部情報を完全初期化。1%、12%……」


『工場出荷状態に復元完了。自身の型番は――SB1-TR001』

「…………?し(・)ゃ(・)い(・)ば(・)ぁ(・)た(・)お(・)ぅ(・)?」


 降りしきる黒い雨に濡れるスクラップの山(ジャンクヤード)。


『言語認証、Japanese。解析結果――――【サイバー太郎】と認識。……サイバー太郎?』


スクラップ場で稼働し続ける、汚れ切った重機で響く鉄板の反響音。


『……SB1-TR001』

「しゃいばぁたおぅ!」

(会話、不成立……)


薄汚れた壊れかけの自身に左手で指差すと「しゃいばぁたおぅ」とまだ呼ばれたので、今度は少年にそれを向けると「ぼいど!」と叫んだ。


……以降、少年の個体名を『ボイド』とメモリに記録した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ソーラーパネルの黒い路面に打ち付ける土砂降りと、キュイインという機械の音が時刻てっぺんの静寂を打ち破る。


「うーん……」

ハイパーフラグライト。

レアードが掲げた時に放たれた凄まじい電流は雷そのものといったところ。

せっかくヘンゼルとグレーテルの世界で組み上げた予備用のコネクター素体だったが、あの強大な力を制御するのは簡単ではない。

「雷を機械的に制御する最適化って何なんだよ、おもしれーけど難易度高過ぎんだろ……」

避雷針や雷サージのような「避けるもの」とはワケが違う。

……運用方法の想定としては現状、『磁力式絶縁トランスによる高圧電流の電気的分断』だ。

装置に填め込むため、備え付けの加工機でビー玉のような形に加工した宝石には最初、接続用の対高圧電流用電線を巻き付ける。

次に感電防止のため上から半円状の強化ガラスカバーを被せる、と。

「店先の市場で揃えられれば一番だけどな……」

こんな時に材料のAI生成が出来れば楽だったが、都会のど真ん中でカプセルハウスを展開するわけにはいかないしな。


竜星とジェイクは各自室で既にぐっすり。

キネシスは…鼻歌混じりにソファーをベッド型へとリクライニングさせていた。

「……シャワー浴びてくるか」

体を休める前にサッパリさせたい欲が高まり、作業用デスクから立つことにした。



「あぁ……」

シャワーから降り注ぐ一滴一滴が全身に溜まった疲労を解いていく。

考え事をする時こそ、こういう何も考えなくていい時間が必要なのだとエネオプ時代から思い知らされている。

「……………………」

001…アイツ今何してんだろうな。

パンサースミスのリーダー・レアードの暗殺を企業から命じられていたハズだったのに、車に轢かれそうになったレアードを救出していた。

「レアードを轢きそうになったあの黒い車、もし偶然でないとするならダポロジの車両だったんじゃ……」


――――――「だ〜れだっ」

突然、背後から伸びた白くて細い、肌触りすべすべな両腕。

……いや、待て。

「キネシス…お前、まさか、は…裸……!?」

「シャワーなんだから、裸に決まってんじゃん。ア〜ルくぅ〜ん」

背中に押し付けられた二つのマシュマロのような双子の山と何かの突っ…待て待て待て!!!!

「えーっと、冷水に変えたからな。キネシス……」

「アルくんの心臓、バクバクしてるね」

「するだろそりゃ…するだろうが……」

ひんやりとした頬を擦り付けてくる度、あの柔らかい感触がモチモチと動く。

「(クールになれ、クールになるんだアルジ・キミヒト……。オレ達は相棒、旅の相棒。いま肉体関係なんて持つわけには……)」

意識しまいと目をつぶったものの余計に感覚が研ぎ澄まされてしまい、興奮の熱が昂まって仕方ない。

「……いいんだよ、アルくんが望むなら。――わたし、アルくんのこと好きだから」

「頼む、頼むからこれ以上胸を押し付けてこないでくれ……」

「……いや、だった?」

「別に嫌じゃないし、むしろ歓迎なんだけど…違う違う、そうじゃなくて……」

「そうじゃないなら、なに。……わたしはその声でハッキリ教えてほしい、かな」


「――――好きに決まってんだろ。……1人の、女性として」

「――――――――っ!!」


…………シャワーの降り注ぐ音が止まった気がした。


「ならっ!」

「――待ってくれ、キネシス。待ってて、欲しいんだ……」

「えっ……?」


嫌いになるワケがない。


あの雪山で出会ってから現在に至るまで、楽しいことも辛いことも沢山あった。

2人だからより楽しかったし、2人だから乗り越えられた。

けどそれは、他の誰でもないキネシスだったからなんだ。

あのまま独りで復讐のためだけに旅を続けていたならば、今頃感情を殺したオレが居たのかもしれないと思うとゾッとしている。


……だから、こそ。


「……キネシス、お願いだ。今のこと、まだ聞かなかったことにしてほしいんだ」

「どうして……?アルくんのこと以外考えられないし、何でもしてあげたいぐらい好きなのに」

「お前のこと、大事にし過ぎて頼れなくなる……から」

「…………」


もしキネシスと相棒以上の関係を持ってしまったら、オレはお前のことを共に戦う存在から全力で守る存在へと認識を改めてしまう。

「オレが敵に回しているエネオプはさ、故郷を資源化しようとしているんだ。親も師匠も、その企業に殺された。復讐を果たしたいのに目的がキネシス1人になっちまう」

「じゃ、じゃあ…わたしとは、もう……」


心が痛い。

……キネシスの悲しむ声だけは、これ以上聞きたくない。


「だから、『まだ』…なんだ。――エネオプのこと、さっさとブックワールドでシバき倒してさ。そしたら……改めて、オレから告白させてほしい」

「っ!!…………待ってるね、アルくん」

「待つな、一生オレの隣に居てくれ」

「それ、告白じゃなかったらなに?プロポーズ?」

「うっせ。……つーかいつまで抱き着いてんの、寒過ぎて風邪引きそうなんだが」

「ふふ。ごめんね、そろそろ出るから!……出る前に、こっち向いて」

「えっ、あ、うっ、うん……。――――っ!?」

待ち受けていたのは、オレの顎を捕えた冷たい両手と柔らかな唇によるフレンチなキスだった。

「…………っ、はぁ…はむ、ん……っ」

脳を電流が駆け抜けていくような刺激と酸欠による意識の薄明、情愛と快感の波が押し寄せてくる。

「ぶはっ……。じゃ、おやすみ!」

蕩けた顔を離すと、唾液の糸を垂らしたキネシスは一足お先にシャワールームを去っていった。


「……………………、ヘックショイ!……お湯に切り替えるか」


冷め切った全身の熱をシャワーの温水で取り戻すと、さっさと寝巻きに着替えてキネシスの待つベッドへと向かった。


――――――――――――結局、あまり寝付かなかった……――――――――――


「――この店にある部品、全部くれ」

「お、お客様ぁ…!?」

 朝、Neo satelliteの自販機で買ったサラダタコスを平らげると、店の前に出店していた電子機器パーツの屋台に並んでいた全商品を買い占めてやった。

(2100ダラスか、綾瀬の居た池袋換算だと大体30万円以上はしたな……。まぁ、開発のためだ。背に腹は変えられないか)

エネオプ時代は役職手当があるくせに、当時からホームレスだったオレは寝泊まりも毎日オフィスな上に仕事に忙殺されて貯金が貯まっていく一方だったしな。

……にしても稼ぎ口がそろそろ欲しくなってきたが。


――――『本日のニュースをお伝えします。サイバーポリスのAI企業である「ダイバートポロジム社」と、光子力(フォトン)技術の開発に力を入れている「エネルジオプティマス社」との記者会見があり、生産及び技術提携の発表がございました。…………』

「は?…なんだよ、それ……」


通りの手すり付近に設置されていた街灯に浮かぶホログラムモニターでの会見時の映像では、『ダイバートポロジム社 ベリル・ウィーバー社長』というテロップとともにブロンドのオールバックに清潔感のある黒スーツの男性がアップで映されていた。

『弊社の生産力とエネルジオプティマス社の技術力、双方の強みを一つにすることで社会システムと街の更なる発展のため、より良い開発を進めていきたい所存です』


続いて、左隣の人物にフォーカスが当てられた。


「あっ、アイツは確か……!?」


―――――――――――――――雪女の世界――――――――――――――――


「ふむ、『アルジ・キミヒト』。だな」


「我はアーザフ。ビュートよ、任務完了だ。次へ行くぞ」

「ムグッ、ムグッ!…ぷはぁ、仰せのままに」


「おい待てッ!逃げるなァァ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


映像に姿を見せたのはボロボロのフードの人物、テロップには『エネルジオプティマス社 サイパーポリス支部 アーザフ支部長』と表示されていた。

(間違いない……。キネシスの居た世界で青年と年寄りの主人公らを刺殺し、世界を崩壊させた元凶……!!)


―――――――――――同時刻、アンダー区四層・闇市にて――――――――――


 シティ区の生活用水や工場排水によって汚染されたヘドロのようなコロンビア川の河川敷。

メガプラットフォームの天井に日光を遮られた世界で、黒や青といったビニールシートと鉄パイプの骨組みだけで組み立てられた貧相な市場。

そんな最底辺の世界にて、とある2人はジャンク品の前世紀的なラジオからジャーナルを耳にしていた。


『アーザフです。――具体的には、ダイバートポロジム社の軍事・民間用アンドロイドに我が社の光子力技術を搭載した最新モデルであるフォトンアンドロイド「SB1-TR003」の開発及び生産を計画しております。ダイバートポロジム…ひいては今後のサイパーポリスの今後のため、強固なパートナーシップを結んでいきたいと思います』


「………………?」

「(ダイバートポロジムは自身の生みの親。……ボイドはまだ理解していないようだが、街の発展のために尽力されるとは素晴らしいことだ)」


 もどかしい。

自身の右腕を修理してくれた隣の少年、ボイドは満足に教育を受けられていなかったのか言葉が通じないのだからな。

…………『もどかしい?』 何だ、そのステータスは。


自身はボイドの茶と黒が混ざった髪を崩すように撫でると、直してくれた右腕とで手を繋ぎながら市場を後にした。




『President Beryl. SB1-TR002 reporting.

――――Initiating operation. Primary objective: track down and eliminate Laird MacKenzie.

(ベリル社長、こちらSB1-TR002。――――これより、レアード・マッケンジーの捜索及び暗殺の任務を開始する)

……暗殺が初仕事か』


シティ区から伸びたエレベーターの扉の奥から、全身に青い閃光が迸る黒い災厄が舞い降りた。

幕間【胡蝶の夢】


「――空に一番近い場所。ボイドが、行きたがっていた場所」



 Do Androids Dream of the Sky?――混濁した世界の中。


『彷徨えるまま。ただ、彷徨えるままに行くんだ。最期まで辿り着くことがなかった、楽園を求めて』


運命に誘(いざな)われるままに向かっていった先は、観光用の展望デッキだった。


――――自身はこの街を知っているようで、何一つとして知らなかった。

この取って付けたような場所なんて知らない。


まだボイドが生きていたのならば、一緒にここまで連れてきていたのかもしれない。


現在時刻は確認出来なかったが、たぶん朝なのだろう。

陽照りが全身を焦がすように降り注ぐ中、自身は端の手すりに寄りかかる。

眼下に広がる交通網と日常。


――――教えてくれ。自身は…自身は……、何のためにここへ来ているのだろう。

時に、アンドロイドでも夢を見ることがあるのだろうか。


血に塗(まみ)れたような名声を得て英雄気取りだとか、そんな下らないもののために動いていたわけではない。


“寒い”という感覚を得た。


『ボイ…、ド……』


消えていく。

表情。声紋。体温。その全てが、メモリーの海に沈んでいく。


――気付けば、支えとしていた白い手すりの上で屹立していた。


胸部ユニットに手を当てるもアンドロイドである自身に心臓はない。

それでも、きっと思いを馳せる“何か”があった気がした。


『……自身は』


溶けてゆく記憶の泥から、せめてあの名前だけでも引きずり出したかった。


『――――――――ボイド』


確かにそこには日常があった。

彼との友情があった。


――あの時、手を差し伸べることが出来てさえいれば。


"もう一度、君に会いたい"


自身は虚空へ身を投じてみる。

……重力に従い、次第に意識が遠ざかっていくのを感じた。



――――ただの悪い夢で、あってくれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。