第32巻、Hyper Fulgurite/霹靂の頂き物【前編】
前回のあらすじ3行。
「01010110 01101001 01110011 01101001 01110100……来訪」
「01001001 01100100 01100101 01100001……着想」
「01000101 01101110 01100011 01101111 01110101 01101110 01110100 01100101 01110010……邂逅」
「――――おい、買い物しろよ」
ここは工房のような中規模の個人店舗、『Neo Satellite』。
「「(この状況で買い物〜〜〜!?いま変な集団から絶賛強盗中ですけどぉ〜〜〜???)」」
オレとキネシスが一見正しいように思えた店長・駆導竜星の『真面目そう』という第一印象、だがそれは大いなる間違いだったのかもしれない。
「ネオサテライトのクズが、この俺達に買い物だとぉ〜?みかじめ料も払ってないくせに、笑わせんなよ」
「……スパナは拾ったか?お前達が荒らした形跡を無くせば、今日のことは全て無かったことにさせてもらう」
青いエプロン姿の店長はヒョウ柄作業服のチンピラ3人組が蹴り上げたせいで散らばってしまった工具の方が気に掛かっているらしい。
「……?お前達は」
横のカウンター席で超マイペースにコーヒーメーカーでブラックを一杯淹れ始めた元店長ことジェイク・マキシムに気を取られていたが、とうとうオレ達の存在が店長に気付かれた。
「あ、ああ。…さっき店の方からエラい騒ぎ声があったもんだから、つい……」
「――――ふん、パンクな野次馬カップルが居たものだな」
非常事態なのに呑気なキングさんにだけは言われたくない。
「カップル…!って、せっかく助けにこようと思ったのに野次馬呼ばわり〜?」
「ならば校閲界の王が訂正しておいてやろう。その猫耳バッドガールは荒馬だったとな」
「っ〜〜〜!!!」
さすがのキネシスも普段とは別の理由で顔を真っ赤にしている。
「静かにしてくれないかジェイク。俺たちはいま大人の会話をしているんだ。……出来ないなら、大人しく服が散乱した部屋の掃除でもしていてくれないか?」
「竜星…(ぶくぶく……)」
カウンターの隅でコーヒーによる感情表現を始めてしまった。
「哀れ、キングさん……」
これにはじゃじゃ馬キネシスも同情。
「な〜に俺達を放っぽっていやがる!――やっちまおうぜ、お前ら!」
「「おらおらぁ〜」」
放置されていた扱いにキレたチンピラどもが駆導店長に詰め寄っていく。
「野次馬、俺に力を貸してくれないか?」
「アルジ、な。……元よりそのつもりだ!」
――途端、走り出すオレと店長。
「ふっ!……ッ!!」
「ガッ!?「ハグッ!」
店長は早速手前の1人目を前に一瞬しゃがみ込むとすかさずアッパーを顎に打ち込み、そのまま2人目の顔面に2発のジャブを決めてから回し蹴りでジェイクの元までふっ飛ばした。
「王が手を下すまでもないな、これは」
一方、倒れ込んできたチンピラの頭にジェイクは頬杖を突きながら熱々のブラックコーヒーを浴びせかけていた。
「変身するまでもないっ――なッ!」
最後の3人目を相手にしたオレだったが、カウンター席の端にあったロボットバスケチームのチラシを一枚抜き取って顔面に押し付けた。
「¥%¢≦!」
「はいはい。おやすみマフィアさん――氷拳」
トドメに氷のメリケンサックを装着したキネシスのボディブローが入り、無事KOとなった。
――――――――――――――――5分後。――――――――――――――――
「んあぁ……、あっ!な、何だ、この鎖は!?」
喉が渇いていたのでコーヒーメーカーで一杯淹れたところへキネシスの力を借りて作ったアイスコーヒーを味わっていると、竜星のスペースシップ用チェーンでグルグル巻きにされていた三馬鹿が目を覚ました。
「既にサイバーセキュリティポリスには通報済みだ。観念して懺悔でもしているといい」
「ふ、ふぇぇ……」
手際が良過ぎるだろ、この店長。
「ふん。このナンプレ界の…」
それにひきかえ、このきんぐさん。
「さっきは助かった、2人とも」
あっ、比較的マトモ寄りの店長だ。
「いやいや、そんなことは…あるが」
「――雑魚だったろ、アイツら」
(数秒の沈黙後)
……前言撤回。――あっ、そうだ。
「自己紹介がまだだったな。…オレはアルジ・キミヒト。んで、そっちの……」
「ふげぇっ!?お、大人の味だぁ〜」
「…………そっちのバカが旅の同行者、キネシスだ」
挨拶中にオレの飲みかけのアイスコーヒーで悶え込むヤツがあるか。
「お互い、相棒で苦労しているんだな。――俺はここの店長、駆導竜星だ。……そして向こうに居るのが」
――「何っ!この王が不正解だとッ!?しかもまだ初心者マップではないか!おのれ、王を愚弄する気か!」
「…………あの騒音界の王者がジェイク・マキシム。店長の座を譲りたくないからという理由で、2人揃って店長になってしまったんだ」
揃って溜息をついてしまうぐらいには気が合ってしまった…気がする。
――そういえば、あのチンピラどもにも聞きたいことがあるんだったな。
「おい、さっきみかじめ料とか言ってたな。ただの飲んだくれでも無さそうだが、何者だ?」
「…………」
黙秘か。
「……そのヒョウ柄はこのサイバーポリスに昔からいるマフィア、『パンサースミス』の印だ」
投げっぱなしだった質問の球をキャッチしてくれたのは、オレの背後に居た駆導店長だった。
「俺たちのように出店した、シティエリアの店舗を巡ってはいちいち金銭を要求してくる邪魔な連中なんだ」
なるほど、こんな組織の切れ端みたいなヤツらに集金を、ね……。
「ちなみに聞くが、少し前に起きた企業トラック襲撃事件について知っていることは?」
「…………」
「まだシラを切るつもりか。――キネシス」
「はいは〜い(オッケー、アルくん)」
相棒にハイタッチして瞬間的に尋問手段について伝達した。
「 じゃあ、両手バンザイしましょうね〜」
「へ……?――――アッヒャッヒャッヒャッ!!
「脇が甘いな、文字通り。――今の質問を含めて、オレの質問に全て答えたらくすぐりからは解放してやる。……いいな?」
「ヒャッ…、ヒャイッ!」
よし、悪くない反応だ。
「トラックを襲ったのは?」
「ウヒャッ……、パ…パンサースミスの実働部隊…です」
やはりか。
「お前達のアジトは何処にある」
「ヒャッ、ヒャッ……」
「これ以上のこちょこちょで悶え死にたいか?仲間に消されるより、余程誉れを捨てるような末路だが?」
やるなら徹底的にが信条。開発もこういうこともたぶん一緒だ。
「……風俗街の、カジノキャバレー『ジュエリーズ』だ」
「――――ご苦労さん」
ガツン…、と尋問の終わったパンサースミスの下っ端の頭をスパナで殴り付けて再度気絶させてやった。
「なあ、店長…」
「アルジ。君はうちのスタッフではない。――竜星でいい。……風俗街はここを出て右に曲がった先にある。治安が良くないから気を付けるんだ」
「色々ありがとな…竜星」
「ふ…、いつでも次の来店を待っている」
オレと(落ち着いてくれた)キネシスは2人の店長に会釈をすると、案内通りに風俗街にあるというジュエリーズへと向かった。
「面白いヤツらだったな、あのバッドカップル。――――メシにするか、ジェイク」
「コーヒーばかりでは腹も膨れん。食い終わったら王がベントの相手をしてやろう、リベンジマッチだ」
「スタチューアドベントだな。……次も勝たせてもらう」
捕虜をよそに、店内設置のファストフード自販機を悩ましげに見ている店長達の光景があった。
―――――――――――――風俗街、ステファン――――――――――――――
昼間だというのに視界は暗く、毒々しさすら感じるピンクのネオンが街を支配していた。
「何ちゅうか、下品だよな…ここ」
ショーウィンドウの向こうでポールダンスを踊る金ビキニ姿の女性…型のリアルなアンドロイド。ボールジョイントが関節になければ気付かなかった。
「変な雰囲気だよね」
まぁ、風俗街と呼ばれていただけのことはある。
「あらー、アジア系だけどイケメンじゃない?……30ダラスで私と遊ばな〜い?」
横から急にヒョウ柄ビキニ姿の筋肉質なスキンヘッド男が話しかけてきた。
「いや…そういうのはいらん」
「私ねぇ、これでも両方イケるのよぉ〜?ご一緒の女の子もどーう?これから3人でっ」
マスカラとリップでバチバチに仕上げている怪しい男を前に、キネシスが怯えてオレの後ろに身を潜めてきた。
「しつけーな。……オレの彼女に手出そうとすんじゃねーよ」
伸ばしてきた日焼けしている腕を払い除けてやった。
「アルくん……!!」
「もう、商売上がったりね」
そう言うと、やれやれとした態度を背中に表しながら客引きの男は去っていった。
「面倒臭い変態だったな…キネシス?」
「彼女…彼女…ふふっ、最高……」
例の人が立ち去った途端、オレの左腕にひんやりとした腕と柔らかな山のような感触が訪れた。
「あの、キネシス。あのな?今のは言葉の綾で…」
「――ねぇ、アルくん。あのピンクの施設って…なに?」
「ほ…HOTEL…ですね……」
腕を絡めてそんな如何わしいホテルへと入店していく男女、満足気に店を出ていく女性同士のカップルがチラホラと見て取れる。
「ほてるって、何するところ?」
「いや、あれは宿泊…」
「休憩2時間で60ダラスとも書いてあるけど」
どう見てもラブホです。本当にありがとうございました。
「へぇ〜。如何わしいことをするラブホってところなんだ。へぇ〜」
やばい。ここぞとばかりにキネシスの脚力がガチだ。引っ張ろうにも微動だにしない。
「わたし…さ。彼女って呼んでくれてすっごく嬉しかった。ああやって変な人からも守ってくれたし、その……」
瞳の澄んだ青が澱んだ紫に変貌していく。
「…………しよ?」
特有の淫靡な空気に充てられたのか、それからのキネシスは行動が早かった。
「やめろ〜〜〜!オレ達旅の相棒って言ったじゃね〜かぁ〜!!」
「今日なんかカップル呼ばわりされてたのに一回も否定しなかったでしょ!口はそうでも体は正直なんじゃないの〜!?」
城門のようなゲートに手を掛けていなければ即死だった。
「誰かに手出しされる前に、絶対にわたしのものになってもらうんだからぁ〜!!」
グイグイ両足を引っ張られてしまい、手を掛けていた門にも段々ヒビが入ってくる。
「ジュエリーズに向かいたいのに、これじゃ体力が保たな…――――あれは?…ひぎぃ!」
――目の前のメインストリートを一台の車が抜けていく。
運転手にも、後部座席の男のスーツにもヒョウ柄があしらわれているのが見えた。
「キネシス、パンサースミスだ!追えば目的地に行けるぞ!」
「ちぇっ、しょうがないなぁ……(グエッ)」
あっさりと猫耳クールガールから手を離されたオレは重力に従う羽目となった。
―――――――――――――ジュエリーズ、裏口――――――――――――――
「ブリーチ、ブリーチ、楽しいなぁ〜。ブリーチ、ブリーチ……」
パンサースミスの本拠地らしい、カジノキャバレー。
黒い車両からマフィアメンバーと思しき2人が入っていくのを見届けたあと、その場にあったブルーシートをオレ達の隠れ蓑にモバイルPCでの解錠作業を順調に進めていた。
「よーし、あとはこのクラックコードを流し込んでやれば……」
ヒョウ柄ビキニのガチムチ警備員が正面玄関を見張っていたこともあり、当然ながら目星を付けていた裏手からの侵入を試みている。
「見上げた〜よぞ〜らの、星達のひか〜り〜」
「いや卍解はしねーっての。――したわ。……入るぞ、キネシス」
「うん…」
相棒の生返事を皮切りに、開いた裏口の扉から薄暗い更衣室のようなスペースに入る。
「ちょうどよかったな。キャストは大体ホールに駆り出されているらしい」
「今のうちに進んじゃお、アルくん」
ロッカーと化粧台が並ぶ間にポツンと浮いて見える鉄扉をゆっくりと開けててみる。
……誰もいない廊下。
先に出てから安全を確認すると、キネシスへ手招きすることで端に見えた階段まで誘導した。
――1段、――2段、……。
「今更なんだけどさ。わたし達って何でここに来てるんだっけ?」
「……簡単に説明しておこうか」
足跡を立てないよう慎重に上へと歩を進めながら、ここでの目的をまとめておく。
「……前提として、この世界の入り口にはマシンオーガの警備員が居た。
次にオレ達は最初、街中でネットバーサーカーなるものに接触した。
そんで、同時刻に発生した企業トラック襲撃事件はここを根城とするパンサースミスの仕業だった。
…どうみても作為的なものとしか思えないタイミングだ。
二重に作戦立てするレベルの何かを求めていたのだとすれば自然なことだろうが、襲撃された企業が何処なのかを確認出来ていない。
もしその企業がエネルジオプティマスであれば、ブツによっては出し抜けるだけの力になるかもしれない。
そうでなくても、あの大企業なら上で絡んで協力体制を敷くに違いない。
だから、トラックから奪われた何かをオレらが更に奪う。
……ついでに竜星らを苦しめているこの組織を破壊し尽くす。この両方を達成する」
「長くてよくわかんなかった」
思わず階段から足を踏み外すところだった。
「端的に言えば、パンサースミスの盗難品を更に盗難しつつアジトを組織ごと活動停止に追い込む。そんなところだ」
「そんなデカいこと、たった2人でできる?」
「それは……」
――――ガシャン!
「……キネシス、もう1人増えたらしいぞ」
「サイバー…太郎……」
階段を登り切った所の窓を突然蹴破って侵入してきたのは、例の白いアンドロイドだった。
(今のでスタッフが気付いたらどうするつもりだったんだコイツは……?)
『表情…一致。……また君達か。パンサースミスの面接にでも受けにきたのか?にしても悪質さが足りない、失格だな」
「そういうつもりじゃねーっての。サイバー…001。オレ達はここをぶっ潰しにきた。……そういうお前は?」
製造番号が長過ぎたので一旦端折って001と呼称することにした。
「企業、ダイバートポロジムからの命だ。――パンサースミスのリーダー、レアード・マッケンジー氏の暗殺だ」
どうやら盗難品の回収…というわけではないらしい。しかも形は違えど目的は大体同じときた。
「なあ、001。オレ達と手を組まないか」
「001……?――却下だ。これは単独任…」
「みんなでやったらすぐ終わるよ?だからお願い!」
…………5秒間の熟考を経た。
『……足を引っ張るなよ』
合理的と判断したのか、001は否定することなく煌びやかなホールの見える突き当りの両開きドアまで歩き出した。
「話の分かるアンドロイドで良かったな、キネシス」
「ふふん、意外と何とかなりそうだねっ」
こうして、オレとキネシスは目的が大体一致したSB1-TR001……001と一時的な同盟が結ばれることとなった。
幕間【サイバー太郎? or 001?】
「アルくんアルくん~。あのアンドロイド、終始サイバー太郎さんじゃなくて001って名乗ってましたね」
「そうだな、あんなに否定するんじゃ001だろうな」
「でも綾瀬さんの世界でアルくんが変身した時は、あの見た目でサイバー太郎って音声鳴ってたよね」
「ほな、それならサイバー太郎やろなぁ。キャストパスからその名前が出てくるんならサイバー太郎以外ありえへんやろ」
「といっても、最初にこの世界で会った時はサイバー太郎の名前を否定して型番で名乗ってたよね?」
「じゃあやっぱ001やないかい。名前を否定しとるんなら001しかないって」
「……そこで気になるのがアルくんの『物語開始前』のタイミングで来てしまったという発言だよ」
「いやそれはどう見てもサイバー太郎やないかい。物語途中で何かの拍子に名前を与えられる激熱パターンのそれやないかい。これ完全にサイバー太郎で確定やろがい!」
『……いつまで廊下の端で突っ立っているんだ。2人とも、早く来るんだ』
「「あっはい」」




