第29巻、旅立ちは茶釜の後で
前回のあらすじ3行。
「2030年の七星綾瀬が昆楽変異」
「2029年の七星綾瀬・北扇子舞・本木南も昆楽変異」
「いつものアルジとキネシスも仲良く昆楽変異」
『ね〜アーくん。上のあらすじ3行って誰が書いてるの?適当過ぎて全然説明になってないし、きもい』
「解りにくくて悪かったな、綾瀬!」
『はいはい。また暇になったら連絡するから。それじゃ〜ね〜、アーくん』
(いや無法の女過ぎるだろ、七星綾瀬)
手元のキャストパスに押印されていたテントウムシ型スタンプの通信が切れた。
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……気を取り直して、ここは次元移動空間。
時間の概念が存在しない世界と世界の狭間にある不思議な虹色空間である。
次の目的地である『サイバー太郎』の座標uo2t3r7en0fuを目指して相棒のキネシスと向かっていた。
「想像よりもハードだったよな、アドレディの世界」
「だね。アルくん背中めっちゃマッサージされた上にわたしまで全身もみもみされちゃっててさ、一体どうなるかと思っちゃったよ」
「待て、キネシスまで揉み揉みされてたのは聞いてないぞ。オレが知ってるのはそう……うんぬんかんぬん、な?」
(※詳細は大人の方のみ某真夜中な姉妹サイトをご確認ください。)
「……にしても色々やってくれたよなぁ、あのゴスロリのじゃ…長えな。やっぱネガフォルテでいいわ」
「そうだよ。アルくんはわたしのことだけ見てくれればそれでいいんだから」
「わかったわかった、ちゃんと見ててやるから」
綾瀬はともかく、ホールの向こうでハチみたいな警官に手錠を掛けられて連れて行かれていたのを見たので、さすがに会う機会はないだろう。
万が一、オレ達の元へ来やがったら胃もたれするまで焼肉でも食わせてやるか。
……そんな恨みったらしいのか分からなくなってきた愚痴を考えていると、視線の先では異常事態が発生していた。
「おい、キネシス。あの奥で車とか飛んでる世界って、たぶんサイバー太郎のとこだよな?」
並び立つ二つの空間の穴の左側からは、白いアンドロイドと遭遇した際に見かけた空飛ぶ車やビル群が見てとれた。
「よく分からないけど、そうなんだ……あれ?穴の前に何か居るんだけど……」
「そうだな…。アイツら、マシンオーガだよな」
間違いない。
2メートル以上の鋼鉄ボディとパッツンパッツンな警備員服にある胸元の社章からして、エネルジオプティマスの社員だ。
ここまでの厳戒態勢は今までの世界には無かったが、それはつまり企業にとって重要な施設があることを意味しているわけだ。
(両親と師匠の敵討ち第一弾が、ようやく始められるワケだな……)
「ん?きみは確か、ア…アル…、アルケ・ミスト……?」
「アルジ・キミヒトな、二度と間違えるなクソが」
勤務していた頃は散々そのあだ名で呼ばれていた時期があり、今でもオレの数少ない逆鱗の一つだ。
「悪いな、弟分のカマジロンはメモリ不足でよ。……社内の手配書通りだな(観測員の報告では現地人とともにアラクネ・マザーの対処に成功しているらしい。悔しいが、ココでマトモに相手しても俺達に勝ち目はない。ならば……)」
そう言うと、兄貴分らしい方がおもむろに大きな黒い銃を向けてきた…かと思えば、その銃口は右側のゲートへ向いていた。
「俺達をここで取り逃せば弊社の仲間が黙っていないぞ。――物語改変光線、発射ァーーー!!」
止める間も無くズドンズドン…という銃声とともに放たれた何発もの真っ黒な光線が狙われた世界の中へ発射されてしまった。
「そう簡単に支社まで行かせてたまるか!――逃げるぞカマジロン!……カマジロン?」
「あ〜、兄者。ぼく今『おにごっち』の餌やりの時間っすから……」
でっかい爪をしておいて何と器用なマシンオーガだ。……どうでもいいが、そんなに灯りの強い画面を凝視していて目が悪くならないのだろうか。
「ちょっと待っっっ!兄者、腕引っ張んないでぇ〜!?」
「そんなゲームは向こうへ行ってから続きやりゃいいだろうが!……あばよ、アルジ・キミヒト」
タマゴ型のゲーム機を持った弟分を連れた警備員が光線を照射した方の世界へ飛び込んでしまった。
「うわ、めんどくさ……」
目的地を目の前にしながら、なんてことしやがったよアイツら……。
「え〜、でもアルくん。これでサイバー太郎?の世界に行けるよ!さっき言ってた支社なんかさっさと潰しちゃって……」
「エネオプを舐めるな、キネシス。本社でないにしても、これまでの物語の連中とでは随分話が変わってくる。……気乗りはしないが、オレ達の存在がエネオプにバレる前にあの2人を見つけて速攻叩くしかない」
今回は間違いなく幹部級との戦いは避けられない。
不意打ちも仕掛けられないまま開幕から全面戦争ともなれば、戦力差でオレ達が圧倒的に不利だしな。
「……行こう、アルくん」
「やるっきゃねえな、相棒。――突撃だぁ!!」
果たしてこの世界は何の物語なのか、改変光線でどう歪んでしまったのか。
不安と期待を抱きながらキネシスと世界の入り口へ走り込むことになった。
――――――――”一方の3027年、アメリカ・サイバーポリス”――――――――
「ようこそ支社へおいでくださいました。支部長アーザフ様」
シティ区に聳えるエネルジオプティマス支社ビル、月明かりも見えない豪雨が打ち付けるガラス張りの会議室でそのやり取りは行われた。
「…………それで、報告にあった試作品というのはこれか」
素顔が見えないフードの男が機械仕掛けの手で撫でていたのは、或るアタッシュケース。
「左様でございます。例の反逆者、『アルジ・キミヒト』と共闘関係にあったマシンオーガを人魚姫の世界で別働の方に捕らえていただきましたので、本社から送信された脳内メモリの戦闘データを解析しようとしたところ興味深いアイテムを発見したのです」
名札に「開発班・ワクワクーノ」と記されていたマシンオーガが説明する中、アーザフはゆっくりとケースを開いた。
「ええ。戦闘用能力付与端末、コネクターの再現でございます」
「ほう」
手のひらサイズの青いスケルトンボディと、オリジナルに存在した金のWXという装飾の代わりに模したのだという"F"。
「未来演算能力を使用者に付与する『フューチャーコネクター』です。安全にご使用いただけるよう、お隣の『プロトアライジングバックル』を腰に巻いていただきます。使用時はその端子部分を合わせて、”カチリ”と鳴るまで上から押し込んでください」
説明されたコネクターを手に取ると、導光ペンダントの光に翳してみる。
「……悪くない。コンパクトな運用方法で実戦向けな武装になりそうだな。――――ワクワクーノ工場長。引き続きこれらの研究と、コネクターの種類拡充及び増産も見込めるよう今後のコスト面について会議をしたい。スケジュールの調整をしてくれ」
「かしこまりました」
未来の物語世界では、既に不穏な計画が脈動を開始していた。
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キャストパスに表示されたこの世界の位置情報では室町時代の応永19年、上野国に位置する邑楽郡…つまり群馬県らしい。
急ぎだったのでオフィスカジュアルのまま来てしまったオレと普段着である白玉模様と深紅の帯という可憐な着物姿をした氷人形のキネシスは変に情緒のある場所へと着地していた。
「テーマパークに来たみたいだなキネシス。テンション上がるなぁ〜!」
大きな寺を背にした屋台や遊び場だらけの縁日のような空間。
昼間っから賭け事なのか相撲観戦、そして竹馬や羽付きに興じる老若男女……とたぬ…き……?
「アルくんアルくん、言葉の割に目が笑ってないんだけど」
「いや、だってこれってさ…、その……何これ?」
何つーかでっかい摺鉢で2つの茶釜がフル回転しながら…ぶつかって火花散らし合って……??
「…………は?」
「えっ、わたし達の旅先ではこれくらい常識の範囲だよね???」
「すまん、オレが…オレがキネシスを狂わせたんだ……」
あらぬ方向への慣れが進行する相棒が心配になる。どうも危なっかしくて仕方ない。
「それにしても居ないよね、さっきの二人組」
キネシスの言う通りだ。物語世界とでは多少の時間差があるにしても、あんだけ図体のあるヤツならどこに居たって目立つ筈だ。
「あんだけ躊躇いもなく改変光線を撃てるんだ。思い切りといい機転といい、ただの警備員なのが惜しまれるばかりだな」
ハナから解っていたことだったが、そういうところはやはり高給取りになれる大企業なだけはある。
マシンオーガだからといって誰是構わずというワケではなく、ちゃんと地頭が優秀な人材を引き抜いて採用している辺りが何よりの証拠だ。
オレが行方について考察していると、石畳の道沿いに屋台を出しているおっちゃんに話しかけられた。
「おう、そこの変な格好のダンナ!」
「??……オレか?」
「いやいや、ダンナ以外に誰がいるんだよ。そんな大層なべっぴんさんまで連れちゃってさ。隅に置けないねぇ〜」
「先に本題を言ったらどうだ」
池袋で出会った『ところで女』のせいで、本題から入らない人間には以前よりむしゃくしゃするようになった気がする。
一方のキネシスは褒められて嬉しかったのか、さっきからオレの左肘に抱き付きながらニヤニヤしている。…心なしか、良い匂いがする……という気もする。
「そんなカリカリするなよ、な?……そうそう、本題だったな。おっちゃんの店で一発賽子を振ってかねぇか?このお椀の中で偶か奇か当てるだけよぅ。軽く1〜2文ぐれぇの銭でおっちゃんと遊ぼうや」
「却下だ。――――オレはある奴らを追いかけてここへ来た。随分でかい、カラクリみたいな見た目の鬼が2人だ。……見なかったか?」
「――だったら、尚更勝負だねぇ。……おっちゃん、実は知ってんだ。あんな目立つ怪物だったらよぉ〜。…………あーあ、勝ったら行き先教えてやるのによぉ〜?」
だ、だぁ〜るっっ……。
要はサイコロで偶数か奇数か当てるゲームにマシンオーガの行き先情報を賭けの品物にされたわけか。
「し、仕方ねえな……。そこまで言われたらやるしか――――『わたしが相手するよ、店主さん』」…キネシス?」
勝負を受けようとしたら相棒の横槍を受けてしまった。
「アルくんさぁ。前々から思ってたけど、この手の街中でするようなゲーム苦手でしょ」
「ギクリ……」
「大丈夫、ダイジョーブ!たぶんこういうの、アルくんよりは行ける筈だからっ」
仕方がないのでキネシスに出番を譲ることに。
「おうおう、威勢の良いべっぴんさんがお相手かい。おっちゃん冥利に尽きるねぇ。――でもな、こう見えて手加減は出来ない主義なもんでなぁ〜〜〜」
そう言うと前に出てきたキネシスの目の前でおっちゃんは茶碗にサイコロを一粒落とし、カラカラと大袈裟に鳴らしてからパッとそれを裏返した。
「さあ、勝負だぜ嬢ちゃん。偶か、それとも奇か。一つ手合わせ願おうか」
大層シンプルな上、所詮は運ゲーに他ならないだろう。
(ガサッ、ガサッ)
……うん?今、屋台の下で何かが――。
「う〜んと、え、えぇ〜と……。じゃあ、ぐ」
――――「(待った。キネシス、答えるにはまだ早いぞ…キネシス?)」
「は、はわわ……(アルくんがわたしの左手と恋人繋ぎを〜っ!?)」
普段一心同体であるキネシスがアイスドール状態の場合、何処かしらへボディタッチをすることで意思疎通が可能だ。
「あ、ごめん。つい握っちゃったわ」
オレは無意識に指を絡める形での手繋ぎをしてしまったらしい。こんな状態では正確な情報伝達が無理だと判断したのでパッと離そうとした…のだが、そのひんやりした手の握力上昇が止まらない。
「そのままずっと握ってて。……お願い」
「し、しょうがねえな〜」
悪い気がしないのならいいかと握り返すことにした。
「お、おい…、おっ始めるなら他所でやってくれよ。流石のおっちゃんも気まずいぞ……」
「あ…ああ!ごめんね、すぐ答えるからね(アルくん。残念だけど、狙いがあってこんなことしたんだよね?)」
ようやくその気になったみたいなので本題に入ることにした。
「(よく聞け。この屋台のサイコロはイカサマだ)」
「えっ、イカ…、ひぐぅっ!?」
既に手は握っていたので次にキネシスを黙らせるなら何が良いかと思っていたら、何となく右手が着物の上から見えた首筋に行ってしまっていた。
あまりのリアクションに横の青白いおさげもブンブン揺れている。
「(屋台の下で何かが蠢いてる。屋台の規模から考えれば…恐らく、この世界で人間同然に生活をしているらしいタヌキが協力しているのかもしれない)」
「しゅきぃ…、しゅきぃ……」
熱暴走を起こしかけている雪女をよそに、オレの中で一つの疑問が浮かんだ。
――仮に下から賽の目を針か何かで操るとしても、おっちゃんへの確認と伝達の方法はどうやって?
常識的にイカサマというのは、確実に勝ちを得ようとするが為に細工をするものだ。
些細なミスも許されない、ミリ単位の作戦が必要になるだろうし……。
「おい、早く答えたらどうなんだ。俺達…じゃなかった、おっちゃん忙しいからさぁ〜」
……うん?コイツ、一瞬話し方が違ったような。
…………!
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『「俺達をここで取り逃せば弊社の仲間が黙っていないぞ。――物語改変光線、発射ァーーー!!」』
『「餌やりの時間だから……」』
『「そんなゲームは向こう行ってから続きやりゃいいだろうが!」』
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――――謎が、解けた。
「えっ、えへん……。面白いか?それ」
「ああ?賭け事が楽――「兄者、すっごく楽しいっすよ!おにごっちはお世話するのが大変なんだけど、その分ぼく愛着湧いちゃってさ〜!――――――あれ、きみ兄者が化けたニンゲンじゃないの?」……なぁ〜にやってんだカマジロン!?!?!?」
もしやと思い、マシンオーガの声真似をしてちょっとしたカマを掛けてやった。
すると、ひょっこりと屋台の下から顔を覗かせたのは小さなタヌキだった。
「えっ、アルくん。今の…どういうこと?」
「たぶん、持っていたゲームのバックライトだ。カマジロンが遊んでいた『おにごっち』のモノクロ液晶は視認性のために画面裏から光を発する必要がある。屋台を覆う布切れはイカサマを手伝わせるための隠れ蓑としても最適だったが、反面、視界が暗い上にイカサマ成立のためサイコロの目を確認できるようでなくてはならなかった筈だ」
湯気立っている今のキネシスには必要な体温計で、温度表示に使う画面と似たタイプだ。
カマジロンは恐らくだが、布越しに出た目を確認するためにゲームの画面を押し当て、その灯りで視認した値を伝えるつもりだったのだろう。
オレ自身、推理した内容を並べているだけだったが、少なくとも化けダヌキと(顔が蕩けていてあまり聞いて無さげな)雪女は言葉が出ないまま目を丸くしていた。
「言い掛かりかい。……仮にイカサマに手を出したとしても、だ。その推理通りに出た目を確認するなら兎も角、答えをおっちゃんに伝える方法はあるのかねぇ?」
「うへへぇ…じゃなくて。…そ、そうだよアルくん!しかも店主さんはずっとこっちを見ていたんだから、何かを見せたりして伝えることも出来なかっただろうし……」
一番の問題はそれだ。
判明したところで情報共有が出来なければ正誤に応じて対応することも不可能。
(あの時、カマジロンは屋台の下で他に何をしていた?ゲームの光を利用するだけならモゾモゾと動く必要は無く、存在だって悟られなかった筈だ。…………動く?)
『(ガサッ、ガサッ)』
「……お前たちが持っていた物語改変光線銃で自らタヌキに変異したカマジロンの尻尾だ。…奇数か偶数かを当てるシンプルなルールにしたのはそのためだろ」
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『いいか、カマジロン。もしサイコロで1・3・5が出たら1回、2・4・6が出たら2回、その尻尾を屋台の布に当てるんだ』
『うっス!』
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「尻尾で屋台に揺れを起こし、それを信号にしておっちゃんに伝えてたんだ。隠れるために声が出せないカマジロンにとっても都合がいいだろうし、オレらにバレるリスクも最小限で済む。ライトが役立つ薄さなら、仮に変更が必要になったとしても下から小枝か何かで茶碗の下から押し上げれば目の操作も難しくもないか」
「それなら確かにイカサマが成立するね!」
おっちゃんの表情から余裕が消えた。
「あの時揺れた回数は2回――偶数だ」
正直な話、遭遇までの短時間でここまで凝ったトリックを思い付いたことには敵ながら感服したが。
「これでもオレはIQ210のてんっさい発明家だ。……歯応えはあったが、ちょっとばかし相手が悪かったな」
「あの……アルくん。あいきゅーってなに?」
「あれだけ推理を聞いておいて『あいきゅー』ですか。……お言葉ですがキネシスお嬢様。あなたの耳は節穴ですか?」
一方のキネシスは現代知識の勉強がもう少し必要らしい。
「……やるな。――――ズラかるぞ、カマジロン!」
「う、うっス!」
正体がバレるや否や、浴衣姿の人間とタヌキ…いや、何でカマジロンは背中に茶釜みたいなのを背負ってんだ……?まあ、いいや。
そいつらは屋台を蹴飛ばしぶち撒けると、一目散に逃走してしまった。
(思った通り、ちょっとした木材のフレームに上から紅白の布を被せた簡素な出来だったというワケか)
「キネシス、さっきも言ったろ?エネオプを舐めるなって。――追いかけるぞ」
「う、うん!」
焦げた味噌の匂いがする団子や干し柿を売る露店の数々。
人の多い縁日のような道を縫いながら、この世界にすっかり馴染んでいたマシンオーガ組を追い掛けるオレとキネシス。
「逃げろ逃げろぉ~!」
……それにしても、下っ端からここまでやり手な頭脳戦を仕掛けられるとはな。
メモリ不足と揶揄されていたカマジロンですら、即興で作戦の本質を理解して実行に移していた辺り油断も隙も無い。
「――悪い、通してくれ!」
こうして大人数ではないマシンオーガとまともにやり合うのは初めてだったが、特に逃げ足が早い分、変に頭脳派である部分と噛み合いが良くて質が悪いな。…………?
「あの…。気になってたんだが、オレ達いま走ってんだからそろそろ手を離さないか?」
「や〜だ。せっかくアルくんが恋人繋ぎしてくれてるんだから、もう少しこのままにしててっ」
…………これでは二人三脚と大して変わらないのだが。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、――ぽんぽこォ!」
「ひぃ、ふぅ、みぃ、――ぽんぽこォ!」
――――ガキン、ガキガキン!
投げ込まれた分福茶釜同士の魂が対立する戦場。
「やっぱ見ていて頭が痛くなるな……。あれも改変光線の影響かよ」
逃走する発想の天才のようなマシンオーガどもを追いかけていたら、そのうち辿り着いたのは茶釜が爆転しながらぶつかり合っているカオスな鉄火場だった。
――――チャガマスター。
それは、地上の全タヌキが一度は夢見る最強の称号。
茶釜界の王・チャガマスターの座を求めて、全国の分福茶釜どもが聖地・茂林寺にて闘争を求め合う。
「やるじゃねぇか、茶太郎。これで十連勝だな」
「当然の結果っちゃ、弥七!おやつのリンゴを食ったら、後でもう一戦だけやるっちゃ!」
これは、そんな破茶滅茶な熱き時代の頂点を極めんとする、とある絆の物語である。




