第30巻、ひぃ、ふぅ、みぃ、――ぽんぽこォ!
「いつも読んでくれてありがとな、アルジだ。この『アルジキミヒト』も記念すべき30話!」
「アルくんともども、わたしの応援もよろしくね!今回は同作者の短編作品『新約・分福茶釜』とのコラボエピソードだよ!」
「どうも〜!向こうの主人公こと、弥七と相棒の茶釜タヌキ・茶太郎だ。短編ともども、楽しんでってくれよな!」
「2人とも連載30話目おめでとうっちゃ!あっ、おちゃ〜らもついでに俺たちの物語も読んでみるっちゃ!それぢゃ本編……」
「「「「スタート!!!!」」」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
前回のあらすじ3行。
「てんっさい発明家チェンジノイドのオレ、アルジ・キミヒトとアホかわ系雪女の相棒ことキネシスは次なる物語『サイバー太郎』の世界へ向かっていた」
「ところが目的地入り口を塞ぐエネオプ社員のマシンオーガ警備員と遭遇。お隣の分福茶釜の世界へ逃走したので仕方なく後を追うことに」
「サイコロ勝負を挑んできた店主らに扮する警備員のトリックを見事看破したものの、再度の追走劇。辿り着いた先はタヌキ達の鉄火場そのものだった」
縁日のような賑わいを抜けると戦場であった。昼間の底が鉄色くなった。
「追い詰めたぞ、マシンオーガ!」
……といっても、自らを物語改変光線銃で撃ったのか、ニンゲンのおっちゃんと黒い茶釜を背負ったタヌキのコンビと呼称した方が適切だろうか。
「アルジ・キミヒト。知恵比べでは負けたが、俺達にはまだコレがあるッ!!」
擂鉢状の戦場を背後に、おっちゃんと化した兄者と呼ばれるマシンオーガは件の黒い銃をこちらへ向けてくる。
「兄者とぼくに勝てるかな?やってみるっすよ!」
持っていたおにごっちを背中の茶釜に収納すると、オレ達相手に手招きしてくるカマジロン。
「やる気みたいだな。――行くぞ、キネシス!」
「うん!」
そう言って銀色のベルトを巻き付けようとしたところ。
――――「待ちな、テメェら」
「な…、誰なんだこいつらは!」
そこに割って入ってきたのは、抹茶色の小袖を身に付けた青年と、二足で膝ぐらいの高さで並び立つ文字通りの分福茶釜のタヌキだった。
「自己紹介してやるか。俺はこの辺で曲芸商人をやっている未来のチャガマスター、弥七ってもんだ。そんでこっちが……」
「茶釜タヌキの茶太郎だっちゃ!茶々を入れにきてやったっちゃ!」
弥七はともかく、小柄だが威勢のあるタヌ……!?
「た……タヌキが、シャベッタァァ~~~~!?」
「何を今更驚いてるっちゃ。普通、タヌキは喋るっちゃ」
化けていたカマジロンはまだしも、タヌキは喋るのが普通って。は……?
「俺たち名乗ったんだからよ、それには返すのが茶釜道でのスジってもんだろ?」
茶釜道……?「ダメだ、思考停止してきた」。もうこの世界はそういうものだと受け入れるしかないのかもしれない。
「オレはアルジ。アルジ・キミヒトだ。こっちが……」
「雪女のキネシスですっ!よろクール!」
「おい、聞いたか茶太郎。アイツ雪女だってよ!」
「すっげぇっちゃ!銀司の連れてた赤い狐の他にも妖って居るんちゃね~」
背負った茶褐色の茶釜と尻尾を振り乱すタヌキ。
「これだけ言わせてくれ。茶釜背負った化けダヌキにだけは言われたくない」
今更思うのだが、分福茶釜ってこんな物語だったっけ……?
「ここは狸大王決戦場。どうせ喧嘩るってんなら、俺達の流儀に則ってもらおうじゃねぇ~か!」
「わっちゃっちゃ、わっちゃっちゃ、わっちゃっちゃ、ふぁいや~!」
「おい、弥七とやら。『あっ、ぼくカマジロンです』流儀と言ったが、具体的には何で勝負させる気なんだ」
おっちゃんが弟分に青ダヌキみたいな自己紹介を挟まれながら訊ねる。
「当然、茶釜だろ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「…………」
異様な殺気を帯びた風が吹きすさぶ、無骨な戦いの舞台。
「茶太郎。飾ってやろうぜ、今日の11連勝目!」
「よっちゃ!あのあ抹茶ん達に力の差を理解らせてやるっちゃ!」
「カマジロン。どんな勝負だろうが、勝ちゃいいんだ勝ちゃ!」
「しょうがないっすねぇ~兄者ぁ」
「キネシス。……現状が意味不明なまま来ちまったけど、何とかアイツらを倒すしかないな」
擂鉢状の土俵を前にオレらも含めて三者三様に揃い踏んだワケだが。
「いいけど……。わたし達って、あの2組と違ってタヌキ居ないよね?さっき弥七さんから挨拶代わりにちょっとした茶釜を渡されたけど」
確かにオレ達だけタヌキ不在のまま来てしまった。対戦相手達に詫びでも入れて近くでスカウトでもしてくるか……?
『いっけぇ~弥七ぃ~!茶太郎~!』
『拙僧の前で恥をかかせてくれるでないぞ、弥七どもぉ~!』
『もーう、長い頭を振り回すなよたぬきじじい。なあ、紺?』
『こ~~~ん!』
戦の気配を感じ取ったのか、周囲は既に人&タヌキだかりが出来てしまった。
……一人だけ赤いきつねを連れた少年も居たが。
――――――――閃いた。
「キネシス。…………茶釜に乗れ」
「アルくん?……アルくん??」
やはり解決策はこれしかない。
「そのアイスドールはキネシスが実体を得るための氷の器でしかない。そうだろ?」
ノリでスッと取り出した黒塗りのサングラスを装着すると、相棒へ自信満々に頷いてみせる。
「小柄なアイスドールを作れば、キネシスでも乗釜出来る筈だ。濁酒も茶よりは勝るってな」
「アルくん本気で言ってる?ていうか乗釜ってなに造語してるの??……ごめん、わかったからその変なの掛けて手を組むのやめない???」
―――――――――『茶飲み話は終わりっちゃ』――――――――――
試合前から弥七がこちら側のビギナー感を察してくれたのか、茶太郎が収まった茶釜を鷲掴みにしてのレクチャーが始まった。
「初めてらしいから簡単に説明しといてやる。最初に『ひぃ、ふぅ、みぃ』と数えてから『ぽんぽこ』の合図で一斉に茶釜タヌキを投げ込む。最終的に他のタヌキ全員を場外させれば勝ちってこった」
「だいたいわかった」
「それは本当なのかアルジ・キミヒト」
「大体は大体だ。要はここの外まで全員ぶっ飛ばせば解決ってことだ」
ひぃ、ふぅ、みぃと弥七の投げ方を見様見真似で練習してみるオレとおっちゃんの姿がそこにはあった。
「予習は終わったようだな。始めようぜ、オレ達との茶釜バトルを!」
三者ともに茶釜を両手で抱えると、腰にスナップを効かせて臨戦態勢に入った。
「ひぃ…!」
「ふ、ふぅ…」
「みぃ…(アルくん、思いっきり投げちゃって!)」
――――「ぽんぽこォ!!!」
全身の力で投げ込まれた分福茶釜達。
シャー!という戦場を駆る3つの音と共に、戦いの火蓋が切って落とされた。
「速度を上げて弾き、蹴り落とす。――簡単だけど茶は水が詮っちゃ!」
「うわぁっ!……ぼくまだ何もやって無いっすぅ〜」
――力強い衝突音。
開幕から茶太郎は慣れたように楕円状の軌道を描くと、勢いを殺すことなくカマジロンへ体当たりを仕掛けてきた。
「こっわ!わたし、あんなのと戦うの!?」
その後も茶太郎はベーゴマのように回転しては縦横無尽に動き回る。
「どうしたっちゃ!始まったばかりなのにもう手詰まりっちゃ?――せんちゃー!」
「ぐっ…。残像が出てるぐらい速いのに、一撃一撃が重過ぎて守りに徹するしかないっすぅ〜!」
ガキンガキンと音を立てて何度もカマジロンを攻め立てる度に閃光を発している。
(手強いな、茶太郎。ただの調子づいた変なタヌキとばかり思っちゃいたが、基本を極めた上で着実に発展的な技を仕掛けてくるちゃんと強いタイプか……)
「へへっ、黙って指を咥えるばかりがマシンオーガじゃないんでな。――物語改変光線、発射ァー!」
「うげっ、マジかよあいつ!?やりやがった」
「何だなんだ、あの変な黒い筒みて〜のは」
照準は茶太郎…ではなく、戦場で身動き出来ていない茶釜に収まったキネシス(小)へ向けられていた。
「あっ……、やめろぉぉ――ー!!」
静止する間も無く黒いトリガーが引かれてしまった。
(キネシス…、助けられなくて、ごめん……)
……?……???
「…………うん?発射!…発射!……故障か?――どわぁっ!?」
幾ら動かしてもカスっ…カスっと空撃ちしかしなかった光線銃が突如光り出すと、おっちゃんの手には明らかな異物が握られていた。
「俺の銃が…、バラ鞭になった…だと……!?」
「すげえ手品だな、初心者くん」
それがどんなものなのか把握していないまま煽り出す弥七。
「アルくん、本気でいま心配してたよね?よーしよし」
……心配してやるんじゃなかった。
「ええいこうなれば、鞭だって何だって使ってやる!」
兄者は目の前を通ってきた分福茶釜へ仕方なくバラ鞭を振り回してくる。
「ちょっとちょっと、わたしに何してんの!?」
「待って!ぼくカマジロンだから!…い、痛いっすぅ〜」
もはや敵味方問わずとは。……あの知性溢れた兄貴分は何処へ行ったんだか。
「おいおい!タヌキの世界に於いて鞭の使用は規則で禁止っチャよね?!」
巧みに鞭を回避しながら抗議の声を上げる茶太郎だったが。
「……あ?タヌキングは規則無用だろ」
「全く、初心者だからって無茶苦茶するっちゃね…」
熟練者が不慣れなヤツを相手に苦戦するのは職場も茶釜も同じらしい。
「キネシス、氷だ!基本が強いということなら、イレギュラーには滅法弱い筈だ!」
防戦一方だったが、そろそろオレ達も反撃の狼煙を上げるべきか。
「任せて!――アイスフィールド!」
キネシス(小)が澄んだ青から紫に染まっていく瞳を茶釜からちょこんと覗かせると、鉄の摺鉢フィールドを青々とした氷海へと瞬く間に変えてゆく。
「おい!戦いの舞台を氷漬けにするだなんてイカれてんのか!そもそもここは狸大王決戦場は最強の分福茶釜を決めるための会場だぞ。雪女なんか連れ出すなんてどうみてもタヌキングの規則では禁止じゃねえか!!」
おっちゃんは不満をぶちまける。しかし……。
「雪女だからなんだよ。お前、さっきも言っていただろ~?『タヌキングは規則無用だろ』、ってさ!」
「ぐっ……」
見事におっちゃんの鼻を明かしてやった。
「ほう。面白え策だが、まだまだ俺たちには及ばないな。――茶太郎、背筋使って跳ね回るんだ!」
「わっちゃ、わっちゃ〜!」
てっきり足を取られるとばかり思っていたが、摩擦力ゼロのフィールドを背中の筋力を利用して跳ね回ることで相殺してきた。
「そんなのあり!?」
「何ちゅう適応力だよあのコンビ。戦いのセンス一つで攻略されるなんて……」
確かに強そうな雰囲気はしていたが、まさかここまでやってくるとは思わなかった。
――――「そろそろ、ならしも済んだところか?」
ひび割れていく氷床にオレはハッとさせられた。
「しまった、弥七の狙いはただ滑らないようにしていただけじゃなかったのか!?」
「そら、氷の礫を食らうっちゃ!そっちゃ〜!」
茶太郎は茶釜の重量と落下の位置エネルギーを利用して氷張りを破壊することで破片を浮かせ、それらに回転しながら体当たりを仕掛けることで飛び道具として活用してきた。
「兄者〜、アイツ強過ぎるっすよ〜!――ふげぇっ!?」
「アルくん助けて〜!」
(やばい、このままではキネシスまで押し切られる!)
まあどうせ向こうもバラ鞭で妨害してきたんだし、こっちもお返ししとくか。
「待ってろ相棒!――『アタックチェンジ・ヘンゼル&グレーテル』。幸福呪文、カチコチキャンディー!」
飛び交っていた氷の破片を大きなグルグルキャンディーに変化させて茶太郎の攻撃を防ぐ。
「やるじゃねーか、アル坊。――茶太郎、アレをやるぞ!」
「うっちゃ〜!」
アレって何のことだ……?(つーかアル坊ってなんだよ)などと考えていると、茶太郎はいつものと言わんばかりに氷が届かなかったフィールド外周ギリギリを超高速で周回し始めたのだ。
「カマジロン、気を付けろ!何か仕掛けてくるつもりだ!」
「こんなにやり合ってて、おにごっち壊れたりしてないかな…」
「カマジロォ〜ン!?」
とても第一印象が真面目な警備員だったとは思えないノリだなコイツら」
「アルくん、これって……」
「ここまで手練れの動きをしてきているんだ。狙いがあるのは確かなんだが……」
「今だ茶太郎!『奥義、茶華疾走――連吼威絵夢』」
「オッチャー!!」
抹茶を淹れずして気合いを我が身に注ぎ込んだ茶太郎は、茶釜から飛び出した部位を引っ込めることで空気抵抗を減らすことで更なる加速をしてみせ、決戦場の空気を一点に掻き集めたことで巨大な竜巻を形成した!
「こんな物理現象起こされてたまるかよぉ〜!!」
理解不能過ぎる。何なのだこれは、どうすればいいのだ!
「と、飛ばされるっすぅ〜!」
「カマジロン!…はぁ、上までぶっ飛んじまった……」
竜巻に巻き込まれたマイペースなタヌキはあっという間に上空へ。
(そうだ…)
「キネシスも竜巻に乗るんだ!カマジロンを追っ掛けて脱落が狙えるかもしれねぇ!」
「え〜と…アレに?」
「うん」
「嘘でしょ?……うわっ!?」
今は茶釜に収まる程度のサイズ感でしかないキネシスだ。やらせるまでもなく上まで吹っ飛んでしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「やば、やば…、雲の上っすよ雲の上…!高過ぎてこえぇっすぅ……」
既に日が傾き始めており、雲海は橙色に染まっていた。
――――「見つけたっちゃ」
「ひぃぃ!?」
そこには自ら発生させた大竜巻に乗って遥か空まで追い掛けてきた茶太郎の姿が。
「あれ、皆さんお揃いみたいだね」
巻き込まれる形で飛んできてしまったタヌキより小さいキネシス(小)。
「(あれ、今ならカマジロンさんを倒せるんじゃ…)茶太郎さん、わたしの冬風を使って!ふぅぅ……」
「風っちゃか。……よっちゃ〜!きねしすさんの風で百人力っちゃ!」
再度瞳を紫色にしたキネシスの放った冷たい空気で推進力を得た茶太郎は、自身の茶釜に全身を収めると風の流れを利用して縦回転を掛け、カマジロンへと一直線。
『奇技、茶華疾走――吹狸冷弩っちゃ〜!!』
茶太郎による、急激な放物線を描いた頭上からの回転体当たりによる強烈なメテオスマッシュを受け、カマジロンは猛スピードで元来た地上へと落下していく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あっ、なんか落ちてきた」
「おっ、茶太郎のやつ上手く行ったみてーだな」
地上のオレは暇潰しにキャストパスのグルメデリシャスアプリで料理一覧を覗いていると、空の果てからカマジロンみたいなのが落ちてくるのが見えた。
「おいカマジロン!俺がキャッチしてやるからな!――――しまった、今の俺ってただの人間じゃ…やっぱソレダメぇぇ〜〜〜!?」
――凄まじい着弾音。
「ハラヒレホレハレ……」
「うーわ…(何あれ、ギャグ補正か?)」
仲間想いなのは感心だが、そのためにカマジロン諸共地面にめり込む形で気絶してしまった。
直後、追従していたかのように茶太郎も落下してくる。
「まだ勝負は終わってねぇよな、アル坊!」
「弥七のヤツ、何を言って……!?」
その時、空から降ってきた第三の茶釜。――キネシスだ。
「弥七、次で決めるっちゃ!」
「茶太郎、アイツらに一発お見舞いしてやろうぜ!」
茶太郎は急降下した先で伸びていたカマジロンの上へ着地するとそこから決戦場の上へと更なる跳躍をしてみせた。
「アルくーん、なんか向かってくる〜!たぶん避けきれないよぉ〜」
大変だ、アイスドール状態のキネシスでは空中で受け身の姿勢が取れない。
(カマジロンを襲ったであろう一撃なんか食らったらひとたまりもない…、せめて威力さえ削れれば!)
『アタックチェンジ・ヘンゼル&グレーテル』
「何かお菓子に変換出来るものは…、窒素でいいか」
この双子の使う魔法は前提として変換元となる物体が必要だ。
多少耐久力は落ちるかもしれないが、空気の一部を作り変えれば間に合うかもしれない。
「待ってろキネシス、必ずお前を守る!幸福呪文――グミグミシールド!」
「おっ、紫のバリア…。サンキューアルくん!」
……安心していたのも束の間。
「「――これが、俺たちの、分福茶釜だぁぁーーーー!!!!」」
太陽を背後に全身を回転しながらキネシスまで茶釜が飛んでくる。
「…………!」
重なる。
茶太郎と弥七のビジョンが、橙色の中で一つに重なる。
「「奥義、茶華疾走――威爆斗!」」
攻撃を遮らんと召喚した魔法のグミグミシールドを盾にするも、それでも止まらない回転。
それどころか……。
「摩擦熱か!グミは柔軟性こそあるが、熱を加えられると溶けやすい……。くっそ、見誤ったか!」
思考を巡らせているうち、圧倒的な回転力とその運動から発せられた熱エネルギーによってシールドを早々に突破されてしまった。
「えっ、ちょっ、しまっ……」
「「いっけぇぇーー!!」」
――――戦場に響く金属音。
それとともに力無く落下してきた相棒が地面へ衝突してしまう前に助ける思考へと切り替わった。
「(間に合え…!!)幸福呪文、グミグミシールド!――こっちに着地してこい!」
勢いよく落ちてきたキネシスと茶釜であったが、地上に用意したグミグミとした紫の盾をクッションとして利用することで無事救助に成功した。
「無茶させてごめんな、キネシス。…何処も怪我とかしてないよな?」
すぐさま駆け寄ると茶釜から小さなキネシスを引き出し、そして抱きしめた。
「しないよ、アイスドール使ってるだけだから。…でも、心配してくれてありがと」
一方の茶太郎と弥七。
「ああ、場外……。だな」
「そうだそうだ!お茶の子さいさいだっちゃ!」
「あいつら……
と、お|前もだが」
「あっちゃ〜」
「……とんだ茶番だったな」
一斉にズッコケる観客につられ、ついつい本音を漏らしてしまった。
試合が終わり散り散りとなる観客。
あの気絶したマシンオーガ組を放置したままオレ達は戦いの余韻に浸っていた。
「まだまだチャガマスターへの道は遠いなぁ〜。今回どうだったよアル坊。悔しくないのか?」
好物らしいリンゴを丸々茶太郎に与えては頭を掻いている弥七。
「そりゃ悔しいだろ。結果的には引き分けだけど、実質弥七と茶太郎の勝ちだろあんなの。……でもな」
色々あったが、いざ終わってみると精神的に澄んできたような気がしてくる。
「『昨日の敵は今日の友』、な。まあつまるところ、満足した」
「そうかい。昨日の敵は今日の友、か。……気に入ったぜ、アル坊」
このコンビを見ているとちょうどよく一枚の画角に収まりそうに見えた。
「せっかくだから一枚撮らせてくれ。写真っていうんだ」
「……?いいぜ」
シャリシャリ…「ちゃっちゃ!」
「ひぃ〜ふぅ〜みぃ…ポンポコ」
この世界らしい掛け声で一枚撮影を完了した。
『キャストオン、茶太郎』
「あれ、コイツらここの主人公だったのか」
ていうか、パスに反応したの何故か茶太郎だけだったし。
「アルくん、アルくん」
左腕に包まれていたキネシスが目を醒ますと、急に声を掛けてきた。
「どうした、キネシス。アイスならあとで幾らでも…」
――――「そうじゃなくて……。世界が、世界が暗くなってきてる」
「…………」
キネシスの言う通りだった。
世界の端からこちらを中心として完全な闇が迫ってきている。
「どうしたアル坊。何か見えてるのか?」
登場人物からは視認できない現象…………、まさかっ!?
「色々世話になったな、また会おうぜ!弥七と茶太郎!」
「おっ、おう……。じゃあな〜アル坊、雪女ぁ〜」
「おっちゃ〜」
手を振る2人を背に元来た道まで大急ぎで駆け抜ける。
活気のあったはずの往来も、不自然なぐらいに人っ子1人として見当たらず、何とも不気味だ。
「そんなに慌ててどうしたのアルくん」
「キネシス、とりあえずオレの中に戻れ!――――早くしないとオレ達もここの登場人物にされるぞ!!!!」
「えっ……!?と、登場…人物……??」
「説明はあとだ!最初に来た時のゲートは…そういや浮いてるんだったぁ〜〜〜!!」
迫り来る物語のエンディングの黒い環。
このままでは文字通り、一巻の終わりだ。
とりあえずキネシスはアイスドールから抜け出し、オレの中へと吸い込まれてきた。
「『キャストサーチ…』何か飛べるやつ、何か飛べるやつ…、出てこい出てこいそりゃ!!――『鶴女房』」
……は?何だこの割烹着の女は。――――いや、待て。フォームチェンジの項目がある……!!
腰に巻いていたドライバーにキャストパスを翳し『キャストチェンジ』のシステム音声を確認すると「変身ッ!!」、大急ぎで横のチェンジスロットへねじ込んだ。
――全身から飛び出した白い羽根の数々の中、割烹着を着用した和の女性の姿。
『フォームチェンジ・鶴女房』
再度ベルトへ主人公情報を読み込ませると、一瞬全身を包んだ光の中で自身の姿が瞬く間に立派な鶴の姿へと変化した。
「「行っけぇぇーーーーーー!!」」
茶太郎も弥七も何食わぬ顔で飲み込まれた闇の円環を離れ、空中のホールまで飛んでいく。
「速く…もっと速く飛翔れぇーーー!!」
――――終幕に出口が覆われる寸前、すんでのところで脱出に成功した。
「『変身解除』……はぁ、はぁ…た、助かったぁ……」
「お疲れ様、アルくん」
霊体状態のために若干貫通しているが、そっと頭を撫でてくれているいつものキネシスの姿が見えた。
「……この身で経験するのは初めてだったが、あの『アイリスアウト現象』が完了してしまうと…物語が一周するんだ……」
心臓が未だにバクバクしているので、押さえ付けるように深呼吸の空気を浴びせてやる。
「こうしている間にも、隣のホールの先では既に物語が開始してしまったらしい」
一瞬の暗転の後、再び空飛ぶ車の情景が映像のように再生され始めた。
「アルくん!早くサイバー太郎の世界に行こうよっ」
「そうだな。…………」
目的地へ向かう直前、もう一度あの世界へと視線を零した。
……面白いヤツらだったよ。
二度と会えないのは残念だがな。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「めぇ、目が回るぅ~~~っっすぅ……」
「何やってんだよ窯次郎!」
「めぇ、目が回るぅ……」
「何やってんだよ窯次郎」
「目が回……」
「何やってん」
「…………」
「…………」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝焼けに包まれた街をホバーカーが行き交う、そんな白昼夢。
…………『Dive in. Our mission awaits.(始めよう。企業からの任務だ』
ガラスとスチールが冷たく光る摩天楼。
黒いマントをたなびかせ、空を背に佇む1人の白いアンドロイドが影を落としていた。
『イェーイ!サイバーポリスからDJクォークがお届けするガンギマリラジオ、【フューチャー&フューチャー】だ!
テキサスのブリスケットステーキすらマトモに食えなくなってからざっと5世紀。
……バウフーズはそろそろ合成肉だけじゃなくて、培養肉もバリエーションが欲しいよなぁ~!
おっと、コオロギ飯は勘弁な!
そんなワケで、今日も天気はたぶん晴れ!
ネットバーサーカーのせいで夜は路地裏辺りで血の雨が降ることでショウ!
シティ区の外れでは事後処理でSSPも大忙しだが、政府の犬の手が足りてないらしい。…エ、エヘン。
最近マフィア組織パンサースミスが手売りしているナノチップ・エクスタシーには要注意だぜ!
キマり過ぎて街中で暴れても知らないぜ!
コーポの会長を暗殺するようなヤツらには耳を貸さないようにしないようにな!
おっと、体の部位が足りない?そんな時はダポロジのインプラントで今すぐ補強だ!
……この番組は、アナタのインフラと健康を支えるダイバートポロジムの提供でお送りしました』
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『01010100 01101000 01101001 01110011 00100000 01101001 01110011 00100000 01101110 01101111 00100000 01110100 01101001 01101101 01100101 00100000 01110100 01101111 00100000 01100010 01100101 00100000 01101111 01100010 01110011 01100101 01110011 01110011 01101001 01101110 01100111 00100000 01101111 01110110 01100101 01110010 00100000 01100001 00100000 01110100 01100101 01100001 00100000 01101011 01100101 01110100 01110100 01101100 01100101 00101110』




