スピンオフ◇ Episode of ネガフォルテ【Re:ツミから始まる刑務所生活】Vol.2「妾は へとへと罪人じゃ〜」
前回のあらすじ3行じゃっ!
「池袋で色々やらかしたことを反省して妾は自首。ここ、ビートアイランド刑務所に収監されてきたのじゃ」
「ぐぬぬ……。奉仕活動や食事中にいちいち余計なことばかりしてくる下品な連中ばかりじゃった」
「アドフォルテ、せっかく気を回していたのじゃろうが……罪人に情けは無用じゃ」
「よくぞスピンオフを読みに来たな同志どもよ!ぶくまとか評価とかしてくれたら……、妾の監房掃除をお手伝いをする権利をくれてやろうぞ!」
(※本作はアルジキミヒト本編24~28巻までのネタバレを含みます)
綾瀬が最後の戦いを終え、妾の待つ元の世界へ帰還したタイミングでチューニングインセクトを借り、スタンプの機能でビートアイランドへ自らを通報したのじゃ。
主人公が世界から居なくなると物語が消滅するからと、綾瀬と同じ顔・同じ声を持つ妾を綾瀬の私服姿に着替えさせていた関係でそのままビートアイランドの警察署へ連行・勾留。
それから間も無くして、島内の裁判所までに至ったワケじゃ。
『被告人を懲役10年に処する』
――――『その判決、待って!』
…………裁判終了間際のあの時、乱入してきたのは他ならぬ妾の太陽であった。
『あなたは…英雄アドフォルテ様ではございませんか!』
テントウムシのようなアドレディドレス姿で乱入してきた女こと、七星綾瀬じゃ。
『アントベル裁判長、話は相棒から全て聞かせてもらったリン。――その者に下した10年の懲役、今すぐ半分の5年に引き下げるリン!』
あっちは腹部から外側に掛けてタンバリンのような姿形をした、小さなクラウンを被ったテントウムシ型ミューセクト…じゃな。
『なっ…まさか……、レディバリン王子!?!?……しかも、ちょ、懲役を5年に引き下げるとはどういうおつもりなのですか!(三権分立はどうなっているのですか、王子様ぁ〜)』
(何がどうなってるの…?)
(どうしてアドフォルテ様と王子様がこんなところへ…)
(ははぁ〜島の英雄様、ありがたや〜)
突然の事態に騒然とするビートアイランド裁判所の傍聴虫席。
『この変更は相棒のチューニングインセクトを介して、直接国王からも許諾を得ているリン。
それにみんな、感情的になり過ぎだリン。
――よく考えてみてほしいリン、ビートアイランドに被害を与えていたのはあくまで生前の『アラクネ・マザー』だリン。
そこに居るのはアラクネ・マザーではなく、そう名乗っているだけのネガフォルテ…(ゴニョゴニョ……)
――――う、うむ。『七星音俄』、アンセクトの力を宿しただけの『ニンゲンの女の子』だリン!』
…………『妾が、七星…音俄……じゃと!?』
『うん。人間に化けたレディバリン王子に手を貸してもらって、新座市役所で住民票取得を済ませたよ。
(顔もほぼ同じだし、証明に使うウチのパスポート名もミューセクトの力で一時的に書き換えてもらったし)
――これからは友達であって、ウチの妹だからね。音俄』
『え、えぇ……』
本人の知らないところで色々やっておるな……。
『……アブラムシのつまり、ここで原告側に問われるのはニンゲン化してから池袋で発生させてしまった、「ナンパ男殺人事件」のみだリン。――検察のショウリョウキンカン、詳細を教えて欲しいリン』
『ハイ、王子。鑑識によると島へ遺体を持ち帰って司法解剖した結果、被害者ニンゲンは下腹部から口まで一気に貫かれた上に何度も刺突された形跡が見られました。……大変残虐です』
話が長いゆえ手癖でロングな髪先でも弄ろうとしかけたのじゃが……、そういや手錠しとったな、妾。
『――しかし、音俄様の供述では初対面な上に大変嫌悪感を感じるナンパ行為に苛立った結果でそう至ったという内容…ですよね?』
そう口を挟んだのは妾側の弁護士である新参者のアンセクト、パシリカ・リッスンだった。
(……というか、ちょっとムカつくから音俄呼びはやめるのじゃ。これだから最近のアンセクトは〜)
『音俄ちゃまは(……おい)、ニンゲン年齢で言えば身体はまだ16歳です。それどころか生後1週間だったワケです。
……分かりますか?被害者は詳細な年齢を知らないにしても、この貧乳といい…(…は?なんじゃコイツ)未成年だと判断可能だったハズです。
要するに…ロリコンの風上にも置けないクズ野郎なんですよ(妾が、ろ…ろりって……)』
コイツ……。弁護しようというのは分かっておるのじゃが……如何せん、言動が気に入らんな。
『無論、正当防衛が成立します。――ショウリョウながら、情状酌量の余地はまだあるかと……』
パシリカ弁護士はエイリアンのような単眼の下から前脚を当て、ショウリョウキンカンへ勝ち誇ったようにギョロギョロと向けている。
『ぐっ、仕方あるまい……』
ショウリョウキンカン検察官も勢いにやられたのか納得してしまったらしい。
『ナンパ男が犯した尽く、本来ならビートアイランドにてロリコンは斬首刑に相当する大罪……。
――――良いでしょう!アドフォルテ様、レディバリン王子様の進言を認め…被告人を懲役10年から5年へ減刑とする』
……………………カン、カン、カン!!
――――――――――――――そして今に至る。――――――――――――――
「はぁ〜〜〜……」
にしても、七星音俄か……。
「良くも悪くも、妾は名実ともにニンゲンの仲間入りというワケ……か」
現実が受け入れられないばかり、天井の染みまで数え始めてしまうこの始末。
全くアイツは、親友2人も妾に殺されているのじゃぞ。
「アドフォルテ、やっぱおぬし頭のネジがぶっ飛んでおらんか?いつか変な詐欺とかに騙されないか心配じゃぞ……?」
……今更ながら、何度思い出しても驚かされるが。
「っ~~~ん。肩も腰も、疲れとるのぉ~う」
骨組みが伝わるぐらいに敷物が薄っすい高反発なベッドじゃが、奉仕活動と苛めに耐えることに精神を磨耗したせいでよく眠れる。
(まったく、憶えておれよ。パシリカ・リッスンめ……)
――――――――!!!!
……突然のサイレン音。
「なっ、なんじゃなんじゃ…なんなんじゃ!?」
こんな…ド深夜に一体何を考えておるのじゃ、この刑務所は……。
――――『緊急事態発生。受刑者は直ちに中庭へ移動を開始してください。繰り返します。受刑者は……』
――――――――――――ビートアイランド刑務所・中庭――――――――――
肩がすくむほどに肌寒い、2030年2月の深夜。
古臭いマイクをバンバン前足で叩いてハウリングを抑えてから、太鼓のバチのような看守長であるオオバチバチは事態について説明を開始する。
「えぇ〜、急ぎのため端的に伝える。――――司法解剖の遺体がゾンビ化した」
・
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「……は?」
な〜にがゾンビ化じゃ。そんな創作のようなお話を寝起きの脳に叩き込まれても困る。
……スマン、確かここ『昆楽戦姫アドレディ』ってテレビアニメ番組の世界じゃったらしいな。……失敬、失敬。
「各囚人は看守監視の下、特別外出を許可する。……して、そのゾンビを見つけ次第抹殺すること。以上ッ!」
(いや、ゾンビなら既に死んでおろうが)
まぁ何はともあれなんじゃが、4名一組の囚人に看守を加えた計5名の班を幾つかでナンパ男のゾンビを捜索することになった。
……なったのじゃが。
「何だよ……、何見てんだよ」
工作中にいちいち邪魔してくるタガメドラ。
「あら〜、ネガフォルテ。お昼の麻婆豆腐(ウジ虫入り)に随分がっついていたけど、お気に召したのかしらぁ〜?」
「こんなニンゲンもどきに何が出来るというのよ?……ビートアイランドを死の国に変えようとしたBB×2の怨み、忘れてないから」
食事に余計なトッピングを追加してくるミズ・ヴィオランティス双子姉妹。
(担当の看守は食堂の見張り担当をしているクマバチバチじゃったか。……何ゆえこんな無能を寄越したのか)
これ以上に最悪な人選は無い。
「仕方ない。……向かうしかない、かの」
人選ならぬ虫選に嫌な予感しかせぬが、最悪プライドインセクトで恨烙変異さえすれば……。
「――――あ~~~っ、とうに没収済じゃったわ」
幕間【草むしり】
「くっさむっしりぃ~、くっさむっしりぃ~、鉄棒周りを草むしりぃ~。…………ダルくなってきたの~」
毎日の朝は6時半に起床し、7時までの朝食と囚人人数の確認までに各自に割り振られた部屋の掃除を間に合わせる必要があるのじゃが、朝8時前にはこうして刑務所中庭の清掃作業が始まるワケじゃ。
……本来ならば1部屋ごとに受刑者3~4匹で共同生活をするそうじゃが、妾だけニンゲンのせいか専用部屋に独り放り込まれておる。
(そういう所も『優遇されている』などと見られてしまっておるのじゃろうがな……)
「毎日ずっとしゃがんでるせいで腰が痛くてなぁ……。これが済んだら9時から奉仕活動~っと。今日は裁縫じゃったな」
作業はその日その日で異なる。
初日こそ適性検査やら軽い面談があり、挨拶を始めとして歩き方に整列の仕方やらと刑務所生活に必要な心得のようなものを研修されておったワケじゃ。
しかし……小さなムショ故に2日目から木工やら鉄工作業やらと続いてしまい、正直クッタクタであった。
まぁ裁縫なら座って作業が出来るし、何より蜘蛛の性分ゆえ糸の扱いはムショ内でも”とっぷくらす”じゃ。
「(あんまり文句ばかりじゃ妾とて懲罰を食らってもおかしくないし、一応午後には2時間半程度の休憩時間が設けられておる。我慢じゃ我慢……)」
単に昼寝するのも良いが、受刑者同士で集まれる談話室にはテレビも1台だけ設置されておる。
ビートアイランドは電波が終わっているので基本は映画鑑賞という使い方になる。
(先日の刑務所を舞台にした”ひゅーまんどらま”な作品は良かった。殺人の冤罪で終身刑を言い渡された銀行員の主人公じゃったが、人間関係が腐り切った刑務所の中でも希望を捨てずに生きる様は何とも健気で、共感出来る要素の多い作品であったな)
さすが看守からも不朽の名作と呼ばれていただけのことはある。
……上映時間は休憩時間ギリギリじゃったが、満足度が高いからむしろ得した気分になるしの~。
「……出所したらば、アドフォルテともう一度観てみたいものじゃな」
気付けば妾は、半径5メートルほどの草むしりを終えていたらしい。




