第27.5巻、ホントの最終決戦《アウフタクト》へ(甘口版)
前回のあらすじ3行。
「黄昏の後光に照らされた天道虫の戦姫、アドフォルテと惨劇の象徴であるネガフォルテが激しくぶつかり合う」
「一方のアルジも、キネシスがキャストドライバーの回収に成功したことで深層心理の世界で再会した謎の白いアンドロイド、サイバー太郎へと満足気に変身を果たした」
「アルジ・キネシスの協力により、アドフォルテ・グランシャリオの力でネガフォルテの闇を祓うことに成功した」
※注意:今エピソードは本来の表現をマイルドに修正したものです。完全版をご覧になりたい方は某外部の姉妹サイトにて同名タイトルもしくは第27.5巻、ホントの最終決戦から(辛口版)からご覧いただけますと幸いです※
人なら誰しも、「あの時もっと頑張れていたなら」と過去の選択肢を振り返り、後悔し、憂鬱になることがある筈だ。
「1年前…1年前、ね。ウチはあれから、ずっと後悔してたことがあるんだ」
今日出会ったばかりの2人に何を言っちゃっているのだろうと、こんなこと、今更伝えたってもう遅いのに。
……でも、話せてしまった。
1年前の、あの最悪の出来事のこと。
人間とビートアイランドの平和を守るためにいつも通り3人で戦って、心の闇を明るく照らして、明日も親友同士で笑って手を繋いで……はいられなかったこと。
1年前にアラクネ・マザーと3人で対峙していたこと。
『貴方だけでも生きて……。綾瀬さん…だい…す……』
『最期まで、ゴメン。はぁ…、はぁ……。へへっ…、綾瀬……おれ、もう、ダメかも……』
ウチが手を伸ばせなかったせいで、親友の北扇子舞と本木南に最悪の結末を招いたこと。
そして、憤怒し我を忘れたウチは。
「……グランドノーツリボン。――タン♪タン♪タタタン♪」
持っていたバグズリボンと力尽きた舞と南の元から飛び出してきたモルフォードリボン、エレギートルリボンを結集させたことでグランドノーツリボンを創り出し、虹色のアドレディ『グランドアドフォルテ・クェタルケストラージ』へと究極昆楽変異を果たした。
「お前が死ねば、お前さえ居なくなればッ!お前なんか…、お前なんか……ッ!!」
怨嗟の籠った叫びとともにアラクネを浄化することなく手に掛けたこと。
「はぁ……はぁ……、まい、みなみ……!!」
グランドノーツの力でアントベルリボンの10倍分身とマラカティスの大鎌、トライホッパーの跳躍力に加え、親友達が所持していたエレギートルの電撃とモルフォードの翼から放つレーザー光線の同時発動により仇敵の息の根を止めてしまった。
――――それはただ、2人の命を引き合いに出して自らの行いを正当化しているだけに過ぎなかった。
穢れてしまった手で尊い2人から背負った罪とともに無言で帰り、それぞれの保護者の元へ送り届けたこと。
南の母親からは当然ながら本気で顔を叩かれて、呪詛のような罵詈雑言を浴びせられ。
舞の母親に至ってはショックのあまりに気を失ってしまった。
過度な精神疲労が原因らしく、精神科医から心因性失声症なのだと診断されたウチは四六時中フラッシュバックする悪夢の中で苦しんだこと。
幸いにも高校受験を終えた後だったのでその始業式が訪れるまではカウンセリングと自宅療養に集中できたウチは1ヶ月ほどで治療を大方終えることが出来たのだけど、本当ならば一緒に卒業出来た筈だった親友達を想うと喪に服する心持ちでしかいられず、舞い散る桜の花ですら憎たらしく感じていた。
あの大蜘蛛の怪物は運命的にも、ウチと同一の顔立ち・声色・力を持って人間の身で生まれ変わり、出会った。
心の底で悶え苦しみ続けた1年間ではあったが、見知って間もないのに捨て身で心の支えになってくれた新しい友達の存在もあり、とうとう過去の因縁に決着を付けることが叶ったのだ。
闇を打ち祓い崩れるようにして気を失った彼女を前に、「事情はよく知らないけどよ。『チェンジスラスター』。今なら仇を討てる。必要なら貸すぞ」と青く光る剣を薦められた。
――でも、結局のところウチはその誘いを拒否した。
とどめを刺さなかったことを後悔することが今後あるかもしれないけれど、でも。
仇敵の血に塗られたウチを見たら、あの親友達はなんて声を掛けただろうか。
一生顔向け出来なくなる、今よりもっと後ろ髪を引かれることになる、そう思ったとき。
……ウチはかつての敵に膝枕をしていたのだった。
「ごめんね、アーくん、キーさん。なんか、独り言長くなっちゃった」
2人は静かにじっと耳を傾けてくれた。すると、最初に口を開いたのはアルジ・キミヒトと名乗っていたオフィスカジュアルの黒っぽい服の背が高い男の人。
「気にすんなよ、綾瀬。……それより、今でもやり直したいか?その過去」
「当然、だよ」
アーくんに聞かれるまでもない。人間誰しも、やり直したい事なんて数え切れないぐらいあるものだ。
そんな問答をしていると続けてきたのはアーくんではなく、白セーターとデニムに伊達メガネまで合わせた大人っぽい冬コーデの銀髪雪女、キネシスだった。
「ん〜そういえば聞きたいんだけどさ、今の話に出ていたビートアイランドってのはどんなところ。ここから近い?」
「ううん。ウチに力を貸してくれているミューセクト達が普段暮らしている島なんだけど、何処かの海のど真ん中っぽいから内陸の池袋からは結構遠いと思うよ。……それがどうかしたの?」
「へぇ~。質問の意味、大体わかった。――キネシスにしてはいい質問するじゃんか」
「してはは余計だよアルくん!!」
大体わかったって何が?と思っているとアーくんは何やら企み顔をしていた。
「きも、何変な顔してんの」
「良いこと思いついたんだよ。まあ、その代わりネガフォルテにも協力してもらおうかと思ってるんだが」
「……聞くだけ聞いてやろう。聞くだけな」
ウチとウチの膝を枕にしながら顔をお腹に埋めているネガフォルテに対し、何やらアーくんは提案を持ち掛けるらしい。
というかネガフォルテのせいでお腹がくすぐったい。
「とりあえず綾瀬とネガフォルテ、まずはその変異を解除してくれ」
「驕るな!まるでドレスを脱げって言ってるようなものではないか!ふん、これ以上妾が汝如きの話など聞いてやるものかっ!」
「……ねえ、ネガフォルテ。ウチの言ってることだと思って、言うこと聞いてくれる?後でミルクでも飲ませてあげるから」
「妾を稚児扱いするなっ!それに大体、無い乳使って何を飲ませ――ぐががッ!?ギブ!ギブ!ギブ!」
「生後一週間児が、何処でそんな言葉覚えてきたんでちゅかねぇ~。ちょっとおいたがすぎまちゅよねぇ~」
(ひどく笑顔の綾瀬にAカップを押し当てられながらヘッドロックをキメられるネガフォルテの姿に憐れみを感じる他ない…といいたいところだが、散々さっきまでオレらにやってくれたことを思うと、やっぱハッキリ言って気の毒に思うような考えは微塵もない。というか、無謀にもわざわざ見えている地雷の上でタップダンスするやつがあるか)
それはそれとして。
「は~い、綾瀬撮るぞー。アーマイゼ……」
「いや、日本人には通じないでしょっ」
「突っ込むのはえーよ、キネシス」
やっぱ楽しそうだな、あの2人。
変異を解除したウチは改めて被写体となったワケだが、写真で何をするつもりなのだろうか。
「どう?盛れてた?」
「ピースは決まってたな」
それに対してウンウンと頷くキネシス。
彼らに現代語はまだ早かったかもしれない。
「これで衣服のデータをアプリに登録して、と……。おい、ネガフォルテ」
「いい加減、様を付けろ様を!……んで、妾も撮るのか?」
「撮るっつーか、着せ替えな」
「………………は?」
次の被写体はゴスロリ姿に戻ったネガフォルテだ。
「何じゃ、ぴーすでもすればよいのか?」
「言っただろ、これは撮影じゃないって」
アーくんが構えていたスマホのような端末からフラッシュが焚かれた瞬間、ネガフォルテの衣服は一変してしまった。
「な……!?こ、これ、これって~~~アドフォルテの私服ではないか!!」
「コイツはドレスアッパーアプリ。光子技術で即時着替えが可能な"オレ"開発の機能さ」
驚いた様子のネガフォルテに対し、わざわざ一人称を強調して胸を張っているアーくん。
「今ここに実質同一人物が生まれた。(物語の世界は主人公が居なくなると崩壊しちゃうし、今回もこれで世界を騙せる筈……)――さて、と。綾瀬、ビートアイランドまではどういう手段で毎回移動しているんだ?」
実質同一人物というワードが喉元に引っかかったが、質問に答えるために飲み込んでおく。
「チューニングスタンプ。ここのテントウムシみたいな紋章を写しておくと、今までに押した地点をイメージすることでワープ出来るんだよ」
普段は昆楽変異に使用しているチューニングインセクトだが、実はこういった便利な能力もある。
……まあ、流石に人前で使うのは色々とマズいので常用は避けている。
「不思議パワーに関しては納得いかないが、合点はいった。――ここからは提案なんだが……」
それはウチの予想だにしない内容であった。
「1年前の惨劇にリベンジしてみないか」
「………………え??」
「簡単に説明するぞ、いいなお前ら。
まずオレとキネシスはこの世界から一旦脱出する。そして1年前の……、何時だ」
「忘れたことは一度もないよ。……2029年の2月4日、日曜日の15時ぐらいだったかな」
まさか。いや、でもアーくん達はパーラーで全ての世界がどうたら言ってたし、ホントにそんなことが……!?
「サンキュー綾瀬。……そう、ここを抜けたらオレ達でその時間の現場へ再入界する。ちなみにさっきのスタンプって声だけ飛ばすことも可能か?」
「出来るよ。といってもスマホあるから全然使わなかったけどね」
「……それだ。オレのキャストパスにスタンプを使ってくれないか。向こうに到着したら合図を送るからさ」
……了承しかけたが、ウチの中で疑問が沸々と浮かんでくる。
「ウチも一緒に世界を抜け出すんじゃ、だめ?」
「悪いな綾瀬。オレのキャストドライバーに搭載された世界移動の機能は単身用なんだよ」
「単身用なら、何でキーさんまで一緒に出られるん?」
「幽霊のわたしはアルくんと一心同体だから、実質一人として出られるんだって」
凄いとんちだった。
「そういうわけだから、とりあえずスタンプ押しちゃってくれ」
「はいはい。――ほらっ」
正直、了承はしたけどアーくんの余裕そうな顔をしていたら意地悪したくなった。
そういうわけでキャストパス?そのスマホみたいなやつの背面に捺印しつつ、横顔まで一気につま先立ちで近づいてやった。
「ちょ、近いって綾瀬!?」
「へぇ~。アーくん、か~わいっ」
不意にぶかぶかのスタジャンの袖を頬に密着させながら、初めて会った時みたく目を細めて耳元で囁いてやった。
「急になんだよ綾瀬!」
「ウブ過ぎんでしょ、アーくん。今の冗談だから。――そんなことより早く出発しようよ、例の1年前に」
「あーやーせーさん?」
「うげっ!」
割って入ってきたキネシスに思わず変な声が出てしまった……。
「おい、そろそろ妾に話しかけろ汝ども。……寂しくなってしまうではないか」
ウチと同じ格好をしたネガフォルテが頬を膨らませながら涙目でこっちを見てきた。
「なーに、どうしたのネガフォルテ?」
「…………ほれ」
「これって……!」
そう言ってウチに手渡してきたのは、蜘蛛の紋章が描かれた黒いリボンだった。
「…………………………………………………。……………………………、………………………………………………」
「――、うん!……そうだ、代わりにこれ預かってて」
「…………なんじゃ、これ」
「ジャルガオルガ希少種」
「ジャルガオルガ希少種。……………???」
ぬいぐるみが入ったゲーセンの袋を預けると、名前を何度も噛み締めながら硬直するネガフォルテだった。
「『ディメンションゲート――――『座標…2D4A5D1A3L6Y』」
アーくんがキャストパスに日時を入力したのち銀のベルトとの一連の操作を完了すると、公園の木の前にブラックホールのような穴が出現した。
「んじゃ、先行ってるからな!――あ、そうそう。戻れるように、公園のどっかへ適当にスタンプ押しとけよ?」
「はいはい。――――行ってらっしゃい」
「行ってきますっと……。キネシス!」
「オッケー!」
キーさんを象っていた氷の人形が途端に崩壊すると、アーくんはすぐさま穴に飛びこんだ。
幕間【ゲーム大好き七星さん】
「ジャルガオルガ希少種…ジャルガオルガ希少種……」
「あの景品、ネガフォルテに預けてきたんだな」
「うん。戦いに巻き込まれて破れちゃったらイヤだから」
「……綾瀬さん。ところで、ジャルガオルガ希少種って結局…なに?」
「キーさん。ジャルガオルガ希少種はジャルガオルガ希少種なんだよ」
「……????????」
「ジャルガオルガ希少種…ジャルガオルガ希少種……」
「ジャルガオルガ希少種…ジャルガオルガ希少種……」
「(揃いも揃ってバカなのか、あの雪女とのじゃ蜘蛛ラスボス女は……)確か、ゲームのキャラだったっけか。ステルスやら電撃浴びせる毒針発射してくるとか……」
「へぇ〜、アーくんゲーセンに行った時の話、憶えていてくれたんだ。もう『ダーリン』はウチの忠犬じゃん。――わんわん、わぁん」
「おい、また急に耳元まで囁きに来るな!……つーか、ダーリンなんてまた呼んでたら来るぞ、キネシスが」
「大丈夫だって。……それより今度、新座にあるウチの実家においでよ。お菓子もゲームも沢山あるから、ウチと一緒に――げっ」
――――「綾瀬さん。……ちょっと、頭冷やそうか」
――――「アドフォルテは妾専用の太陽ではないのか!?妾の方がヤケてしまうではないかぁ〜!!」
「え、えっと……」
「良かったじゃねーか綾瀬。キネシスにもネガフォルテにも、すっかりモテモテだな」
「はぁ……
きも」




