第27巻、復活の天道《アドフォルテ》(甘口版)
前回のあらすじ3行。
「満足していたアルジ・キミヒトは深層心理の世界にて、白いアンドロイドと再び出会った」
「『彷徨えるまま。ただ、彷徨えるままに行くんだ。最期まで辿り着くことがなかった、楽園を求めて』」
「現実のキネシスと綾瀬を助けるべく、オレは二進数を読み解いたのち暗い世界から目覚めようとしていた」
※注意:今エピソードは本来の表現をマイルドに修正したものです。完全版をご覧になりたい方は某外部の姉妹サイトにて同名タイトルもしくは第27巻、復活の天道(辛口版)からご覧いただけますと幸いです※
「もう一度、ウチに力を貸して。――――昆楽変異!」
……それは太陽の輝きを以て閉ざされた世界を照らし出す。
「まさか!?アドフォルテの精神は確かにへし折った筈じゃぞ……!し、しまった…妾の神殿が、崩れていく……」
瞬く間に崩壊していく糸造りの暗黒神殿。闇に覆われた天井も裂けた先から光が漏れ出し、拡がり、橙色に染まっていく。
そして世界がそれを待ち望んでいたように、露わとなった夕焼けを背負うように人差し指で天を衝く少女の姿がそこにあった。
「マッサージ如きで折れるわけないでしょ。…1年振りの名乗りはアーくん達をどうにかしてからだね!――お願い、シルクープ!『タン♪タン♪タタタン♪』」
アドフォルテと化した綾瀬はチューニングインセクトにシルクープのバグズリボンをセットすると可憐に打ち鳴らした。
「アーくん、キーさん、まだ緩んじゃ駄目だよ。ハーピングッドパウダー!」
「シルシルゥ〜」
シルクープの鳴き声とともにアドフォルテの背後から蚕のように白いハープの翅が幻出した。
音符のような鱗粉を満足し過ぎたアルジとキネシスに振り撒くと、度重なる最高のマッサージとツボ押しの効果で弛み尽くした2人の全身の元気がみるみるうちに蘇っていった。
「よーし、治療完了〜!」
「せっかくあれだけ腑抜けにしてやったのに一瞬で……。もう整体師の真似事は終わりじゃ!ミュラー、汝の出番じゃぞ!カイシュラブリボン!『タン♪タン♪タタタン♪』」
プライドインセクトに黒いリボンを使うや否や、日傘の先端からブチブチと現われると早速振り回されるムカデの鎖、その先に取って付けたようなカブトガニのハンマーをローラースケートで華麗に回避しながら次の一手をイメージするアドフォルテ。
「ムカデっぽいのが先端から生えてきたと思ったら先っちょにカブトガニみたいなのがくっ付いてて、ゲームで見たモーニングスターみたい……。(ふーん、ネガフォルテのリボンはあの日傘に能力を付与するタイプなんだね)。だったらこっちは、カラフルサップバトン!」
アドフォルテの声に呼応して羽虫のような光粒が右手に宿ると、その中からキラキラとした棒状の武器が発現された。
「接近戦は任せたよ、マラカティス!」
「マッチャ~!」
躊躇無くバトンに緑色のマラカティスリボンをセットすると、先端から色鮮やかな大鎌が出現した。
カイシュラブの速く重い一撃の数々をローラースケートとバク転を駆使して躱しつつ、マラカスのシャンシャンとした音を鳴らしながら大振りの得物をぶん回すアドフォルテの攻勢。
対するネガフォルテも手首から糸を伸ばしては公園の地面、木々を利用した立体的な身のこなしと8つの眼により攻撃一つ一つをしっかりと避けている。
互いに一定の間合いを保ちつつも、地上・空中とでその機動力をフルに活かした互角の攻防が続き、同一の表情で一歩も引かぬ睨み合いが続く。
残像の尾を引くほどの速度で急接近しては剥き出しとなった魂の火花を激しく散らし合う。
その動作も攻撃方法も異なれど、その息遣いといい変に波長の合った視線といい、まるで鏡像と相打つような錯覚に襲われている二人。
「アドレディ・シャンシャン・デススラッシュ!」
「(どれ、妾も便乗するかの)。ネガレディ・ブンブン・スマッシュ!」
一気に決着を付けに来たアドフォルテとネガフォルテはオーラを纏った得物同士で畳み掛ける。
「掛かったね、ネガフォルテ!――またお願い、トライホッパー!」
「トラッパ!トラッパー!」
大鎌にムカデの鎖が絡まったところを狙い、トライホッパーの能力でスケート靴に緑色のトライアングルのような金具を発現させるとアドフォルテは足元に思い切り力を込めた。
「ウチとトライホッパーなら、綱引き勝負は負けないよ!」
「ぐっ……何という跳躍力よ!うわっ、引っ張られるぅ〜!!」
メインウェポンである日傘を奪われまいとネガフォルテも歯を食いしばったものの、馬力の差で勝ちきれないまま絡めとられてしまった。
「ひ、日傘が!ちっ、仕方が無い。代わりに妾の脚で日陰を作らねば……」
バコォン!と大きな音を立てて公園内にある公衆トイレの屋根に不時着する羽目となった傘を横目に、立ち直しを画策していると――。
「…………んん!!はぁ〜。満足、したぜ……」
「うっそ!アルくんが気持ちよくなり過ぎてキャラ変しちゃってる……!?」
「あの生ごみどもまで目を醒ましおったか……(ま、不味い。日光を遮る場所も無い公園のど真ん中で3対1など、以ての外ではないか……!何か策を、策を講じなければ!)」
衝撃音が切っ掛けとなったのか、倒した筈だったアルジとキネシスが完全回復した形で目を醒ましたたのであった。
「へへ、やっと起きたね。寝坊助のダーリンくん」
「えっ、綾瀬?なんかさっきまでと色々変わってないか?」
スタジャンといいミニスカートといい、黒を基調をしていたファッションは魔法少女然とした赤いドレスへと変貌しているばかりか、性格まで1トーン明るくなったようにも感じる。
「――ねえ、"わたしの"アルくんに今なんて呼んだの?アーくん呼びならギリ許してたけど、まさか今ダーリンだなんて……」
「お、おほほ〜!気のせいだよ、気のせい。ねっ、アーくん!」
(何はともあれ、自分を取り戻したんだな。綾瀬のやつ)
1オクターブほどテンションの高い綾瀬とキネシスのやり取りを前に胸を撫で下ろしたアルジであった。
「それじゃ、今から改めてご挨拶!」
綾瀬…というよりアドフォルテが指を鳴らすと、あの声が再び世界に響き渡る。
『昆楽変異!――それはチューニングインセクト使用のコマンドだ。では、変異プロセスをもう一度見てみよう!』
「……いや、またかよ。ネガフォルテの時といい、もうアレか?此処の世界のお約束的な」
『いいから黙って見てて下さい』
「あっ、はい。失礼しました」
「何してんのアルくん」
人の心が無さそうなナレーションからピシャリと叱られたところで、とりあえず綾瀬の変異プロセスを見てみることにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『七星綾瀬の昆楽変異コマンドを受けて限界点を超えた同調係数が、インセクト内に凝縮されたミューセクトエキスと融合。僅か0.05秒でアドレディドレスへと投射成形され、昆楽変異を完了するのだ』
綾瀬が気合と立ち向かう勇気を込めて叫ぶ「昆楽変異!」。
周囲は黒い音符と赤い五線譜の波紋に満ち溢れた虹色の神秘的な空間へと瞬間的に切り替わった。
◇
『タン♪タン♪タタタン♪』
真白に発光した綾瀬の衣服だったが、力強い打音が一面に鳴り響くと縁に五線譜とタンバリンの金具のような装飾がある、七つの黒斑点を宿すオレンジがかった赤いノースリーブのドレスへ変化。
◇◇
再度同じリズムで奏でると、今度はボブカットの髪が長さを増すと同時にザーッと黒からブラッドオレンジに変色し、指先も赤いマニキュアで鮮やかに塗られる。
◇◇◇
三度音色を響かせると背中にテントウムシの甲殻が展開され、金色の“f“の髪飾りとオレンジ&黒斑点が入ったローラースケート靴が装着された。
『タン♪タン♪タタタン♪タタタン、タン♪』
「七つの希望で、叶う意志!幸せ届ける、アドフォルテ!」
『タタタン♪タタタン♪タタタン、タン♪』
変異が完了すると、夕陽に向かってアドフォルテは両手を挙げながら跳び上がった!
「アーユーレディ~~~?アドレディ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
太陽のような笑顔をニカニカと見せるアドフォルテの変異を一通り観終えたアルジ達。
「おお〜、これが本物」
「やっぱ凄いキャラ変わるっていうか、カッコかわいいといいますか……」
脊髄反射的な感想を各々述べている中、一人虫唾がダッシュ気味な女が一人。
「……舐めた真似を。しかし多勢に無勢というヤツ故な。――現れよ、我が子らよ!今こそバグジャマーとなりて、世界を闇に染め上げろ!」
ネガフォルテが口上を完了すると、影という影から真っ黒な子蜘蛛がうじゃうじゃと出現しては周辺にある自動販売機、通行人のスマートフォン、走行中の運送トラックなどに取り込まれていき、それら全てが女王に従う兵士と化した。
……そんな時、キネシスは公園のベンチ近くであるものを発見する。
「あそこで光ってるの、間違いない!アルくんのキャストドライバーだね!」
もはや一糸も纏わぬ綺麗な状態で落ちていたベルト、変身キャストドライバーとキャストパスである。
「アレが冷凍女の目的かの。――進行を邪魔せよ、バグジャマーども!」
「バッグ、ジャママママッー!!」
ネガフォルテによって様々な無機物が変貌したバグジャマー軍団がキネシスを狙って進軍を開始した。
「うわっ、めっちゃ缶ジュース飛んできた!?あっぶな!」
アルジのドライバーを回収しようとしていたキネシスだったが、自販機バグジャマーとゴミ箱バグジャマーの射出系コンビに妨害され、思わず回避に専念するばかり。
「任せて!レディバリン・エリトラ・リフレクション!――キーさん、今のうちに!」
「ありがと、あや…アドフォルテ!」
アドフォルテはテントウムシの背中のようなバリアでキャストドライバーへの道を作るように幾つも発生させ、安全なルートを確保しつつ各種飛び道具を跳ね返している。
「バグジャマッッ」
「まだ抵抗するみたいだね。だったら!」
アドフォルテはチューニングインセクトのレディバリンリボンをカラフルサップバトンに付け替えると、発光部分を『シャラン♪シャラン♪シャラララン♪』と3回掌で回した。
「アドレディ・スターダスト・エンブレイス!」
バトンの先端から放たれた星屑のような銀色の光線がバグジャマー達に直撃すると、眩い光の繭となってバグジャマーを優しく包み込んだ。
「イヤサレタァ〜」
闇より出でし子蜘蛛らがバグジャマーの体から這い出ると雲散霧消し、各無機物達は元通りの場所へと瞬時に帰っていった。
「これがアドフォルテの癒しの力……。こりゃ、尚更欲しくなってきたな」
手元にキャストパスがあれば今すぐにでも写真1枚は抑えておきたいと惜しく感じるアルジだったが、希望の糸口は直ぐそこまで見えていた。
「まだじゃ!まだバグジャマーは10体おる!数であれば妾はまだ――」
「……それはどうかな」
「なにっ!」
「アルジ社長!ドライバーをお持ちしました!」
「いや社長じゃねえって!しかも秘書みたいなノリまでしてるし」
キャストドライバー一式をスライディングで駆け付けてきた変なノリのキネシスから受け取ったアルジ。
「……今言うのも変かも知れねえけどさ。いつも助けてくれてありがとな、相棒。お陰でオレはまだ…戦える!」
「えへへ…。――思いっ切りやってこい、わたしだけの相棒っ!」
お互いに目線を逸らしながら頬を染めていた2人。
(内心少し恥ずかしかったが、ここまで一緒に旅をしてきた大事な仲間なんだし、オレだってこれぐらい言うべきだよな……)
……っとその時、「あっ、そうだ」。
ふと綾瀬だったアドフォルテを前にいつものお約束を一つ思い出した。
「綾瀬綾瀬、夕焼けを背後に一枚撮ってもいいか?」
無意識に熱を持っていた頬を自らパンパン叩くと、同様の面持ちで照れていたキネシスを横目にキャストパスのカメラをアドフォルテへと構え始めたワケだが。
「……へ?今ここでするの?ドライバー受け取ったんだし、変身!とかじゃなくて?」
「急に何を言い出しとるんじゃ、アルジ・キミヒト。どうみても今は戦闘中ゆえ、困惑せずにはおられんぞ。汝はまいぺーすか何かなのか?」
双子みたいな2人から思っていた以上の総ツッコミを受けてしまった。
「アルくん。わたしはもう慣れましたけど、2人は初見だから……」
「おい冷凍女!アドフォルテなんかと『2人』でまとめおって、あんまり舐めているとまた癒してしまおうぞ!」
「なにを〜!」
キネシスとネガフォルテが馬鹿みたいな口論を展開している間に、さっさとレンズを向けてしまうことにした。
「はい、ピース」
「あ、わっちゃちゃ…」
焦っていたのか若干変な表情になってしまったが、無事に『キャストオン』の電子音が聞こえたので良しとした。
「いやいや〜アーくんさぁ、さすがに今のは撮り直してもらえない?!」
「え〜、だってネガフォルテが急ぎたがってるしぃ〜」
「妾のせいにするな!……にしても、いつまで待たせれば気が済むのじゃ!これ以上妾を苛立たせるでないぞ!」
青筋をビシッと立てているネガフォルテとそのお供達を前に『変身キャストドライバー』。
銀のベルトを腰に巻き付けた。
「ネガフォルテの相手、綾瀬に任せてもいいか?オレとキネシスで周りのバグジャマーを始末してやっから」
「ありがと。それじゃ、バグジャマーのことお願いするね」
「おうよ」
背中合わせとなったチェンジノイドと昆楽の戦姫は息を揃えた。
『キャストサーチ……』
「進化して、ビッグディッパーレディバリン!」
手元のキャストパスに祈りを捧げていると、背後から白い光が漏れ出した。
「夢のアンドロイド、オレに力を貸してくれッ!」
悠久の時を超え、数多もの世界を超えて、届け。
「――『サイバー太郎――――キャストチェンジ』。(キネシスに便乗してオマージュしてみるか……)
――――お前らを止められるのはただ1人、オレだ!」
遂に捉えた未来への片道切符を手に、その新たな力に身を任せることにした。
「満足させてくれよ〜!――変身ッ!」
「極地、昆楽変異!」
その刹那、世界中の視界を白妙とした閃光が染め上げた。
「果てなき空に輝く星々!
アドフォルテ・グランシャリオ!
――アナタの願い、叶えてあげるね!」
『Search/
Interception/
Destroy/
Dive in the mission――さあ、任務を遂行しよう』
僅か0.05秒で北斗七星の装飾が散りばめられた白銀のアドレディドレスを身に纏い、今更ながらピースポーズを決めた銀髪のアドフォルテ。
その背後にはボロボロの黒いマントを翻す白いアンドロイド……サイバー太郎へと変身を完了したアルジの姿があった。
『アタックチェンジ、サイバー太郎』
手の甲にある発射口からオレンジ色に発光するワイヤーが熱を帯びながらニュッと現れると、左手側を偶然前方にいたシグナルバグジャマーの左腕に引っ掛けてはそれを引き戻しつつすっ飛ぶように移動を開始。
右手側から伸ばしたそのワイヤーですれ違った数々のバグジャマー達を切り裂いていく。
「おのれアルジ・キミヒト。妾の技を使うばかりか、我が子らをよくも……」
「――――ネガフォルテの相手はアドフォルテだから」
バグジャマーをオレンジワイヤーでズバズバと立て続けに始末していくアルジへ、ネガフォルテは表情筋を怖立たせながら右手首にある糸発射口を向けるも、白いアドフォルテは挑発するように眼前で立ち塞がった。
「生意気なっ!」
「蜘蛛の糸…!でも、もう1年前のようには…行かない!」
矛先を急遽アドフォルテに変更して強靭な白糸を浴びせたものの、アドフォルテ・グランシャリオは名前通りの7つの星へと瞬時に切り替わると早々に糸の拘束から脱出してみせた。
「ち…星に化けて脱出とはな。呆れた強さなのは認めてやらんでもあるまいが、妾が簡単に屈すると思うでないぞ。――出番じゃ、ザトカリスリボン!『タン♪タン♪タタタン♪』」
プライドインセクトにリボンをセットして鳴らすと、ネガフォルテの手元を離れて元の形状に戻っていた日傘の先端からザトウムシの細長い脚が8本現れ、その脚毎にアノマノカリスのヒレが10枚も生えてくると意思を持ったかのようにカタカタと持ち主まで駆け寄ってきた。
「ほー、主の危機に駆け付けてくれたか。まったく愛いやつよのぅ〜」
は〜、よしよしと不気味な節足を持った日傘を母親のような表情で撫で回すネガフォルテ。
「ウゲッ、何あのウネウネしたやつ。気持ち悪……」
「――おい冷凍女、言葉を慎め。我が眷属を愚弄するとは、妾とて聞き捨てならんぞっ!」
ネガフォルテはヒレの生えたザトウムシの脚をバッサバサさせながらキネシスへと襲い掛かる。
「うわっ!?」
「……させないよ!お願い、ナナフコーダー!『タン♪タン♪タタタン♪』――よいやっ!!」
「ナニャ〜!」
アドフォルテはチューニングインセクトのリボンをナナフコーダーに付け替えて音色を鳴らしたことで出現した6本脚のリコーダーを鷲掴みにすると、そのままネガフォルテのこめかみに向けてフルスイングで投げつけるとものの見事に命中した。
「痛っっっっっっ!!……アドフォルテめ〜、何処までも邪魔を!」
ナナフコーダーが直撃した箇所を8つも涙目にしながら必死にすりすり摩っている様子が正直いたたまれないまま、引き気味にキネシスは視線を送っていた。
「敵勢力、残り1体はキネシスに任せる。――最終ターゲット、ネガフォルテを捕捉。『ラストアタックチェンジ、サイバー太郎』」
「うん、アルくんにラスト任されちゃったね。……行くよ!」
白いアンドロイドと化したアルジが腰のキャストドライバーにパスを重ねる度に全身を走るラインがオレンジ色に発光、これが3回行われると右手側の帯にあるチェンジスロットへとパスを放り込む。
キネシスも自身の手を重ね合わせ、紫色に瞳を染めていく。
「絶対零度……!」
「バ…バグ、ジャ……」
キネシスも残りのスマホバグジャマーをカチンコチンにし、その液晶画面を暗転させてしまった。
「おいおい、アルジ・キミヒトよ。妾にアドレディ以外の攻撃ではダメージを与えることなど出来んが?」
嘲笑とともに事実を突き付けるネガフォルテだったが、ラストアタックチェンジの発動準備が完了した機械の体は跳躍し、ネガフォルテの頭上を取った。
「ダメージの無力化はとうにラーニング済みだ。――自身の狙いは此方にある『Discharge……!』」
(変身持続時間はあと10秒も無い。攻撃無効のネガフォルテへの最適解は、これだ!)
胴体から手足の先まで輝く橙の光。
「今だ、アドフォルテ」
それは両手と合わせて計10本のワイヤーとなり、ネガフォルテを直接狙わずに上から鳥籠のように包囲網としてその足元へ着弾させたことで行動を拘束した。
「何なのじゃこの糸は!ええい煩わしい!このっ、このっ!!――――しまった!?」
「アドレディの攻撃しか通用しないのは、あくまでネガフォルテだけだよね?」
キネシスがピストル状に構えた指先から発射された氷弾は鳥籠に鞭打ちし続ける日傘に見事命中し、弾き飛ばしたことで武装解除に成功した。
――――夢であったかつての思い出達が彼女の中で逡巡し、溢れ出す。
アドフォルテもそれに合わせてカラフルサップバトンにビッグディッパーレディバリンリボンをセットし、バトンを回転させて照準をネガフォルテへ合わせた。
――――気が付かなかっただけで、背中をそっと支え続けていたんだ。
「これが心にキラめきを取り戻す、宇宙に瞬く輝き!――アドレディ・ポーラーセブンス・テンペスト!!」
――――愛が故に。
バトンから発射された、各七色に染まった7体のナナホシテントウの星影。
七夜の願いを退けるように手首から白い糸を弾丸状にして何度も撃つが悉くを回避され、果たしてアルジの包囲網から逃れられないまま全弾命中した。
「……妾は光ある世界から爪弾きにされた、虫の一部にもなれなかった怨念の集合体。――消えるのか、妾は?仲間の差別を無くすためにBB×2まで立ち上げたのに……」
(結局、目的は何も果たせなかった。仲間だったアンセクトの彼らも3人のアドレディ達に心の闇を晴らされ、今や敵対していたビートアイランドのミューセクトの親しき隣人と化してしまった。思い返せば、今の妾には存在理由なんて……)
……ネガフォルテ、大丈夫?
「ねえ、聞こえる?ウチの声」
「……は?何が、どうなって?妾は闇そのものゆえ、アドレディの強大な攻撃を受ければ消滅する筈では……!?」
そうは言うが、現状は五体満足。指先の感覚もあり、確かに生きている。
……というか、アドフォルテに現在進行形で膝枕されている。
「お、おい!?何のつもりじゃ、アドフォルテ!」
問い掛けを聞くと深呼吸したのち、頭上でアドフォルテがゆっくりと口を開いた。
「……聞いて、ネガフォルテ。復讐からは、次の復讐しか生まれない。1年前のようにウチがまたあなたから命を奪ってしまったら、違う形でそれが繰り返されちゃう。きっとあの2人ならそういうウチを否定してくれる筈だし、ウチだって、そんな真似は二度としたくない」
「な、ならば、妾はどうしろと……」
行き場のない震える手を包み込むように、同様に震えた手でぎゅっと握り締めた。
「……やり直そう。これまでのこと、生きて…償って、無理に周りと仲良くする必要はないかもだけど、そのうち、ウチと友達になったりして……」
「本気で…言っておるのか……?!妾は汝に対して、決して許されないことばかり働いて…。こんな体勢で言うのも難だが、妾は罪を重ね過ぎたのだ。この首だって掻き切られたって恨むつもりも毛頭無かった!なのに…なのに…友達、っ……!」
「大丈夫、もう泣かないで。……そりゃ舞と南のこと、完全に許しちゃいないけどさ。でも、どちらかが終わらせないといけないことも分かってるから。だから、友達。あなたのお天道様になってあげるから。よしよし…」
夕暮れの中、時間制限で変身が解けたアルジとキネシスは2人の雰囲気を邪魔しまいと遠巻きに見守っていた。
妾はかつて、アンセクトの英雄であった。
ニンゲンからもミューセクトからも容姿が醜いからと、気味が悪いからと、たったそれだけのことで虐げられ、差別され。
いつしか太陽すらも拝めることも許されない、日陰者とされていた。
……どうにかしてやりたかった。
園芸用の鋏でなすがままにされた仲間。
作物を荒らしてもいないのに畑の外まで放り投げられてしまった仲間。
昔は益虫であると持て囃してくれたのに薄く柔らかな紙でくるめられては、寒空だろうと構わず家屋から追い出された仲間。
差別を無くしたいその一心でBB×2を旗揚げし、地上にアンセクトの楽園を齎したかった。それだけだった。
……行き過ぎた正義はやがて悪と呼ばれ、差別を叩いたそれはまた新たな差別を顕していたに過ぎなかったのだ。




