第22巻、ウソから出たマコト
前回のあらすじ3行。
「小さな村、Dorf im Schwarzwaldの村長、ブラウニー・ブラウニーに対してアルジはあの手この手を講じた結果、遂に正体を暴くことに成功した」
「村長の正体、妖怪アウフフォッカーはその俊敏な動きや重量操作、透明化とバラエティに富んだ技でアルジを苦しめるが、アルジ以外には見えない霊体状態の相棒キネシスとの連携で追い詰めていく」
「万事休すのブラウニーに止めを刺そうと桃太郎を召喚するも、突如飛び出した血液の溶岩に飲み込まれ、やられてしまう。そして怪物は所持していた物語改変光線銃の影響で巨人化するのであった」
ブラウニー・ブラウニー村長に化けていた、同じ名を名乗る傷だらけの妖怪アウフフォッカーは自ら物語改変光線銃の黒い光線を浴びたことで右半身が炎の巨人スルトと左半身が霜の巨人ヨトゥンの融合体、Surtr hinn Gruggugi――混濁するスルトに容姿を大きく変貌させていた。
このヘンゼルとグレーテルの世界へ訪れた夜にアルジがキャストサーチにより変身した、顔面リンゴのロビンフッドによるラストアタックチェンジで放たれた矢の一撃で抉られた右脇腹、そして戦いの最中キネシスの氷弾攻撃により欠損した右足だったが、黒曜石がそれらを補う形で再生していた。
「虚無呪文、空貌の黒炎剣!!」
そんな巨人の右手に現れたのは、黒い火柱が剣のような形を得たもの。
「ヴェハハ…、これでオマエらは一網打尽だ!!」
薙ぎ払うようにその大剣を振るう巨人ブラウニーだったが、
「幸福呪文――カチコチキャンディー、マクシマル!」
巨木から舞い降りた花びらへ魔法をかけると、それは瞬時に超巨大なグルグルキャンディーへと姿を変えながら持ち手部分が地面へと突き刺さった。
その堅い飴はレーヴァテインを真っ向から受け止め、これを凌ぎ切る。
「いいかい、ヘンゼル、グレーテル!私が魔法で時間を稼いでおくから、二人でアルジのこと励ましてやりな!」
巨人の攻撃を防ぎながらそう言った老魔女グレーテは蹲るアルジにも目線をやっていた。
「えっ、励ましてって…?」
「おばあちゃん、何をどうすればいいの?」
「いいかい。魔法は誰かを幸せにするために使うんだよ。だから、お菓子の呪文は幸福なんだ」
「「うん!」」と頷いた双子はアルジの元へ駆け寄ると、幸福呪文でその場の小石や雑草を綿菓子やチョコレートなどに変化させていった。
「アルジ兄ちゃん。ほら、お菓子食べて元気出して!」
「アルジにい、いっぱい作ってあげるからね!」
ヘンゼルとグレーテルの呼び掛けだったが、それでも顔を上げないアルジ。
桃太郎、あの時オレが手を差し伸べてさえいれば助けられたのか……?
どうだろう。
これでは金太郎の時と同じじゃねえか……。
変わらない。何も、あの時から変わっていない。
誰の命も救えやしない。オレはまだ…、弱い。
――――!!
「早く目ぇ覚ませ!アルくん!!」
目の前が真っ暗になった時、氷の拳で頬に一撃入れてきたのは……。
「誰が弱いんだよ!わたしのこと、何度も助けてくれたくせに!」
「痛ってぇ……」
突然実体化したキネシスの放った横殴りのフックにアルジは思い切り薙ぎ倒された。
「うわぁ!?なんだこのお姉ちゃん!」
「知らない女の人がアルジにいを殴っちゃった…」
そりゃそうだろう。なんせこの娘はこの世界に来てからたったの一度も、アイスドールで実体化していなかったのだから。誰かが居る?程度の気配こそ感じたりシグルドとして一瞬姿を見せただけで、この本来の和服姿を見るのは誰もが初めてだろう。
「あれ、キネシス……?夏は暑いからってアイスドール出したくなかったんじゃ」
「うっさい!こんなアルくんを見せられて、このまま黙っているようじゃ相棒としてやってけないでしょ!……アルくんさ。此処まで沢山の人や物を失ってきたのかもしれないけど、それだけじゃないよね?ここに来るまで手に入れたでしょ。替えなんていない、沢山の仲間との出会いが!」
そう言われてみると、旅の中で出会ってきた数々の顔が脳裏に蘇ってくる。
「それに…わたし、一生アルくんに憑いてる一心同体の幽霊だから。成仏することすら許されない…妖怪雪女だから。アルくんが前を向いている限り、そばにいるよ…?」
鉄拳制裁の次は泣き顔で此方を抱き締めてくるキネシス。
「え、なに、急に出てきたけどアルジにいの彼女さん?」
「ひゅーひゅー!」
「違わ「似たようなものです。というか実質そうです。はい」おいキネシス!」
ヘンゼルとグレーテルの反応に気分を良くしたのか、腕のホールドを強めつつも兄妹との初会話ゆえか初手敬語口調のキネシス。
「アルくん……。とりあえずお菓子、食べようか」
冷たくも柔らかいその腕から解放されたかと思うと、正面で正座しているキネシスが頬を紅潮させながら魔法で環境物から変異したエクレアを口に近付けている。
「アルくん。はい、あーん」
「なんか、見られながらだと尚更恥ずかしいなこれ」
「いいから、食べないと元気出ないよ?」
そう言うならと「あーん…」とそれを勧められるがままに頬張った。
「うっま……」
「ぺろ……。ふふ、もっと食べさせてあげるからね」
指先に溶けたチョコを舐め取るキネシスは、今度はその辺に生えていた綿菓子を引っこ抜いて食べさせようと近付けてくる。
「あれら出したの、オイラ達なんだけどな…」
「おにいにはまだ早いと思うけど、恋は盲目って言うからね…」
手柄を取られたようで残念がる兄ヘンゼルに対して、精神的に成長の早い妹グレーテルなのであった。
「虚無呪文――」「――幸福呪文」
「煉獄火炎砲!!」「シャリシャリシャーベット!!」
巨人ブラウニーと魔女グレーテ。
不幸をもたらす魔法と幸福を授ける魔法、相容れない力同士による紫炎と氷波の激しい攻防が今も続いていた。
「少しはやるじゃないか、憎たらしい魔女め。そうだ、昔ワシの仕向けた魔女狩りは気に入ってくれたかァ…?ヴェハハ…」
「…そうかい。私が此処を去る原因になったのはお前だったのかい…!」
グレーテの魔法を放つ突き出した両手があらゆる怒りに震えている。
「その通りじゃ、ヴェハハ…。その為にも、まずお前から始末してやる。……ワシの計画を悉く邪魔し続けた、憎き魔女めぇぇぇ!!」
次第に紫色の火炎弾はソーダ色のシャーベットを押していく。
(不味いね、このまま続ければ……!)
――――「アタックチェンジ、ヘンゼル&グレーテル」
グレーテのピンチに駆け付けたのは、
「「「幸福呪文、グミグミシールド、マクシマル!!」」」
「なっ、なんだ!?目の前が塞がって見えんぞ!!」
巨人の顔面を塞ぐように出現した、紫色のグミグミとした巨大な盾。
「お前達…!」
「遅くなったな、魔女のばあさん!」
「「ばあちゃん(おばあちゃん)、助けにきたよ!」」
助太刀に戻ってきたのはヘンゼルとグレーテル、そして正気を取り戻したアルジ・キミヒトともう一人。
「ありがとねぇ。…ところで、あんたは誰なんだい?」
戦いに夢中だったため、ここで漸くの邂逅となった二人。
「わたしはキネシス。アルくんの彼女です!」
「おいキネシス、誤解を招くようなことを言うな!コイツは旅の相棒だ」
アルジは顔を真っ赤にしながらその相棒に突っ込んだ。
「え〜、でもアルジ兄ちゃん。さっきまでめっちゃお菓子あーんしてもらってたよ?」
「おい、ちょっと待てヘンゼル」
「そうだよぉ〜?なんだか満更でも無さそうな顔してたし、ほんとにアレでカップルじゃないの?アルジにいオクテ過ぎぃ〜!」
「グレーテルまで何言い出すんだよ!」
その場で三人の追いかけっこが始まってしまった。
「まったく、元気なもんだい。フン…シャリシャリシャーベット、マクシマル!」
グレーテは火力の落ちた火炎弾を全力の氷魔法で貫き、その勢いのままレーヴァテインごと巨人の溶岩に覆われている右半身に命中させた。
「す、すげえ…」
その圧倒的な光景にはアルジも思わず、兄妹を追いかけていた足を止めた。
命中した箇所から右半身は急速に冷却が進み、熱を帯びていた部分は跡形もなく黒曜石に変化する。
「クソ…、溶岩が固まって動けん……!いや、まだだ。まだ霜の左半身だけなら!……おやぁ?」
スルトと呼ぶには見た目の派手さが半減してしまった巨人ブラウニーだったが、その目線は村の入り口に向いていた。
「あの巨人、一体何を見…て……。――――!!」
「ばあちゃん?」「あれ、おばあちゃん走っていっちゃった」
何かを察したのか、老魔女は大急ぎで走り出した。
「早く逃げるんだみんな!……あの偽村長、まさかあんな巨人に化けるだなんて何がどうなっているんだ?」
最初は村長の正体が怪物だと言っても信じてもらえなかったのだが、突然現れた黒い卵のようなものが村のシンボルである樹の高さを追い抜いて巨人の姿に変わったことで漸く信用された。
「こんな状況でも息子達が帰ってこないなんて、やっぱり何かあったんじゃ…。あの巨人、今もしかして僕を見ているのか……?」
(あのモヤシめ、生意気にもワシの家畜どもを逃がしおって…。許さん)
黒曜石になり動けない右半身の代わりに、今度は霜立つ左手には冷気が球の形となって集約されていく。
「虚無呪文、冥冷凍結波!」
発射された氷の砲弾はブラウニーが村長として振舞っている間にモヤシと呼んでいた或る男を標的としていた。
――――死を覚悟していた。
私の最愛の妻、グレーテ。健やかに育ってくれた無邪気で元気な双子の兄妹ヘンゼルとグレーテル。
……想い出が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
グレーテが道端で転んでキノコ狩り用のバスケットから収穫物を散らかしていたところを手伝っていた、出逢いの瞬間。
見慣れた村外れの林道を緊張しながら初めてグレーテと手を繋いで歩いていたら向こうも手が震えていて、共に笑い合った瞬間。
貧相な家屋だったが、木こりの仕事終わりに温かいキノコ料理と魔法のお菓子を作ってくれた、グレーテと食卓を囲った瞬間。
村の真ん中にある大きな樹の根本でグレーテと生涯を誓い合い、村長達が祝福してくれた瞬間。
グレーテが想像し難い痛みに耐えるように私の手を強く握り締め、やがて宝物のような双子を産んでくれた、奇跡の瞬間。
村周辺で魔女狩りが始まり、村長と協力して恐怖に震える妻を黒い森への逃亡を図った、あの離別の瞬間。
「家族と顔も合わせられなくて、何が父親だ!グレーテの旦那だ!僕は、このペーター・ホルツマンはまだ……、生きたい!!」
家族を背負うこの男の願いは、
「幸福呪文、グミグミシールド…マキシマル!!――大丈夫かい?……」
「ありがとう。これは、魔法?それに君の目……。もしかして、」
「氷の魔法が跳ね返ってきただと!?グァァァーー!!」
ブラウニーの前面を遮るほどの超大型のグミで出来た盾は氷の砲弾を受け止めつつ跳ね飛ばし、放った本人の顔面を直撃。
巨人は大きな音を立てて村の外側へと倒れ込んだ。
「あ~~パパじゃん!」
「こんなところでなにしてんの?」
二人の子供がが突然走り出してきた魔女を追いかけて後からやってきた。
「えっ、ヘンゼルなのか…?それに、グレーテルも!二人とも、今まで何処に行ってたんだ?!」
夜になっても家まで帰ってこず、徹夜で捜し回った子ども達が急に目の前に現れたのだから驚く他ない。
「「ごめんなさ~い!」」
「違うのよペーター!私がこの子達を泊めてたのよ!」
老魔女は誤解を解こうとして躍起になっていたことで、あることをすっかり忘れてしまっていたようだ。
「…………ばあちゃん?オイラたち、パパの名前出したことあったっけ」
「えっ、そういえば確かに……。ねえ、おばあちゃん。どういうことなの?何でパパのこと知ってるの?」
「えっ、あっ、いや、それは、その……」
ヘンゼルとグレーテルから矢鱈と質問攻めに遭い、返答に困る魔女。
「まだ子ども達には内緒にしてたんだね、グレーテ」
「その、ペーター……、――!?」
至近距離まで互いの瞳が向かい合った。
「ええっ、パパ!?」
「嘘でしょ……?」
兄妹は思わず両手を頬にやる。
「おかえり、グレーテ」
かつて一目惚れしたその瞳が潤み出し、顔中の皺という皺が消えてゆく。
「ただいま……、ペーター!」
彼女は満面の笑みを浮かべ、涙を流す妻の姿に戻っていた。
すると、双子はその顔を見て何かに気付く。
「ばあちゃんが若返っちゃった……。って、あれ?あの顔何処かで…」
「おにい、あれだよあれ!家にずっと飾ってあった、あの触るとパパに怒られる絵の女の人!」
白いロングヘアに慈愛のある青い瞳、身長もペーターの胸ほどから顔の半分までに伸びており、その容姿は人物画の女性そのものだった。
「ヘンゼルとグレーテルはまだ赤ん坊だったからな。……紹介するよ、妻のグレーテ・ホルツマンだ」
すると、そう呼ばれた女性は申し訳なさげな表情で口を開く。
「その…今まで隠してて、ごめんね。二人には許してもらえるとは思っ――」
「「ママ!!」
母、グレーテの懐に十歳の兄妹は手を回して顔を埋めては泣きじゃくり、そんな三人を抱擁する父、ペーター。
十年越しに家族が一つになった瞬間だった。
「――――ヴェハハハハ!取り込み中悪いが、オマエ達。今度こそ一人残さず根絶やしにしてやるぞ!!虚無呪文、獄現の白氷剣!!」
自ら放った冥冷凍結波を反射され倒された混濁するスルトは巨大なグミの盾を引き千切りながら現れると、霜に覆われた左手に氷の剣を召喚し、ホルツマン一家へ斬りかかった。
その時、
「ラストアタックチェンジ、ブラスター」
巨人の死角から飛来した眩き赤いエネルギー弾が凶刃を貫いた。
「君達は…」
ペーターが視線を弾道の先に移すと、そこに居たのは赤いエネルギーラインが走る銃身を構えている男女だった。
「初めましてだな、あんたは。……オレの名はアルジ・キミヒト。全ての世界で、主人公になる男だ!」
赤いチェック柄のシャツに青いオーバーオール、胸元には開いた本型のペンダントという格好の青年。
「へへ、……わたしはキネシス。優麗なる幽霊にして雪女、一蓮托生の絶対バディ!」
水玉模様の死装束を深紅の帯で巻き、銀髪の編みおさげと雪だるまの髪飾りが特徴的な妙齢の女性。
二人で手にしていた銃が光の粒状に消失すると、青年が銀色の横に伸びた六角形の板を取り出しては腰に当てがった。
「変身キャストドライバー!――おい、何がスルトじゃ木偶の棒!これ以上家族のみならずこの村まで引き裂くつもりなら、オレ達はてめーをぶっ壊す!!(ヘンゼルとグレーテル)」
専用端末、キャストパスの液晶を操作すると兄妹の名が電子音声で上がる。
「人々が助け合い、そして愛の育まれたこの村を脅かす悪いやつは(キャストチェンジ)、わたし達が許さない!」
黒髪の青年アルジは装着したキャストドライバーにパスを翳すと顔の横で右手のそれを三回クルクルとさせてから、
「「変身!!」」
横で写真でも撮る最中のようなピースサインを決めているキネシスとそう叫ぶと、ベルト横のチェンジスロットにキャストパスを装着した。
「黒い森へ 誘われし お菓子の家 訪れる 仲良~し双子~の~ 物語」
オペラのような謎の歌声とともにアルジの身体は発光。同時にキネシスを象っていたアイスドールは爆散するとアルジの周囲をぐるぐると飛び回り、その体内へ飛び込んだ途端に光っていた身体は分裂すると双子の兄妹へと変身を完了させた。
「あれって、」「ワタシたち!?」
二人の変身後の姿を目の当たりにし、流石に驚く本物のヘンゼルとグレーテル。
「ただなんというか、グレーテルだけ髪といい顔立ちといいさっきの女性のようにもみえるな…」
「アルジー、キネシース!二人とも、あんな巨人やっちまいな〜!」
偽物の娘の容姿に違和感を抱くペーターに対し、婆さん言葉が未だに抜け切らないグレーテは大声で応援をしている。
「ねえねえ、アルくん」
「うん?急にどうしたんだキネシス」
右の脇腹を人差し指でツンツンしてくるキネシス。普通に可愛いがくすぐったいので辞めていただきたい。
「腰に巻いてるキャストドライバー、だっけ?わたしにも同じのがあるんだけど…」
「えっ、これマジ?ジーク達に変身した時はこんな現象無かったけど……。ーー良いこと思いついた。キネシス、手繋いでくれ」
あのアウフフォッカーに動きが読まれないように作戦を伝えるなら、オレ達にとってはこれが一番の方法だ。
「ええっ、なになにぃ〜?期待していいの〜それ?」
「違えよバーカ!例の精神会話的なやつ!」
悪ノリしているのか知らないが、変身中のキネシスが伸ばした柔らかい手を手に取る。
(アルジとキネシスは霊体状態以外でも、実体化している状態で身体が触れ合っている場合であっても発音を介さずに意思疎通が可能なのである)
「ヴェハハハハ!ガキどもに変身したところで何が出来るというんじゃ!」
「甘いなブラウニー。子どもにはな、大人には無いものがあるだろうが(金太郎)」
隣のキネシスも見様見真似でキャストパスの主人公一覧から桃太郎を選択している。
「は…?」
「何者にもなれる、無限の可能性がな。…行くぞキネシス!」
相棒とアイコンタクトをとる。
「うん!(キャストチェンジ)」
再びドライバーに端末を重ねると、二人で巨人へ向けて走り出す。
「何を企んでいるかは知らんが、好きにはさせんぞ!」
「「連続変身!」」
魔法で発射された氷塊を各自双子の能力を利用してグミグミシールドで防ぎつつベルト横のスロットへと挿入する。
「『アァーイ!マサカリ 担いだ 金太郎!『桃から産まれた正義のサムライ!いよぉ~アッパレぇ!』』
アルジは金の一文字が描かれた赤い腹掛けと金色の水干、そして逆立った金髪に加えて筋骨隆々とした金太郎へ、隣のキネシスも銀の長髪はそのままに、桃印の鉢巻と黒い甲冑を装備した桃太郎へとそれぞれ変化する。
「アルくん、いつもの武器出すやつってどうやってるの?」
「それなら、キャストパスの主人公選択中画面の下から技のとこ選んで、そのドライバーに一回翳したら横のスロットに入れると出せるからな!あと三回連続で必殺技だ!」
「ありがと!さっそくやってみるね!」
キネシスは先程のキャストパスを取り出すと、教えてもらった手順通りに操作する。
「一発叩き込んでやるか、キネシス(アタックチェンジ、)」
「デカいの行っちゃおうか、アルくん!(アタックチェンジ、)」
互いに目配せして頷くと、それぞれチェンジスロットへそれを差し込む。
「『金太郎』『桃太郎』」と電子音声が上がるとアルジの手には巨大なマサカリ、キネシスには柄に四角い空きスロットが三箇所と銃のようなトリガーがある魔改造された刀"桃花が生成された。
「ラストアタックチェンジ、――金太郎(桃太郎)」
武器を召喚した二人はそのまま必殺技を起動すると、巨人ブラウニーの足の甲に刃を突き立て引き摺りながら上へ上へ、ガムシャラに上を目指して己の脚力に任せて駆け上がっていく。
「うぉぉぉーーーーー!!!!」「はぁぁぁーーーーー!!!!」
「な、なんだなんだ!?何をしているんだオマエら!」
(どうやらブラウニーには痛覚がないようだが、全身を破壊し尽くしてしまえば問題ないだろうよ!)
巨人の肩までそれぞれが登り切ったところで「桃金襲斬り!」と叫ぶアルジはマサカリと回転ノコギリのような縦回転を始め、「よく分かんないけどなんか斬るやつ!」などと口走ったキネシスは得物を握ったまま空中へ跳び上がり、それを振り下ろす。
「ワシの…スルトの体が、オマエらァァァ!!」
闇を切り裂くような金と黒の稲妻は光の輝きを以って巨人の肩へ飛び込み、交差する刃はやがてその胴体の向こう側まで突破した。
「アルジ兄ちゃんたち、すげえ!」
「二人ともがんばれ〜!」
スルトを打ち砕くバディコンビの活躍ぶりを目に焼き付けるヘンゼルとグレーテル。
――と、その胴体の半身の一部だった黒曜石の大きな破片が家族の方へ飛来してくるのが見えたグレーテは旦那の前に立つ。
「危ないねえ、幸福呪文!……あれ、もう一回。幸福呪文、カチコチキャンディー!……嘘、魔力切れ!?」
グレーテが構えた両手から煙がポンと出るばかり。
(しまった。短期間でマクシマルを使い過ぎてしまったから、魔力が枯渇してしまったのね……)
すると……。
「母ちゃん、オイラ達に任せて!」
「行くよ、おにい!」
「おう!」
それを見ていた勇敢な双子の兄妹は両親の前に立つと、母親と同じ姿勢に入る。
「やめなさい二人とも、危ないから!……グレーテ?」
「大丈夫。今の子ども達なら魔法をバッチリ受け継いでくれているわ。だからお願い?信じてあげて」
「……分かった」
親心からどうしても心配してしまうペーターだったが、グレーテがそこまで言うのならと対処を子ども達に任せることにした。
「「幸福呪文、カチコチキャンディー!」」
生えていた雑草を二枚の大きなグルグルキャンディーに変化させ、飛んできた黒曜石を防ぎ切った。
「凄いよな、グレーテ。……子ども達は親の知らないところでも自分なりに成長していくんだね」
「ふふふふ……。上出来よ!ヘンゼル、グレーテル!」
母の褒め言葉と父から聞こえた「ありがとう!」の声を背中に受けた双子はどこか、誇らしげな表情をしていた。
一方で、崩れゆく巨人の肉体は内側の溶岩と粘着質な流氷でどうにか繋ぎ止められている状態だ。
「まだだ余所者ども……!ワシはまだ、死なぬ……。野望を果たし、ワシだけの理想郷を叶える…その時までは、まだ……!」
(まあなんというか、蓋を開けてみれば結局のところ本物の余所者はコイツだったようだな)
「キネシス、アイツはどうやら死刑がお望みのようだ(浦島太郎)」
「だったら変身メドレー、行っちゃうよ〜!(デヴィガイオ)」
再び二人の装着するキャストドライバーにあの端末が翳された。
「むかし、むかし、浦島の〜 助けたカメは二輪車に〜」
「水底より貴方へ、届かない言葉を伝えましょう……」
浦島太郎の変身音が改変の影響を受け過ぎているように聴こえたが、それを気にしないように振り払ったアルジは簡素な和服姿の浦島太郎に、キネシスもマリネリア王国の人魚姫……とは程遠い上半身は貝殻ビキニ以外変身前のまま、そして魚のような下半身という姿のデヴィガイオとは名ばかりの形態へとそれぞれ連続変身を完了させた。
「アタックチェンジ、浦島太郎。アタックチェンジ、浦島太郎。ーーキネシス、この釣り糸持っててくれ!(カメェェーン!!)」
アルジは立て続けのアタックチェンジで釣竿とカメがバイクに変異したカメーンを召喚した。
「ところでこれ持ったら何すればいいの?」
「いいな、合図したらラストアタックチェンジを決めてくれ。それまでは絶対にその釣り糸離さないでな」
「う〜ん?うん!」
怪しい指示だったがキネシスはまんまとその案に乗った。いや、乗ってしまった。
「屋根よ〜り〜 た〜か〜い 鯉の〜ぼぉ〜りぃ〜」
「どうしてこうなったの!?どうしてこうなったの!?アルくんのバーカバーカ!いやほんとにバカヤロォォーーーー!!!!!!!!助けてぇぇええぇぇーー早く降ろしてぇぇーーーーキャアァァーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
キネシスが釣り糸に掴まったことを確認したアルジは、カメーンの後ろに釣竿を突き刺してフルスロットルで村中を走り出し、凧揚げの要領でグイグイと空中に浮いたキネシスを引っ張りまくっている。
「「「「…………………………」」」」
ホルツマン一家も流石にこの光景には言葉を失い、
「ヴェ……、ふざけてるのかオマエら」
崩壊寸前のブラウニーですら素に戻りかけていた。
「よし!今だ、キネシス!」
「もうこうなりゃヤケだぁぁーーーー!!――ラストアタックチェンジ、デヴィガイオ」
グイグイと振り回されながらもキャストパスを三回読み込ませてチェンジスロットへ入れると、黄金に輝く三叉の槍を召喚しそれを掴み取る。
「海神よぉぉー、生きとし生けりゅ大海の~~~、もう長い長い!!なんかそういう色々……、トライデントに今こそ宿ってぇ~!」
「何なのだあの槍は!?ぐっ……、身体が崩れていて言うことを聞かん!」
口上を噛んだり端折ったりなキネシスの青く澄んだ瞳が紫一色に濁り、それに合わせるように蒼い輝きが激しく表出する。
「……うっぷ。お、潮騒の蒼罰~!!!」
振り回された影響で吐き気を催していたが、カメーンの馬力と釣竿との遠心力が相乗された勢いで黄金のトライデントが巨人目掛けて投擲された。
「はてさて、上手くいくかな~」
浦島姿のアルジがカメーンのブレーキを踏むと、急停止した反動でキネシスは釣り糸を掴んだまま付近の家屋前に積まれていた藁の山へ頭から突っ込んでは爆発したように舞い上がっている。
「ゲッホゲホゲッホ……。アルくん、メインヒロインの扱い…コレで合ってるのぉ~!?……あっやばい、出る。でっっ」
限界を迎えた人魚姿のキネシスが民家の陰でオロロロ……と氷を吐瀉っている間、巨人の崩れた胸部に投擲されたトライデントが命中すると命中した箇所から海水が飛び出し、それから形成されたシャチ・ダイオウイカ・ホッキョクグマらが体当たりと同時に大爆発。
「ま……だだ……。ま……だ、此処で死ぬわけには……!」
全身が崩壊した巨人の瓦礫から這い出てきた小柄な妖怪、アウフフォッカー。
身体の一部だったスルトの破片に手を掛けて立ち上がるも、痛覚の記憶を取り戻したように黒曜石で再生した右脚を引き摺りながらカメーンに跨った浦島太郎の前に出る。
――すると、アウフフォッカーはアルジの背後に鋭利な黒曜石の破片が落ちていることに気が付いた。
「どうする……?二度と村の人々に関わらないか、それとも此処でオレ達に倒されるか」
血だらけのブラウニー・ブラウニーにアルジは情けをかけたのか、最後の問いかけを静かに問う。
「ああ…………敗北、だ。素直に両手を挙げようではないか」
(虚無呪文、絶死の槍)
諦めたような表情を見せるが、詠唱を口にすることなく静かに殺意の籠った一筋を作り上げ、それを悟られないよう触手のように操る。
「はぁぁ……疲れた。キネシス、これでようやく村が……」
「――――ワシのモノになるんじゃもんな!!ヴェハハハハァァー!!!!」
命を刈り取ろうと迫る黒槍。
「危ない!」「アルジにい!後ろー!!!」とヘンゼルとグレーテルの声が聞こえた気がしたが、
「ぐぇっ!?…………
キネシス!」
「間に合ったね……、アルくん!」
突如アルジの足元…地中から人魚のキネシスが飛び出し、その勢いでアルジを吹き飛ばしたところで代わりに槍に胸部を貫かれた。
「な、なんだこの女!?心臓を刺されたのではないのか!何故生きているんじゃ!」
「美少女だと思った?ざんねん。アイスドール、でした~」
キネシスの顔をした人魚……の形をした氷製の人形は、自身を貫通する黒曜石の槍を凍り付かせていく。
「ナイストラップだ、キネシス」
「後で鯉のぼりとコレのお返ししてやるからね!」
若干にやけ気味のアルジに対し不機嫌なキネシスは刺されたまま頬を膨らませながら相棒を睨んでいる。
「いや本当にアレは悪かったって……。――ブラウニー、テメーにもお返しってやつが必要になってしまったらしいな(キャストサーチ……)、覚悟しろよ(……アドフォルテ)」
(………………アドフォルテ?誰だそれ。急に全然知らない名前出てきたんだが。只のマイナーではないド級のマイナー、ドマイナー作品か?まあいいや。とりあえず試してみるか)
「連続変身!〈コマンドが違います〉……、は?」
いつもと違う状況にアルジは困惑するところだったが、キャストパスから発せられた人の心がわからない王のような声色の電子音声をよそに、変身を拒否したパスの液晶画面を覗いてみた。
「発動条件:コマンド『昆楽変異』を音声入力してください」
「〜〜〜??????」
何この…なに?ていうか、昆楽変異って??どっかの日曜の朝か何かのノリか?
「幸福呪文……」「カチコチキャンディー!――アルジ兄ちゃん、いいから早く変身して!」
「ちぃ……ッ」
いつの間にか接近していた枝分かれの黒曜石で出来た槍の二本を、ヘンゼルとグレーテルの二人が召喚した大きなグルグルキャンディーが身代わりとなって防いでいた。
「サンキュー二人とも!……そういう指示ならやるしかねえな!」
三方向から迫る槍がジリジリとアルジをロックオンする中、その意は決された。
「変……じゃなくて、昆楽変異!」
例の凛々しい電子音声が出力されなかったことを確認したところで、ベルト横のチェンジスロットにその端末を差し込んだ。
次の瞬間、浦島太郎の姿をしているアルジの視界には五線譜の広がる橙色のポップな空間が現れていた。
「うっわ、何だこれ!?どうなってやがんだよこれ!」
黒とライトブラウンが混ざったショートレイヤーの髪はブラッドオレンジカラーなボブカット風の前髪と流したロングの後ろ髪へ、チェック柄のシャツと青いオーバーオールも七つの黒斑点を宿すオレンジがかった赤いノースリーブのドレスの縁には五線譜とタンバリンの金具のようなものがあしらわれたものへ変化。
全面的にオレンジ&黒斑点が入ったデザインのローラースケート靴と鮮やかな赤いマニキュア、頭のアホ毛の横には“f“と象られた金色の髪飾りといった十代後半の少女姿にドレスアップされていた。
この間、僅か0.05秒。
「七つの希望で、叶う意志!幸せ届ける、アドフォルテ!……なんか、背中重いな」
世界がボロボロの村中に戻ったアルジは名乗りの後、冷静に感想を述べていた。
「おお……。ってその背中にあるの、テントウムシのはねだ!ドレスもか~わいぃ~!!」
変身後のアルジの背中を見てテントウムシの翅と反応したかなり興奮気味のグレーテルに対し、
「あ、アルくんが美少女に……」
どういうわけかショックを受けているキネシスという対比的な様相。
「また飽きもせず変身とはな……。おい、聞いてるのかオマエ!」
「えぇ~と、レディバリンにトライホッパー、シルクープとかアントベルやらエレギートルやら……。アタックチェンジの種類ヤバ過ぎんだろこれ。あ~、悪りぃ悪りぃ(アタックチェンジ、アドフォルテ)」
向ってきた三本の黒い槍を平然とした面持ちのまま回し蹴りでへし折りつつ、迷いながらも結局適当に発動すると普段の電子音声の直後に『アントベルリボン』と専用の音声が加わった。すると……。
「アルジが、増えた!?」
「なんか、凄いなあの青年……それとも少女?」
ホルツマン夫妻が驚くのも無理はない。謎の魔法少女と化したアルジは瞬く間に十人へ分身していたからだ。
「へぇ~、おもしろ。これも使ったらどうなるかな」
『アタックチェンジ、アドフォルテ。トライホッパー』との電子音声とともに十人のアルジの履くローラースケート靴に楽器のトライアングルが取り付けられると、縮めた発条が伸びるような勢いでアウフフォッカーへ向けて一斉にジャンプをしてみせた。
「ヴェハハ…随分変わった動きだが、この黒曜石の攻撃に勝てるかのぅ!」
三度流れる「アタックチェンジ、アドフォルテ」の音声の後、その十人の手には指揮棒のようなステッキ『カラフルサップバトン』が握られた。
その黒い怪物が放った黒曜石の槍が触手のようにウネウネと迫るもバトンで殴りつけられては悉く粉砕されてしまう。
「アルくんだけに出番持ってかれるわけにはいかないからね!」
そう言うキネシスはダブルクロスコネクターを何処からともなく取り出すと『ダブルクロスコネクター!』と起動音を鳴らし、金具をWXからXXに変形させて再度スイッチを押す。
「ダブルダブル!」との音声を確認したところでキャストパスと接続させ、「エンチャント!」との電子音声を耳にする。
「ブレーメンの音楽隊&シグルド。クロスキャストチェンジ。――――待っててねアルくん、交差変身!」
全身が青い黒ゴーグルを掛けたペリカンのシャクビー・黄色い首輪をしたアルパカことあっくん・頭に鬼のお面を斜めに掛けた白いチワワのしろわ・緑の迷彩柄をしたニット帽と黒ゴーグルを着用している黒猫であるくろくろ達が集合したホログラムが右手側、メガネをクイと上げるクセを見せる黒髪の剣士ことシグルドのホログラムが左手側に出現。
「カ・サ・ネ・ロ、タ・マ・シ・イ!クロスクロス・チェンジー!」
人魚姿のキネシスが混沌の光を浴びたことで形態変化する。
「ラストアタックチェンジ、アドフォルテ。――うわ、すげえ格好だなそりゃ」
「お待たせアルくん!――ラストアタックチェンジ・クロスクロスブレイカー!」
十人のアドフォルテ(アルジ)の隣で魔剣グラムを召喚する奇怪な姿のキネシスはキャストドライバーに端末を三回翳し、チェンジスロットへセットした。
本物の双子剣士と対峙した際の鎧姿はそのままに、背中からは黒い腕で成形された右翼とペリカンの左翼、胴体には黄色い布とうどんのような白い触手が巻き付いているという、混沌を体現しているとしか言いようがない出で立ちをしていた。
「「幸福呪文、カチコチキャンディー!」今だよ、みんな~!」
「アルジにい!キネシスねえ!がんばって~!」
ガチガチに堅いグルグルキャンディーの魔法で周囲の黒い触手をブロックする形で援護に入るヘンゼルとグレーテル。
「いいぞ二人とも!――お前のエピローグは、決まった!スターダスト・エンブレイス!!」
「いっけえぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!!!」
星屑のような煌めきを纏った十人の魔法少女然としたアルジが流星の尾を引きながら一斉に銀色の光線を発射。
隣のキネシスも、背後に現れた緑一色のクトゥルフ、黒い手まみれのニャルラトホテプ、黄衣の王ハスター、白い触手一玉のアザトースら四神はそれぞれの体色と同じ色をした光線を発射し、場違いなメガネ剣士のシグルドもグラムの赤いオーラを竜の形としてアウフフォッカーへ向けて解き放つ。
「えぇーいワシを守れ!黒よ…、氷だと!?」
魔法を放とうとしたアウフフォッカー、ブラウニー・ブラウニーの四肢が途端に凍り付いた。
「へへ、決まったね。わたしの必殺、絶対零度が!」
−273.15℃の拘束を受ける中、十五もの攻撃が小さな村の悪夢を完全な粉微塵へと変えていく。
「嘘ではないんじゃ……。本当に、ワシの夢見た酒池肉林が…実現する…筈じゃったんじゃ……」
何もかもが、消えていく。
自分だけの至高のヴァルハラが、食い物でしかない愚かな人間どもの悪夢の舞台が、夢が消えてゆく。
――――山で人間狩りとせっせとしていた、あの空腹だった頃の可哀想なワシへ。
ワシはこの村に居た本物の村長、ブラウニー・ブラウニーを胃袋に収めたことで野望成就へと片足を突っ込んだように思っとったが、結局のところ完璧なスルトには成れず、思い通りの世界を手に入れることも出来なかった。
ワシは……。ワシは……。
…………………………。
十年にも渡るDorf im Schwarzwaldに齎した欲望の災厄は潰え、平穏の時を取り戻したのだった。
グレーテ・ホルツマンは村を、人々を、帰還するアルジとキネシスを、自慢の子ども達を視界に収めると、安心感からかペーターの腕の中で嗚咽とともに大粒の涙を流している。
村を温かく照らす薄明が、祝福のグラデーションを屈託なく描いていた。
幕間『小さな村の小さな祝勝会』
静かな村の隅にある木こり小屋は今夜、一段と活気に満ちていた。
「えぇ~と皆様、グラスのご準備はよろしいでしょうか?それでは、ブラウニー・ブラウニー討伐&ペーター新村長就任を祝しまして~~~……」
「「「「「「かんぱ~~~い!!」」」」」」
樽のような形状をしたジョッキに注がれたビールと、未成年のヘンゼルとグレーテルのサクランボジュースが乾杯の合図とともに力強く波打った。
『そうか……、二人はグレーテのお家に居たんだね。それにしても朝から魔法の練習だなんて、まったく真面目で良い子ども達だなぁ』
『あの剣士さんたちとは最初、妙な勘違いで敵対されちゃったんですけど、二人と戦ってわたしたちが説得して何とか仲直りしたんです』
『別の世界からやってきた剣士か……。今ごろ住む場所が無くて困っちゃっているんじゃなかろうか……』
『パパ。おいらたち手伝うからさ、この村にお家を用意してあげようよ!』
『ワタシもおにいの意見に賛成!』
『ファフニールはこの世界とは異なる言語で話していたんだ。最初に出会った本物の村長は当然言葉が通じるワケもないし、意思疎通が取れなかったのは無理もなかったんだ』
『ふむ……。それならアルジくんはどうして会話が出来たんだい』
『ああ、オレのキャストドライバーにある自動翻訳機能だ。今こうして話せているのもそのお陰さ』
『そういうことだったのか……』
黒い森での双子とグレーテとの話、火山で出会ったジークフリートとシグルド、そして龍神様と呼ばれていた赤いドラゴンのファフニールとの話に花を咲かせる一同。
「まま~、先におふとん入ってくるね」
「みんな、おやすみ~」
ヘンゼルとグレーテルは揃って寝ぼけ眼を擦りながら、一足早く一番奥の子ども部屋にとぼとぼと向かっていった。
その様子を確認したグレーテはキネシスに何やら耳打ちをしだした。
「キネちゃん。ちょっとこっち……」
「えっ、なんですかグレーテさん?」
「ふふ、いいからいいから……」
(なに話してんだ、あの二人……)
一方、ペーターは無心でナッツを口に運んでいたのが見て取れた。
「ほら、おかわりのビールよ二人とも」
「ありがとうございまーす。……ん?なんかこれ、果物みたいな甘みが……」
「サクランボのフレーバーが入ったビールよ」
「アルジくん。なんだか、酔いがだいぶ回ってきましたね……」
「そ、そうだな……」
(ビールは酔いが回りやすいことは分かっちゃいたが、酒に強いオレでも此処まで潰れるなんて何ちゅう度数してんだよこれ……)
今までにないぐらいの酩酊ぶりに、新村長が心配して声を掛ける。
「きょ……今日はもう遅いから……ウップ、隣のゲストルームで泊まっ……うぅ……」
(いやごめん。人の心配している場合か己は)
内心冷静なツッコミをしていたものの、具合的に限界を感じていた。
「ほらペーター、あんまり無理しないで。……キネちゃんもアルジの介抱頼めるかしら?」
「ええ、もちろんです!――さ、アルくん。向こうの部屋まで、行こっか」
アルコールで全てが朦朧とするオレの肩に細く冷たい腕を回し、案内された部屋へと連行された。
(だ、駄目だ。意識が……)
一本の蝋燭だけが夜帷を照らす光源として機能しているゲストルーム。
白いシングルベッドとサイドテーブルのみという簡素な一室だったが、一晩を凌ぐ分には充分な設備だ。
キネシスは介抱していたアルジをゆっくりと低反発な寝床へ沈めると、丁寧に掛布団を掛けた。
「アルくん……、寝ちゃったか」
(計画通り、アルくんは酔い潰れてあっという間だったかもしれないけど)
これから二人きりで過ごす長い夜を想うと、雪女のはしたない妄想が止まらない。
「ふふふふ……。楽しみだな~」
頬を上気させたキネシスは自身の帯締めの方結びを慣れた手付きで解いてから深紅の帯を緩めると、涼やかな水玉模様の装束がはらりとフローリングに舞い落ちた。
艶やかな肢体を隠す布も最早なく、彼の寝込みをこれから襲うのだと思うと小気味よく高鳴った胸を卑しい目線を向けながら必死に抑え込む。
ベッドで静かに寝息を立てているアルジの元へ顔を近づけると、キネシスは青い瞳を細めて瑞々しい唇を重ねる。
「んっ……、はぁ…………ぁぁ」
一方的に舌を絡めて求めるように下品な接吻を続ける中、眠る殿方の首筋から顎先までじっくりと嘗め回すように華奢な左手で愛撫してゆく。
目を醒まさないかという不安に比例して高まりゆく、今にも氷の身体を溶かしかねないほど全身に滾る色欲。
本能的な欲望に呼応するように、透き通った瞳を紫色の 靄が支配してゆく。
「わたしはただの相棒のまま、あなたと関係を終えるつもりはないから。
……正真正銘の一心同体になって。例えアルくんが寿命で死んでも、幽霊のわたしだけと添い遂げるんだから」
(そのためにわたしは今から、爛れたように、貪るように……)
下腹部を弄ると鼻息を荒げ、甘く乱れた冷気を吐いた。
長くて刺激的で、寝床を軋ませるように濃密な夜の終わりを告げるような鳥の囀りは暫く、響きそうになかった。




