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アルジキミヒト  作者: ユッキング加賀


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21/22

第21巻、辿り着いた真実の果てに

前回のあらすじ3行。

「お菓子の家を貪る謎の化け物、その一部始終を見ていたクッキー造のソファーにされたマシンオーガ、オシカー」

「龍神様と呼ばれていた別次元の邪竜ファフニールのお腹にある宝の摘出手術に挑み、総力を挙げてこれを成功させた」

「火山と双子の英雄ジークフリートとシグルド、そしてファフニールを後にし、一行は跡地と化したお菓子の家で唯一生き残っていたオシカーから情報を聞き出すと、アルジ達は村へと向かった」

子供たちが、()()()()()()()()()()が家に帰らないまま一日が過ぎた。


此処は小さな村なので普段通りその辺で遊んでいるのだろうなどとと思っていたのだが、夕暮れ時に仕事から帰宅してみると窓に灯りはなく、いつも出迎えてくれるその二人の姿が見当たらなかった。

夜通し村中を探し、もしやと思い黒い森や近辺の牧場も無理を言って捜索してみたものの、何処もアテは外れた末にダイニングの長テーブルで独り突っ伏していた。

「ごめん、グレーテ…。僕があの時、君のことをもっと守れていたならば。もっと二人の面倒を見る時間さえ作れていればこんなことには……。はぁ…………、父親失格だな」

いつまでも貧相な食事しか与えることが出来ず、最近村長に言われた儀式の生贄のこともそうだが、僕はもう妻に顔向けできる気がしない。

「もうあれから、十年か…」

精神的に限界が来ていた男は目を腫らし、テーブルを後悔の念で濡らしていた。

……そんな時だった。

「あれは村長と…、もう一人の若者は誰なんだ?」

話している様子だった二人が気になった男は目を袖で拭うと、その会話を聞き出すべく家を飛び出した。


「今のうちだよばあちゃん」

「……おばあちゃん、どうしたの?」

山積みの薪が目立つ家屋を見つめる老魔女。

「いいや、何でもない。早く入ろうか」

兄妹に背中を押される形で玄関を潜る。

天板に濡れた跡がある長テーブルには蝋燭台が設置されており、白壁にある柱には故意で付けられたような傷が何本か入っている。

「これね、ワタシたちが誕生日を迎えるとパパが毎年身長を測ってくれるんだ」

「ばあちゃんより下手だけど、毎年チェリーケーキを焼いてくれるんだよ!その代わり、パパの誕生日には森で拾ったどんぐりをあげてるんだよ」

「窓前のどんぐりはそれだったのかい」

(ふふ、私が居ない間もちゃんと子ども達の面倒を見てくれてたのね)

ホッと胸を撫で下ろしたグレーテだったが、部屋の奥に飾られていたものに気付くと、壁を指先でなぞりながら向かった。

(懐かしい。結婚式の後に旦那(ペーター)が描いてくれた私の人物画だわ…)

それは木炭とパン屑で時間をかけて描かれた一枚。

白い花を編んで作られたティアラを長い白髪の上から被り、溢れんばかりの花のブーケを持ったウェディングドレスを着た女性の立ち姿。

「これ、オイラ達が産まれる前にパパが描いたママの絵なんだって!」

「すごく大事にしていて、触ろうとすると怒るんだよ!」

(……今でも大事にしてくれているのね。本当に、出来ることならこの子達と一緒に幸せだったあの頃に帰りたいわ…)

「…………………………………」

グレーテの視界が滲み、肩が震えている。

(大事な家族が目の前にいて、思い出に溢れた家に居るのに、老婆から戻れなくなった私の居場所は此処にはもう…)

その時、黒いローブの袖を二人に引っ張れた感触があった。

「おばあちゃん、泣いてるの?」

「ここホコリっぽいからきっと目に入ったんだよ!ばあちゃん、そこの椅子に座ってな!」

「そうね、二人とも。……、ありがとう」

(いつか、此の屋根の下に戻れる日は来るでしょうか。もしも私を覆う嘘の魔法が解けたのなら、その時は……)



「昨日ぶりじゃな、余所者。今度は何のようじゃ」

「アルジ・キミヒトだ、覚えておけ。……龍神様とやらを倒してきた」

半分本当、だとは思っている。

「なに、あの()()()()()()をだと!?」

(この村長とやら、案外すぐ掛かったな)

(確かに。アルくん、アイスキャンディーお~くれ!)などと隣でマイペースな相棒、幽霊にして雪女のキネシス。頭脳が忙しくなるがいつものソーダ味を三本イメージしてやると、早速それに飛びついた。

「……その通りだ。食い物に薬を仕込んで眠らせたところを仕留めたんだ。――ところで村長。昨日会ったときはヒョロガリのもやし体型だったと記憶しているが、随分様変わりしたもんだな。そんな筋骨隆々としていれば杖なんて要らないぐれーだよな」

眼前の杖突ジジイは相変わらずハゲ散らかしてはいたが、先日とはまるで別人のようにマッシブだった。

「フン。腹一杯にメシでも喰ってりゃそうなるじゃろ。まったく、最近のワカモンは礼儀を知らんのか」

「ああ、悪い悪い。嘘みてーに体格が変わっていたもんでな」」

ふぇ()うひょ(うそ)ましゃしゃ(まさか)そのおひぃいひゃん(お爺さん)ふぇ()……)

アイスを咥えながら喋っている行儀の悪いキネシスをよそに、村長への質問を続行する。

「オレはこの前の晩、とある影の襲撃に応戦した。ロビンフッドに変身して放った矢は掠り傷程度しか

負わせられなかったがな」

「急に何の話をしておるんじゃ…」

「そん時、躱そうとした影は躓いて右足を負傷した筈だ。あまり日数が経過していないわけだし、まだ痛むんじゃないか?()()()()()()()()()()

「オ、オマエ……!」

村長を名乗る何かが石畳で杖を鳴らす回数が露骨に増加する。

(こりゃ当たりかな。一応もう少し揺すってみるか)

「杖ってのは、持った側に荷重が掛かるから痛みのある足と反対側の手に持つのが原則。ブラウニー村長は左手で持っているんだな」

「そりゃ、年寄りなら杖ぐらい突いていて当然じゃろうが」

「本当にそうか?あれは足腰が老衰で弱まり、重心が取りにくくなったら使うことがある程度でな。意外と居るんだよ、『まだ杖を使わなくても大丈夫』だって摺り足で動いている爺さん婆さんが。これでも生活用品を開発する仕事をしていたから知ってんだぞ」

(モグモグ……)

オレらの様子を眺めながらアイスを食べるキネシスは霊体状態のため、オレ以外にはその様子は一切見えも聞こえもしない。

「ちっ……」

「それともう一つ。オレはさっき龍神様と口にしたのに対し、お前はそれをわざわざファフニールと呼んだ。というか、このDorf(ドルフ) im(イム) Schwarz(シュヴァルツ)wald(ヴァルト)の村長がなぜその名前を知っているんだ」

「そ…、それは……」

次々とボロが出てくるブラウニー・ブラウニー村長。

「…………そうか。ところで()()()()()()()()()()()()?」

「ギクッ!?……な、なにを言って――」

「ああ、そうだ。見てくれは普通にお菓子。匂いもそうだ。だが、あれの一部は姿を変えられた魔女狩りの人間だ。味だけは誤魔化せないというので食おうとしたら家主の魔女に拒否されたんだ。……最初の儀式の生贄の一人目を持ち帰り、喰ったのもお前だな。儀式を邪魔したと言っていたあの魔女だったが、最初だけは助けに行っていないのに昨日此処で話したときは最初から来ていたように話していただろ」

「…………」

とうとう黙ってしまったか。

「あの家で唯一手を出さなかったのは、原料がガチガチの金属質で見た目がクッキーのソファーだけだったようだが、目立つ歯形が付いていたぞ。たぶん、回復手段か何かだったんだろ?」

「そこまで見ておったとは……」

そう、魔女グレーテに姿を変えられたマシンオーガのオシカーのことだ。

「お前が()()()()()()()()()()だったら、あんな化け物が残すような跡は付かねえよなぁ?

――変身キャストドライバー!」

腰にそれをあてがうと、銀色のベルト帯が展開される。

「キャストサーチ………、花咲かじいさん」

(よし、良い引きだ)

握り締めたキャストパスの液晶画面には人当たりのよさそうなお爺さんが映っている。

「キャストサーチ……?は、まさかオマエは、あの時の……!?」

ジジイの反応からして、この世界での全ての要素が繋がった。

「キャストチェンジ。――変身!」

藍色の着物、草鞋を着用した、白髪の穏やかな好々爺(こうこうや)へと変貌した。


「なんだあの青年!?あんな一瞬で全くの別人に変身するなんて……」

アルジ・キミヒトと呼ばれてた若者が村長の目の前でご老人に姿を変えたのだ。

(妙なものを腰に巻いていたが、彼も……グレーテのように魔法が使えるのか?)

見慣れない光景だと思わず聞き耳を立てに木陰から覗き見ていたのだが、とんでもないものを見てしまった。


「アタックチェンジ、花咲か爺さん」

すると、左手に現れたのは灰の入った酒枡。

「さあ、()()()に花を咲かせましょう!!そ〜れっ!」

放り投げた先に舞う灰色の粉末。しかし老体の筋力では飛距離が足りない。

(キネシス、頼む!)

「出番だね!フゥゥ……」

夏に吹く木枯らしほど気象的に不思議なものはない。だが、キネシスの放つ冬風のような吐息のおかげで灰は村中心にある巨木全体に降り掛かった。

「風……?オマエ、その灰は一体……」

「なぁ~に、今に分かるさ」

灰の掛かった大樹の葉は瞬く間に、全く別種である桜の花を満開に咲かせた。


「ばあちゃん!あのでっかい木にピンクの花が咲いてるよ!」

「何だって!?」

ヘンゼルに促され、家屋の窓からそれを見た老魔女。

「まさか、あの樹があんなに綺麗な花を咲かせるだなんて…」

「うわぁ、きれ~い!ワタシ初めて見た!」

(そりゃそうよ、グレーテル。綺麗だけど、まるで別物の花を飾り付けたような不自然さがあるもの)

「ねえねえ、あのお爺さんさっきから変な粉撒いてるよ!もしかしてあれが掛かった木に花が出来てるの?」

グレーテは気付いていた。そのお年寄りの腰にはあのベルトが巻かれていることに。

「そろそろ合流しようかね、二人とも。あの爺さんってのはアルジだよ」

「「何だって!?それなら早く行こうよ!」」

兄妹は二人して母親に似た驚きぶりを見せると、グレーテの手を引っ張っては木こり小屋を飛び出した。


「おい、ブラウニー・ブラウニー。()()()って知ってるか?」

「花粉症……?一体何のことを言って…ヘックショイ!」

その時、ブラウニー村長の全身に一瞬ノイズのような、液晶画面に出る白黒の砂嵐のようなものが現れた。

「お前は恐らくだが、嘘が付けないか付いてはならない理由があって正直者として振舞わざるを得ないんじゃないか?あの時、話してたもんな?『()()()()()()()()()()()()、その化けの皮の一つでも剥がれるんじゃないか』ってな」

「それで、あの花を…フェック!咲かせたのか……ヘックショイ!」

「そうだ。花粉症は人間のアレルギー反応が過剰に起こることが原因で発症するもんだ。オレはこう見えて人間ではなく(キャストアウト……)別種族のチェンジノイドだからそういうものには成らないが、魔法で人間に化けている今のお前ならどうなるか……」

とはいえクシャミは嫌なので、花咲かじいさんから赤いチェック柄のシャツ&青いオーバーオール姿に戻ったアルジ。

鼻水を垂らし、その眼は充血。くしゃみまで止まらないブラウニー村長の全身が揺らぎ、その激しさは増してくる。

「人間のままだと花粉症になるから変身解除したんだね。アルくんやる~」

(天才だからな)

脳内会話でそんなことを言うと、最後のアイスキャンディーを舐め取りながら此方をジトっとした目付きで見てくるキネシス。

「アルジ!」

そこへ、黒ローブの魔女グレーテと双子の兄妹がやってきた。


「えっ、あれはまさかヘンゼルとグレーテル……!?それにあの黒ずくめの老婆は……。一体、何がどうなっているんだ??」

(一晩中必死に捜していた子供たちは、あの青年ともう一人が面倒を見ていたのか……?)

父親は状況理解のために頭を悩ませていた。


「おっ、魔女のばあさん。それに二人とも来たか。――そろそろ正体を現したらどうだ?ブラウニー・ブラウニー!」

役者は揃った。

「小癪な…、ヘックショイ!!……あっ、あれ…」

大きなクシャミに両手をやろうと布巻きの杖を落とした村長…、いや、ボロ布を纏い腹の出た小柄ながら筋骨のある化け物は自身の手を確かめると、そっと周囲に目をやった。


刹那の沈黙。


「あっ、ど、ども……。ブラウニー村長……、じゃ」

ブラウニー村長を自称していた正体は、ギラついた紅い眼と尖った鼻、鋭利な爪と牙が光る黒い怪物だった。よく見ると右足には青い痣、そしてあの矢が掠っていただろう右脇腹は抉れていて、肋骨の一部が丸出しとなっていた。

「うっわ!なんか、バケモンになった!」

「おばあちゃんこわいよ~!」

「ほらほら、二人とも。こっち来な」

明かされたその姿に驚嘆、恐怖した子供たちはグレーテの背中にしがみ付いた。

「今更名乗ったところで遅いだろ、このマヌケが。それはそうと、ファフニールが言っていた小柄なヤツっていうのはコイツのことだったのか。全く、何処をどう見たら人間と見間違うんだっての」

「ふぅん……。ワシは妖怪アウフフォッカー。その邪竜の住まう火山と共に飛ばされてきたのだ」

火山のジークらと同じく異次元超越をしてきた、妖怪アウフフォッカー。

「ジーク達と同じ世界の住人だったわけか。……おいアウフフォッカー。それなら本物の村長はどうした」

「ケッ。村長なんざ、とうにワシの出したクソの一部とでも言っとこうかのぅ~、ヴェハハハハ!!」

アルジが咲かせた巨木の花が消失するように散りゆく中、悪魔のような下品な笑い声が村に響いた。


(うわぁ!ば、化け物だ…!あの村長の正体は全身真っ黒の化け物だったんだ!子供たちはあの二人が付いていてくれるなら安心だが…、早く村の皆にも知らせないと大変なことになるぞ!)

双子の父親は眼前で起こったことを村中に口伝えるべく、急いでその場を立ち去った。


「ワシの正体を知ってしまったからには、オマエらまとめて死んでもらう!

受けてみろ、これがワシの魔法。――虚無呪文(ゼロゼロマジック)、煉獄火炎砲!!」

ブラウニーの両手から発射された紫色の火球はアルジ達へ向けて一直線。

「ふふ。――幸福呪文(ハピネスマジック)、グミグミシールド」

落ち着き払った魔女グレーテは懐からキノコを一本取り出し、それを放り投げると魔法で紫色のグミグミとした盾に変化させた。

「ゼロゼロだか何だか知らないけど、人を傷つけるために魔法を使うのは我慢ならないね!」

透明感のあるその盾は飛来してきた火炎弾を受け止め、それと相殺される。

「そうだよ!」

「おばあちゃんが言ってたもん。”魔法は誰かを傷付けるためにあるんじゃない。人の幸せを叶えて、それを守るためにあるんだ”って!」

「お前たち……」

グレーテは感心したような反応を見せている。

「ヴェハッ、隙あり!」

「な…なんだ!?」

「いつの間にアルジの前まで……」

グレーテが驚くのも無理はない。

煉獄火炎砲という目立つ大技を隠れ蓑に利用し、オレの目の前までアウフフォッカーは迫っていたのだ。

そして――抱き着いてきた。

「(はぁぁぁ~!?わたしだってアルくんとは最近ご無沙汰だったのにぃ~!)離せコラ、放せやコラァ~!」

雪女なのに謎のやきもちを焼いている相棒を横目に何とか拘束を振り解こうとするも、

「ヴェハハ……。()()、なれ」

その直後、強烈な重力を感じると全身が軋んだ。

「くっそ……がぁ!」

「此処がオマエの……死に場所となるのだぁ!」

メリメリと両足が石畳を突き破り、徐々に沈下が進行していく。

(コイツ…意外とやるじゃねえか……。キネシス!)

「もちろん。氷弾(アイスショット)!」

手で拳銃を模したポーズを作ると、二本の指先から氷で出来た銃弾が発射された。

「ヴェハハハハ!――ヴェハッ!?」

その不可視の一撃は見事に命中し、オレの右手側へと強く吹き飛ばされた。

「ナイスショット、キネシス」

「えへへ…。あれ、さっきの黒いの居ないよ!?」

「マジかよ」

(炎の魔法から重量操作ときて、今度は透明化だと……)

体重が戻ったところで地中から体を引き抜こうと両手を置くと、

「オラァッ!」

見えない声の主に頭を一蹴され、衝撃が襲う。

その後、何度も頭部を蹴られては上半身が前後左右に揺れ動き、打撃と痛覚が伝わってくる。

「このままじゃアルジにいが死んじゃうよ!」

グレーテルの悲鳴が聞こえたような気がする。………額が切れたのか、流血してきたのを感じていた。

「どうしたどうした、手詰まりかァ!最後の一発くれてやるよ、オラァ!」

それは顔面に直撃……()()()()()

「アルジ兄ちゃんが見えない何かを掴んだ!」

ヘンゼルの言う通りだ。

「なぜワシの蹴りが読め……まさか!」

「そう、()だ」

ブラウニーは夢中で蹴り続けていたから気付かなかったようだが、その最中にオレの血液が足に付着し、それが目印となっていたのだ。

「隠れようたってもう無駄だ!(今だキネシス!)」

「任せて!―――氷弾!」

その足を捉えたところで文字通り以心伝心のキネシスに合図を送り、先程の氷で出来た弾丸がブラウニーの右足に命中。今度は至近距離で撃ったためかその右足はもげ、血飛沫が村の割れている石畳を汚した。

「悪いな子どもら。ちょっとばかし刺激が強くなるぞ」

「もう遅いわ!」

グレーテは双子の両目を腕で覆っており、その二人は突然目の前が真っ暗になったことに興奮してか両手を上げている。


「くそ……。ワシが、もっと強ければ……!」


「もっと……、大きければ……!」という、片足状態で倒れ込んでは泣き言を上げるアウフフォッカーのことなど気にも留めず、地面から脱出したアルジは金の装飾が特徴的な黒いアイテムを取り出し、起動した。

「とどめだ。――ダブルクロスコネクター!ダブルダブル!」

アタッチメント型強化パーツ、ダブルクロスコネクターを起動すると背面のWXとあるそのツマミをWWの形になるよう回し、再度起動してはキャストパスに接続する(エンチャント!)。

「ダブルキャストチェンジ、桃太郎。――二重変身!」

キャストドライバーの読込面にそれを重ねてから横のチェンジスロットに差し込んだ。

「オ レ と オ マ エ で!ダブルダブル・チェンジー!」

全身が光ると、桃太郎と化した体から飛び出した同じ姿の分身が前方のアウフフォッカーへと飛び込んだ。

「すっげー!アルジ兄ちゃんが二人になった!」

ヘンゼルが目を輝かせて興奮している。

「鬼は手負いだろうと成敗いたす!お覚悟!」

桃太郎の抜いた刀、桃花(とうか)の刃がブラウニーに迫る。

「何の……、これしきで!」

村長の姿で突いていた布包みの杖を掴むと、桃花と鍔迫り合いになる。

「ワシの人間牧場計画を……台無しにされて、堪るかぁぁぁーーー!!!」

ブラウニーが杖の持ち手部分を握り、先端を手で押さえていた。

――――ズドン、と。

突如、重低音とともに杖の先から黒い光線が発射され、そのブラウニーの左手を傷つけることなく撃ち抜いた。

「黒い光線……いや、まさかそんなハズは。だって、アレを持っているのは」

「アルくん。マシンオーガしか、持ってないんですよね?あの()()()()()()()って」

長物に巻かれていた布が次第に剥がれ落ち、中の()()()()が露わとなった。

(そうだ。あの武器はエネルジオプティマス製。例外なくマシンオーガしか装備していないものをなぜ……。マシンオーガ……?)


『「ゴブリンじゃなくてマシンオーガだ!あと、あっしの名前はオシカーだ!全く、()()()を盗まれて途方に暮れていたらそこの老婆にやられてこのザマとは……。あっしも此処でおしまいじゃ~」

「待て、光線銃?もしかして、物語改変光線銃のことか?」

「?、そうだが」』


オシカー、あの馬鹿野郎……!

「おいアルジ!彼奴の様子がおかしいよ!どうなってるんだい!」

兄妹を抱き止めるグレーテの指差した先で、それは突然変異を起こしていた。

その右脚の欠けた先から流れ出ていた血液から蒸気のようなものが立ち込め、アウフフォッカーの全身が神経でも刺激したようにビクビクと震え出す。


「アルジ殿。あのまま放っておくのは嫌な予感がする所以(ゆえ)、鬼の首、刎ねて参ります!」

「あっ、おい桃太郎!」

ダブルクロスコネクターの能力で自身の記憶を元に召喚された桃太郎だったが、異変を前に居ても立っても居られないのか走り出した。

「セイヤッ!」

首筋目掛けて振り下ろした一撃だったが、

「…………!」

『ガキン!』と如何にも堅い音を立てて弾かれてしまった。

(いや、肌表面は確かに斬れている。なら、桃太郎の攻撃は何に弾かれたんだ……?)

熱を帯びた赤い血液、そして金属を通さぬほどの堅牢ぶり…。アレだ。

「桃太郎!今すぐその場を離れるんだ!」

「えっ、アルジ殿。一体何を言って――――!?」


遅かった。

「桃太郎ぉぉーーー!!」

ブラウニーの脚の切断面から飛び出したのは血液ではなく、溶岩だったのだ。

溶岩は桃太郎の全身を包み込むと、直後に黒く凝固した。

「今助けてやるからな、桃太郎!…………桃太郎」

石畳の破片を手に取り、執拗に桃太郎を覆った黒曜石を何度も殴り付けて顔の部分を破壊することに成功したものの、その割れた先に見えたのは――――火傷で爛れた彼の変わり果てた表情だった。


破片を手中から溢し、無力にも膝をつくアルジの姿には声を掛けられなかったグレーテ達は、ただ視線を送ることしか出来なかった。

「アルくん……」

項垂れたまま変身が解除され、黒曜石内に納まっていた遺体も光の粒にとなり消失した。


「もっと強く……もっと大きく……、()()()のように!!!!」

力を渇望するアウフフォッカーの叫びに呼応してか、その全身も桃太郎と同様に溶岩に取り込まれ、表面が黒曜石と化した。

「スルト……?なんなのそれは」

その聞いたことがない単語に魔女グレーテが疑問に思っていると、その腕を抜け出したグレーテルが黒曜石の塊に目をやった。

「おばあちゃん!あの黒いの、おっきくなってるよ!」

風船のように膨張する黒曜石。

「何が起きてるのばあちゃん!?」

「知らないよ!あんなもの初めて見たよ!」

その丈は遂に村の巨木すら上回り、次第に人型へと変形していく。


それは溶岩と霜という相反する概念を纏いし大いなる巨人。

黒曜石で形成された身体の右半身は赤熱しており、対する左半身は氷雪に覆われている。

「ヴェハハ!まるで炎の巨人スルトと霜の巨人ヨトゥンの力が混ざり合ったような……。言うなれば、今のワシは向こうの世界の言語で言うところのSurtr(スルト) hinn(ヒン) Gruggugi(グルッグリィ)――混濁するスルトといったところじゃな!やった、やったんじゃ!遂に神の領域に到達したのだ、このワシはァァ!!ヴェハハハハハハーーー!!!」


「またオレは、救えなかった……!!金太郎に続いて、桃太郎まで……」

「アルくん!アルくん、しっかりして!」

一方、喪ったのが本物でないにしても、眼前にしながら助けられなかったことがアルジのトラウマを呼び起こした。


龍神様の儀式事件解決まで順風満帆だった状況が一変、ヘンゼルとグレーテルの世界に崩壊の危機が刻一刻と迫っていた。

幕間『アルジ博士のバケモン講座』


「はい、どうも~。アルジ博士だ」

「助手のキネシスです!」

大型モニターの前に白衣姿のアルジとキネシスが並び立つ。

「このコーナーでは時々作中に登場する謎のクソどもを紹介する。さぁ~て、今回のバケモンは……」

「〇ッ〇カチュ~!」

各権利ギリギリのキネシスの掛け声とともに赤いレバーが下ろされた。

「今回のお話といえば…そう、アウフフォッカーだな」

アウフフォッカー とびかかりバケモン

                  たかさ

                  1.0m

                  35.0kg

                  おもさ

「とびかかりバケモンのアウフフォッカーは、ドイツなどのヨーロッパによくいるとされる小鬼ゴブリンの一種で、人や動物に化けたり姿を消して人を襲う悪魔だと言われているんだ。主に夜間の山林に出現するバケモンで、抱き着くなどして密着した相手の体重を操作することができるんだが、その後身動きが取れなくなった相手を捕食してしまうとんでもないヤツなんだな~」

「アルくん。実際どんな感じに重くなるのか、わたしで試してみませんか?」

「おっそうだな。よーしバッチコーイ!」

「ふふふ……、だっ~こ!」

「うぉ、やわらか…。じゃなくて……、ここからどう重くなるんだ?」

「アルくん」

「あ、はい。あの、キネシス?顔、近いっす……」

「わざとそうしてるんだよ、アルくん。これから先、まだまだ旅は続くと思うんだけど…、わたし以外の女を視界に入れたり、会話したり、連絡先を交換したら、氷漬けにしちゃうから」

「ひ、ひえ……」

「安心して?氷漬けになるのはアルくんじゃなくて、アルくんを誘惑しようとする薄汚くて悪い女たちだけだもの。アルくんは一生、わたしだけの顔と声と体温だけを感じて、わたしだけの愛に包まれていればそれでいいんだよ?……はい、重くなるのお~わり!」

「重くなるってそういう意味かよ、正直興奮したわ……。(えっ、アルくん?)では此処で一句。

『バケモン川柳』

も め ア

う が ウ

お あ フ

そ っ フ

い た ォ

  な ッ

  ら カ

    |

皆も、バケモンゲットだぞぉ~!」

「次回もよろクール!」

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