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アルジキミヒト  作者: ユッキング加賀


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19/22

第19巻、偽物の意地と本物の矜持

前回のあらすじ3行。

「老魔女グレーテ・ホルツマンはヘンゼルとグレーテルの母親だったことをアルジ・キネシスは知る」

「龍神様と対峙するために魔法でお菓子をしている最中、双子達のキャストオンに成功」

「北欧神話に伝わる竜殺しの英雄ジークフリートとシグルドという、同一人物である筈の剣士が双子としてアルジ一行と予想外の邂逅を果たしたのだったが……」

此処は十三世紀のドイツ。黒い森を抜けた先で突如十一年前に出現した謎の火山の洞窟内。


「だ〜か〜ら!アルくん、やっぱりここはメインヒロインであるこのキネシスがだよ…」

「さっきからメタいことばっか言いやがって!だいたい、変身なのに自我が出過ぎなんだろーがよ!」

溶岩の広がる火口の前で、青と銀の鎧姿と化した二人の偽物剣士同士で妙な口論が続く混沌とした状況が続いていた。


「あ、あの…、ファフニールの信奉者というかその…、そろそろ我々と勝負を」

「このクソメガネ野郎は「黙ってて!」黙ってろ!」

「は、はぃ……」

その剣士達と同じ格好をした、黒髪のシグルドは二人の剣幕にやられてたじろぐ。


「はは、しょうがねえ弟だ。――ドリャッ!」

紫のオーラが迸る大剣を片手で振り下ろした一撃だったが、

「邪魔すんじゃ、ねえよ」「アルくんとの時間、邪魔しないで」

偽物コンビは本物らと同じ一振りで同時にそれを振り払った。

「俺達とは剣を交えて会話ってのかい。にしてもバルムンクを弾くとはおもしれーな、シグルドも行くぞ!」

「はい…、兄貴」


「まったく、変身したアルジとキネシスとか呼ばれている剣士は仲良いんだか悪いんだか」

二人の剣士と交戦するオレらに視線を投げている老魔女グレーテ。

「よく分かんないけど、あの人たちはアルジ兄ちゃんらに任せてよさそうだよね」

「そうだね、おにい。それじゃ、ワタシ達はお菓子作りの続きしよっか!――幸福呪文!」

魔法見習いの兄妹、ヘンゼルとグレーテルも魔女と同じ魔法で洞窟内に次々と龍神を誘い出すためのお菓子作りに尽力していた。


「オラァ!」「これでも、どう!」

交戦中のジークフリート&シグルドに変身しているアルジ&キネシスは本物の二人相手に頭上からバルムンク&グラムを振り下ろす。

「ッ…!コイツら!」「やりますが…、まだまだ!」

同じ剣でそれぞれ受け止められたが、その場で左右対称に全身を捻り、握っている剣を横から振り回した。

「ぐッ…!俺達の偽物なのにここまで動けるとは!」

バルムンクを胴に当てがい、アルジの横から放った一撃を防ぐジークフリート。

「こんなもんじゃねーぞ!――アタックチェンジ、ブレーメンの音楽隊」

オレはバルムンクを地面に突き刺すと、腰のチェンジスロットからキャストパスを引き抜いてドライバーの読込面に翳す。

「隙ありですよ!――「やらせないよ、シグルド」、簡単にはいきませんか」

シグルドがアタックチェンジの間隙を突こうと赤いオーラを滾らせたグラムで斬りつけたところに横からキネシスが割って入り、グラム対グラムの鍔迫り合いが展開される。

「へへっ、サンキューキネシス!……()()()

そうアルジが呟いた瞬間。

「兄貴!?兄貴の偽物が背中から妙なものを」

「うわキッショ!俺の見た目をした上に、背中になんてもん生やしやがった!」

その偽ジークフリートから生えてきたのは無数の緑の触腕、黒い腕、そして黄色の布。

「うーわ、アルジ兄ちゃん…まるで化け物だよ」

「「…………」」

グレーテルと老魔女はその姿に絶句していた。


本物の二人は伸びてきたそれらをバサバサと斬り捨てる。

「キリが無い…。これでは防戦一方だ」

シグルドはそう言いながら、ジークフリートに目を合わせると頷きで返ってきた。

「こりゃ~、逃げ回るしかなそうだな」

そう言いながらも刹那に企み顔を見せた兄貴へシグルドは意図を察したように一瞬ニヤリとすると、首を縦に振った。


「随分伸ばしてきやがるじゃねえか!おい偽物、俺達と追いかけっこしよーぜ!」

真剣な表情に戻っていたジークフリートだったが、突然挑発したかと思えば自信ありげな面持ちへと変わる。

「望むところだ!めっちゃ色々伸ばしてやるぜ!」

「(アイツめ、掛かったな)。走るぞ、シグルド!」

「行きますよ、兄貴!」

二人はマグマで熱を持った空気の充満する赤熱した洞窟内を、少年のような元気振りでアルジの周囲を回るように駆け出した。

その二つの背中を追うように各触手が延々と長さを得ていく。

「この二人さっきから何を…」

当然、この光景には困惑するキネシス。


「くっそ、逃げ足の速いヤツらだ…」

さすがにアルジにも疲弊の色が現れてきた。

「(此処だな)。今だ、俺と飛び込めシグルド!」

「(確かに此処ですね)。行きますッ!」

三色の追尾する束に追われ続けているその二人の剣士は息を合わせてアルジの両脇を駆け足で抜けると、龍神への餌用に召喚されていたグミグミシールドを踏み台にして頭上でとぐろを巻いていた触手郡の中心部へと飛び込み、それぞれ左右へと潜り抜けていった。


「くっそ…、まさか自分の出した触手(モノ)でグルグル巻きにされるとは…!」

「ギチギチに縛られて動けない〜!」

キネシスも巻き込まれる形でアルジの触腕達に縛られていた。

「キマッたな。トドメ刺すぞシグルド!」

「やりますか、兄貴」

二人の作戦は成功し、身動きが取れなくなった状態の偽物達と距離を詰めてくる。

「どうだ、上でしっかり結ばれているから自力では脱出出来まい」

「ヴァルハラはきっと、貴方がたを歓迎していますよ」

俯くアルジ達にバルムンクとグラムを構えた二人はそんな言葉を投げかける。


「――――それはどうかな。変われ」

「「えっ」」

「アルくん?」

その刹那。

アルジの足元から黒い霧が発生すると、自身を含む四人の剣士を全身飲み込んだ。

「うわあ!なんか洞窟真っ暗だよ!」「何これ何これ!」

「ヘンゼル、グレーテル。暗くて危ないからこっちに来な!」

「「はーい!」」

「(アルジのやつ、今度は何をするつもりなんだい)」

魔女とおしくらまんじゅうのような状態でくっ付いている兄妹であった。


「大人しく長い物にでも巻かれているんだな」との声が響くとともにその黒い霧は晴れた。

「おい、シグルド!無事か!」

「はい!なんか何とも言えない感触の何かに拘束されて…!そんな、此処はあの女が縛られていた場所では!」

それが、アザトース(くろくろ)の改変能力。

「……オレが発した黒い霧に触れた物は全て、意のままに作り変えることが出来るんだ。その力で、互いの立ち位置を改変させてもらった」

「そんな無茶苦茶な…って、おいおいおい俺の背中からなんか色々生えてんじゃねーか!?どうなってんだよ、おい!」

ジークフリートが焦った様子で両手を背後に回している。

「アルくん、凄い能力だけど物語の要素あります?これ」

キネシスに痛いところを突かれて苦笑いを浮かべるアルジ。

(……今頃だが、この能力で音楽隊なんて何かの冗談であってほしいな)


「ところで二人とも。オレ達の誤解を解くとともに色々と聞きたいことがある。話が済んだら、背中のそれは解除すっから」

「しゃーねーな…。シグルドもそれでいいかー?」

「くっ…、まさか自身らの策に自ら溺れることになるとは……。はい、構いませんよ…」

二人がようやく落ち着いたところで話を進める。

「まずオレ達はファフニールの信奉者だとかそんなんじゃない。この火山で二年に一度、龍神を鎮めるために生贄をどうたらっていう儀式を無くすために本体をどうにかしに来たんだ」

「すまねえな、アルジら。其処彼処(そこかしこ)からあんまりに甘い匂いが漂っていたもんで、つい食料でもやりに来たのかと思ってたんだ」

シグルドもその通りと言いたげに、肯定の向きに首を振っている。

「分かってくれて助かった。それと、何故二人はこの世界に?此処はヘンゼルとグレーテルの世界だからアンタらが居るだけで十分異常事態なんだが」

原因はうっすらと浮かんでしまうところだが、他にもあるかもしれないとあのペリカンのイメージを何とか振り払おうとする。


すると、話し始めたのはシグルドだった。

「我々は近隣住民の苦情を受けて、財宝喰らいの邪竜・ファフニールを討伐するために住処とされていたこの火山に兄貴と向かっていました。すると、空の彼方から珍妙な姿をした緑色の怪物が飛来してきまして、その火山ごと巻き込む形でその場に大穴を作って飛び込んでしまったんです」

(シャクビーだぁぁぁ!!いや緑の怪物とかどっからどう聞いてもあのクトゥルフそのものというか、シャクビーじゃねえかーーー!)

この世界に来る直前にハスター(しろわ)から聞いた説明では既にこの世界に火山がある話だったのだが、道を開けるためにシャクビーが先行して無理矢理世界の壁を突き破ってきたってことかよ…、などと目の前が真っ暗になり掛けているアルジ。

「…そんで?その穴を抜けてきたのか、十一年後に」

「十一年だぁ?んな悠長な訳ねえだろアルジ。山は消し飛んだとはいえやっぱり民衆も怖がってたし、飛んだ先にも住民がもし居たならファフニールが色々やらかさないうちに早く解決しなきゃなんなかったし、俺達も直ぐに後を追いかけたんだよ」

(直ぐに?ということは、この剣士達の世界と今いる世界とでは随分な時差が存在するというワケか。あ、はいはい、なるほどなるほど……!?)

内心嫌な予感がしていた。


――――物語の世界にはとある法則が存在する。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、というもの。

オレの相棒キネシスは(かつ)て雪女の世界の登場人物だったのだが、アルジがその世界に入って間も無く主人公である青年の巳之吉(みのきち)と年老いた茂作(しげさく)がマシンオーガ・ビュートと謎のフードの人物アーザフによって殺害されたことで崩れ始めたからだ。

それに今回は、世界の間に時差が存在するときた。

まあゴマンと有る物語の世界なので別に珍しくはないとは思うのだが、その時間の開きによっては此方のの世界へ渡った直後に元居た物語の世界が消滅している可能性もあるかもしれないからだ。


「ところであのトンネルのようなものは()()()()だったのですか?通過出来たはいいのですが、渡る前に付近の枯れ木と私の足首に巻き付けた紐が千切れてしまいまして…」

(やっぱり遅かったか……)

「アルくん、まさかあの二人の世界はもう…」

「つまり、そういうことだな」

彼らは悪くない。人々を守るために立ち上がったせいで世界ごとそうなってしまったのは何とも皮肉めいているのだが、主人公不在により起こり得る事情はエネオプに関わっていた人物でしか知る由もないのだから余りにもあんまりである。

「シグルドの質問に答えてやってくれ。あれは通り抜けたら二度と戻れないのか?」

「……そうだ。その道は、片道切符なんだ。だから、アンタらもそうだが、此処の竜も元の世界には二度と帰ってこられない」

二人のメンツにも関わるだろうと強ち間違いではない言い方に留めておく。

「そう……なのか。まあそれなら…、しゃあねえか。まあ、俺にはシグルドも居るしな」

「兄貴……」

――そういえば、先ほどの話が真実なのであれば、この火山はファフニールとかいう竜の根城ということになる。

「つまり、龍神などと恐れられていた正体は、別次元を渡ってきたその邪竜ファフニールということか」

アルジはシグルドの話に納得がいくと変身を解除し、二人の拘束はスッと光の粒となって消失した。

「ありゃりゃ、せっかくの生身が」

「また変身した時にな、キネシス」

ボンっと蒸発したように着物姿の霊体に戻ったキネシス。

相棒は残念がっている様子だったが、そんなことより解決しないといけない事象があるので無視した。


「よくわからないけれど、面倒な状況のようね」

「らしい。……グレーテ、あの二人は?」

「今は洞窟の壁に魔法でチョコレートムースを出して、悪戯描きして遊んでるわ」

オレらが真剣に色々やってるときにチョコレートで壁にとぐろを巻いた絵なんて作るなっての。

「ところで、ジークフリート…」

「呼びにくいだろアルジ、ジークでいいからな」

「どーも、ジーク。さっきの話に出ていたファフニールなんだが、ここは二手に分かれて…」

「――その必要はねえな。だって(やっこ)さん、いま()()()()()()()()()()()()()

―――――――――は???

「いやまさかそんなハズは……ファッ!?!?!?」

心停止するかと思った。

黒く縦に伸びた、見る者を圧倒する眼が背後にはあった。

本当に絵本からそのまま飛び出したような、如何にもな見た目のドラゴンが顔を寄せていたのだ。

「う、う   あ     あ、     洞窟内を        

     あ     あ   ドラゴンが         いる!

         あ              練り歩いて   」

「ををををををおてぃ、おてぃつけ(落ち着け)きぃねしぃしゅ(キネシス)!」

マネモブのような反応を示す雪女と極端にビビり散らかしているチェンジノイド。

(やばいやばいやばいやばい!全身真っ赤だし、〇ルトラマンみてーな身長のクトゥルフ(シャクビー)と大差ないサイズ感だし、これ絶対炎吹かれてゼロ距離で消し炭にされるだろが、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!)

たぶん他人からしたら目グルグルとしているはずだ、とか言ってる場合じゃない!

「おい」

「あばばば…、ちょっと待ってくれ!頼むから!せめて死ぬ前にDT卒…」

「怯えすぎだ、ニンゲン。別に食ったりはせん」


………………………………。


「ぎょ………、は?」


()()()

目の前のドラゴンが、喋った。

「ファフニールだ。お前、まさか我のルーン語が通じるのか?」

「い、いや、言葉ならたぶん、オレの開発した…ベルトの機能で、此処にいる全員に通じている…な」

全自動(ランゲージ)翻訳機能(チェンジャー)のおかげで襲ってこないのだと分かっちゃいても、この威圧感にやられて口調が乱れてしまう。

「ほう、便利な宝を持っているな。やるではないか」

腰に装着している銀色の変身補助器具・キャストドライバーを覗き込む赤き竜。


「邪竜と聞いてたんだが、なんか思ってたのと違うな」

「…ですね、兄貴。それにしても、ルーン語とは……」

メガネを指先でくいっと上げるシグルド。

翻訳された竜の口調に違和感を感じたのか、双子の剣士達は引き抜いていた剣を収めた。

「うわドラゴンだ!かっけぇ!」

怖いよりも先にその感情が来る辺りはガキだなヘンゼル…。

(いや待て、儀式の生贄に捧げられているのは大人ではなく子ども!やはり狙いはそっちか!?)

「ヘンゼルー!って、あれ?」

駆けていったヘンゼルはなんと尻尾の先端に抱き着くと、イメージとは裏腹にファフニールは優しくあやすようにそれを振っている。

「よーしよし、我の尾が気に入ったか」

「うん!」

ヘンゼルは年相応にご機嫌だ。


「いいな~おにい。おばあちゃん、行ってきてもいい?」

兄の遊び相手と化した巨竜の様子に、羨ましくなったのかうずうずしているグレーテル。

「あんまり無茶はしないでな」

「はーい!おにい、待ってー!」

グレーテのところから駆け足でファフニールの元へ向かっていってしまった。

(これが龍神様の正体とはねぇ……。姿を現す前に生贄の子ども達を村の外に逃がしてやっちゃおったが、とても悪いモンには見えんわ…)


「それっ!」

「お、グレーテルも来たか!」

「よしよし。お前も尻尾に掴まっていろ」

「わーい!」

見た感じ、なかなか微笑ましいシチュエーションだが。


「俺達はこんな友好的なヤツを邪竜などと呼んで討伐しようとしていたのか……」

溜息をつくジーク。

「無理もないですよ兄貴。あのアルジさんが作ったっていうベルトが無ければあの竜の言葉を理解することなんてできませんし、見た目で民衆が恐怖心を抱くのも分かります。人もそれ以外も、見た目だけでは判断してはいけないっていうことなんですかね……」

気遣いながら兄の肩に手をやるメガネの弟の姿が印象的だった。


一つ気になったことがある。

「ファフニール。十年前、最初に此処へ連れてこられた子どもを憶えているか?」

そうだ。あの老魔女グレーテが子どもを儀式から救出したのは二回目以降。記憶が正しければ、一回目は帰らぬものとなっていた筈だ。

「ああ、あの臆病だった子か。憶えているとも。連れてこられてから一週間は供え物の果物を与えたり遊び相手になってやったのだが、ある時()()姿()()()()()がやってきてだな、その子どもを攫ってしまったのだ……」

化け物……?

ファフニールが嘘をついていないのだとするならば、生贄には一度も危害を加えていないばかりか面倒まで見ており、何なら突然現れた謎の怪物に誘拐されてしまったというわけか。

「最初は保護者が連れ戻しにきたのかと思っていたのだが、ニンゲンにはあんなに裂けた口や鋭利な爪なんてものは無いことは分かっていた故、抵抗するつもりだったのだがな……」

腹を擦りはじめたファフニールは苦しい表情へと変わる。

「逃げ足がやたら速く、おまけに…」

「なぁおい。さっきから気になっていたんだが、その腹がどうかしたのか?」

「実は神々が悪用していた宝の数々を奪い、この腹の中に封印しているのだが、その化け物はこの身体が重く手出しできないことに気付くと、我の口の中に突然()()()()()()()を投げ込んだ上に子どもを抱えて走り去ってしまったのだ……」


『「必要ならさっきの落とし物、見つけてこようか?世界の位置さえ判ればだけど」


「いけるのか!外見は黒光りしていて赤い線が走る如何にもな宝石なんだが、()()()の中で7本ある支柱に支えられて浮いているのが特徴なんだよ。あれは俺たちの信奉者ソウルメイトからもらった大事な宝物でな……」』


………………………………。

(依頼の品、コイツの胃袋の中だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!?!?!?!?!?!?)


「アルくん…大丈夫?目玉飛び出てるけど」

先が思いやられるとは正にこのことであった。

『フリートーク・人生スゴロクをするアルジとキネシス』


「おーいキネシス。荷物整理してたら面白いモン出てきたから一緒にやるかー」

「え~となになに……。”人生スゴロク~パラレルワールドバージョン~”ですか、よくわかんないけど面白そう!」

ジャンケン決めで最初はグーと見せといてパー読みチョキが決まったアルジからゲームがスタート。

「先攻はオレだな。ルーレットカラカラ~、3!」

スタートマスから青い車の駒を三マス進めるアルジ。

「えぇ~となになに……。”桃太郎からキビダンゴを恵んでもらう。1万ペジル貰う”って、いいなぁ~」

「ほれ、キネシスもルーレット回してみ?」

「行くよ~、ホレ!よっしゃ、8ですよ8!一番大きな数字来たんで実質勝ちでは!?」

「そう思うのは時期尚早だろうよ。踏んだマス見てみ?」

キネシスが〇ルシェのような赤い車を置いたマスの文章を読むとそこには……。

”住んでいたお家が大雪でぺしゃんこ。10万ペジル支払う”

「ヴェアアアアアア!?!?!?」

「すっげ、初手借金10万とか一位かよ。ワーストって意味の」


その後も番は続き……。

「へ~結婚イベの強制マスか。対戦相手がキネシスなら、結婚相手は人魚のデヴィガイオか――」

「ぶ ち 殺 す ぞ」

アルジの呟きにキネシスの瞳が澄んだ青からくすんだ紫に変わる。

「ひえっ……。キネ、キネシスさぁん。これゲーム。ゲームだから……」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――それから終盤。

「3!」

「アルくん3しか引いてなくて逆に凄いよね。というか出る度に数字を強調した言い方してるし。

…やった、ゴール!結婚相手のアナザーアルくん(勝手にそう呼んでいるだけ)も喜んでるよきっと!」

「せっかくのギャンブルマスでも3引いたせいで貧民コースまっしぐらだし、どうなってんだこれ……」

天国と地獄。

豪邸のゴールマスに足を踏み入れた株券総取りの勝ち組キネシス一家(残金20億ペジル)に対し、逆転を狙った賭博で全てを失い地下労働千年待ったなしの敗北者・アルジ一家(残金ゼロ)の末路。

「またやってみたいですけど、これ時々わたし達の過去シチュエーションとよく似てる場面ありません?最初の2マスもそうですけど、途中の"雪の女王NTR本頒布でSNS炎上。20万ペジル支払う"とか」

それ以外にも竜宮城やブレーメン、お菓子の家までイベントとして完備されている。

「いやオレSNSやってないし、炎上どころか無風だったろうが。……まあそのアレだよな。実は暇な時に作ってみたんだが、今までの経験を部分的に取り入れたら面白そうかな~って」

「ってことは、強制の結婚マスっていうのは……」

「ボードゲームならよくあるマスだろそういうのは!それで言うならギャンブルで爆死した上に地下労働行きはだいぶあり得ねえ方だろうが!それに、なんでオレしかルーレットで3しか…」

ニヤつくキネシスと他作をオマージュして自作したボードゲームに文句をぶつぶつ言い出すアルジ。


「それじゃみんな!次回20巻もお楽しみに!人生スゴロク勝者のキネシスでした~」

「こんなゲームは、絶版だぁぁ……!!」

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