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アルジキミヒト  作者: ユッキング加賀


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15/16

第15巻、影と夢と屁理屈リンゴ

前回のあらすじ3行。

「ブレーメンの音楽隊―― BEENとのガチャ料理対決だったが、アルジ&キネシス組はポメラニアンのしろわの助けもあり、ジャガイモの冷製スープを無事完成!…なお、優勝したのはそのしろわ&くろくろペアの模様」

「ネット配信終了後にBEENはその正体、クトゥルフ神話の神々としての姿を見せる」

「しろわだった黄衣の王ハスターの依頼を解決するため、アルジ(と気絶して体内に戻ったキネシス)は導かれるまま次の次元、ヘンデルとグレーテルの世界へ向かった」

世の平穏とは、数多ある犠牲の上に成り立っている。

それはお金を支払い、商品を受け取る買い物のように。それは供物を捧げ、豊穣を得る行事のように。

(――――――嗚呼。今年こそは、必ず成し遂げる。…ヴェハハハハ……!)




「ふーん。くろくろから貰ったハンバーグ、焚火にかけてみたがなかなか行ける。…キネシスのやつ、まだ目が覚めないか」

空腹を満たすのはうどん…ではなく、邪神印の冷凍ハンバーグ。


深い、夜帳の森。ふくろうの、なく……。

この日はとても星空が澄んだ日で、夜の冷たい空気を肺一杯に吸い込んだ。

――視線を感じたような、一瞬だけ、時が止まった気がした。

「………………………………………………………」


此処はヘンゼルとグレーテルの世界。

クトゥルフ一行が横切った際に名状しがたいもの、ハスターの落とし物の捜索を依頼されてきたのだが……。


「ふぅ………、ふぅ…………」

息を潜めようとする、ブレーメンの音楽隊の世界から秋のコーデを身に付け続けている変身種族チェンジノイドの男、アルジ・キミヒト。

普段なら隣で喧しくしている一心同体の相棒にして雪女のキネシスは此の世界へ行く前、邪神の狂気に触れてしまい正気を失っており、今もアルジの精神世界内で気絶したままだ。


アザトースから受け取った要レンチンの晩飯五つをそれぞれその辺の枝で串刺しにし、焚火で火を通してそれを腹の足しにしていた最中のことだった。

「(前方、杉の木の裏に人影が見えるな……。ならば)」

傍に置いていたブラウンレザーのショルダーバッグから銀色の六角形をした鉄板のような物を取り出し、腰に当てがった。

「変身キャストドライバー!」

それの背面、左右から帯が飛び出すと自動的に腰に巻かれ、装着が完了する。

(相手は一人。研ぎ澄まされた感覚を頼りに、そいつを狙撃出来る主人公といえば……?)

「キャストサーチ……」

同じ鞄から取り出した異世界の雑誌で言うところの()()()()()()()型の変身補助端末型機構、キャストパスを主人公検索モードに切り替える。

「ロビンフッド」

「ほーう」

顔が林檎で隠れていて分からないが、全身緑色の狩猟用衣装からして大方想像通りであった。

「――キャストチェンジ」

コイツにしよう、と思いそれを映した端末をベルトに翳し、機械音声を確認すると右手側にあるチェンジスロットへすぐさま差し込んだ。

直後、写真の通りの姿となったアルジだったが、肝心の顔面に不安と違和感を覚えて林檎の箇所を触ろうとする。

「――汝、この()()()()()()より選択肢を賜わろう。このロビンに触れて自己を失うか、触れずにこのロビンの力のみを借りるのか、それとも何もせず一分間を過ごすのか」

思わず手を止めた。(は……?これが?何がどうなってる?これ本当にロビンフッド?下手なSF作品の宇宙生物じゃなくて?)

因みに不思議にも顔の感覚がある。目、鼻、口と感覚で動かせるぐらいには。

しかし、触れずとも感覚で理解してしまった。

写真の顔は隠れていたのではなく、それら顔パーツが有るべき場所には覆うようにして林檎が埋まっていたのだ。

そして、今の声はその林檎から唯一無事だった耳でハッキリと聞こえていた。

「何かの間違いか?ロビンフッドといえばイギリスに伝わる義賊の英雄で、少なくとも人間だった筈だが」

「どうした。愚かな人間らしく、このロビンフッドの質問に答えてみるといい。因みに残り四十五秒だ」

無視された、つらい。

もう仕方が無いので、この自認ロビンフッドの林檎へ選択肢の答えを叩き付けることにした。

「二番目の、力のみを借りる。で、いいな?リンゴ野郎」

「よかろう。そして勘違いするな。リンゴであってリンゴではない。名は林檎型寄生生命体RNG。あとロビンフッドのロビンと呼べ。残り三十秒だ」

「クソがよ…!(ラストアタックチェンジ、ロビンフッド!)」

「ヒョハハハハ!!いいぞ、実に人間らしいな!!」

「オレは人間じゃねえ!チェンジノイドだ!」

キャストドライバーにパスを三回重ね、スロットに差し込むと眼前には一張のロングボウが出現したのでそれを手に取ると、さっそく人影へ照準を合わせる。


「――――無意味な答えを得ようとする滑稽さこそは不条理。そこに逃げ場は無く、ただ選び背負い在り続けるこそは実存の刑。崇高なる幻想は剥ぎ取られ、残る血肉、臓腑、腐敗こそは低級な唯物。意味なき世界、存在、物質の証明を開始しよう……」


自認ロビンフッドの謎寄生生物が謎詠唱を始めたところで、ふと足りないものに気付いた。

「いやいやちょっと待てやお前これ矢が無ぇだろが!「無いと思うから無いのである。あると思えばそれはあるのだ!」よく分かんねえこと言ってんじゃねーよ!?」

撃ち込むそれも無いというのに、体が勝手に対象を射る姿勢に入っていた。

「もう、どうにでもなれぇぇぇ――!」

つがえる矢も無いまま弦を思い切り引いた時、その手に灰色、朱色、土色の三色が入り混じった光の珠のようなものが宿った。


「放つといい!『不条理にして実存せし(アブザードオブ)唯物の一矢(マテリアリズム)』」


限界まで引き絞った弓から解き放たれた光の矢は正体不明の影へ迫る。

「…………!」

表情は見えなかったが、如何にも慌てている様子を見せながらもすんでのところで矢を飛び込み前転で回避されてしまう。しかし、

「無駄だ、愚かな人間。生きている限り、選択からは逃れられないのだ。ヒョーハハハハ!!」

躱された先に着地しかけた光の矢だったが、急激に角度を変えてその愚かな人間と呼ばれた者を追尾する。

「!…………」

影の者は林の中を逃げ回り、自動追尾で狙いを定めた矢は三色のツイストで暗闇に尾を引いてゆく。

「……!…………、!?」

命中ギリギリで全身を捩らせるように姿勢を変え、攻撃は脇腹を掠る形で大部分は外してしまった。

「右足を押さえている……?」

あの一撃を避けようとして足元の石に打ち付けてしまったらしく、右手でさするようにしている。

(……影?いや違う。あれは黒いローブか。しかもそのフードから鉤爪みてーに尖った大きな鼻が飛び出ているぞ!)

「此処で追いかければ!「――時間切れだ。にんげ…チェンジノイドよ、退屈しなかったぞ。また会おう」おーい!?」

みるみるうちに変身前の姿に戻ってしまうアルジ。

追いかけようとした影の姿はもう見えない。

「うーわもう、取り逃がしたじゃねーかよ。もーう!……ていうか何だったんだよ、あの林檎の化けモン」

不貞腐れたアルジは焚火の元へ戻り、火を消すとその傍らで雑魚寝を始めた。



「――空に一番近い場所。ボイドが、行きたがっていた場所」


二度目だな、この夢。

大都会特有の高層ビル群、空を飛び交う自動車。目を凝らすと信号機まで浮いていることまで見えた。

ただただ明るい空は昼間だからというわけではないらしく、うっすらと真上には宇宙特有の暗闇が覗いている辺り、此処はやはり成層圏で間違いないのだろう。夢の中ゆえ気圧、気温を確認することは叶わなかったが、追いかけるべきは視界に映るあの白いアンドロイド。

前回同様、全身傷付いており片足を引き摺りながらアスファルトの坂を彷徨うように、だが導かれているかのように歩を進めている。


『彷徨えるまま。ただ、彷徨えるままに行くんだ。最期まで辿り着くことがなかった、楽園を求めて』


前にも浮かんだ言葉。

もう少し特徴を捉えるべく、全力で坂を登ってそのロボットの前へ先回りしてみた。


その傷が多く薄汚れたメタリックな胸部装甲には青緑色の三角形を模したロゴマークのようなものが見られ、その上には型番のような文字が刻印されている。

「SB1-TR001……」

恐らく型番だろうか。何処かの工場か施設だかで製造されたアンドロイドで間違いないだろう。

個人開発ならば、開発者の癖でも無い限りそんな表示は必要無い筈だからだ。

逆向きで歩きながら観察に集中していて気付かなかったが、再びあの白い展望デッキがある丘へ到着していた。

「空に一番近い場所。ボイド。SB1-TR001。うーむ……」

これらの繋がりはなんだろうか。

そのアンドロイドはボイドが行きたい場所として挙げていたのが、空がうんぬんかんぬんといった夢見てしまうような場所なのだろう。

だが、憶えている限りの流れではこの後手すりに登ってそこから飛び降りるんじゃなかったっけか、アイツ。

「こんな時にキャストパスさえあれば……」

夢の中だからか変身用のアイテム一式は無いので、パス内のメモ機能が使用出来ず困る現代人らしい男、アルジ・キミヒト。

そして白いロボットはまたしても何語で書かれているのかが判らない看板の横を抜け、あの手すりの前へ。看板の表記は見た限りアルファベットのようだが、素ではブック語しか分からないのでランゲージチェンジャーも無い現状況では読解が出来ないでいた。

(あれ、直ぐに登ってたとかじゃねーんだな)

確かあの時は家具に頭をぶつけたとかで、頭痛で最初は追いかけるどころではなかった状態だったことを思い出した。

「そういや何かランドマーク的な物とかないんかな、ここ」

せっかくの展望デッキだ。双眼鏡は有料のため現在丸腰のアルジには使えなかったが、目をよく凝らしてビル群などをチェックしていた。

ビル、ビル、ビル、ネオンかなんかの光、ビル、白いビル、ビル、ビル…。

「白いビルっていうか、何かの塔か?――いや、あれは」

隣で飛び降りの前動作が始まったアンドロイドの胸部装甲にあったものと同じロゴが、その白い塔のようなビルのような高層建築物の正面にあしらわれていた。――――!?

「あの隣のビル…。間違いない、エネルジオプティマス!!」

ブックワールド掌握計画を立ち上げ、その計画を知ったオレを追放するばかりか、両親と金太郎を死に追いやった怨めしい名前。

社名は近くの看板と同じような言語に加え、本の向きを<や>といったジグザグで示したものを言語として使用するブック語の表記、オレが言語変換無しで唯一読み取れる言語が白い塔の隣にあるビルの壁面に掲示されていた。


上から街を見つめるようにし、胸部に手を当てる謎のアンドロイド。

「自身は……、――ボイド」

それが視界には映っているのに物理的に間に合わないと悔しくも悟った。

「時間切れか……」

ボイド。製造番号付きの白いロボット。アルファベット表記の看板。何故か理解できるコイツの独り言(たぶん夢だからか)。そして、謎の企業とエネルジオプティマスの建造物。

『……を助けて』

またあの少年の声だ。今のキーワード、夢から醒めた後でも憶えていられるだろうか。

『友だちを、助けて!」


「何だったんだ……、あの夢」

寝汗を流していたアルジは眩しい朝日に叩き起こされた。




「たまにはこういうのも、悪くはないか」

余りのハンバーグを朝食として残さず平らげ、共に夜を過ごした焚き火を片付けてから出発し、林道を抜けた先にあった小川で黒の海パン姿になったアルジは全身を洗う名目で年甲斐もなく川遊びのようなことをしていた。

前回は肌寒くなり始めた10月の世界だったのに対し、肌で感じた限り、時期は恐らく夏だろうか。

訪れる度に季節・気候がバラバラなのでいつか風邪でも引きそうだ。

「そろそろ目覚まさないかな、キネシス」

普段バカみたいに元気なアイツ。

横に居ないと調子狂うような、不足感が湧いてくるようになった。

「ウンウン。やっぱ隣にはキネシスが居ないと寂しいよね」

「そうだよな……。アイツが居ないと、なんか退屈に感じ――、は?」

目を覚ましたのか、キネシス?――、

「アルくんと目の前にいる読者の君ー!準備はいい〜?あなたの目玉をフリーズバインド!何者なんです、キネシスです!お〜はこんハロチャオー!!!!」

「うるせーよ!!何処で覚えてきたんだよその配信者みてーな挨拶はよぉ!お前のよろクールは何処いっちまったんだよ!ていうか読者ってなに!?…いや、その、目、覚ましてくれてよかった」

「え、なに〜?心配してくれたんだ」

キネシスが右耳側の結いおさげをぷらんぷらんと揺らしながら此方の顔を至近距離で覗いてくる。

無駄にそいつの顔がいいせいで、一瞬生まれた苛立ちが即座に吹き飛んだ。

「顔を見るのは構わないけど、その姿勢で見られるのは抵抗あるな……」

霊体状態で背中からオレの体を貫通して鳩尾(みぞおち)から顔面を突き出しているのはさすがに自由が過ぎる。

「もう背筋疲れてきたぁ〜」

「でしょうね」

妙な姿勢のまま、髪飾りのニカニカ表情な雪だるまとは対照的にヘナヘナ顔を見せているキネシス。

感触は無いだろうが、頭を撫でている風に手を当ててみる。

透き通るような青い瞳と視線が合い、無言でくしゃっとした笑顔を返してきた。

(おかえり、相棒)

(ただいま、相棒)


「そういえばアルくん。あの川で水着姿だったけど何してたの、水浴び?」

「大体そう。寝汗かいてたし、なんかこの世界どうやら夏らしくて暑いしさ」

川から上がり、キャストパスのアプリ『ドレスアッパー』で赤いチェック柄の半袖ワイシャツにいつもの開いた本型ペンダント、青いオーバーオール姿となったアルジと霊体状態でいつもの和服姿であるキネシスは牧場横の舗装された土の道を歩いている。

頬を撫でる微風は周辺の草むらを揺らし、陽の光がそれを照り付けている。

牧草を馬に引かせている荷車で運搬しているストロー帽のおっちゃんからパン半分を分けて貰い、それを齧りながらキネシスと喋っていた。

「ふーん…、ていうかこの世界ってどこなの」

「此処はヘンゼルとグレーテルの世界、らしい。ハスターってか、しろわがこの世界の火山近くに宝物を落としたから回収して欲しいっていう依頼でな」

「うわ、あの四体のか……」

そういえば姿を見ただけで卒倒してたもんな、キネシス。

「今は具合いいのか?急に倒れたからさすがに心配したっての」

「どうも~。目覚めてすぐは正直ちょっと頭痛かったけど、アルくんの顔見てたら飛んでっちゃった」

「お、おう……」

たまに恥ずかしくなること言うよな、キネシスのやつ。

「ところで今はどこ向かってるの?わたし達」

「牧場近くで村の看板を見たんだ。主人公探しの手掛かりが有ればいいんだが……」

「いつもなら向こうから主人公来るのにね」

「むしろ今までが上手く行きすぎただけなんだろうな。――何だあのデカい木は」

牧場の横を抜けた先、視界に映ったのは十メートルはあろうという巨木とそれを囲うように小規模の木造民家群。その家々の奥には黒い森が広がっている。

「行ってみようよ!たぶん目的の村だよ、アルくん」

「おっ、そうだな」

二人は『Dorf(ドルフ) im(イム) Schwarz(シュヴァルツ)wald(ヴァルト)』と書かれた小さな村の正門を潜っていった。



「おやおや、この村にあのような男の方は居たかしら。――まあいいわ、そんなことより調合用のキノコを採取できたことですし、村人達に見られる前にお家へ帰らなくちゃ……」

黒い布切れで全身を覆い、多種多様なキノコを手提げのバスケットから溢れさせている一人の老婆。

遠目で門を潜った村の余所者を視界に入れるや否や、村の奥――日中にも関わらず暗い『黒い森』へと誰にも見られるでもなく姿を消していった。

Verlorene Zeit kann man niemals zurückholen.

Auch wenn es auf den ersten Blick so scheint, als könnte man neu anfangen,

ist es doch nur ein Schein.

失った時間は二度と取り戻せない。

一見やり直せたように見えたとしても、 ただ、そう見えているだけ。


Doch um jenen Verlust wieder gutzumachen,

muss ich es trotzdem immer wieder wiederholen.

Darum endet die Sühne niemals.

しかし、かの損失を取り戻すためには、 私はそれでも繰り返さなければならない。

故に、贖罪は終わらないのだ。

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