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アルジキミヒト  作者: ユッキング加賀


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16/16

第16巻、おカシなおとぎ話!黒魔女のウワサと誘われし兄妹

前回のあらすじ3行。

「ヘンゼルとグレーテルの世界に到着したアルジだったが、夜中に謎の黒ローブの影を見かけ、キャストサーチで|林檎型寄生生命体RNGロビンフッドへと変身して応戦。追い詰めるも、時間切れで取り逃してしまう」

「再び夢の中で傷付いた謎の白いアンドロイドを見かけるが、何とその世界でエネルジオプティマスの建造物を目撃する」

「邪神の瘴気に触れて気絶していた相棒の雪女ことキネシスが目を醒ましたので、一行は小さな村へと足を踏み入れたのであった」

「すみませーん。この村にヘンゼルとグレーテルって子は居ませんか?」

「ああ、向こうの木こりんとこの双子だな。……見かけない顔だが、アンタは何処から?」

「ブレーメンだ。教えてくれてどうも」

「おう……」

嘘は言ってない。深く質問される前にさっさとその場を離れることにしたが、


「……おっかねえ黒い魔女には気を付けるんだな。余所者」

背後から妙な忠告を受けた気がした。


チェンジノイドのオレことアルジ・キミヒトは勤務先の大企業エネルジオプティマスが故郷ブックワールドを掌握し資源化を企む極秘計画を偶然知ってしまったことで命を狙われ逃亡。

逃げた先の金太郎の世界で一ヶ月の修行をしていたのだが、その後現れた追手である幹部のマシンオーガ族から、幼少期から行方不明だった両親は企業の実験のために命を落としていた事実を知る。

その戦いで同時討ちとなり、亡くなってしまった師匠・金太郎のためにもエネオプへの復讐を遂げたいと誓った。

光子変換(フォトナイズ)生物転送機能付変身能力補助装着型装置・通称『変身キャストドライバー』を始めとする自作のガジェットアイテムと旅の途中で出会ったちょっと抜けている雪女の相棒ことキネシスとともに各物語の世界へ赴き、その企業へ対抗するために必要な主人公の力を集めているわけなのだが……。


「やっぱ、村の部外者が子どもの行方とか聞いていると、なんというかその、正直犯罪臭してくるよな……」

二人は黄衣の王ことハスターの落とし物探し&この世界の主人公、ヘンゼルとグレーテルの力を回収するため、一本の巨木が特徴的な小規模の村こと『Dorf(ドルフ) im(イム) Schwarz(シュヴァルツ)wald(ヴァルト)』を訪れていた。

「冷静になってたら主人公探せないでしょアルくん!あと、さっきのちょっと抜けてるは余計かな」

「悪い悪い。とりあえず、さっき話にあった木こりの家行ってみるか」

「行ってみよ〜」

毎回物語の世界へ入るたび、大体主人公らは入った直後に出くわすことが多かったこともあり、今までが順調過ぎたんだと痛感させられる今回。

一物語といえど、やはり世界は狭いなどとは言いにくくなってしまったな……。


「留守、か」

「こんな昼間じゃ、まだお仕事じゃないかな。かな?」

針葉樹が生い茂る手前に、目的と思われる家屋を発見した。

全体的に古い木材で組み上げられ、屋根には長い年月で育った苔が柔らかい絨毯のように広がっている年季の入ったログハウスといった外観。

建物の横では使い込まれたような斧が切り株に突き刺さっているのだが、その奥には大量に積み上げられた薪の山が存在感を放っており、単なる生活目的だけで使うような量には見えなかったことからキネシスと此処だろうと確信を持っていたのだが、肝心の家主が居ない。何ならその子ども達の気配も感じられないというか、煙突から煙も出ていなかったのでそれぞれ働いているかお出掛けとやらだろうか。


「おい、そこの余所者の男」

思索に(ふけ)っていると、背後からしわがれた声がしたので振り返る。

そこに居る恐らく声の主であろう杖突でヒョロい体格の上、ハゲ散らかした典型的な年寄りが此方を鋭く睨んできていた。案の定何か言いたげな様子だ。

「オレか」

「お前以外に誰が居るのだよ。見かけない顔立ちのロリコンに、村のガキどもの住居について聞かれたと連絡があってな。何者だ」

失礼な爺さんだな。開口一番に余所者は百歩譲ったとて、ロリコンとはなんだロリコンとは。

なおキネシスは目が覚めてから現在に至るまで、未だオレにしか見えない霊体状態ということもあり、第三者からすれば独りということになる。

「オレはアルジ・キミヒト。…勘違いさせて悪いが、オレはロリコンじゃなくて、えぇ〜と…その子どもらの父親の同業者で知り合いなんだ。ところで、アンタは?」

言いたいことが出来たとき、それを直ぐに口に出さないことが大人なのだと文句を飲み込むことにした。

「私はこの村の村長、ブラウニー・ブラウニーだ。しかし()()()()()の知り合いであったか、いやこれは失敬」

(失敬どころじゃねーだろと。布団に黄色い世界地図作って洗濯させることとどっこいどっこいなレベルだったんじゃねーのかよ今のは、と言いたい。……ていうか、モヤシ?小規模な村だと、子どもらの父親と言っただけで誰のことなのか通じるのか?)

「いや、側から見りゃ無理もない。――木こりのこと、妙な呼び方をするんだな」

「モヤシはモヤシじゃ。父親のクセにガキどもの躾もようなっとらんし、腹癒(はらい)せに()()()()()はその双子にしてやったらもう泣きじゃくってやんのと、つい笑いそうになってしもたわい」

(最っ低。アルくん、コイツ一発殴っていいよ)

(落ち着けってキネシス。確かにこのクソジジイは倫理観もへったくれもないただのドブカスのようだが、村長と名乗る分この辺には詳しそうだし、情報収集という意味では利用価値は無くもないだろ?)

(それは……、そうですけど)

プカプカと浮きながら俯いているキネシス。

まあ、気持ちは分からんでもない。

「ん?どうした若造。急に明後日の方を見て」

「いいや、失敬。その儀式って何してるんだっけね~と」

怪しまれたのですっとぼけているフリをしつつ話題を繋げてみた。

「はぁ~、これだから近頃のワカモンは。良いか余所者?この村では2年に一度、村からガキ一人を選出して()()()へ生贄として捧げることにしているのだが……」

龍神?ヘンゼルとグレーテルの作中にそんなの居たっけ?

「龍神様ってのは何者なんだ」

「龍神様というのは今から約十年前、この村の近くに()()()()()()()()の中心部におられるドラゴンでな。顔をしかめ怒り心頭のご様子だったので、『村から生贄を捧げますので、どうかその怒りをお鎮めください』とお伝えしたのだ。表情が変わらなかったゆえ了承を得られたかは定かではないが、否定するような様子も見られなかったので、それから2年毎に村のガキから一人をお供えしているのだ。まあ、今年というか明後日は二人だがのう。……ところで、木こりと知り合いだと聞いていたが、知らんかったのか?」

()()()なんで、な」

ほう、火山か。

此処へ来る直前、しろわってか黄衣の王ハスターから見せられた記憶の映像にあったあの火山にその龍神様とやらが住んでいるというわけか。

「まあ良い。…じゃが実はその生贄、捧げる度に毎回とある邪魔者によって連れ去られてしまい、困っておるのじゃ」

(なんじゃそりゃ)

ブラウニー村長は黒い布に巻かれた杖のようなもので石畳をカンカンと鳴らしている。クセなのか。

「その犯人は分かってるのか?」

「もちろんじゃ。あの忌々しい、黒い魔女め……」

(黒い魔女?まさか、あの晩の人影の正体か……?)

(アルくん、なにか心当たりあるの?)

(ある。確証はまだ持てないが、ちょっと探りを入れてみるか……)

「ブラウニー村長。その黒い魔女って、大体どんな格好してたっけ?」

男は一瞬顰めっ面をしたかと思えば、途端に腹の虫が治ったような表情をしてみせた。

「やれやれ、変質者かモヤシの知り合いかと思えば今度は魔女狩りの若者か。そりゃ魔女なんだから、…え、えへん。薄汚くて、黒ずくめでぇ、鼻はデカいし口が耳まで裂けたようなヤツだろうが。なぁに、()()()()()()()()()()()()、その化けの皮の一つでも剥がれるんじゃないかのう?」

薄汚くて、黒ずくめ、鼻がデカい、裂けた口、まあクシャミは冗談なのだろうが。

正直顔の特徴についてはあまり見えなかったので把握していなかったのだが、大方合ってるかもしれん。

「へぇ…、詳しいんだな」

「そりゃあな。恥ずかしいことに、毎回毎回生贄のガキを監視の村人ごと攫っちまうなんざ、報告のたびに嫌でも思い出しちまうよ。折角の儀式だというのに、執り行う毎にこれでは龍神様も空腹の筈だろう」

随分いい加減な風習だな。成功してないのなら何のためにやっているのやら。

それにしても時代的に真剣なのは無理もないが、腹癒せ一つでその年の生贄を決定する辺り、どうも胡散臭い。

というか、二年毎ということは今年でやっと五回目かよ。

「最後に一つだけ聞かせてくれ。村長が言う、その魔女の目撃が多いのはどの辺りなんだ」

「へっ、賞金首(ババア)なら、きっとこの先の黒い森によく姿を現している筈じゃ。それ以上は分からんが、賞金目当てだろうとくれぐれも下手に刺激するようなことはせんでくれよ。森を抜けて直ぐ目の前に龍神様の火山もあるしのう」

「分かってるよ。……情報どうも」

アルジ一行は時々件の屑村長にイライラしつつも、村を後にして留守の木こり小屋の脇から黒い森に潜入を始めたのだった。


「アタックチェンジ、浦島太郎」

「カメェーーン!」

「うぉっ、あんま期間も開いてないのに久し振りに感じるな!」

浦島太郎の世界でマシンオーガの物語改変光線を受けたことで変異した、メタリックな緑と茶色の亀型バイク。それがこのカメーンだ。

「えっと、アルくん。ここ、森だよ?足元不安定かもしれないけど、バイクで進んで大丈夫?」

「カメーンは見てくれこそバイクだが、元は浦島太郎を乗せるウミガメだからな。水陸問わず視力が高くて視野も三百六十度あるし、地上特化の今の姿なら本来のウミガメより色覚が生かせるだろうさ。な?」

「カメェーン!」

にしても相変わらず個性的な鳴き声をしているなコイツ……。

「詳しいね。生き物とか好きだったの?」

「昔は町外れに落ちてた生き物図鑑とか拾っては読み耽ってたっけな。ーーカメーン、ライトを頼む」

「ハマヤネェーーン!」

「いやどうみても森だろうが!」

オレの故郷、ブックワールドは常時本が降ってくる世界だ。理由は未だ不明だが。

しかし皆んなはその肝心の文字が読めなかったので、昔はレンガのように積んで家にしたり、ページをちぎって衣服にする程度しか使い道がなかった。だからこそ、絵だけでも楽しめる本は文字が分からなくても眺めているだけで、幼心的にはワクワク出来たのかもしれない。エネオプは市街地上空にこそネットを仕掛けて落下してくる書籍を電子データへと自動変換させてはいたが、郊外の自然が残っているエリアはカバーしておらず、大人になっても時々拾っては片手間で発明した言語変換ルーペを用いて読書を夜更けまで楽しんでいたものだ。


ブロロロ…と森の空気を震わせる駆動音の尾を引きながら森林を疾走するオーバーオール姿の青年チェンジノイドと、浮遊する形で並走する幽霊の雪女。

「黒い森と呼ばれていた割には陽が指してくるというか、遮るような()がなんとなく少なく感じるんだが。()のせいか、これ」

「ダジャレにしてはヒネり足りなくないですか?」

「それこそ『気』のせいだろうがバーカ!」

「そこまで言わなくたっていいでしょ!アルくんのバーカ!」

一見仲の悪そうな会話だが互いに和やかな表情を見せている。キネシスは小さくベロまで出していたが。


「――何者だい。って、さっき見かけた村のお客さんかい。一人でぶつぶつと喋りながら()()()に乗って走ってくるだなんて、変質者以外の何者でもないじゃないか」

和気藹々としていたところへ突然前方から聞こえた婆さんの声。反射的にカメーンのブレーキに指を掛けた。

「鼻はデカくないが、黒ずくめの婆さん…。あんたが噂に聞く魔女か」

肌はシワシワ、鼻はイメージしてたほどではなく平均程度だし口元も別に裂けてはいない。村長は一部出鱈目が混ざっていたようだが、まあボケで記憶が曖昧だったのだろうか。

「ほう、変質者と思っておったが、まーた魔女狩りかい。――ならば、話は変わってくるかねえ」

「へぇ…。やるんだな、婆さん」

魔女狩りと勘違いされてしまったが、キノコの詰まった手提げバスケットを足元へ置いた黒ずくめの婆さんが右手を此方へ向けてくるなり戦いが避けられないと判断したところでカメーンから下車する。

「戻れ、カメーン」

「カメェェーーー……」

召喚したオレの声に反応したカメーンは光の粒となって霧散した。

「変身キャストドライバー!――オレの魔法も、見せてやるよ(デヴィガイオ)」

腰に銀のベルトを巻き付け、キャストパスの人魚姫デヴィガイオを選択した画面を黒魔女に見せ付ける。

「ほう。随分変わった魔女狩りも居たものだ、お手並み拝見といこうじゃないかい」

「やっちゃえ、アルくん!」

ドライバーに画面を翳して「キャストチェンジ」の音声を確認すると「――変身!」と叫び、右手側のベルト帯にあるチェンジスロットにパスを差し込んだ。

「水底より貴方へ、届かない言葉を伝えましょう……」

儚く清い、高らかなソプラノの声色が森に響くと、オレの体が青く激しく発光する。

全身を包んだ光の中から現れたのは赤紫色のサイドポニーヘア、淡く青い貝殻のビキニとイヤリングで着飾る文字通り真っ白な肌とその先にある深い青から明るい水色へのグラデーションを見せる無数の鱗が特徴的な魚の下半身といった、我ながら可憐な姿へと変化した。

「まさか、人魚に変身した!?」

「驚くのはまだ早い。此処から本気(マジ)、になるぜ」

相当な変貌ぶりに驚嘆する魔女を前に変身元からは想像し難いニヤリとした笑みを見せながら、デヴィガイオ姿でスロットから取り出したキャストパスを操作する。

「なんか、わたしの知ってるデビ子ちゃんじゃない……」

「これ言うの二度目だけど、慣れてくれ」

ほう、父親から借りた宝物と聞いちゃいたがなかなか強そうじゃねーか、これ。

「アタックチェンジ、デヴィガイオ」

召喚したのは海底の人魚王国マリネリアに伝わる黄金の三叉槍、海神槍トライデント。

変身後の自身とスケール感はほぼ同じと言ったところで、これがなかなかイメージよりズッシリとくる。

「(キネシス、地面を凍らせてくれ!)せいやッ!」

「任せて、アルくん!」

キネシスへ脳内会話で指示を伝達すると槍の柄の底を地面へ突き立て、腕力としならせた尾鰭でその槍ごと魔女へ向けて飛び上がった。

「来たねぇ…。幸福呪文(ハピネスマジック)、グミグミシールド!」

手提げバスケットから紫色のキノコを一本取り出すと、瞬間的に透き通った紫色のジューシーな壁へ姿形を変え、魔女の眼前に出現した。

飛び込んだ先でトライデントの矛先をぶつけるも、無機質に刺さった後バインバインとそれを握る人魚が上下に揺れている。

「うげぇ〜気持ちわりぃ〜!何なんだよグミのバリアってよぉ〜!あ〜れ〜」

「アイスフィールド!…アルくん早く抜いて、それ!」

開けた地面一面をつるっとした氷が覆う。

グミの壁も凍り付いたので、そこへ尾を押し当てて三叉槍を引っこ抜いた。が、反動で後頭部を打ち付けてしまう。

「くっっっそ痛えぇぇ〜!(あ゛り゛か゛と゛な゛キ゛ネ゛シ゛ス゛)」

「ま、まぁね…」


黒衣の老魔女は地面の異変に気付くと小さくジャンプしてそれを回避し、ニヤッとした笑みをアルジにそっくりそのままお返しした。

「氷かい。いいねえ、利用させてもらおうじゃないの。――幸福呪文、ナミナミシャーベット!」

「今度は何だよ!?」

土の路面を覆う氷が海のようにザバーっとした波を作り、アルジを飲み込まんと襲い掛かる。

氷のはずなのにどろりとしたその質感はまさにシャーベットの様相を呈していた。

アルジは握っていた槍の先を氷の表面へ浅く刺しては全身を前進させ、ツルツルとした魚の下半身でスキーのように滑走する。

「その場の環境を利用する戦法とは、上手いな……。だが、元同僚との海遊びの経験をここで生かしてやるぜ!」

「えっ、ちょっ、波の方へ向かうの!?」

「ああ。ちょっくらサーフィンと行こうじゃねーか!」

本当ならばサーフボードに寝そべった体勢で水を掻いて行くところなのだが、鱗の滑りを利用してトライデントで自身を押し出しながら勢いを作っていく。見てくれはどちらかと言えば、オールで漕ぐベネツィアのゴンドリエーレのようだ。

「な…なんという人魚(マーメイド)、いや、人魚(マーフォーク)……、あれれ?」

「ここだな!」

混乱する魔女など気にも留めず、アルジは森林に拡がるシャーベットの崩れそうな波の上に乗り上げ、そこから最下部(ボトム)まで一気に滑り降りてくる。

「良い波だなぁ〜おい」

「くっ…、ならばもっと大きな波だ!ナミナミシャーベット、マクシマル!」

降りた先で百八十度のターンを決めたアルジの前に、更に飲み込まんとする砕氷の波。だが、

「こんぐらいデケえ波なら、久し振りにアレも出来るな……」

そう言って意気揚々と波の内側へ飛び込んでいく。

「な…、なんなんじゃこいつは……、ハハ……」

「イヤッッホォォォオオォオウ!!」

大きな波の空洞部分を横から滑り込む。その爽快感極まる様に黒魔女は最早笑うしかない。

「ラストアタックチェンジ、――デヴィガイオ」

流動するトンネルを駆け抜けながら、引き抜いたキャストパスを三度ドライバーに読み込ませて再びチェンジスロットへセットすると、アルジは魔女の方角に向かってターンの動きを入れ、槍と尾鰭を使って自身を押し飛ばして一気に加速し波の上へ乗り上げた。


海神(うながみ)よ、生きとし生ける大海(うみ)の生命よ、潮のように流れ込む数多なる輝きよ。トライデントに、今こそ宿れ!」

赤い瞳と黄金の三叉槍から解き放たれる海のように蒼い輝きが、その矛先を魔女に向けている。

「――――潮騒の(オーシャンズ)蒼罰(パニッシュ)!!」

投げつけられたその槍はそこへ向けて一直線。

「させるものか!幸福呪文、カチコチキャンディー!」

足元に落ちていた小枝を地面に突き刺すと、途端にそれはピンクとホワイトが渦巻く巨大なグルグルキャンディーに変化しては魔女の前面を覆い、飛んできたトライデントはそれに阻まれグッサリと一突き。

「危ない危ない…「――言ったろ。オレの魔法も見せてやるよって」、へっ……?」

槍の先端から放出された三本の高圧海水がグルグルキャンディーを貫き、いずれもその魔女を横切る。

「何が魔法だよ!当たらなければどうということは…、(ふと、振り向いた黒魔女の表情が震え出した。)な、何だいこの生き物は……!?」

海水で形成された浮遊するコウテイペンギン、ナンキョクコオリイワシの大群、アザラシが動揺する魔女にその姿を見せつけていた。

「メンツ偏ってね?」

攻撃で飛び上がった後、木の枝に体を引っ掛けていた人魚姿のアルジ。

「あの斑点付きの動物なんですか?いや〜かわいいなあ」

隣で浮いていたキネシスが癒やされているような表情を浮かべているのも束の間、

「ありゃヒョウアザラシだな。攻撃性のある危険なやつ」

「危うく見た目に騙されるところでした、しゅん」

知識を与えられ、ショックを受けていた。

いずれも寒い地域に棲む生物ばかり。というか、

「おいアザラシ!召喚したイワシ勝手に食うんじゃねー!」

ゴゴ、オホォ〜!などと鳴き声を上げながらニヤついているアザラシ。コイツたぶんハズレ枠だろ!


「待て…、食べる?」

「どうしたんじゃ、お前」

アザラシもそうだが、ペンギンもイワシを狙っているのか眼光を向けている。

「そうだ!――アタックチェンジ、浦島太郎」

手元に浦島太郎の釣竿を召喚すると、イワシの群れ目掛けて釣り糸を放り込む。

「へへ、結構すぐ釣れたなおい」

餌も仕掛けていないのにも関わらず、釣り針には既に一匹釣れてしまった。

「おーい、もうさっきから何してんだい!」

「見りゃ分かるだろ?――釣り、だぜ」

釣れたイワシをそのままペンギンの前に突き出すと、エサを釣り糸ごと飲み込んだところを思い切り釣竿で引っ張り回し出した。

さながら遊園地にある空中ブランコのような状態だが、イワシを取り外して食べるために魔女の周りをグルグル腹這いで滑るのでアルジは段々と釣り糸を緩めて伸ばしていく。

「くっ…、体が縛られる!ならばハピネスマジッ…!?」

ペンギンが滑る度に釣り糸による拘束が強くなる魔女は出ていた手先で魔法を行使しようとした目の前でイワシの群れが闘牛士を模した列を成し、翻したマント型のイワシの群れの奥からヒョウアザラシが飛び込んで来たのだ。

その光景に目を真開く老魔女。

「私が…、私が何をしたって言うんだぁぁぁーーーい!!」

「お前のエピローグは、決「「幸福呪文、グミグミシールド!!」」、なにっ!?」

突然、どこからともなく少年少女の呪文を唱える声がした。

「アルくん、魔女の前に子どもが!!」

「えっ」

焦るキネシスが指差した先には、老魔女の前に立ちはだかる二人の影。

「これ以上…」

「おばあちゃんをいじめないで!!」

飛び込んでいくヒョウアザラシは突如として展開されたジューシーな赤と青の二重の盾に直撃し、水柱を立てながら大爆発を起こした。

「ぐっ…!お前たち、まだ覚えたてなんだから無茶するんじゃないよ!」

「へへっ……。大丈夫だよ、ばあちゃん」

「ワタシたちだって、やれば出来るんだから!」

(こうなると話が変わってくるな……)

「キネシス、すまないけどイワシの群れを頼む。…オレはあのペンギンを止める!」

「任せて!――絶対零度(アブソリュート・ゼロ)!!」

キネシスが両手を翳して念を込めると、青く透き通った瞳が紫色に染まる。

「はぁぁぁーーーー!!!」

三人の元へ突っ込もうとする大群は瞬く間に凍り付き、魔女らの目の前でかき揚げのような塊となってボトリと落下した。

「(ラストアタックチェンジ・スラッシャー)どりゃーーー!!」

赤き銃と青き剣とで切り替え可能なアルジ開発のハイブリッド武器、チェンジスラスターをキャストパスの専用アプリによりスラッシャーモードで実体化させると、トライデントと釣竿を放り投げて柄を掴み、キャストパスを翳すことで刀身にフォトンエネルギーを集約。

アルジは回転の遠心力で黒魔女からペンギンまでの距離が最も離れた位置を見計らってから、体重を預けていた枝をしならせ跳ね上がる。

その武器のトリガーを引きながら振り下ろすと、刃の軌跡がそのまま青く輝く斬撃波となって飛んでいき、命中して糸も千切れたことで弾け飛んだペンギンは森林の上空で形作っていた海水を撒き散らす形で爆散した。

「うわ、何だよあの凄い動き方する人魚……」

「って、何で森に人魚が居るの?絵本では海にいるんじゃなかったの?」

この二人だったのか……。

「オレは人魚じゃねーよ、()()()()()()()()()

「「えっ?」」

キョトンとした表情に変わった二人。

「どうしてこの子たちの名前を……。魔女狩りじゃ、なかったのかい?」

釣り糸でグルグル巻きの老魔女が疑問をぶつけたその人魚は、魚の下半身で着地するとスロットからキャストパスを抜いて変身を解除した。


「(キャスト、アウト)……オレはアルジ・キミヒト。とある落とし物を探しに来た」

陽射しが黒い森の木々を縫って照らす昼過ぎの中、オーバーオール姿の成人男性アルジ&半透明の雪女キネシスと老いた黒魔女&不思議な少年少女ことヘンゼルとグレーテルは、出逢った……。

Es gibt gewiss einen schmalen Grat zwischen Geheimnisse bewahren und lügen.

Die Mittel mögen unterschiedlich sein, doch beides kann zu Sünden und Fallen werden, mal sanft, mal sinnlos.

隠し事と噓つきはきっと紙一重だ。

手段は異なれど、罪にも罠にもなり得るそれは、時に優しく、時に虚しく。


Aber die Wahrheit, die nicht enthüllt werden kann, wird schließlich zu einem Dolchstoß tief im Herzen, der einen innerlich zerreißt.

Trotzdem halte ich an diesem Schmerz fest, nicht als Lüge, sondern als Schweigen. Alles nur, weil ich hoffe, dass ich mich dadurch nicht verändere.

しかし吐露できぬ真実はやがて、胸の奥で刃となり己を切り裂くのだろう。

それでも、偽りではなく沈黙としてその痛みを握り続ける。私がただ変わらないことを、望むがために。

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