第11巻、泡沫、秋風に吹かれて
前回のあらすじ3行。
「アルジは新アイテムのダブルクロスコネクターを使い、ダブルキャストチェンジで金太郎とのコンビにより雪の女王を追い詰める」
「マシンオーガからアイスオーガと化したゾーコは人魚のデヴィガイオ、別次元から助太刀に来た浦島太郎とカメバイクことカメーンらとともにかつてのチーム仲間だったナスと対決。デヴィガイオがトライデントから放った潮騒の蒼罰が決め手となり撃破」
「クロスキャストチェンジで桃太郎と金太郎の融合体に変身したアルジは遂に雪の女王を倒し、人魚姫の世界に平穏を取り戻す。ともに戦った仲間と別れを告げ、アルジと相棒の雪女キネシスは新たな世界へと旅立つのであった」
「座標『N64MB1R2EE35』、か。あの時のキャストパスに写っていた4匹はなんだったんだ……」
(アルくん、難しそうな顔をしてる。何か手伝えそうなことって無いかな~)
虹色に色めくディメンションホールを飛ぶように移動しているアルジ。
その隣でプカプカと彼の視界にだけ浮遊して視えている旅の相棒、雪女のキネシス。
だが移動中、トンネル内で変わらない景色に飽き飽きしていたせいか何やら思索中のアルジに声を掛けまくっている。
「ねえねえ、海辺で食べたあのアイスまた食べたいな~。ちらっ、ちらっ」
「頭ん中でイメージしたるから、ちょっと待ってな」
「おーきたきた~!って、なにこれ」
二人で以前食べていたアイスキャンディーには違いないのだろうが、側面には細々と数式のようなものがびっしり書き詰められている。
キネシスはそれを視界に入れるなり「うわぁ…」と思わずリアクションしてしまうものの、頬張ってみれば案の定美味しかったので気にしないようにした。
「着いてからの秘密ってことだったけどさ、なんかヒントとかないの。もうずっと、ヒマでヒマでさ~」
「要するにクイズか。当てられたら、向こうの世界で欲しいものあったら買ってやるよ」
「え、でもこの前海辺で現地のお金が~とか内心呟いてなかったっけ」
変身補助装置キャストドライバーの機能で時空間を移動するこのチェンジノイドの男、アルジ・キミヒトはキネシスとは色々あって現在は一心同体状態。
自ら生成した分身アイスドールに自身の意識を憑依させていても、その身体の一部が触れている間は今の憑依状態と同じようにアルジの心の中を読み取ることができる。
「実はな、ゾーコの元へ行った際に良いもんもらったんだよ」
そう言うと、短い小判の下に赤と青の矢印のようなものが二つ付いた珍妙な品をアルジはキャリーカプセルから取り出し、キネシスに見せ付ける。
「なにこれ」
「カワセンジャーMB3だとさ。これでオレのブックワールドの蓄えが無駄にならなくて済む。オレの居たブックワールドでは、お金はもう電子決済で統一されているから、各自で管理するのが一般的なんだ。そのおかげで、今みたいな状況になっても資金不足にはあんまりならなかったというわけだが、それにしてもこのテクノロジーは――」
(機械のことになると口数が増えるアルくん。聞いた身でアレだけど、正直何を言っているのかよくわからない。でも、趣味に真っ直ぐなところは少年みたいで可愛いと思ってしまう自分がいる)
「ねーってば、目的地のヒント貰えるんじゃなかったっけ」
「やっべ。悪い、つい夢中になっちまってた……」
「なんか発明めっちゃしてたみたいだったし、そういうの、好き、なんだよね。アルくん」
……好きというか、彼にとっては生活の一部だった。
『人々の生活を豊かにするために物作りに没頭していたような話』を竜宮城への道中で聞いていたことを思い出した。
(さすがにわたしと趣味を天秤に掛けるような人ではないと思うけど、飽きられていないか不安に駆られる時もある。でも、雪の女王と対峙した時もアルくんはわたしのことを相棒って呼んでくれた。わたしが操られた時なんかもめちゃくちゃ褒めちぎられていて頭がおかしくなりそうだったし。……あのときの言葉はどっちの意味で捉えていいの?――そうだ!)
「アルくん。次の世界に到着したらさ、わたしとデートしてよ。あのとき聞いてたよ~、『まだオレの知らないキネシスをもっと見たい』って。いっ~ぱい、見せてあげるからさ!」
(そうだ、じゃないって!?何言ってんのわたし!ええええ!)
一見自信に満ちたような発言とは裏腹に、彼に向けた両手はもちろん足先まで震えていた。
(こんなことまで言って、もし断られたりでもしたら暫く顔向けできないって……)
「それマジ?行きたい。えーと、十月ぐらいのドイツだから……」
(なんかOKもらっちゃったーーー!!!)
(なんか突然初デートのお誘い来たぁぁーーー!!!)
(えっと、秋ごろだったよね。コーデどうしよ~)
(うっわ人生初だなこういうの。そうだな……)
(お、脳内の本棚にファッション誌発見!どれどれ……)
(あれ、あそこもう出口だな)
(やっぱ何処かにブラウンは入れたいよね。これに決めるか)
「おーいキネシス。もう行くぞー」
「えーと、先に行ってて!あともうちょいだから」
「了解。先、出てるからな」
それから約三十分後。
「ごめんなさい!待たせちゃったよね……」
「い、いやそんな大した時間は……」
ぎこちない会話とともに、二人は18世紀のドイツ・ブレーメンにあるマルクト広場の市場に降り立っていた。
昼過ぎの時間帯ゆえか人通りはそれなりにあり、しかも市場といってもフライマルクトの最中らしく、サーモンピンクかバジルグリーンの外観とドイツ語表記の看板がお洒落な屋台が石畳の道を挟む形でずらりと並んでいる。
そんな屋台では銅鍋が幾つかぶら下がり、油の匂いが混じった空気が今にも伝わってくる。
子連れ客が焼きりんごを購入し、それを受け取った男の子が店先で跳ねて全身で喜びをアピールしていた。
そんな祭りの中で、二人は互いの服装に目をやっていた。
普段のキネシスは水玉模様の淡い雪色の浴衣に深紅の帯といった如何にも雪女といった格好だったのだが、彼女の中で文明開化でも起きたのかそれがまさかの洋服。
生成り色のインナーの上から羽織られた青いデニムジャケット、腰元から広がるこっくり目な茶色のロングスカート。
そのボリュームを感じさせる布地からは柔らかな揺らめきを見せ、足元の黒いスニーカーをチラつかせている。
秋風に揺れる淡い銀と青色の入り混ざったロングヘアーの上で赤茶色のベレー帽とトレードマークである雪だるまを模した髪飾りが存在感を見せ、その人物が普段接している者だと唯一強調してくる。
全体的にスポーティー寄りな秋のコーディネートであり、それを見事に着こなしている。
そして一方のアルジはアイスドールを使用したキネシスとは異なり、キャストパスに搭載していたドレスアッパーアプリによって三十分もの待ち時間がありながら瞬間的にいつものオフィスカジュアルから着替えを完了していた。
羽織りのアウターは深みのあるダークブラウンのウールコートでインナーのエクリュ色のモックネックニットを覗かせる。
ボトムスにはチャコールグレーのスラックスを選んでおり、その無駄のないストレートラインと控えめなセンタープレスが、アルジの都会的な印象を一層強めている。
キャストドライバー等を詰めたブラウンレザーのショルダーバッグと腕時計もまた、ダークブラウンのレザーシューズと相まって大人な落ち着きを感じさせていた。
(最初見たとき背高い印象あったけど、やっぱこういう恰好似合うな……)
「キネシスの洋服姿、新鮮だな」
「へへ、アルくんの記憶にあった雑誌のコーデを参考にしてみたんだ~」
出会ったばかりの頃と一心同体状態では着物、前回の世界では水着姿だったこともあり、さっきからアルくんにまじまじと見られている。
「へ~。青い上着がキネシスらしくて、うん、似合ってると思う」
「ありがと」
(理解されている感覚がして、なんかすごくうれしい)
「それを言うならアルくんだって、その、茶色のコートとか季節感あるというか、いつにも増して大人びてる恰好でその……。か、かっこいいかな~って。はは……」
普段の言動とのギャップが激しい彼だが、改めて見ると思わず見とれてしまい、余裕のない紅潮を見せまいとつい顔をそっぽに向けてしまいそうになる。
(いやいやいや。自分でデート行きたいって誘ったんだから、ここは勇気を持って……)
「どうしたんだよ、キネシス」
「あの、アルくん……。手…繋いでも、いい?はぐれたく、ないから……」
アイスドールを素体にしているのだと頭では理解しているのに、出ない筈の手汗の心配をし始めてしまった。
「いいよ」
彼の手はわたしより少し大きくて、指が長くて、でも繊細に握っててくれる。アルくんも緊張しているのか、少しだけ手の震えが伝わってくることでウブさを感じている。
五十年間雪山の中を孤独に過ごしてきたあの頃のわたしからは想像もつかない。たぶん話したら目を覚ませと往復ビンタを貰っても不思議じゃないだろう。
秋風に誘われるまま、石畳の上を歩き出す。
「ほら、見て見て!なんか赤い兵隊さんみたいな人形だよ!」
「ほんとだ、ありゃクルミ割り人形か。あの口にクルミを挟んで動かすと割ってくれるんだよ(これがあるってことは大体18世紀辺りか……)」
「へぇ~、アゴ強いんだね。なんかおもしろい」
「そうだな。個人的にああ見えて目は真面目そうなところもポイント高い」
「ふふ、確かに」
その後も。
「あの茶色いの何だろ」
「ほう、カップルの嬢ちゃん。シュマルツクーヘンを見るのは初めてか」
「「カッッッッッッ!?」」
「付き合いたてか、あんたら。まあせっかくだ、特別にこれ半額にしてやるよ。3ペニヒぐらいだな」
「アッハイ、カイマスカイマス」
「へ~粉砂糖も掛かってるし、揚げパンみたいで行けるなこれ」
「うん、甘くておいしいね!」
(うんうん、あの二人、アツいね~)
会場内で手を繋いで身長差のあるわたしと歩幅を合わせてくれている彼。
「なんかもう、満足し過ぎて、もう成仏しそう……」
「いまなんか言った?」
「ちゃうちゃうちゃうちゃう!!あ~、あの屋台!あそこ輪投げやってるよ!やろやろ!」
上手くいかない。こういう時に限って興奮し過ぎてあらぬことを言い放ってしまう。
「ハハハ。お客さん、彼女の前で見栄張るならもっと得意なものにした方がいいよ!――はーい、いらっしゃい」
「ぐええ……」
「お疲れ、アルくん」
当然のように三回分全部を外し、カウンターの端で突っ伏す相棒は見ていて面白かった。
「物理計算して投げたのにあの風が吹くんだもんなぁ~。キネシス、気分転換に近くで何か食べてえわ」
「乗った。その気分転換、付き合ってあげる」
アルジのリクエストが無事通り、二人は近くの飲食店に入っていた。
まだ明るい柔らかな光が差す、開放された緑の窓枠の正面に位置する角席からは通りの眺めを一望出来る。
「おぉ~、これがブレーメン名物のケール&ピンケルか!」
ブレーメンで栽培されているというグリュンコールをブレーマー・ピンケルというドイツ名物のソーセージと一緒に野菜ブイヨンで煮込み、それらを塩茹でされたジャガイモと一枚の皿に盛り付けたもの、らしい。
「「いただきます」」
空腹のアルくんに続き、熱いものが苦手なわたしも吐息で少し冷ましてから頂く。
「この葉野菜よく煮込まれていて柔らかいし、周りの旨味を吸い込んでておいしいね」
「なかなか美味いよな。そういや、キネシスって日本の妖怪だけどフォークとナイフの食事いけるんだな」
「うん。アルくんと一心同体になってから、よく現代知識が流れ込んでくるようになったので」
そのおかげで現代的なカタカナ語も話し放題。
知識が共有された影響かは分からないけど、こうなってからというもののアルくんに話しかけるときの距離感が一気に縮んでいったような気がする。
それとも、初めて会ったときの雪だるま対決の時点で既にそうだったかもしれない。
周囲で食事中の方々を見るに、このピンケルというソーセージは皮を剥がしてその中身を食べるタイプらしい。アルくんも同じように周囲に倣ってか、取り出した中身の穀物を口に運んでは喜びの表情を見せている。
(美味しいけど、思ってたより脂っぽくてお腹に溜まりやすいかも)
わたしも目の前のお手本を模倣して食事を進めていた。
「お~きたきた」
「お~」
運ばれてきたのはビールというお酒。
(アルくんの脳内で見ていた、ジョッキに入った泡のある黄色いあの飲み物だ)
「やっぱドイツといえばこれだよな。……キネシス確か二十歳だったもんな」
「享年ね。もちろん飲めるよ。ビールはさすがに初めてだけど」
やはり緊張してしまうが、意は決した。
「「かんっぱーい!」」
飲んでみたらアルくんの記憶のそれとはまた違った味がした。
予想していた苦味はあまり訪れず、代わりにまろやかで甘みがある。
それにキンキンに冷えているわけでもなく、味を感じやすい程度に冷めたような適度な温度をしている。
香りはなんだかフルーティでどんどん飲めそうな気さえしてくる……。
「ぷは〜!おいしいかも〜、おかわり~www」
「おいおいキネシス、ヴァイツェンのビールは飲みやすい割に度数高いんだからさ……」
五杯目まで来た頃には既にベロンベロンに酔っぱらってしまった。
ジョッキに残った氷を揺することでガチャガチャと鳴らし、それに周りの客の視線が集約される。
「おい、その娘の彼氏さんなんだろ?賑やかなのはいいんだが、うるさくてたまんねえからちゃんと面倒見てくんねえか?」
隣の席の男性客に耳打ちされ、恥ずかしくなった彼はわたしの手から空のジョッキを取り上げると、腕を掴んで入口のレジスター前まで連れて行った。
「わりぃ、釣り要らんから。――おーいキネシス!そんなフラフラだと危ないだろ!」
「は、はぁ…。って1ターラー!?気前のいい客も居たもんだ。会計分以外はチップとして受け取っとくか」
店先で人混みに突入しそうになったところを背後からアルジに捕まえられる。
「大丈夫か~キネシス、普通に歩けそうか?」
「フラフラしててやばいかも。ごめん、やっぱたすけてほしいれす」
「わかった、わかった。背中、支えててやるから」
そう言うと、彼は丸まりそうな背後に肩まで手を伸ばしてくれた。
(うう……。頭痛いし、視界がなんだかぐにゃぐにゃしてきた……)
――――――――――――――――――――――――――――――
アルジは酔っ払いの相棒に左腕を貸しているうち、町外れの公園まで来てしまった。
「まさか呑んだ後でこんな歩くことになるとは……」
介抱されたキネシスだったが、その後どういうわけか腕を回されてから二人三脚のような状態で街中を走り出し、風車や農場の見える現在地へと辿り着いたというわけである。
夕焼けに照らされている土の道。帰路に着いたような馬車。
オレンジ色に全身を染める二人から伸びる影。
「うへへぇ~。アルくぅ~ん、あそこの空き家で休憩しよ~?」
「いやいやいや……、何言ってんだキネシス」
「ほ~ら、もう細かいこと気にすんなぁ~?」
キネシスに支えとして肩に掛けた腕を引っ張られ、されるがままにポツンと立っていた井戸付き平屋の木造一軒家へ連れ込まれていった。
白い漆喰の壁、ところどころが磨り減った石畳の床、火の灯らない石造りの暖炉の前には麻の生地が使われたラグと存在感抜群のソファーが鎮座しており、夕陽が入ってくる窓際にある無骨な木のテーブルを挟むように背もたれのない長椅子。
(夜逃げか?人の気配がまるで無いが、家具諸々はちゃんと揃っているように見えるな)
アルジはまだ酒の抜け切っていない頭で考察を始める。
「ほぉ~ら、入った入った!」
「ぐえっ」
キネシスに後ろから突き飛ばされたことでそれも即中断された。
――――――
――――
――
「……………………………………」
(あれ、どうしたのアルくん。もしかして⇒気絶?)
吹っ飛ばされた先にある長椅子の側面に額を直撃させたアルくんがぜんぜん立ち上がらない。
冷静に玄関の内側から鍵を閉めたあとで彼を抱きかかえてみるも、それでも反応がない。
(うわ、やっべ……)
目に付いた麻のソファーに横たわらせ、気を失った彼の赤くなった額の上に妖術で生成した氷のおしぼりのような布をそっと乗せる。
意識の戻らないアルくんを付きっきりで面倒を見ていたら外はいつしか真っ暗に。
空き家だったこともあって光源がなく室内も月明かりが入るだけ。
暖炉に火を入れるのは怖くてできない。まあ、雪女だからね。
「ごめん、アルくん。もっとデート楽しみたかっただろうけど、いろいろめちゃくちゃにしちゃった……」
あーあ、舞い上がり過ぎたわたしが悪い。
そりゃ出会ってからひっきりなしに冒険が続いていたから、漸くこうして二人きりで出掛けたり、食事したりとすごく楽しかったし。
……まあ、まさか初めてのお酒でここまでやらかすとは思わなかったけど。
気絶したように寝ている(というか気絶している)彼の表情を見ていると吸い込まれるような感覚に襲われる。
――いや、気付いた時には既に襲っていた。
寝ているアルくんの腰の上で馬乗りというか、そういう体位になっていた。
わたしはゆったりと首筋に触れると、その体温と肌感をじっくり味わう。
(この積もりに積もった雪のような想い、いつかはどうにかしなきゃと思ってたんだ。
こんなタイミングで卑しいことをしようとしているのは分かってる。衝動的なのもそう。
……でも、アルくんも悪いんだよ。
お祭りの会場で手を繋いだ時から緊張してたのは伝わってたし、大事にしてくれているのは分かった)
力無く垂れ下がった彼の手に冷たい指を絡めていく。
(アルくんはわたしのことをあくまで旅の相棒として仲良くしてくれている。
それはまだいい。……いや、やっぱりだめ。あの時のわたしへの好きはあなたにとっては友愛的な意味?
恋愛的な意味なら素直に受け取るつもり。もしも、前者だったなら…………)
瞳が紫色に染まり、彼の膝上まで下がるとスラックスのファスナーに手を掛け、降ろし始めていた。
(そうなのだとするなら、今後誰かに取られるぐらいなら、もう、わたしは待たない)
――――あと一歩だった。
「おいシャクビー。あの女、さっきから何やってると思う?」
「いや何ってなんだよ、あっくん」
「ほら~あっくん、サイレントマグナムがかわいそうだろ?」
「何がサイレントマグナムじゃコラ」
「「ははは!」」
「(いやー、腹減ったっすね……)」
(話し声?うそでしょ、見られてたの――!?」
窓の向こうからわたし達を見ていた影。
行為を中断したわたしがそれを恐る恐る目を凝らして見ると珍妙な姿をした4匹の動物が室内を覗き込んでいるように見えた。
黄色い首輪をした白い体毛のアルパカ。
その背に乗る、頭に赤鬼のお面を斜めに掛けたふわふわ白毛のポメラニアン。
更にその上に乗る、緑とグレーの迷彩柄のニット帽と目元の見えない黒いサングラスのようなゴーグルを装着している黒猫。
アンバランスにも一番上に乗る、全身が真っ青でサングラス風ゴーグルが特徴的なペリカン。
混沌と波乱、その開闢の瞬間だった。
幕間『インタビューに答えないと出られない世界』※本編とは無関係です。
これからお二人には5つの質問に答えていただきます。
全ての質問に対して回答が出来なければドアは開きません。
「オレらを落とし穴使って急に何も無い白い部屋に閉じ込めて何を言い出すかと思えば、ぼちぼちダルいこと言ってくれんじゃねーか」
「お二人ってわたしのことが視えて……あっ、アイスドールだからかぁ」
―――――――――――――――――――――――――
Q1、身長について教えてください。
「(会話する気は無さそうだな。こんな回りくどいやり方ならエネオプの仕業ではなさそうだ)175センチだ」
「うーん、測ったことないかな」
………………………………………………。
「ダメっぽいな。 ……キネシス、ちょっとこっちこい」
「え、どうしたの…って!?」
「う~ん、オレの目線ぐらいの高さだから、大体160センチって答えといてくれ」
「うう…いいけど、急に頭なでなでしないでよぉ……。 ひゃ、160センチ…です」
Q2、好きな食べ物について教えてください。
「これはカンタンだね。 ――シャリシャリのアイスキャンディー!!」
「テンションたっかいな。 ……そうだな、エネオプ時代の社内食堂でやたら濃い味付けの料理ばかり注文していた気がするし、ここはラーメンと答えておくか」
「なんか、健康に悪そう」
「しょうがねーだろ、オレの居た企業は商品開発部みてーな閉じこもって作業している部署だけじゃない。 普通に現場作業系の部署も混在してた関係で社食のメニューが偏ってたんだ」
「ホントは何食べたかったの?」
「……家庭的な、手作り料理」
「ふふ、落ち着いた頃に(なるべく火を使わないやつで)頑張ってみようかな」
Q3、好きな本タイトルを一作挙げてください。
「チェンジノイドに対してなんちゅう酷な質問をしやがるんだ。 くそ…候補が多すぎて迷うな」
「はいはいは~い! この前読んだ『Juhyo』だよ! ずーっと着物だったから、初めて見るお洋服ばっかりでスッゴく真似してみたくなっちゃったんだっ」
「すっげぇ興奮してんな、キネシス」
「だって、読んでて新鮮だったんだもん! わたしの居た時代にはデニムとか無かったし……」
「う~ん…その視点で言うなら、『はたらくくるま図鑑』かな。 今のブックワールドはAI生成で住居とかバンバン建てちゃうし、わざわざ建材使って家とか道路を作るなんてガキの頃はハッキリ言って想像付かなかったしな」
Q4、今の願望について教えてください。
「当然、エネオプへの復讐だな。 ブックワールド掌握とかいうふざけた計画に飽き足らず、物心ついたばかりの時期にオレの両親を実験台にして殺したり、旅の最初に出会った金太郎師匠まで相討ちとはいえ手に掛けやがって……」
「アルくん……。 ――――うん、子ども3人ぐらいかな!」
「ちょっと待てや! 何でお前とそういうことした前提の話なんて突然ぶっこむんだよ! それに第一、オレらはあくまで旅のための相棒バディ同士であってだな……」
「だって、アルくんはわたしと出会うまで独りで寂しくなかったのかなって……」
「いや、死んで50年も雪山でぼっち決め込んでたキネシスの方がよっぽど、その……辛いだろ……」
「アルくんのそういう共感とかしてくれるところ、すき」
「うっせ。 ……ていうか次で最後か。 結局この世界はなんなんだよ(どうせ答えてくれないんだろうけど)」
Q5、今、一番大事にしているのは何ですか。
「アルくんに決まってんじゃん(今じゃなくて、一生なんだけど)。――あなたは、どう?」
「今、か。 (絶対に失いたくないつったら、そりゃまぁ……)……」
「へぇ~。 なぁ~に急にコッチなんて見て。何だかんだ言っても、結局わたしが大好きなんだ!」
「あのな、キネシス! 勘違いさせといて悪いが、あくまでオレら一心同体の仲間ってだけで……」
「――あの~質問者さん! 今からでいいのでここの名前を『〇ックスをしないと出られない部屋』に変えてもらってもいいですか?」
「おい」
―――――――――――――――――――――――――
変な要求をしたキネシスのせいか、オレ達は世界から追放されていた。
「ワンチャン行けないかなって思ったんだけど」
「見た目青っぽいくせして脳内真っピンクなのかよ。 ほんとヤベー雪女だよな」




