第七十六話 プロの仕事
そんな他愛もない話をしているうちに、俺たちは次なる店へたどり着いた。
先ほどの店と違って、モダンな雰囲気が漂っていた。
外観から内装に至るまで、すべてが打ちっ放しのコンクリートで、装飾も少ない。店内はかなり広く、見通しが効いて、とても歩きやすかった。
「あ! これ可愛い……!」
しずくが手に取ったのは、黒のタイトなシャツだった。丈が短く、どうやらへそが出るデザインらしい。
「こういう服、スタイルが際立つから好きなんだよねぇ。これまでの努力を見せつけられる感じがさ」
そう言いながら、しずくはポージングを取った。もともと素晴らしいスタイルを持つ彼女が、ますます魅力的に見える。体の魅せ方ひとつ取っても、彼女はやはりプロなのだ。
「綺麗だよ、すごく」
「……ありがと。んもう、面と向かって言われると照れるじゃん……!」
自分から見せつけてきたくせに、しずくは頬を赤らめて、姿勢を崩した。
「いつも色んな人からも褒められてるけど、純太郎に褒められると、なんか調子狂う!」
しずくは、ふんっと顔を逸らし、店の奥へと歩いていってしまう。
この気まぐれさは、猫そのものだ。そう思うと同時に、先ほどの店で見た派手な猫のTシャツの猫と、脳内で目が合った。あの猫、夢に出そうだな。
しずくは、並んだ服を眺めては、あーでもないこーでもないと頭を悩ませた。
どうやら、シャツに合うボトムスを探しているらしい。
「なんかこう……柔らかすぎず、硬すぎない感じのやつが欲しいんだよねー」
「……難しいこと言うなぁ」
ニュアンスだけでは、まったくぴんとこない。俺も一緒になって探しているが、役に立てそうにない。
「純太郎は、これにどんなボトムスが似合うと思う?」
しずくは、俺の目の前でタイトシャツを広げた。
「俺の意見なんて、参考になるのか?」
「なるなる! 私だけじゃ思いつかない発想とか、出てくるかもしれないし!」
なるほど、それは一理あるな。
タイトシャツと、近くに並んだボトムスを見比べる。ファッションのことは何ひとつ分からない。だから、こうやって見たところで、これが合うとか、あれがいいとか、具体的な意見なんて出てくるはずもなく。
こうなると、俺にできることは、自身の欲望を口にすることだけだ。
「デニムとか、どうかな」
「ほうほう、その心は?」
「えっと……お揃いだから」
俺は、デニムが入った紙袋を揺らす。
なんとなく、近しい格好がいいと思った。本当に、それだけのことだった。
「デニム……デニムかぁ……」
「……合わないかな?」
「――――いや、そんなことないかも」
しずくは、何かを思いついた様子で、ボトムスを漁り始める。そして、お目当てのものを見つけた瞬間、ぱっと笑顔になる。
それは、デニム生地でできたミニスカートだった。彼女は、トップスとボトムスを見比べて、満足そうに頷く。
「うん、絶対合う! ありがとね、純太郎。おかげで最高の組み合わせが見つけられた!」
「ど、どうも……」
「これにあとは……ベルトとブーツかなぁ」
それからというもの、しずくはテキパキとお目当てのものを見つけて、試着室へと向かった。
――――途中から、仕事の顔してたな……。
あんなに真剣な顔のしずくは、そうそうお目にかかれない。ファッションのことになると、やはりスイッチが入ってしまうようだった。
隅っこでしばらく待っていると、試着室のカーテンが開き、しずくが姿を現した。
「じゃーん! どう? 似合ってるよね? ふふん、ありがと!」
渾身のドヤ顔と共に、しずくはまたポージングを取った。
まだ何も言っていないのに、自己完結している。まあ、しずくがそう言わずとも、褒めていたけど。
タイトシャツは、彼女の引き締まった体を強調し、剥き出しになったお腹が、視線を吸い寄せる。デニムスカートは、生地の印象から少し重たく見えるが、裾がフリルになっていることで、柔らかさと、軽やかさがあった。クールさと可愛さが、ちゃんと両立している。
デニムスカートに通されたベルトは、かなりごつくて、存在感がある。どうやら、このベルトが中央にあることで、全体が締まって見えるようだ。
スカートから伸びた脚は、とても艶めかしい。足元のロングブーツが、彼女の足をさらに綺麗に、そして、セクシーに際立たせていた。夏にブーツを履くという発想が、俺にはなかった。さすがしずく、おしゃれ上級者である。
「ああ、すごく似合ってる」
「ふふ、そうでしょう、そうでしょう!」
しずくは、にっと笑って、くるっと一回転した。その表情からその仕草まで、何もかもが可愛い。こうして見ているだけで、愛おしさが溢れてくる。
ただ、まあ、少し露出が多い気もする。目のやり場に困るのも、また事実だった。
「これ全部買っちゃおーっと! そうだ、東京戻ったらさ、今日買った服でデートしない?」
「いいな、それ。でも……休み取れるか?」
「……それは、またあとで考えるとして」
はしゃいでいた様子はどこへやら。しずくは俺からすっと目を逸らして、虚空を見つめた。
試着した服をすべて購入し、俺たちは店をあとにした。




