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体を入れ替えられて聖女では無くなったけど何も問題ありません  作者: アイ氏
3章真実の愛の結末は?

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建国祭

建国祭当日がやってきた。


今日はセインフォード殿下にエスコートされて王宮へと向かう。


王宮では、すでに建国祭を祝う盛大なパーティーが始まっていた。


高い天井から吊るされた巨大なシャンデリア。


壁には王国の歴史を描いた絵画や豪華な装飾が並び、広間の中央では楽団が優雅な曲を奏でている。


国王陛下をはじめ、王族や高位貴族たちが一堂に会する、年に一度の大きな祝宴だ。


私はセインフォード殿下の腕に手を添えながら、会場へと足を踏み入れた。


すると、周囲からいくつもの視線が向けられる。


まあ、これは仕方ないと思う。


公爵家の跡取りであるセインフォード殿下と、その婚約者である私。


注目されない方がおかしい。


けど――。


(なにか、いつもと違う様な?)


今日はいつも以上に視線が多いような気がした。


それも、好奇心というより……。


どこか探るような。


そんな居心地の悪い視線だった。


「マリア」


小さな声で名前を呼ばれ、隣を見る。


「大丈夫か?」


「ええ。もちろんです」


わたくしが笑って答えると、セインフォード殿下も小さく頷いた。


その時だった。


「国王陛下。少々、よろしいでしょうか」


凛とした女性の声が会場に響いた。


楽団の演奏が止まる。


人々の会話も途切れ、広間が静まり返った。


声を上げたのは――ベルシュタイン侯爵夫人だった。


その隣には娘のオリビアさんが立っている。


「何事だ?」


国王陛下の問いに、侯爵夫人は優雅に一礼した。


「この祝いの席で申し上げるべきことではないのかもしれません。ですが、王国の未来に関わる重大な問題でございます」


王国の未来?


いったい何の話でしょう。


侯爵夫人はゆっくりと顔を上げる。


そして――。


真っ直ぐに、わたくしを見た。


「マリア様。あなたのお姉様が、シオン聖国の異端審問官によって逮捕されたそうですね」


――え?


一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


けれど次の瞬間。


会場が大きくざわめいた。


「異端審問官だと?」


「なぜシオン聖国が……」


「いったい何をしたのだ?」


次々と声が上がる。


侯爵夫人は、それを待っていたかのように続けた。


「理由は、イザベル·ピラカンザ嬢が魔王と取り引きをして闇の魔道具を使用したためだと聞いております」


今度こそ、会場が騒然となった。


闇の魔道具。


その言葉だけで、人々が恐れるには十分だった。


「魔王と取り引きをして、そのような危険な魔道具に関わった者の妹が、将来この国の公爵夫人になるなど、果たして許されることでしょうか?」


侯爵夫人の言葉が鋭く私に突き刺さる。


「お待ちください!」


わたくしは思わず声を上げた。


「姉の罪と私は――」


「無関係とおっしゃるのかしら?」


言葉を遮られた。


「本当に?」


侯爵夫人は冷たい笑みを浮かべている。


「身内が闇の魔道具に手を染めたというのに?」


周囲から再びざわめきが起こる。


「そういえば、あの家は……、マリーン·ピラカンザもかつて審問官から疑われた」


「公爵家との婚約も考え直すべきでは?」


「確かに危険かもしれない」


あちらこちらから、そんなひそひそと囁く声が聞こえてくる。


胸が苦しい。



まるで自分が罪人になったようだった。


すると、侯爵夫人の隣にいたオリビアさんが一歩前へ出た。


「お母様のおっしゃる通りですわ」


オリビアさんは、私を見つめる。


その瞳は酷く冷たかった。


「公爵夫人となる女性には、家柄だけではなく清廉さも求められるはずです」


そして自信に満ちた笑みを浮かべる。


「その点では、わたくしの方がセインフォード殿下の妻に相応しいのではなくて?」


会場の視線が一斉にこちらへ向けられた。


私はただ黙って何も言い返せない。


姉の事件を利用して、私をセインフォード殿下の婚約者の座から引きずり下ろす。


そして、その後釜にオリビアさんを据える。


そんな時だった。


「くだらない」


低い声が響いた。


隣にいたセインフォード殿下だった。


「セインフォード殿下?」


侯爵夫人の表情が僅かに強張る。


「マリアの姉が何をしたのかは、関係ない。それを、このような祝いの席で一方的に吹聴し、妹であるマリアまで罪人のように扱うとは」


殿下の声は静かだった。


けれど、明らかな怒りが込められていた。


「しかも、それを理由に自分の娘を私の妻にしろと?」


侯爵夫人の顔から笑みが消える。


「わ、わたくしは、この国の未来を思って――」


「私の婚約者を決めるのは、貴女ではない」


きっぱりと言い切った。


そして殿下は、私の手を取った。


「行こう、マリア」


「ですが……」


「ここにいる必要はない」


そのまま殿下は、わたくしを庇うように歩き出した。


背後では貴族たちのざわめきが続いている。


建国祭を祝うはずだった華やかなパーティーは、完全な混乱に陥っていた。


私はセインフォード殿下に手を引かれながら、広間の出口へ向かう。


その途中。


ふと、オリビアさんと目が合った。


彼女は相変わらず冷たい表情を浮かべていた。


私を見下すような。


勝ち誇るような。


そんな顔。


――なのに。


◇◇


『誰か助けて』


◇◇


……え?


わたくしは思わず振り返った。


今の声は……何?


オリビアさん?


けれど、彼女は何も言っていない。


侯爵夫人の隣に立ったまま、こちらを睨んでいるだけだ。


それなのに。


確かに聞こえた。


『誰か助けて』


そんな心の声がオリビアさんから聞こえた気がした。


それにオリビアさんの纏う魔力が普通とは違う。


どこか濁ったような魔力。


冷たく、重く、そしてまるで彼女自身の魔力に、別の何かが絡みついているような――。


邪悪な何かに取り憑かれている様に感じた。


「マリア?」


立ち止まったわたくしに、セインフォード殿下が声を掛ける。


「どうした?」


「……いいえ」


私は再び歩き出した。


けれど。


最後にもう一度だけ振り返る。


オリビアさんは笑っていた。


わたくしを追い落とす事に成功した。


そんな勝ち誇った笑顔。


なのに――。


その瞳だけが。


泣いているように私には見えた…。

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