ベルシュタイン侯爵家①
今日も私はため息しか出ない。
私はオリビア·ベルシュタイン。
ベルシュタイン侯爵家の長女。
今、我が家では色々と大変な事態が起こっている。
きっかけはフレイヤ公爵領で病に倒れたセインフォード殿下が無事に病から回復され王都に戻って来た事からはじまる。
殿下の病の回復は家臣の1人としては喜ばしい事だと思う。
だけど問題は、その後だった。
フレイヤ公爵夫妻が、マリアという女性を養女に迎え、セインフォード殿下と婚約を決めてしまったのだ。
そのマリアという女性は、フレイヤ公爵領でセインフォード殿下を献身的に看護して、セインフォード殿下に見初められたと社交界の噂で聞いた。
そんな二人の気持ちに打たれフレイヤ公爵夫妻が、二人の気持ちを応援しフレイヤ公爵家の養女に迎えたのだ。
だけど、それは我が家に取っては晴天の霹靂だった。
私には五歳下の弟リアンがいる。
その弟がフレイヤ公爵家を継いで私が婿を取りベルシュタイン侯爵家を継ぐ。
私は、ずっと両親からそう言われて育った。
両親の希望する様な人物が見つからないから、まだ正式な婚約はしていないけど。
何故ならベルシュタイン侯爵は残念ながら政治的に影響力のある家では無いから。
その原因はフレイヤ公爵夫人と私の父ベルシュタイン侯爵は従兄弟同士であり若い頃は父とフレイヤ公爵夫人は婚約していた事にある。
その父は私の母を見初めフレイヤ公爵夫人との婚約を一方的に破棄した。
当然その事に激怒した祖父から勘当された父だが、
その後、馬車の事故で私の伯父に当たる人物である兄が急死して父はベルシュタイン侯爵家を継ぐ事になった。
仕方なく祖父は渋々と両親の結婚を認めたらしい。
こうして父は無事に結婚してベルシュタイン侯爵家を継いだ。
そしてフレイヤ公爵夫人も婚約破棄されたパーティーの場で現在の夫である王弟クライブ殿下に求婚されて結婚した。
結局、二組のカップルは収まるところに収まったけど…。
この婚約破棄が禍根となりベルシュタイン侯爵家はフレイヤ公爵家との疎遠になり最も近い血縁でありながら殆ど親族としての付き合いがなかった。
当然、王弟殿下が継いだフレイヤ公爵家の意向を気にして他の貴族達も私達とは少し距離を置いた。
その事も私が未だに婚約者が決まらない事に大きく影響している。
それでも弟が成人して正式なフレイヤ公爵家の後継者になれば話は変わってくる。
両親も私も、いつかは社交の場に返り咲けるはずと一縷いの望みを託していた。
だけど突然のフレイヤ公爵家とは血縁のない女性を養女に迎えセインフォード殿下のフレイヤ公爵家への婿入りと二人の結婚。
両親も、きっと驚いたに違いない。
その事を知り父は慌ててフレイヤ公爵家に抗議した。
だけど当然、フレイヤ公爵家からは父が望む様な返答は得られ無かった。
セインフォード殿下の婿入りの決定を覆す事が難しいのなら、父は養女となった公爵令嬢の方に攻撃の矛先を変えた。
そして浮上したのが、私とセインフォード殿下の縁談。
フレイヤ公爵夫人となる女性は確かに伯爵令嬢だけど、出自も良く分からず、ましてやフレイヤ公爵家の血が一滴も入っていない。
そんな女性が養女となり次期フレイヤ公爵夫人となるのは問題だというのが父の言い分だ。
確かに父の言い分には筋が通っていた。
普通は子供の居ない貴族の夫婦が養子を取る場合は、近しい血筋の親族から迎えるのが常識であり暗黙のルールだ。
いくら同じ貴族とはいえ、血の繋がら無い人間を養子に迎えるのは、そのルールに反する。
その件に関してはフレイヤ公爵家でも周囲が納得する様な返答は得られ無かった。
だから父はもう一押しすれば私とセインフォード殿下の縁談が決まる。
そう思ったのだろう。
セインフォード殿下と婚約には、マリア嬢ではなくフレイヤ公爵家の血を引く私をと願い出た。
でも国王陛下からは、既にフレイヤ公爵のマリア嬢との縁談は正式に議会が承認したものであり、今更、覆す事は出来ないとの連絡があった。
それでも両親は私とセインフォード殿下の縁談を諦めなかった。
私としては、セインフォード殿下との縁談の話しは複雑だった。
確かにセインフォード殿下は婚約者としては最高の相手だど思う。
でも、それは殿下に恋人がいなければの話しだ。
現状では殿下がマリア公女に思いを寄せて求婚したのだから。
そんな2人の間に無理に割って入っても、私が惨めな思いをするだけ。
例え二人を無理やり引き離して結婚しても、セインフォード殿下が望めば、マリアという女性を愛人として側に置く事だって出来るのだから。
夫の寵愛がない正妻なんて身分はあっても家では立場はないに等しいし社交界だって良い笑い者になるただけ。
だからと言って家の為に親の決めた相手と結婚する事は貴族の娘に生まれた以上、当然の果たさなければならない義務だ。
何も自分で決める事が出来ない自分の無力さを感じながら事の成り行きを、私は、ただ見守るしか無かった…。




