第88話 繧、繧カ繝美の御力
「あぁ、あ、あ……!」
息が切れても、腹が痛くなっても、喉が裂けても……出し切れない、動悸と鼓動が止まらない。
何一つ気持ちの整理がつかない。
俺は、俺は、オレは、おれは、おレは……──────
◇◇◇◇◇
ワタシは涙と唾を撒き散らしながら叫ぶタスクのことを眺める。
どうにかしてやりたいが、触れることはできないしこの状態では声も届かない。
「……すまない、タスク。ワタシにはどうすることも……む」
「う……ウサミ、ウサミなのか?」
「ワタシは違う。ウサミならあそこにいるだろう、ほら」
ワタシは前足で蠢くタスクを指す。
カミカゼはその先を見て顎肢を伸ばし……そしてやめた。
……我々が最期を見届けたことでカミカゼとの接続は成功したか。
ワタシはカミカゼの周りを一周し、魂の奥まで見通す。
……なるほど、これは……酷いな。
「……タスクを……いや、ウサミを抱きしめてやってくれ」
「しかし、自分は既に……もう」
「死んでいない。まだ……な」
「違う……そうではない」
カミカゼは地に伏したまま、触覚を項垂れさせる。
「自分には……資格がない。ウサミにこんな顔を、こんな状態に……させてしまったんだ。どれもこれも自分が特攻したのが……神風したのがいけないんだ。自分はウサミのためになにも残せなかった……ただ毒を打ち込んだだけだった」
「……だから、ここで死ぬと。最期に逢えたというのにか?」
「あぁ。せめてこれ以上の毒は……」
「嘘だな」
ワタシは前足に力を入れて地面を踏む。
すると地面が割れ、カミカゼの元までヒビが届く。
「君は死に場所を探しているだけだろう。それらしい理由を探して死にたがるなんてらしくない」
「……らしくないと言うほど、自分のことを知っているのか」
「当然、ワタシは君の魂の記憶を知っているのだから。それに君はまだ死ねない……だって、あれを放置することは君にとって……死以上の苦痛だろう」
「……」
ワタシはひび割れた地面を歩み、地に伏せたままのカミカゼに寄る。
「触れるぞ。少し痛いが我慢しろ」
ワタシはカミカゼの尾……鬼の印に触れた。
身体から迸る紫電を必死に抑えながら、奥の奥に眠った生命の力を引っ張り上げる。
数千、数万、もしかしたら数億年行使していなかったかもしれないこの力。
しかしこの力こそワタシの本懐、忘れるはずのない記憶と使命。
カミカゼの中にある、魂の器……それを探っている間にも紫電は暴れ狂う。
当然それは触れているカミカゼにも牙を剥く……が、なんと彼はピクピクと動くだけで声一つ上げやしない。
「痛くないのか?」
「痛いぞ。しかし……自分の感じる痛みなどどうでもいい、どうでもいいんだ」
「……そうか」
やはりワタシでは彼を救えないようだ。
なればこそ……やれることをやっておかねば、神の名が廃るというもの。
カミカゼの中を探り続け……ようやく見つけた、小さな魂。
アマテラスの攻撃を正面から受け止めた彼の魂はひび割れ、血に類するものがしとどに流れ落ち、今にも崩れ落ちそうになり揺れている。
酷い有様だ。
しかしワタシはそのヒビを埋めるように、抜けていく血を足すように……生命の力を注ぎ込む。
不純物が入らぬよう……慎重に。
「っぐ……さすがに応えるな」
「叫びを上げないのが信じられん……流石は元軍人と言ったところか」
「……先程貴君が言っていた通り」
カミカゼはゆっくり、ブリキのようにカクカクと動きながらウサミの方を見る。
「あれだけ傷んでいるウサミを見る方が……痛い」
「……そうか」
「……貴君の名前を聞いておきたい」
「クウビだ」
「そうか、クウビというのか。覚えた」
カミカゼは、冷や汗を垂らしながら力を注ぎ込むワタシの目の奥を見据えてこう言った。
「ありがとう、クウビ。うまく、言葉にできないのだが……クウビのおかげで、またウサミと話せる」
ワタシはフッと口角を上げた。
「当然だ。ワタシは神なのだから」
ここから先は……タスク、カミカゼ、君たち次第だ。
生きてあの場に戻れるかは。
これ以上は……ワタシが起きかねない。
……ワタシの仕事はここまでだ。




