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モンスター転生活 ──人間だった俺は、今日も獣の姿で欲を謳う──  作者: いちかわ
キリタチの谷 最上層

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第84話 トオルとの出会い

「えっなっ、は?」


 俺が戸惑っている間に男はしゃがみこみ、俺たちとよりちょっと上くらいの視点に位置取った。

 黒色の帽子に緑っぽいカーキの軽い半袖のジャケット、黄土色のチノパン……ミリタリーファッション?

 坊主だからか分からないが、どことなく威圧感のある顔つきをしている気がする。


「自分は徹と言う。君たちの名前を聞かせてくれないか?」


 ……なんか、ヤンキーが野良猫のお世話してるみたいなギャップを感じる。

 こんな堅物そうなのにモンスター……というか動物に話しかけるなんて。


「ワタシの名はクウビと言う。よろしくしてやろう、トオル」

「……」


 こいつ名前とかあったのか……益々謎が深まるな。

 ……というか、普通に話しかけていいのだろうか。

 顔立ちや扱う言語、名前も日本人ぽいから恐らく日本人だろうが……

 状況が全く飲み込めない。

 ここは日本なのか?

 このトオルという人間からしても角の生えた喋る兎二匹は不気味じゃないか?

 しかもこいつに関しては全身の毛がチリチリで、透けて見える肌も燻んで……妖怪みたいだ。

 かく言う俺の顔にも……それがあるわけだが。


「……そちらの白兎は、なんと言う?」

「へ? え、えと……う、ウサミ……です……」


 何事も無かったかのように次は俺に名前を聞いてきて……動揺に動揺を塗り重ねられてしまう。


「なるほど。クウビ、ウサミ、短い間になるかもしれないがよろしく頼む」

「あぁ、よろしく」

「え、あの……俺たちの言葉、分かるんですよね?」

「? 当たり前だろう」

「えっと……動物が喋るのっておかしくないですか?」

「……」


 トオルは腕を組んで俺のことをジッと見つめる。

 次に、クウビの方に顔を向ける。

 この間実に五秒、ゆっくりと間をとっていた。

 そして表情一つ変えず……


「言われてみればそうだな。すまない、自分は抜けているところがあるらしく」

「それならば仕方がないな。許してやろう」

「感謝する」


 ……アホの子?

 もはや抜けているという言葉で片付けられるレベルでは無いのでは……

 というか、このトオルって人なーんか既視感あるんだよな……。

 俺の中ではあんなに悪魔みたいだったクウビが和やかに会話してんのもめちゃめちゃ気味悪いし……


「それよりも、短い間になるかもしれないとはどういうことだ?」

「あぁ……赤紙が来てしまってな。これから自分は国を守りに行くんだ」

「赤紙って……戦争ですか?」

「よく知っているな、そうだ。偉いぞ」


 トオルは俺の頭をグシャグシャと不器用に撫でる。

 ゴツゴツしてて、しっかりとした手だ。

 不思議と悪くない。


 ……戦争って、ここが日本とするならいつの時代なんだろうか。

 もしかして今俺がしてるのはタイムスリップ?

 けど、なんでそんなことに……


 撫でられながらもどこか不安になってしまい、トオルの顔を見上げてみた。

 彼の顔は夕陽に照らされているはずなのにどこか陰っているように見えた。

 当たり前か……これから戦争に行くんだから。

 俺なんかよりよっぽど不安だろう……。


「自分は家内を、お腹の中の子を、和男を守るために戦うんだ」

「カズオとは誰だ?」

「あぁ、和男というのはな……」

「おい徹……」


 トオル以外の声が聞こえ、俺は後ろ足で立ち上がって声の主を見ようとする。

 ……坊主頭しか見えない。

 徹の手から抜けようとするも、人差し指と中指で軽く角が挟まれており……多少強引にしないと抜け出させなさそうなので断念した。

 一方トオルは表情を変えずに顔だけを声の主に向ける。


「そんな恥ずかしい話誰にしてんのかと思ったら兎かよ。徹って動物好きだったっけ?」

「あまり好きではないな。ただ、和男が動物好きだから留めておこうと思っただけだ」

「お前俺のこと好きすぎ」

「あぁ、好きだぞ」

「お前ほんと……はぁ」


 ……あれ?

 なんか、やっぱりデジャブな気がする。

 会話もそうだけど……トオルって誰かに似てるよな。

 誰だっけ、誰だっけ……


 友人なんてほとんどいないだろ、そう自嘲しながらポンコツを捻っている間にカズオと呼ばれる人間が腰を下ろした。


「片方ばっか撫でたらかわいそうだろ、怒っちゃうぞ。な? そうだよな?」

「……え、まっ」


 そのまま流れるように、カズオはクウビに手を伸ばす。

 俺はそれを止めようとするが、トオルに固定された額は全く動かない……力を入れている様子は微塵もないのに、なんて馬鹿力なのか。


 こんな凶暴なやつに触ったら、人間なんてすぐ消し炭に……!

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