第82話 目覚めの太陽
助かる見込みが……薄い?
けど、だって、こんな順調に回復しているし、そんな、そんなわけ……
「諦めた方がいいザマス」
「っ……! お前……!」
自分の尖った歯が口の端に刺さりプツリ、と血が溢れ出た。
カミカゼを殺そうとした張本人が、諦めた方がいいと口にした、そのことがビックリするくらい許せなくて。
けど……おじさんに昔からずっと教えられてきた。
殺そうとするってことは、殺されることを覚悟しなきゃいけないってことだって。
相手の命を奪おうとしているから、相手から命を奪われる……それは、当たり前のことだって。
けど……けど……!
「諦めないっすよ、絶対」
サクラは未だ、自分をカミカゼに食べさせ続けている。
カミカゼの身体の回復はもう終えたも同然なのに……
「見込みが薄いってことは、助かる可能性もあるってことっすよね?」
「……それはわたくしからは分からないザマス」
「なら、オイラは諦めないっす」
「サクラ……!」
「……おい、お前……キラーバードとか言ったか」
「む、あなたは……」
「フン、貴様呼びから随分扱いが変わったものだ」
チギリが二足でヨタヨタと歩きながらウサミを抱え、キラーバードに声をかける。
ウサミを脇に置いてから、腰に前足を当てて見上げる。
「あっしは外に出たいのだ。そこのムカデも、ラビリンスにいるよりは外の方が回復しやすい。外に出るにはお前の許可が必要なのだろう?」
「……わたくしの口からではなく分霊の口からザマスが……わたくしはこのキリタチの谷の管理者と言ったはず。ケガレであるあなたをそう易々とラビリンスの外に出すことはできないザマス」
「では、どうすれば良いのだ?」
「それは──────」
「……ん、ぅ」
◇◇◇◇◇
暖かい感触があった。
薄目を開くと眩しいくらいに黄色い光が辺りに満ちていて、あぁ、これはEXPだなって分かった。
身に余る力でバラバラになりそうな身体はEXPで補強され、以前程の苦しみはなかった。
それから誰かが木の実を口に入れてくれて、鉛みたいに重たい身体がゆっくりと軽くなっていくのを感じていた。
だから安心していた……このまま眠っていようかと思った。
けど……なにか重大なことを忘れている気がして。
それと……嫌にキンキンする、マダムみたいな声が聞こえる気がして目を開けた。
「……ん、ぅ」
開けたばかりの視界は靄がかかったようにぼやけており、なんとなくの輪郭と色くらいしか分からない。
この眩しさ、キラーバードを倒しても気候は変わらないのか……早く脱出して涼みたい。
そんな呑気なことを考えていると、視界が徐々にはっきりしてきた。
俺の身体を掴み、揺さぶってくる奴がいることにも気づいた。
茶色だから……チギリか。
「───い、おい! 起きたのか! ウサミ!」
「ウサミ! 無事!? 無事だよね、身体痛くない!?」
「先輩っ……!」
チギリを皮切りに、ガルタとサクラが声を掛けてくる。
今回はまた……飛び込んでこない。
飛び込むのと飛び込まないの交互なのかな。
「動くなザマス」
「お前、一時休戦と言わなかったか? 管理者ともあろう者が言葉を違えるのか?」
「手は出さないザマス……向かってこない限りは。この穢れの塊は神として放置することはできないザマス」
チギリが……怒っている?
背中に触れるチギリの手の熱が徐々に上昇し、魔素を練っているのが分かる。
よく分からないが……いい加減に動かないと。
俺はぼやける視界を前足で擦り、何度か瞬きしてから首を持ち上げる。
視界を覆う黒、そして悪趣味と言えるほど派手な宝飾、見紛うはずがない……キラーバード!
「ぶっ」
俺は後ろ足でチギリを蹴飛ばし、必死で魔素を練り始める。
「ウサミ! 待って!」
「待たない! スキル……」
「動くな、と言ったのが聞こえなかったザマスか?」
瞬間、キラーバードの身体が白銀の炎に包まれる。
一メートル近く離れているはずなのに、全身に熱湯をかけられたような痛みが駆ける。
俺は反射で後ろに跳んで自分の身体を見回した。
痛みはほんの一瞬で、身体に傷や火傷も見られない。
「今のは警告。アマテラスの名に誓って手は出さないと誓ってやるザマス。ただし、そちらから仕掛けてきた場合と……」
ボッと、一層強く炎が燃え上がる。
「貴様の中にいる、化け物を外に出した場合は例外ザマス」




