第80話 イカヅチとナリカブラ
「空を飛べない鳥に価値はない」
オレは無様にも地に降り立っているアマテラスに不規則的な動きで接近する。
アマテラスは光線の放出を止め、大きく羽ばたいて後退……羽を広げて弓を引くように構える。
アマテラスの羽ばたきによって凄まじい風が吹き荒び、オレの小さな身体は吹き飛びそうになる。
……ごちゃごちゃと考えるのは面倒だ。
「フスイカヅチ」
スキルを発動すると、茶色の勾玉が出現。
勾玉は強く光り輝き、脚に向けて力が溜め込まれていく。
それをエネルギーとし、爆発的に地面を踏み抜く。
オレの身体はまさに天から落ちる雷のように、歪な軌道を描きながら風を切り裂いていく。
そして瞬時にアマテラスの懐に辿り着く。
「まずは一撃食らってもらおうか」
「くっ!?」
神力を紫電に変化させ、纏っての体当たり。
言うは易し、満足に力を発揮できないこの身体でも速度は音速の一歩手前。
オレの体当たりはアマテラスの巨大な体躯を天へ吹き飛ばす。
まだ終わらない、終わらせない。
オレは角に神力を集中させ、新たな勾玉を生成しようと試みる。
「出でよ、アメノハジユミ!」
しかしそれよりも先に、アマテラスが吹き飛びながら巨大な弓を構えていた。
空中に飛ばしたのは悪手だったか、衝撃が殺されてしまった。
そんな反省をよそにアマテラスは自分の身体ほどの大きさの弓を引き絞り、離した。
何も番えていなかったはずの弓、そこから視界を埋め尽くすほど大量の矢が放たれる。
安全地帯などない、選択肢は迎え撃つのみ。
「スキル発動……」
「スキル発動、カブラヤ!」
ガサついたその声と共に、後方から大きな黄金の矢が三本跳ぶ。
幾百の矢の雨に突っ込む黄金の矢は多くの矢をひしゃげさせ、限界を超えると爆音と共に破裂して更に多くの矢を落としていく。
塵にも等しい小さな魂がここまでのスキルを……?
オレは違和感を感じて矢の跳んできた方を見る。
……あぁ、なるほど。
「ごぷっ……」
「血を吐いている暇などないのだ!」
「げほっ、分かってる、よ……!」
スキルによる地面から魔素の吸い上げ、更にスキルをもうひとつ使用して二匹に同時に供給。
早々できる技ではないな。
中々どうして、この探検隊イザナミとやらは面白い。
宿主もこれくらい面白ければ良かったのだが。
心の中でボヤいた次の瞬間には、またアマテラスが幾百の矢を放っていた。
しかしまぁ……あの二匹の稼いだ僅かな時間で更に神力を練ることができた。
これで終わりにしてやろうか。
「オオイカヅチ」
頭を中心に昂る神力を、角を通して一気に放出。
それに呼応するように出現した白い勾玉の穴に角を突っ込めば、激しい光と共に角から紫色の雷が放たれる。
空間を引き裂くような轟音が遅れて響き、その時にはもう矢の雨は一本残らず炭と化していた。
「くっ……まだザマス!」
「なにがだ?」
アマテラスは驚愕の表情と共に振り返る。
オレはあまりに愉快なその顔を見て思わず笑いがククと零れてしまう。
先のオオイカヅチによって生まれた光で目眩しを行い、その隙に空に跳び立っていたのだ。
しかし腐っても神ということか、アマテラスの身体がひび割れを始め、隙間から圧倒的な光が漏れ出る。
その光には圧倒的なエネルギーが込められており、これが攻撃に転用されれば灰燼と化すのは自明だ。
これは……自爆?
「貴様だけはここで終わらせるザマス!」
神がこんなに簡単に自死を選択するわけがない…………これは、偽物か分身の類と見るべきか。
道理で手応えがないわけだ。
だがそんなことは関係ない、オレは胸から紅色の勾玉を生成する。
「ホノイカヅチ」
天から炎を帯びた紅色の雷が堕ち、アマテラスに降り注ぐ。
しかしやはり万全ではないからか、アマテラスを灰にすることは叶わなかった。
もっとオレを外に出していれば身体が馴染んでいたというのに……仕方ない。
「トドメは譲ってやろう」
ホノイカヅチの圧倒的なエネルギーはアマテラスの身体を一気に降下させ……
「いっけぇぇぇぇチギリィィィ!!」
「カブラヤァ!!」
地上から放たれた、アマテラスの身体の半分ほどの大きさの矢。
五本の矢は超高速で落下するアマテラスの腹や胸を貫通し……鏡をも粉々に散らせた。
血を纏った矢は空中で破裂し、オレの雷よりも大きな音を轟かせて消えた。
『ん……ぅ』
「チッ、暴れすぎたか」
宿主の呻き声が頭に響く。
あるいはチュウリンのスキルがうるさすぎたからか。
……まぁどちらにせよここまでだな。
満足には程遠いが……久々の戦闘に心が踊った。
今回はここまでで我慢してやろう。
オレは地面に回転しながら地面に降り立ち、瞼を閉じて肉体の操作権を手放した。
オレの力が抜けていき、醜い黒紫色の毛並みは元の純白に戻っていく。
元の角を押し出して生えていた捻れた角はぽっきりと折れ、塵となって消えた。
後片付けはした……あとはもう知らん、勝手に苦しんでおけ、宇佐美佑歩。




