第79話 雷の気まぐれ
「ヤクサノイカヅチ」
全身を駆け回る紫電が、名前のついたスキルによって瞬時に八つの勾玉の形を成す。
そしてそれは間一髪、円の陣形を取りながらオレと光の間に滑り込む。
勾玉で出来た円の中心にエネルギーが集中し、禍々しい闇が放たれた。
ぶつかり合う闇と光は互いを打ち消し合い、周囲に破壊の波紋を作り出す。
「パワードグランド・フィジカルジェネレート!」
どうやら後ろにも波紋が届いたようで、タイガルがエネルギーの相殺を試み始めた。
まぁ、余波程度ならあいつ程度でも捌けるだろう……イザナミの中ではマシな方だ。
問題は……
「おい、そこのチュウリン」
「う、ウサミ……ではないな、貴様は……」
「何者か問う暇があるように見えるか、愚図。お前に命令を下す。後衛に下がり生き残れ」
「……そうすればウサミが帰ってくるのか?」
「……っぷ、フハハハハハハハハハ!! 駄目だ、もう堪えられん! なんだそのアホ面は! フハハハハハハハハハ!!」
所々が黒く焦げ、なくなりかけた前足。
紅色の線が走り疲労で歪んだ顔……あまりにも不細工すぎる。
これは傑作だ、中々どうして面白い魂だ。
それにこいつもあれか、このオレを見て無意味な口約束を取り付けさせようとしているのか?
しかもこいつの目は愚かな宿主とは違う……オレを値踏みしている目だ、なんといい度胸なのだろうか。
「気に入ったぞ、チュウリン。オレは約束は守る方だぞ……クク、相手が守る限りはな。信じるか?」
「もちろんなのだ」
チュウリンのしっぽが一瞬ピクリと動いた。
嘘だ。
信じるなど真っ赤な嘘。
当然こちらも律儀に約束を守るつもりなどないのだが、どう足掻いてもこの身体は宿主のものなのだから……存分にこの状況を利用させてもらおう。
「では、あっしは下がらせてもらうのだ」
「あぁ、そうするがいい」
チュウリンは不格好に走り出し、タイガルたちの元へ駆けていった。
存外、意味が分からないというのは面白いのかもしれない。
暇潰しにいたぶってやるのもいいかもしれんな。
だがその前に……
「久方ぶりの神殺し……昂ってきたぞ、アマテラス」
あの悪趣味な烏を堕とす。
オレは勾玉に更なる神力を注ぎ込み、スキルの出力を上げる。
勾玉はゴロゴロと激しい音を轟かせながら黒い光を放ち、闇の濃度を高めていく。
漆黒は正面から放たれる光を徐々に食い破り、オレの意思通り烏をも飲み込もうと突き進む。
「貴様ッ……わたくしと力勝負をしようとはいい度胸ザマスね!」
「む?」
なんと、ここでやつのスキルの出力が一段上がった。
オレの闇はゆっくりと押し返され、ちょうど中心で拮抗を始めた。
随分長いこと光の放出を続けていたというのに、このタイミングで出力を上げてくるとは……やはり神は侮れないということか。
「引き摺り出したザマス……穢れの正体」
「穢れか……確かにオレは穢れの塊のような存在だな」
「貴様のような存在は生きていてもなんの価値もない、むしろ世に害を与えかねない、いや滅ぼしかねない領域ザマス」
「くく、大袈裟だな」
オレは一際力を放つ鏡を眺める。
鏡に写るオレは相も変わらず醜い、兎の皮を被っただけの腐った呪いでしかない。
全身にまとわりついた紫電がオレを飲み込もうと暴れているのがよく見える。
「わたくしには見える……鏡を通して見えるザマスよ!」
再び奴のスキルの出力が上がり、オレの闇が確かに押し返されていく。
忌々しい太陽の力め……力押しは分が悪いか。
そう判断したオレは地面を蹴り、ジグザグと動きながらアマテラスに接近する。
オレという力の供給元がなくなった闇は一瞬にして打ち破られ、光線は動き回るオレを追随するように放たれる。
「お、おい……あの攻撃、あいつに向かわなかったらあっしらが死んでいたぞ……」
「……チギリ、僕と手繋いで」
「……は、二匹に対して魔素を供給するというのか? それではお前がガス欠に……」
「大丈夫……僕が今使ってる魔素はパワードグランドで地面から貰ってるから」
「……なるほど、それで……。……ならば、ありったけを寄越すのだ!」




