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モンスター転生活 ──人間だった俺は、今日も獣の姿で欲を謳う──  作者: いちかわ
キリタチの谷 最上層

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第78話 交代

「っいってぇ!?」

「! ウサミ!」

「なっ、は」


 俺は蹴られたはずの鼻っ柱を前足で防御するように翳す。

 ……痛い、けど折れたりしてない。

 ……口の中が甘い……リンガの実かな。

 口元の黄色と黒のシマシマはガルタの手……俺は戻ってこれたのか。

 多分、ガルタが木の実を食わせてくれたんだろうから、ありがとうって……


『後方を見ることを禁じる』

「っあ……」


 喉を刺されたように、途中で声がすっぽ抜ける。


「ウサミ! 起きてよかった! 今ね……」

『目覚めたらすぐに痣を触れ。あぁ、言っとくがこれも()()()だ』


 ……やっぱり、あんな化け物と約束なんてするんじゃなかった。

 俺っていつもこうな気がする……。

 実際やるってなってから事の重大さに気づくっていうか、想像力が足りないっていうか……馬鹿、というか。


「ガルタ……ほんとにごめん」

「え?」


 お礼は言えないし、謝る時に顔も見れないし。

 しかもあの時助けてくれた俺の中のサクラとの……もうこの力を使わないって約束も破ることになるし……ガルタにも絶対使わないでって言われたのに……俺って、なんて不誠実なんだろう……


「すぅ……ふっ!」


 俺は痛みに備えて息を吸ってから右目の辺り……痣にしっかりと前足を着けた。

 その瞬間、全身がばらばらに弾け飛んだかと思うような、内から外になにかが飛び出すような痛みに襲われる。

 意思に反して苦悶の声が漏れ、俺を内側から食い破るように全身から放電が始まった。

 バチッという弾ける音と共に口元にあったガルタの手は弾かれて視界から消える。


「っい……! なんで!? ねぇウサミ!!!」


 俺は全力で目を瞑り、蹲る。

 瞼という防波堤はあまりに頼りなく、涙が大量に外に這い出てくる。


 痛い……ごめん……


「! せんぱい! 今は抑えないと、カミ」

「黙れ、それ以上喋るな」


 自分の口から漏れた自分じゃない声を抑えようと、俺は自分の口を前足で塞ぎ込む。

 その間にも俺の身体は変容を続け、額を突き破ってもう一本の角が生えてくる。


「わっ!?」


 その角先から意思を持つように紫電が溢れ、サクラのすぐ近くに着弾する。

 見えないが、音で分かった。


「おま、え、やくそ……く……」

「当ててはいない。お前が守るならばオレも守ってやる……話し合いをしたのを忘れたか?」

「くっ……」


 俺は歯を噛むことしかできない。

 視界がチカチカと点滅し、足先が波に飲み込まれるようにじわじわと痣が侵食されていくのが見える。

 正面でキラーバードのスキルを受け止めているチギリもこちらの異変に気づいたのか、視線だけをこちらに向けてくる。

 しかしこちらに声をかける余裕すらないのか、それ以上のことはしない。

 いや……呆れてるのか。

 作戦立てたのに勝手に色々してるから。

 その結果がこれだもんな。


「ウサミ……なんで、なんで……」


 あぁ……やばい、視界もほぼなくなってきた。

 キラーバードの攻撃の音も、みんなの声もぼやけて聞こえなくなってくる……身体の感覚も、あいつに移っていってるのか無くなってきた。

 それなのに痛みだけはずっと残って、身体の内側が鋭利な針山に突き破られそうな、極低温の氷に灼かれているような……

 ごめん……ほんとごめん……ごめんなさい……


「なんで、僕たちのこと、信じてくれなかったの……?」


 俺はその言葉に、貫かれた。

 比喩とかじゃなく、本当に俺は貫かれた。

 溢れ出る涙の熱と、地獄の苦しみを最後に……俺は意識を落とした。



◇◇◇◇◇



「……あまりの痛みに意識を落としたか。好都合だ。これで精神の影響はないも同然」


 オレは烏の攻撃で揺れる地面を踏みながら、冷静に身体の状況を確かめる。

 この身体に元から生えていた角は確か一度溶けたんだったか。

 回復途中で止まっているが、このままでも問題ないだろう。

 魔素も回復に使われて枯渇気味だが……神力を使えば問題ないな。


「君……誰……」

「あ?」


 オレはギョロリと目を見開きながら声のする方に首を捻じ曲げる。

 声の主のタイガルはなにやら俯いており、今にも爆発しそうで不安定な魔素を身に纏っている。


「そういえばコイツも同じことを聞いてきた。これだからこの世界はつまらない、何一つ面白くない……だから死にたくなかったというのに」

「誰って……聞いてるんだけど」


 タイガルは顔を上げてオレのことを見る。

 爪がむき出しになり、信じられないほど見開かれた翡翠の瞳には混じり気のない純粋で黒い殺意が宿っている。

 憎しみや怒りじゃない、ただ一つの……殺意。

 オレは口周りを舌で一周し、大きく音を鳴らしながらゆっくりとタイガルに向けて歩む。


「訂正する、お前は中々悪くない。故に特別に答えてやろう。オレは妖怪……全てを飲み込む、名も無き大妖怪様だ」

「それがなんで、ウサミの中に……」

「おい! 逃げろ貴様らッ!」


 汚らしい声の方に振り返ると、凄まじいエネルギーを持つ白色の光線がこちらに迫ってきていた。

 どうやらチュウリンを標的にするのをやめてオレを狙いにきたらしい。

 正しい判断だ、流石は太陽神。

 逃げろと言われて逃げるなどあまりにも癪だが、神力で再生を行うのはリスクが高い……どうしたものか。

 オレはチラリと後ろを見やる。

 こちらに殺意を向けるタイガルに、自分を喰わせるのに必死なモチもん、そして炭化して今にも死にそうなミリピード。


 地獄絵図じゃないか、なんと愉快。

 しかし、あのゴミが目を覚ます前に勝負を決めないと精神が揺らぐのは自明。

 いつ目を覚ますかも分からん……面倒だが、口約束を守るしかない。


「スキル発動」


 オレは悠長にスキル発動宣言を始める。

 この距離なら、光線は一秒もかけずにオレに直撃する……スキルが発動できてもお陀仏だろう。


「ヤクサノイカヅチ」


 まぁ、このオレはそうはならないが。

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