第69話 もっともっと
「……承知した。して、どうするつもりだ?」
「スキルの推進力で無理やり風に抗う。俺の高出力スキルなら……それができる」
「しかし」
「一匹では行かせられないって言うんだろ? だから──────」
◇◇◇◇◇
「師匠! チギリ!」
オイラは羽の嵐が止んでから師匠とチギリの元へ弾み走る。
出血したばかりの二匹の赤い体毛は太陽に照らされて輝き、呻きながら起き上がる。
オイラは回復スキルを使うため、魔素を練りあげようとするが、師匠が起き上がりながらそれを手で止める。
「見た目ほど重症じゃない。痛いけど、痛いだけだ。チギリもまだいけるよね」
「勝手に一緒にするななのだアホ。あっしは痛みで今にも倒れ込みたい気分なのだ」
「気分なだけならいけるね、それとも臆病なドブネズミさんには無理かな?」
「ハッ、上等なのだ。知性の欠けたにゃんにゃんは節穴以下なのか?」
「にゃんにゃんってかわいいね」「黙れ」そんな軽口を叩きながらも二匹の身体はキラキラと輝き、魔素を練っているのが分かる。
……オイラは、なにも……しないのか?
二匹が転がってきた赤い血の軌跡を見て俯く。
「サクラ」
「っなんすか」
「まだここじゃないってだけだから。足並みを揃えて活躍する必要なんてない」
「……師匠、やっぱずるいっす」
「えー、僕はいつも正々堂々だよ? じゃ、いってくるね」
そう言って師匠はオイラにニカッと笑いかけ、チギリと共にまたキラーバードに向かっていった。
「知ってるっすよ……じゃなきゃあんな顔できないっすもん」
……まだ、ここじゃない。
だからといってなにもしないわけにはいかない。
オイラには……オイラなりの活躍の仕方がある、はずっす。
◇◇◇◇◇
「フン……これは本格的にハズレザマスかね」
わたくしは矮小なモンスター共を見下ろしながらそう独りごちた。
久しぶりにやってきた探検隊、しかもケガレを連れてきた。
久しぶりに外にケガレを送り出すことになると思った……しかし見てみればなんなんザマスかこれは。
このラビリンスのケガレは二匹、あのミリピードとチュウリン。
この二匹はまだ良い、ケガレなのだから魂に罪業を背負っているのは当たり前ザマス。
問題はやってきた探検隊の方。
あの二匹……どう対応すればいいものか。
どうしたものかと頭を悩ませたまま矮小なる魂を見下ろし続ける。
なにやらわたくしを倒すための画策を続けているようザマスね。
まぁなにをしようと無駄ザマス。
そう考えてわたくしは悠長に神力を蓄え始めた。
◇◇◇◇◇
「いくぞ」
俺は肩の上にいるカミカゼに前を向いたまま声を投げかける。
身体に巻きついたカミカゼはいくつもの脚で俺を掴み、俺と目を合わせる。
「準備はできている」
俺はこちらを見下して動かないキラーバードを瞳に据え、魔素の川に両手を突っ込む。
それを引き上げると、水のように両手の隙間から魔素が線を垂らすように落ち続ける。
だから俺はすぐにそれを飲み干して全身に魔素を巡らせた。
若干黒みがかった魔素の奔流が白い体毛の下で輝く。
その最中、練り上げた魔素が一瞬痣から這い出ようとしていくような挙動を感知する。
……怒りで、冷静になれない……落ち着く、落ち着く……落ち着きたい……。
「……カミカゼ」
意図せず俺の口から声が漏れる。
「なんだ」
カミカゼは間髪入れずに反応。
えっと、えっとどうしよう……。
……いや、ちょうど、話したいことがあったかもしれない。
「仮の話だ。もし俺を見捨てれば助かる……そんな状況になれば」
「自分は共に死ぬぞ」
カミカゼは食い気味にそう遮る。
俺は目を見開いてカミカゼに視線をやる。
「名を受け取った時からそう決めている」
「でも」
「死ぬ気なのか?」
「っ……いやっ……」
「逆に問おう、ウサミ。自分を見限れば生き残れる、そんな状況でお前ならどうする?」
「……俺っ、は……」
……俺は、弱い。
どこまで行っても……皆と違う、心の中に燻るのは人間だった時の弱い俺、宇佐美佑歩だ。
死にたいくせに死を前にしたら恐れをなす、クズの人間だ。
だから……
「……分からない」
「ウサミらしい答えだ」
巻きついたカミカゼの腹から暖かい魔素のエネルギーを感じる。
……前より、ハグが上手くなってる。
「自分は、自分が死ぬことでウサミが助かるなら見限られたい。ウサミもきっとそう思っているだろう?」
「……空気、読めないくせに」
「関係があるのか?」
「あるだろ」
「そうなのか。覚えておこう」
ぷっと思わず吹き出してしまう。
やっぱこいつ、変だろ。
まとも枠っぽい顔してるくせにさ……なんなんだよもう。
はぁと、ため息を一つ。
「……良い顔になった。自分はウサミのその顔が好きだ」
「なんだよそれ、告白?」
「それも悪くはない」
「は!?」
「冗談だ」
「……カミカゼが言うと冗談に聞こえないんだけど」
「む? そうなのか。では今後冗談は……」
「控えなくていいよ、それが面白い」
「そうなのか」
「「覚えておこう」」
ニヤリ、と笑ってみせる。
カミカゼはフッと笑い、いっそう魔素の出力を強めた。
「スキル……」
身体の中で燃え盛る絶対零度の炎。
それは自分の身さえ焼き焦がす狂気の炎だった。
きっとそれを、カミカゼは分かってたんだ。
同じだから。似たもの同士だから。
このまま突っ込んだら俺が死んでしまうって、なんとなく直感してくれてた……なんて考えるのは望みすぎか?
「発動……」
俺は表情のないカミカゼが、どんなことを思ってるかを全く分かってやれない。
似てるからって分からないからって、勝手に自分の理想を押し付けているのかもしれない。
「ホーンタックル!!」
戦いが終わったら、もっと話してカミカゼのことを知りたい、知らないといけない。
そう思いながら俺は魔素を集中させ、地面が砕けるほど強く踏み込んだ。




