第66話 イザナミの円陣
第七フロアではモンスターを多く殺し、殺したモンスターを蘇生させるオニを倒していたからか接敵はほとんどなかった。
オニとの戦闘後に使用したリンガの実は五個。
魔素を使いすぎた俺とチギリが多めに、回復力が高いサクラとカミカゼは少なめ、ガルタはちょうど一つ食べた。
第七フロアには一つだけリンガの実が落ちていて、現時点で保有しているリンガの実は三つになった。
続く第八フロア、第九フロアでも俺とカミカゼのダブル索敵でオニを避け、リンガの実の消費も一つで済んだ。
しかし運悪くどちらのフロアにもリンガの実がなく、残るリンガの実は二つとなってしまった。
火をつけたポケットキャンプファイヤーを五匹で囲みながら、最後のフロアに続く階段で話し合う。
「戦闘中に使える回復アイテムが二つしかないのがきついな……」
「こうなると、サクラの魔素を温存していかないとだね」
「はっ、この無鉄砲ぽにょぽにょに後ろで待機することなどできるわけがないのだ」
「む、オイラだって待てるっすよ。確かに心配っすけど……」
「いつぞやのように黒霧に突っ込まないといいがな」
「チギリ」
「フン」
俺は軽くチギリを睨むも、それを歯牙にもかけない様子でそっぽを向く。
もうちょっと言葉を選んでくれても……と思うも、そんなにすぐ変われるわけがないかと肩を落とす。
「……キラーバードはキラキラしたものを集める習性があると言ったな」
「うん、そうだよ」
「ならば自分が盾を買って出よう。自分は発光液を分泌することが可能だ」
「待て待て、いきなり盾を買って出るとか言い出すな。これはチーム戦なんだから俺がこうする、自分がこうするっていうのを押し付けても意味がない」
「なるほど、そうなのか。ではどうすればいい?」
「それを今から考えるんだ」
「そうだったのか。では考えるから少し待ってくれ」
カミカゼは頭を下げて腕を組むようにたくさんの脚を組む。
……なんか、察しがいいんだか悪いんだか分からないな……。
まぁ記憶がないってことは実質会話が初めてってことだし……俺たちが気遣わないとだな。
「ふふん、みんなお泊まりみたいだね」
「それを言うならお困りっすよ。お泊まりは昨日オイラたちが師匠の家でしたやつっす」
「そうそうそれそれ! お困りみたいだねみんな!」
「そんな元気に言うことじゃないからな?」
「元気にもなるよ、だってだって、僕にはすんばらしい作戦があるんだから!」
ガバッと勢いよく立ち上がるガルタに視線が集まる。
ガルタはそれを受け止め、満足そうに胸を張った。
火の弾ける音が聞こえなくなるくらい騒がしい階段会議は白熱し、これ以上ないというほど念入りに話し合った。
ガルタの秘策やおじさんからの情報、カミカゼの発光液。
サクラをどう温存していくかや未だ知りきっていなかった互いの能力の共有も済ませた。
会議の熱が冷めるのに呼応するように、キャンプファイヤーの火が消える。
互いの顔がかろうじて見えるほどの闇の中、足元から底冷えするような冷たさが伝う。
俺たちはそれを誤魔化すように自然と肩を組み……まぁ、肩がないやつはそれらしいことをして円陣を作る。
「……おい、何をしているのだこれは。なんの意味がある?」
「士気を高める意図があるのだろう。仲間を率いる戦いでは士気が重要だ」
「よく分かってるじゃないかカミカゼ」
「でも円陣って組むだけじゃなくてなんか掛け声とかあったっすよね?」
「確かに。それじゃあがる」
「ウサミがぴったりだね!」
「なんで!?」
俺がそんなのできるわけないし、こういう時何言えばいいとか分かんないし、運動部どころか部活に入ってすらなかった俺がやってもチームの士気を高めるとか無理だし……ブツブツ。
「するなら早くするのだウサミ。あいにくだがあっしは今余裕がなくてイラついているのだ」
「ほらぁイラついてるってウサミ」
「え、えぇ」
こ、これがパワハラなのか……?
なんか俺がやるしかない空気作られてるし……なんか考えないと。
俺は自分の影でさらに暗くなる地面と睨めっこし、何も出てこない自分への焦りをにじりだすようにう〜と唸る。
ちゃんとしたこと、なんかちゃんとしたこと…………。
……ちゃんとしたことを言う必要があるのか?
考えたくないけど、もしかしたらこの戦いで誰か……死ぬかもしれない、俺だってそうだ。
これが、最期の言葉になる可能性だって充分にある。
だったら、俺は……
「俺は……カミカゼの、不器用だけど歩み寄ってくれようとするところが好きだ」
カミカゼの触覚がピクピクと動く。
「チギリの、言いにくいことをはっきり言ってくれるところが好きだ」
チギリは黙ったまま床を見つめる。
「サクラの、したいこと、してほしいことを分かってくれる思慮深さが好きだ」
サクラはニシシと笑う。
「……ガルタの、笑顔が好きだ。人生捨てたもんじゃないなって思わせてくれる、キラキラしてるのが好きだ」
ガルタの俺の肩を握る力が強まる。
「だから……お願いだから……誰も、死なないでほしい。頼む……」
目をぎゅっと瞑り、せり上げる涙を抑えながら口を開く。
「生きて、生きて帰って……皆とただ一緒にいたいんだ。皆は……このメンツでなにかしたいことあるか……?」
「……自分は」
カミカゼが顔を上げる。
「誰も死なぬために、強くなりたい。全員での戦闘訓練を希望する」
「おぉ、いいっすね! それじゃあオイラはぁ……美味しいものがいっぱい食べたいっす!」
サクラが飛び跳ねて円陣に波が伝わる。
サクラの隣にいるチギリはただ目を閉じる。
「……あっしは、分からんのだ。だから……お前たちにあっしのしたいことを見つけて欲しいのだ」
「チギリ、珍しく素直なこと言うじゃん」
「黙るのだアホ虎。そういうお前はなにがしたい? くだらんことだったら笑ってやるのだ、フハハ」
「僕? 僕はねぇ……皆と旅行に行きたい! それでいっぱい遊んで、食べて、寝て、後はね~……とにかくなんでもやりたい!」
子どもかよ。
そう思いながらも俺は呆れることなく、ガルタらしいなと口角が上がってぷぅぷぅと鳴る。
「それじゃあ今皆が言ったこと、全部やろう。全部やって、それで……」
「あ! 待って待ってウサミ!」
「おい、今どう考えてもおー! ってやるとこだっただろ。なんてとこで止めてんだよ」
「えへへ、ごめんごめん。でも、僕も言わなきゃいけないことがあるんだ」
ガルタは鼻をくじかれてむぅと顰める俺を覗き込み、エメラルドグリーンの瞳を揺らす。
「僕ね、ウサミの恥ずかしがり屋さんなのに気持ちを伝えられるところが大好き!」
「え」
あまりの不意打ちに、俺は目をまん丸にしてフリーズする。
「オイラは誰よりも優しくて、友達のためならなんでもできちゃう先輩が大好きっすー!」
「……ズケズケと踏み込んでくるくせに、妙に気遣うところが……バカだと思うのだ」
…………。
「……む、これは自分も言う流れか」
「い、いや、無理に言う必要は……」
「いや言う、言いたい。言わせてくれ」
「う、じゃ、じゃあその……お願いします……」
「あぁ、任された。自分はそうだな……まず、勇敢なところが好きだ。それに、仲間を想う清い心根。それから、強いところ。あとは──────」
長い長い長い、もう身体熱くて汗やばいよ、チギリとか止めてくれよ、長い、早くしろって急かしてくれよぉぉ……。
真っ赤であろう顔を必死に下に向け、耳を折り曲げる。
「──────なによりも、弱さを認めてくれるところが好きだ。自分は……いや、きっとここにいる全員、ウサミのそこに救われたはずだ。だから顔を上げてくれ、ウサミ」
絶対今の俺変な顔してるから、上げられるわけないから……!
そう思いながらも上げないと駄目だよなと、歯を食いしばり……半ば自暴自棄に、グワッと顔を上げた。
「~ッ!」
全員の視線がこっちを向いており、俺は音が鳴るほど強く歯を噛む。
そんな俺を見てガルタはニヤニヤ笑い、足を前に出す。
「僕たちなら絶対なんとかなる! 勝てる! だから……」
サクラは身体の一部を円の中心に伸ばす。
チギリはフンと鼻を鳴らしながら前足を出す。
カミカゼはキョロキョロしてから少し悩み、思いついたように顎肢を伸ばす。
……俺も、前足を出す。
「絶対、全員生き残るぞー!!!」
「「「「おー!!!」」」」
……てか、結局ガルタが言うんじゃないか!
なら最初からガルタが言えばよかったのに……うぅ……褒められるのって、こんなに恥ずかしいのか……。
耳の先まで真っ赤な俺の体温は上がり続ける。
恥ずかしさと急な心への衝撃に俺は戸惑うばかり。
けど、それでも……俺の中にある想いは、欲は、確かに宿った熱を掴んで離さなかった。
──────絶対、生きて帰る。




