第64話 全身で浴びる太陽
「イキヨイキヨ!」
オニまでもうほんの数十メートル、そのタイミングで奴の詠唱は完了した。
叩きつけられた鉄棒から黒い霧が吹き出し、晴れた霧が張り直される。
それでも俺は逃げない、逃げられない。
「うおぉぉぉぉぉぉおお!!!!」
俺は自分への激励のつもりで腹の底から叫ぶ。
咄嗟に鉄棒を盾にしようとするオニだが、今更もう間に合わない!
星空のような魔素を身に纏う俺の後ろ足はオニの額にクリーンヒット、轟音とともに地震が発生。
その衝撃で霧も晴れるかと思いきや、黒霧にはなにか特殊な特性があるのか、揺らぐことすらなく滞留し続ける。
地面は俺の落下の衝撃でクレーターのように抉り取られ、瓦礫の粒が嵐のように周囲に散らばる。
抉り取られた地面と俺の足に挟まれたオニの仮面は粉々に砕け散り、モヤのようなはっきりしない顔から黒い霧のようなものが出てくる。
それでも構わず踏み抜く、踏み潰し続ける。
オニは地面にめり込んだ頭への衝撃を逃がすことができず、二本の足が天を向く。
「はぁぁぁぁぁ!!!!」
俺は未だ残る勢いを乗せて高速でオニを踏みつけまくる。
アドレナリンの力か、足から全身に伝わる衝撃も今や俺の背中を押す鼓舞にしかならない。
このまま……!
「ゴロォォ!!」
「ぢううう!!」
押し切る、そう思った矢先に蘇ったモンスターたちが牙を剥く。
マズイ……!
今ここで急に動きを変えたら魔素が溢れて身体強化が切れる、そうなったら落下と高出力ストンピングの反動を受け止めきれずに身体が壊れるかもしれない……そうなったらオニも倒せず、しかも俺はオニのすぐ傍で動けなくなることになる……!
俺一匹じゃ……どうしようも無い。
だから、ただの希望論でいい。
自分と敵以外見えないこの状況で信じろ、友達を!
「スキル発動ォ!」
地面を踏み潰すような轟音が鳴り響いても届く、化け物みたいな声量……それとともに現れる彼は俺とモンスターの間に立ちはだかる!
「ハードガード!」
チュウリンの前歯、ゴロックの全身を使った体当たりを一度に真正面からくらう。
しかしそれでも、カミカゼは微塵も揺らがない。
「ゴロロ……」
「ぢうぅ!」
しかしその後方、スキルを構えた別のゴロックとチュウリンが俺を狙う。
カミカゼは攻撃を受け止めている最中、ここを動くことはできない。
もう一度……信じろ!
「貴様らの相手はッ、このあっしだぁぁ!! カブラヤ!!」
霧を突き進む二本の黄金の矢、しかしその矢は力なくひょろひょろと飛ぶ。
しかし……
──────ジリィィィィン
その音だけは健在!
敵モンスターの視線は矢の飛んできた方向に固定される。
その刹那、甘い香りがフロア全体に漂い始める。
「スキル発動……ブロッサムダンプリング!」
宣言と同時にサクラが黒霧の中に突っ込んだ。
サクラには視界が無い中敵を把握する能力がない……魔素から仲間の位置だけを把握し、その近くにいるモンスターに至近距離で拘束の餅をぶつける!
拘束できたモンスターは……全部で五体。
しかし、オニが蘇生したモンスターの数は……
「ゴロォォォ!!」
六体。
このフロアにきて俺たちが倒した数と同様だ。
最後に……来てくれるって信じてるからな!
「スキル発動」
水面に波紋を呼び寄せる、そんな静かで冷たい声がじわりと落ちる。
黒霧越しでも見える、橙色の光が輝きを増していく。
「パワードグランド・フィジカルジェネレート」
その宣言と同時、橙色の光がゴロックを貫いた。
そこにいるのはもちろん……
「こっちはまかせて」
何度も俺に優しさを教えてくれた、最初の友達。
俺を射る見開かれたエメラルドグリーンの瞳は、傍から見たら恐怖で震えてしまうような捕食者の目だ。
けど俺にとってはどんな敵も薙ぎ倒してくれる、最高のヒーローの目だ。
ガルタは橙色の光の軌跡を残してどんどんモンスターを殴り、蹴り、砕き、裂いていく。
一瞬で光の粒子に変わっていくモンスターはゆっくりと俺たちに吸い込まれる。
それと同時、オニの力が弱まったのか黒い霧が綺麗さっぱりと消え去った。
空から降ってきた時の霧の穴から陽光が差し込み、軽く浴びた返り血の雫がキラリと輝く。
激しく揺れる世界で、俺は笑った。
命のかかったこんな状況で笑うなんて狂ってる、自分でそう思う。
でもそれは俺のせいじゃない……
「お前らのせいだからな」
俺はそれだけ吐いてオニを睨みつける。
お前のせいでどんだけ痛かったと思ってる、苦しかったと思ってる、友達が傷つけられたと思ってる……どんだけ、自分が醜い人間かって分からせられたと思ってる。
要するに……私怨ってことだ。
俺は自分のために恨み、自分のためにモンスターを殺す。
こんな俺が、皆みたいな優しいモンスターと一緒にいていいのかって今でも思う。
けど……!
「俺はぁ!」
高速足踏みの最中、俺は一際強く右足で鬼を踏み潰す。
その勢いのまま跳び、太陽を背負ってオニに殺意を向ける。
「優しくないんだよ!!」
その言葉をきっかけにしてか、堰を切ったように魔素が流れ出して全身が強く光り輝く。
「スキル発動……」
兎と言ったらやっぱり……
「キッキングアサルト!!」
足技だろ!
俺は体内の魔素を一気に膨らませて身体を重くする……ストンピングの感覚で落下速度を倍増させる。
そしてオニの眼前で左足を突き出し、ライダーキックのように顔面の中心に蹴り込んだ。
メキメキと骨が潰れへし折れる感覚が足から伝わり、吹き出す返り血が全身を紅色に染め上げる。
もう何度目か分からない、命を刈り取る感覚。
俺は優しくない。
優しくないと、思考放棄して開き直ってでも俺は……友達を守りたい。
一緒に生きて笑いたい、泣きたい、幸せでいたい。
「ギ……ィ……」
だから……俺はお前を殺すんだ。
蹴りの衝撃を身体から逃がすために跳び、回転しながらオニの手前に着地した。
それからすぐ……オニの身体は黒色の粒子に変わって俺たちの中に吸い込まれる。
全員にこびり付いた血も……自分の血以外は粒子になって吸い込まれた。
「かっ……勝ったぁぁぁぁぁ!!」
「へぶ」
完全に力の抜けた俺は横からの衝撃に為す術なく地面に押し倒される。
視線を上にやると、自分の血で薄汚れた……綺麗なガルタの笑顔があった。
ガルタは俺の首に腕を回して強く抱きしめる。
「ウサミ勝った! 僕たち勝ったんだよ!」
「痛い!? お前……学習したんじゃないのかよ!」
俺はやり返すように後ろ足でガルタの腰辺りを強く抱きしめる。
「あだっ!? ちょっと、僕スキルの反動あるから!! 痛いってば!!」
「俺だって同じだわバカ!」
無限リスポーンキル作戦は大失敗に終わった。
しかしそれを補って余りある程のEXPと……勝利を手に入れた。
あとは……ボスを倒し、頂上にいるモンスターを助ける依頼を完遂するだけだ。
全然だけじゃないけど……不思議と自信が湧いてくる。
……久しぶりに太陽を見たからだろうか?




