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第62話 決行、無限リスポーンキル・4

「カブラヤ!」


 あっしは弓に番えた矢を二本同時に発射。

 上下に並んで飛ぶ黄金の矢はオニに向かって真っ直ぐ向かうが、オニは鉄棒を地面に突き立てて盾とする。

 矢は鉄棒に阻まれ、金属と衝突したことで更に甲高い音を響かせた。

 オニは鉄棒を右手に持ち直し、引き摺りながらあっしらに向けて駆け出してきた。


「カブ」

「チギリ! 倒す必要はないっす! アイテムで……」

「えぇいうるさい! そんなこと分かっているのだ!」


 分かっている、分かっているのだよ。

 最優先は作戦の成功、そのためのあっしらの役割はオニを引きつけて逃げ回ること。

 迎え撃つなど言語道断、戦闘力の高いバカ虎と死にたがり百足がいないのだから余計にそうなのだ。

 分かっている、分かっているというのに……


「分身の石!」


 あっしは潰れるくらい強くアイテムボックスを握り締める。

 青白く発光するアイテムボックスから出現するのは8の字の形をした赤色の石っころ。


「スキル発動、モチだま!」


 サクラはアイテム発動の時間を稼ぐためにスキルを発動する。

 餅の弾丸はオニに向けて飛ぶも、ステップで軽く躱される。

 しかしやつの足は止まった。


 あっしが分身の石を掲げると白煙が吹き出し、目眩しとなる。

 煙の向こうに見える影に向けて弓と矢を放り、ウサミの首元を軽く噛んで走り出す。


「あ」

「ちっ」


 その際にこの自殺願望兎は木の実を口から落としそうになる。

 あっしは走りながら前足でそれを口に突っ込み直した。

 あっしの力では頭が上がり切らず、ウサミの背中をこの硬い地面に引き摺る形で走り続けるしかない。


「チギリ」

「文句なら聞かんのだ」

「ありがとな」

「〜!!」

「いだい痛い!?」


 顎に思わず力が入り、滲み出たウサミの血がほんの少し口に入る。

 傷口は食べ途中の木の実ですぐに再生された。



 ──────ジリィィィン



 少し離れた場所からカブラヤの着弾した音が聞こえる。

 先程使用したアイテム、分身の石。

 自分そっくりの分身を一体作り出すと同時に煙幕を張ることができるアイテムだが、作られた分身は喋ることもできなければスキルを使うこともできない。

 しかし、あっしがあらかじめ出しておいた弓と矢を分身に投げ渡すことでその制約を無視した。

 どうやらバカなオニは分身の方に向かったらしい。


「ナイスっすチギリ! やっぱアイテムの使い方上手いっすね!」


 走りながらサクラがそう言う。


 違う、あっしの使い方が上手いんじゃない……。


 あっしは首元の印に視線を降ろす。

 この印が、あっしに知らない記憶を流し込んできやがるのだ。

 あっしは物の扱いが上手い、器用だという、半ば洗脳に近い記憶を。

 ただ皮肉にも、ここに生まれ落ちる以前の記憶がないあっしをあっしたらしめさせているのもこの印だ。

 イラついてしょうがない。

 それに今は余計に……


「チギリ、もうすぐ回復が済むから離してくれ」


 先程もげていた方の足に目をやると、もう肉が足の形を取り始めていた。

 あとはもう毛が生えそろい、細かい傷が治れば元通りなのだ。

 そう、元通り……元通りにはなる、なるが……


「お前、お前はなぜそんな平然としているのだ」

「してないよ、今だって痛くて気持ち悪くて涙が止まらない」

「だったらなぜ!!」


 あっしはウサミを離して前足を地面に叩きつける。


「なぜあっしを庇った! あそこで立ち止まっているだけでお前はそんな痛い目に、苦しむことはなかったのに! わけが分からない、そう分からない何も分からないのだ!!」


 醜く吐き散らしているといつの間にやら頬には熱い雫が流れ、叩きつけた前足はジンジンと痛む。


「どうして……」


 前足に目を押し付けて涙を抑える。

 何一つだって分からない熱が腹の底から際限なく湧き、頭の中がぐちゃぐちゃで苦しい。


 ウサミは残った木の実のひとかけらを噛み、飲み込んでからうずくまるあっしの頬に触れる。


「友達だからだよ」

「それが!」

「分からなくていい、俺だってまだよく分からないんだ」

「何を……」


 あっしの右前足が握られ、もう片方の前足で涙が拭われる。

 ウサミの白い毛があっしの涙で濡れて灰色になり、そのままあっしの前足を握る。


「いつオニが来るか分からないからこれだけ言わせてくれ。……俺たちは友達だ。それが何か分からなくていい、いいから……」


 ウサミはあっしの前足を地面に置き、膨らんだ頬を上げて笑いかけてくる。


「一緒に分かっていこう、友達が分からない同士でさ」


 ……やはりこいつらの頭はおかしい。

 サクラも、ウサミもどちらもおかしい、わけが分からない。

 意味のないことばかりし、意味のないことばかり言う。

 俺だって分からないから一緒に分かっていこうだと?

 ふざけるな。

 お前はもう分かっているだろう、友達とはなんなのか。

 分かっていないならなぜあっしを庇った? なぜ足が切れても笑った?

 許せない、許せないのだよ。

 何も分からないあっしの胸が、腹の底が、顔が、全身がこんなに熱いのが。

 頭に血が昇る、足が震えるのに何かに当たりたくなる、オニが憎くなる、サクラとウサミをこんな目に遭わせるオニが憎くなる。


「勝手にしろ」


 あっしは印から弓と矢を生み出して弦に番えた。

 それを天に向けてそのまま放つ。


 霧を裂いて昇り続ける黄金の矢は、霧の天井を震わせるような甲高い音を鳴らしながら飛び、やがて見えなくなる。

 そしてアイテムボックスからとあるアイテムを取り出してウサミに投げつけた。

 作戦にない行動だ。

 それでもウサミは力強く頷き、アイテムを握りしめた。


 あっしの独断に何も言わないのも、友達だからか?


 ……あっしはあっしのことさえ分からない。

 この湧き上がる熱が、沸騰するように震える感情が。

 意味のない、あっしの気持ちが。


「二匹とも、それは……」

「サクラ、作戦変更だ。オニを利用しようなんて浅はかだった……いや、バカ兎だったって言った方がいいか?」


 あっしの方を見てニヤリと笑うウサミに向けてあっしは大きく舌打ちをする。


「ど、どうするつもりっすか?」

「決まってる、なぁチギリ」

「黙れ。やはりあっしにはお前が理解できん」

「そっか」


 そっか、じゃねぇのだ。

 簡単に受け入れるな、もっと文句を言え。

 だって……これからあっしらがしようとしているのは、あっしがやろうとしているのは……


「さぁ、オニを倒すぞ」

「一緒にな」

「……フン」


 全くもって意味のない、この熱の発散なのだから。


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