第61話 決行、無限リスポーンキル・3
「スキル発動、カブラヤ!」
チギリの首元から紅い弓と黄金の矢が押し出されるように出現する。
二足で立ち、前足で弓の弦を引く。
そして……放つ!
金の矢は凄まじいスピードで飛びながら霧を裂き、遅れてけたたましい音が響く。
さぁ……これでヘイトを買えるか?
固唾を飲んで耳を立てていると……
──────ゴォッ
その音に俺の身体はビクンと震える。
今のは……なんの音だ……!?
もしかしてカミカゼがガルタがやられたんじゃ…………ソニックウェーブでわざわざ状況を確認している暇もない、二匹がやられたとしたら今すぐ向かわないと…………
「……いや!」
俺は前足で頬を叩いて動揺を鎮める。
どうせガルタが力加減をミスってゴロックを地面に叩きつけたに違いない、そうだあいつは抜けてるからなそうに違いない。
二匹のどちらかがやられたとしても、俺が二匹を信じずに助けに向かったとしても作戦は失敗だ。
二匹とも強い、その辺のモンスター如きにやられるわけがない、目の前で二匹の戦いを見てきただろうウサミタスク!
半ば言い聞かせるような形で自分を納得させ、人間の片手で魔素を掬う。
「友達のミスは友達がカバーする!」
思い出せ……味方さえも怯ませる彼の声を!
俺はスゥと息を吸い込んで大声で宣言する。
「スキル発動! ソニックウェーブ!!」
角を地面と平行にし、カブラヤで穴の空いた霧に向けて爆音波を飛ばす!
角を震わせることによる音波はその穴を広げ、龍が通った後のように道ができる。
普段は周囲にばら撒く音を一方向だけに向けることで距離、威力を伸ばしてヘイトを買いに行くアドリブだ!
「先輩!」
「今話しかけんな!」
オニがちゃんとこっちに向かってくるかの確認をしないと、そのために今度はばら撒くソニックウェーブを……!
「おおおお落ち着け馬鹿者がッ!! 前、前、前を見ろぉぉ!!」
紅い弓で背中を激しく叩かれ、痛みの反射で首を上げる。
そうして視界に映ったその姿に、俺は恐怖と同時にやったと思った。
俺たちが作った道を走り、オニがまっすぐこちらに向かってくる!
身の丈に合わない大きな鉄棒を右手に持ち、般若のような仮面の奥にギラつくのは殺意。
無機質な足で走り続けるその様はまさに化け物。
「スキル発動、モチだま連射!」
サクラが飛び上がって大量の餅を発射。
オニはジグザグに動き回るも、こちらの弾幕は数での勝負!
二つ、足元に着弾してオニは顔面からすっ転んだ!
「外すなよ!」
「舐めるでないわッ! スキル発動、カブラヤ!」
チギリはプルプルと震える前足で弦を引き金の矢を飛ばす。
鈴の音を鳴らしながら飛ぶ矢はなんとオニの頭頂部に突き刺さり、凄まじい爆音と共に爆風が吹き荒れる。
え、えぐい……。
カブラヤの爆音ってデメリットにしかならないと思ってたけど……この距離でも耳がキンキンするのに、頭に突き刺さった状態であの音って鼓膜破れるどころじゃ…………けど、なぜだろう。
勝った、微塵もそう思えないのは。
俺の中のトラウマが叫んでいる。
俺の中の痛みが、血が、恐怖が、経験が。
こんなもので終わるわけが無い。
そう叫んでいる。
チギリは弓を地面につけ、汗を一筋流してふっと笑う。
「ふ、フン口ほどにも……」
「チギリ危ない!」
「ぶっ」
俺はチギリに体当たりする形で跳び、二匹で地面を何度も転がる。
チギリに覆い被さる形で回転が止まり、ふぅと一息ついてから前足で額を拭う。
ゆっくり後ろに振り返ると、霧を割るように裂かれているのが見える。
オニのスキル……かは分からないが、あの緑の斬撃が飛んできたのだろう。
「せんぱい! せんぱい、せんぱぁい!!」
サクラが目に涙をいっぱい溜めて俺の方に跳んでくる。
そんな泣く程じゃ、だって俺怪我してない……し……
俺は振り返ったまま、視線を下に降ろす。
その瞬間、声にならない叫びが口内に響いた。
「あ゛つい゛あ゛、あ゛!!」
俺の左後ろ足は綺麗に切断され、真っ赤な鮮血が放射状に吹き出していた。
俺は前足でそれを抱えるように蹲り、汚い声で悲鳴を掻き鳴らす。
「お前……お前ぇ!!」
チギリが俺の下から抜け、アイテムボックスからリンガの実を取り出した。
痛みによる反射で思い切り歯を食いしばっている俺の口を両前足で無理やり開け、そこにリンガの実を放り込む。
チギリの前足がどけられると俺は痛みを堪えるためにまた歯を食いしばり、結果的にリンガの実を齧りとった。
「この、この死にたがりが! だからあっしはお前が、お前のことが……」
「チギリ! 落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるか! あっしは、あっしはこいつが分からない! 貸し借りはもうない、返した、あっしらの間にはもう何もないのだ! それなのに、それなのに……!」
「チギ……リ」
俺は木の実を飲み込みながらそう口にする。
血が止まり、糸を編むように肉と骨が再生し始める。
異常な速度で再生される細胞のせいか、我を忘れるような痒みが現れる。
軋みながら伸びるように再生する骨は気色悪くて引っ張られるような感覚が怖くてたまらない。
「俺、たち……ともだち、だから」
「は」
そうやって、歯を食いしばったまま全力で笑った。
笑えて、ないだろうけど。
眉根が寄り、耳が垂れ下がり、頬がピクピクと震える。
こんな状況で誰が笑えるか、そんなことしてる余裕なんてあるわけがない、ないけど……
「お前……」
友達が……チギリが、そんな顔するから。
「……話してる時間なんてないっすよ、チギリ」
サクラは俺の前に立ち、光り輝く魔素を身に纏う。
「……あっしは、知らんのだ……友達なんて、そんなもの……あっしが知っているのは、これだけ……」
チギリの首元から黄金の矢が三本、出現した。
一本を口に咥え、二本を弓の弦にかけて鼻を啜った。
チギリの頬から涙がボロボロと地面に滴り、足元を暗くしていく。
「貸しは返さなければならない、それだけなのだ……すまん、すまん、すまん……」
俺はリンガの実を齧りながら、地べたで首を横に振る。
それがチギリには見えていないと分かりながら。
だから……ここで生き残って絶対に伝える。
謝ることじゃないって。
貸し借りなんて考えなくていい……友達になろうって。
どっかの虎が、俺に言ってくれたみたいに。




